国内3社の中小型液晶連合「ジャパンディスプレイ」

-ソニー/東芝/日立が集結。有機EL開発も


左から産業革新機構 能見社長、東芝佐々木社長、日立中西社長、ソニー吉岡副社長

 産業革新機構(INCJ)とソニー、東芝、日立製作所は、INCJを中心として中小型液晶事業を統合し、新会社「ジャパンディスプレイ」を設立する。2011年秋をめどに正式契約を締結し、2012年春の事業統を完了を目指す。

 ジャパンディスプレイには、各社の中小型液晶事業会社である、ソニーモバイルディスプレイ、東芝モバイルディスプレイ、日立ディスプレイズの全ての発行済株式等が譲渡され、INCJを割当先とする第三者割当増資により2,000億円が投入される。新会社の議決権付株式は、最終的にはINCJが70%、ソニー、東芝、日立がそれぞれ10%ずつ保有する。新会社の代表は、外部経営者を招聘する予定で、INCJ、ソニー、東芝、日立は新会社に社外取締役を派遣する。

ジャパンディスプレイの基本戦略

 中小型ディスプレイの世界市場は、スマートフォンやタブレットを中心とする高精細、高付加価値製品の需要急騰により成長が見込まれている。高精細化技術などの優位性を日本企業が有しているものの、競合各社も市場獲得の機会を狙い大規模投資の実施や計画を公表していることから、「競争力強化のための施策を講じることが必要不可欠な状況にある」と3社の事業統合の理由を説明している。

 ジャパンディスプレイでは、対象子会社がそれぞれ有する高付加価値技術を生かし、INCJから投入される成長資金を最大限活用し、新規生産ラインを立ち上げ、高付加価値市場を取り込むことを目指す。また、「各社の生産能力をより有効に活用することでコスト競争力を高め、グローバルリーディングカンパニーとしての地位を強固なものにしていく」という。

 研究開発についても、「世界最先端の研究開発のための投資を行なう」としており、高精細化や薄型化が見込める有機ELなどの高付加価値技術の研究・開発も積極的に行なう方針。


■ 中小型のグローバルリーディングカンパニーに。'16年3月期上場を目指す

産業革新機構 能見社長

 産業革新機構の能見公一代表取締役社長は、「日本から中小型ディスプレイのグローバルリーディングカンパニーを」というジャパンディスプレイの目標について説明した。

 中小型ディスプレイは、スマートフォンや携帯電話、タブレットなどで需要が拡大しており、2011年から15年までの毎年約21%拡大する成長市場と予測。2011年の市場規模2.3兆円が、'15年には4.2兆円になるが、競争も激化するという。

 そうした環境の中、「高精細、高視野角、低消費電力が競争のカギだが、世界最高水準の技術力を誇る日本メーカーに優位性がある。スマートフォン、タブレットは日本のメーカーが生かせる絶好の市場。千載一遇のチャンスが訪れており、成長投資の絶好の機会。トップクラスの技術力の3社が集約すれば、世界をリードするメーカーになる」とINCJの狙いを説明。


日本メーカーに千載一遇のチャンス

 主な製造拠点は、ソニーの東浦と鳥取、東芝の深谷、石川、能見(建設中)、日立の茂原の6拠点で、3社合計の売上高(2012年予測)は5,700億円。従業員は7,600人。今季の製品構成は、スマートフォン向けが55%、デジタルカメラが14%、車載が10%、その他携帯電話が9%、タブレットが6%、ゲームが1%を見込む。3社の売上金額を合計すると、統合後のシェアは22%で世界1位に、数量ベースでも10%で3位となる

 能見氏は、「世界最高水準の高付加価値技術を結集するほか、2,000億円で競争力ある新製品ラインを立ち上げて、世界トップクラス生産キャパシティを実現。質と量を兼ね揃えたグローバルリーディングカンパニーを目指す」とした。


ジャパンディスプレイの概要ジャパンディスプレイのグローバルシェアジャパンディスプレイの製品ポートフォリオ

 そのため、第1ステップとして、原材料メーカーや装置メーカーと協業し、3社の総合力を発揮できる体制を構築。ステップ2では、ディスプレイのコア技術の進化や、有機ELやMEMSなどのディスプレイ技術開発、フレキシブル基板など技術力を生かし、顧客利便性を高めた製品を開発するという。2015年度の売上目標は7,500億円以上で、15年度中の株式上場も目指すという。

中期ビジョン2015年度に売上高7,500億円と上場を目指す産業革新機構の投資意義
東芝佐々木社長

 東芝の佐々木社長は「液晶事業は単体で利益が出るまで改善した」としながらも、「グローバル時代に生き残るにはスケールが必要。今回は成長への投資と位置付けており、大きく育てていきたい」とコメント。「スマートフォンの波に乗って黒字化したが、グローバル展開を考えると、規模は小さく、トップシェアを持っていないとこれからの成長が難しく、セットメーカーの期待にもこたえらない。また、有機ELなどの研究開発や設備投資をやっていかないといけない。『成長投資としての産業革新機構の融資』と『スケールが出る』という、グローバルで活躍するために必要な2つの条件がそろったから、参加を決断した」と参加理由を語った。


日立 中西社長

 日立の中西宏明社長は「日本の液晶技術がハイレベルだが、過去に事業では負けてしまうという事例があった。再び世界の技術をリードする、新しいディスプレイの可能性を開いていく会社を作ろうということで、3社で議論して共有した結果が今日の発表。今までにない、成長投資を伴う合従連衡だ」と意気込みを語った。


ソニー吉岡副社長

 また、ソニーの吉岡浩副社長は、IFAの会見のため不参加となったハワード・ストリンガーCEOのコメントを代読するとともに、「新会社から競争力ある製品が出てくることを期待している」とコメント。なお、有機ELについては、「ソニーは業務用、放送局用、メディカルなどの領域で、17型、24型を発売している。新会社は事業領域は中小型なので、有機ELは含まれていないが、技術的なサポートはしていく。特許のクロスライセンスなどでも協力していく」とした。

 「『ジャパンディスプレイ』にシャープは加わらないのか?」との質問に、INCJの能見社長は「中小型では技術優位が維持されており、マーケットが成長している。過去の失敗の様々な教訓を乗り越えていく提案を検討し、この業界の人にわれわれのストーリーを提案して、結果としてこの今日の3社が賛同いただいた」と返答した。

 また、工場の統廃合については、「まずは3社の統合でシナジーとスケールを出していく。その後新しい経営陣が業務の拡大展開を図る中、様々な選択肢はあるだろう。今時点では特段議論したことはない」と説明。また、人員についても「成長投資も設備投資も行なう。中長期的に業界全体で雇用が確保されると考えている」とコメントした。


(2011年 8月 31日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]