TAD、リファレンス・プリアンプ「TAD-C600」発表

-Referenceシリーズ完成。フルバランスで315万円


プリアンプ「TAD-C600」

 テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)は25日、Referenceシリーズのプリアンプ「TAD-C600」を発表した。12月下旬の発売で、価格は315万円。

 スピーカーの「TAD-R1」、モノラルパワーアンプ「TAD-M600」、ディスクプレーヤー「TAD-D600」に続く、Referenceシリーズのプリアンプ。この登場により、Referenceシリーズが音の入口から出口までラインナップが完成する事になる。なお、それぞれの価格は「TAD-R1」がペアで630万円、「TAD-M600」がペア525万円、「TAD-D600」が262万5,000円となり、全てReferenceシリーズで揃えると1,700万円超えのシステムとなる。

 「TAD-C600」の特徴は、伝送回路に入力から出力まで正負対称のフルバランス増幅方式を採用した事。左右の回路に同じ基板を配置し、同一の回路構成とするだけでなく、配線の長さや処理も左右同一にして、理想的なステレオ信号の伝送を実現したという。

 入力端子はバランス3系統、アンバランス3系統を装備。出力はバランス×2系統、アンバランス×2系統、録音用出力としてバランス×1系統、アンバランス×1系統も備えている。


ラックの一番上が「TAD-C600」、下段はプレーヤーの「TAD-D600」。一番下の右側にあるのがC600用の外部電源部。左側の電源部は、同じく電源が別筐体になっているD600のものだ3点支持を採用している電源部のアップ。D600のものと外観は同じだが、中味はまったく違うという

 回路設計はシンプルで、入力された信号は電子ボリュームで音量調整された後、電圧増幅1段によるシンプルな出力段増幅回路を経て出力される。2系統の出力端子に対して、専用の出力段増幅回路を備えており、バッファアンプは合計4基搭載。音質悪化の原因となる出力回路での信号分岐や、後段接続機器同士の干渉も防いでいる

 信号をシンプルに伝送するために、録音用出力は備えているが、モニタースイッチはついていない。信号ラインにスイッチ接点などを設けることで、伝送に影響が出るのを避けているため。同様にパススルー機能は一つの入力信号として扱い、信号切替回路を付けずに入出力間の利得をゼロとする事で機能させている。

電源部の背面「TAD-C600」の背面「TAD-C600」の回路図

 ボリュームは新たに開発したラダー抵抗切り替え型電子ボリュームを採用。-100dB以下でも絶対誤差が0.1dB以下、ギャングエラーは測定限界を達成。バランス型ATTの必要条件をクリアしたという。このボリュームは、左右チャンネル用に完全に特性が一致したものを搭載している。

 また、回路方式やウェハー上の構造や回路配置、使用素子などを研究した結果、回路が発生する歪率を0.0005%以下(1Vrms入力時)に抑えている。なお、電子ボリュームは入出力端子のインピーダンス変化が少ないため、ボリュームを絞った時でも音痩せしない特徴もあるとする。

 電源トランスの振動や漏洩磁束が増幅回路や信号経路に及ぼす影響を排除するため、本体と電源部を分けた2筐体構成を採用。電源ユニットには、400VAクラスのオーディオ用電源トランスを採用。200Wのパワーアンプも構成できるという、超強力トロイダルトランスを搭載しており、どのような信号でも正確、かつローノイズで伝送できるという。

 本体には、左右の基板を中央で仕切るフレームの中に、電源や制御系配線を収納したセンターフレームシールド構造を採用。電源や制御系配線と回路基板の干渉を防ぎ、ボックス構造の高剛性と合わせ、純度の高い安定した音を再生できるという。

 本体のシャーシには厚さ33mm、重量15kgのアルミニウム無垢材を使用。スピーカーなど、外部からの振動を抑えた。無垢材をシャーシに使う事で、インピーダンスの低い安定したアース電位が得られ、純度の高い音の再生にも寄与するという。

 本体にはMaster/Slave端子を搭載。1台のC600をMasterとして使い、Slave端子に接続した複数のC600を同期制御できる。これにより、モノラルプリアンプとしてC600を2台を使ったり、3チャンネル以上のプリアンプ構成に発展させる事もできる。

 インシュレータはスパイク形状で3点支持。本体パネル上の操作キーやLED表示器、照明は直流で動作する回路方式を採用。音質に影響のあるパルスキースキャン方式やPWM調光回路は省いている。

 入力切り替えと音量調整操作ノブの軸受部には、直径41mmの精密ボールベアリングを採用。スムーズでガタが無く、質感の高い操作感を実現したという。

 また、入力端子ごとに入力感度を調整する機能を装備。各入力端子に接続した機器の出力レベルが異なる場合でも、あらかじめ各端子の入力感度を設定することで、入力レベルを合わせられる。

「TAD-C600」の内部写真入力切り替えと音量調整操作ノブの軸受部に、ボールベアリングを採用Referenceシリーズとの組み合わせ



■音を聴いてみる

Referenceシリーズのラインナップで試聴

 発表会場において、「TAD-R1」、「TAD-M600」、「TAD-D600」、そして「TAD-C600」というReferenceシリーズを組み合わせたサウンドを試聴した。

 TADのReferenceシリーズに共通するのは、純度と鮮度の高い、正確なサウンドというイメージだが、プリアンプの「TAD-C600」が加わるとそのままの傾向で音がさらに磨かれる。特にR1とのマッチングは抜群で、高域の抜けの良さ、まったく制限されずにどこまでも広がる音場の広さ、奥行きの深さはいずれも特筆すべきレベルだ。

 また、ジェニファー・ハドソンの楽曲におけるシンセベースは、解像感が高く、本当に細かい音まで良く見えるが、エッジを無理に立たせたようなキツさは皆無で、自然さ、しなやかさを併せ持った高解像度サウンドが楽しめる。82年に録音されたTOTOの4枚目のアルバム(Blu-spec CD版)も、低域の生々しさや、音の重なり方がよくわかる奥行きの深さなど、古さを感じさせない新鮮なサウンドとして甦る。この情報量とSN感の良さ、全域に渡る解像感の高さの両立は、あまり聴いたことがないレベルだ。

 「TAD-R1」はこれまでの試聴でも、雄大かつ精密なサウンドが印象に残るスピーカーだが、完成したReferenceシリーズのラインナップと組み合わせると、より微細な表現や、より広大な音場も余裕を持って描けるポテンシャルを持っていた事を再認識させてくれる機会でもあった。




■「正確無比」がコンセプト

平野至洋社長

 平野至洋社長は、「市場で以前から待望されていたプリアンプ」としてC600を紹介。C600の導入により、Referenceシリーズの音の入り口から出口までが完成した事を報告した。

 さらに、開発段階のC600を試聴した感想として「普段聞いているディスクでも、違うディスクを聴いているような音が出てきて、良い意味で戸惑うような、衝撃を受けた」と語り、「正確無比」をコンセプトにしたReferenceシリーズの高いサウンドクオリティをアピールした。



(2011年 10月 25日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]