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ドイツのライカ本社に行ってきた。聖地ウェッツラー「ライツパーク」見学レポート
2025年7月21日 10:00
2025年は、全ての“ライカ”の原点である初号機「ライカI」の発売から100周年。それを記念して、誕生の地であるドイツ・ウェッツラーで記念イベントが行われた。なお、日本でも10月に東京で100周年記念イベントが開催予定だ。
この記事では、ライカ本社のある「ライツパーク」がどんな場所なのかを紹介したい。なお、100周年記念イベントの詳細については僚誌デジカメ Watchでもレポートしているため、併せてご覧いただきたい。
ライカと“動画”の関わり。誕生の背景
AV Watchでライカの話をするのは唐突かもしれない。しかし、ライカの原点は「映画用フィルムを流用した小型のスチルカメラ」だ。これを考案したオスカー・バルナックは、顕微鏡メーカーとして有名だったエルンスト・ライツ社(そのカメラ事業が現ライカカメラ社)で機械工として働きながら、プライベートでも写真や映像を撮影していた。
そしてバルナック自身がぜんそく持ちで体が弱かったこともあり、機材一式で18kgにもなったというガラス乾板カメラに代わって携帯しやすいカメラ。それも映画用のロールフィルムを使って連続撮影が可能なものを検討したのが後のライカである。フィルムの長さは人が両手を伸ばした長さに由来する1.6mで、結果的に36枚撮りとなった。
35mmフィルムを流用したスチルカメラ自体は、ライカが初めてではない。しかし、そうだと言ってもツッコまれることが稀なほど、100年後の今でもライカは突出してポピュラーな存在だ。
35mm映画フィルムの1コマ分である18×24mmを2コマ使った36×24mmというフォーマットを選んだのは、当時のフィルムとレンズの性能を基準に、写真として十分に鑑賞に堪える画質を目指したため。それが100年後も“35mmフルサイズ”として一つのスタンダードになっているところも、ライカというカメラの登場が後に与えた影響の大きさだ。
これがライツパークだ!
ライカ本社は、ドイツ・ウェッツラー(Wetzlar。ヴェツラー)のライツパークというエリアに所在する。ウェッツラーはドイツ中部のヘッセン州にあり、フランクフルト国際空港からアウトバーン(高速道路)を通って小一時間という距離。のどかな景色の中に、突如として近代的な建物が現れる。
この社屋は2014年に稼働。その際にも世界から1,200人ほどを招いたイベントが行なわれ、ライカが誕生の地ウェッツラーに帰還したとして大いに盛り上がった。1階部分には誰でも自由に入れる見学コースがあり、生産工程の一部や、歴代製品のアーカイブを見られる。
2018年には、ライツパークの次の段階としてエリアを拡張。ホテルとミュージアムが作られた。ホテルは周辺地域のホテル需要に応えたもので、ライカではなくホテルチェーンが運営。それでも廊下や部屋には多くの写真が飾られ、ライカらしいモチーフも多用された、ライカファンには楽しい場所だ。129部屋があり、レストランや会議室、フィットネスルームもある。
エルンスト・ライツ・ミュージアムは、ライカが作った写真とカメラの博物館。写真の仕組みや撮影のアイデアについて親しめる作りになっている。これほどの施設を、ウェッツラーという決して人口の多くない田舎町に常設しているあたり、器の大きさを感じさせる。
写真界における“ライカ”を伝える映画が制作中
今回の目的はライカ100周年記念イベントの取材。ライツパークだけではなく、街中のアリーナで行われる式典にも出席した。各国の顧客や写真家が招かれ、関係企業や我々プレスも一緒に100周年を祝った。
式典の中では、映画監督ライナー・ホルツェマーによるライカ100周年を記念したドキュメンタリー映画『Leica, A Century of Vision』のプレビュー上映もあった。世界的な写真家とその創作活動、写真界におけるライカの重要性を伝える内容で、2025年内に正式公開が予定されている。
オークションも開催。ライカ試作機が10億円超え
現在ライカは、カメラと写真のオークション「ライツ・フォトグラフィカ・オークション」も運営している。カメラ界隈には知られたウィーン発祥のオークションハウスが、2018年からライカの傘下に入った。今回は「ライカI」100周年ということで、それにちなんだカメラも多く並んだ。
オークションは会場、オンライン、電話で入札可能。目の前にいる人が2億円ぐらいまで札を上げていたりして、筆者こと庶民はまたしても異空間に紛れ込んだ感覚に陥る。
楽しいお土産を買って帰ろう
さて、オークションに出るようなライカには手が出なくても、そもそもライカに手が出なくても、エルンスト・ライツ・ミュージアムには楽しいミュージアムショップがある。トートバッグやキャップといったライカグッズ、ライカに関連のある写真集と一緒に「地元のロースターが焙煎したコーヒー豆」や「近くの牧草地で採れたハチミツ」も売られていたりする。これを見ると、世界のライカといえども、やはりどこか田舎町の光学工場というムードが残っていて嬉しくなる。
このライツパークとライカが生まれたウェッツラーの旧市街までは、写真好きならカメラ片手に歩けるぐらいの距離。本社とミュージアムでライカの歴史を知り、その足で100年前の景色を多く残す旧市街を訪れ、35mmカメラの原点に思いを馳せる。カメラ好きにとって価値ある旅になること間違いなしだ。