NHK、スーパーハイビジョン機材を集めた展示会を開催

-ロンドン五輪に採用。フルHDの16倍/22.2chを家庭にも


東京・世田谷区のNHK技術研究所

 NHKは21日、2020年の試験放送開始を目指すスーパーハイビジョン(SHV)の研究開発成果を記者向けに発表する展示会を東京・世田谷区のNHK技術研究所(NHK技研)で開催した。会場にはSHV用カメラやプロジェクタ、液晶モニタなどのほか、立体音響制作システムや、ライブスイッチャー、中継車なども展示された。

 この展示会は、9日に行なわれたNHK会長会見で予告されていたもので、個別の機材は既にNHK技研公開などで披露されたものも多いが、今回の規模でSHV機材を集めて展示する機会は初としている。今回披露された機材や技術は、2012年7月開幕ロンドンオリンピックにおけるSHVでのパブリックビューイングなどにも使用されるという。


■ 軽量化したプロジェクタや85型液晶モニタ。ステレオヘッドフォンでの22.2ch再生も

450型スクリーンと22.2chスピーカーを用いたスーパーハイビジョンシアター

 スーパーハイビジョンはハイビジョンの16倍の画素数を持つ超高精細映像と、22.2チャンネルの立体音響で視聴できるシステムで、NHKが開発。21GHz帯衛星放送を用いた試験放送を2020年に開始することを目指している。

 デモ上映された「スーパーハイビジョンシアター」は、JVCケンウッドによるフル解像度の1.75インチ/7,680×4,320ドットパネルを用いたプロジェクタを採用し、450型スクリーンへのフルSHV投写を実現。現在は60fps表示だが、2020年には120fpsの表示を目指す。

 一方、1月に発表された「小型プロジェクタ」は、既存の4Kプロジェクタ向け800万画素D-ILAパネル3枚を利用し、「e-Shift」と呼ぶ画素ずらし方式を採用することにより、小型化/低コスト化を図ったもの。JVCケンウッドが協力している。

 最大スクリーンサイズは300型。パネル自体は60pで駆動しているが、パネルのRGBを斜め方向へずらし、時間的に交互に表示する。このため「イメージとしては60iに近い。インターレースのように時間方向では若干の劣化はあるが、その時間の劣化の分を空間解像度の分で稼いでいる」としている。

 前述の「スーパーハイビジョンシアター」で使われていた8Kフル解像度パネル搭載の試作機は、200V電源で動作し、本体の重さは200kg弱だが、小型モデルは100V電源で動作し、本体を約50kgまで軽量化。可搬性を大幅に高めている。

スーパーハイビジョンシアターの概要JVCケンウッドと共同開発した小型プロジェクタ画素ずらしでSHV相当の解像度を実現する


85型のSHV液晶ディスプレイ

 「SHVの最終的な目標」とする家庭への導入に向けた研究の一つが、液晶ディスプレイへの採用。5月にシャープと共同で発表した85型/7,680×4,320ドットのディスプレイを会場にも展示した。液晶以外にも、PDPや有機ELといった様々なデバイスを用いた開発を行なっており、「折り曲げられるディスプレイ」などの応用も目指している。

 また、家庭用にも応用できる技術として、ステレオヘッドフォンを用いて22.2ch音響を疑似的に聞くことができるプロセッサも紹介。現在は、映像制作向けに野外などマルチチャンネルスピーカーが使えない状況下でのモニタリングを想定して開発されているが、将来的には家庭への導入も見越して開発が進められている。

音響制作では、3次元空間で定位を調整できるミキシングシステムを採用。写真のスティックを動かすことで、音の位置を細かく調整できる市販のステレオヘッドフォンで、疑似的に22.2h音響を体感できるヘッドフォンプロセッサも22.2ch対応のマイク。野外などでの使用を想定する


■ 操作性を高めたSHVカメラ、ライブ放送向けスイッチャー、HD/4K切り出しなど

SHVカメラシステム

 「ハイビジョンカメラと同等の操作性で、軽量かつコンパクト」というSHVカメラシステムも開発。800万画素のCMOSセンサーを4枚用いて、RGB(赤緑青)のうち輝度信号に寄与度が高い緑に2枚、赤/青に各1枚のパネルを使用した「デュアルグリーン方式」を採用。G信号用に2枚の撮像素子を斜め方向に半画素ずらしで配置することにより、SHV相当とする解像度を実現している 池上通信機とアストロデザインが開発に協力している。

 特徴は、遅延の無いビューファインダや、フォーカス操作をアシストする拡大表示機能を追加したこと。また、撮影時の調整パラメータをSDIで多重出力して活用することも可能となっている。また、レンズとカメラの接続をケーブル1本とし、機器間の誤接続を検出する機能も開発した。

 スーパーハイビジョンのライブコンテンツ用にスイッチャーも開発。1つのSHV映像信号を16のHD映像信号に分割して独自方式で処理することにより、従来のHD向け機材と同等の小型装置でもSHV映像のワイプやミックス、スーパーインポーズ、2次元のデジタルビデオエフェクト(DVE)などを可能にしたという。

 前述のデュアルグリーン方式のSHV信号用入出力端子として、8系統の入力と4系統の出力を装備。キーヤーは2種類備え、2系統のスーパーインポーズや、PinP(子画面表示)などが可能。今回の展示では、前述の85型SHV液晶と16本のHDMIで接続して様々な映像効果をデモしていた。

 このほか、SHV信号からHDと4K信号に変換できるダウンコンバータも開発。これを使って、SHV映像から2点タッチ操作で任意のエリア/画角を指定してリアルタイムでHD書き出しするデモも行なっていた。今回はPCを用いているが、将来的にはタブレット/スマートフォンのような小型端末でのタッチ操作を想定しているという。このHD切り出しのほかに、SHVを5つの領域(右上/左上/右下/左下/中央)に分けて4K映像で切り出すこともできる。

 SSDを用いたライブスローモーションシステムも開発。64台の256GB SSDを同期して動作するもので、1ストリーム24GbpsのSHV信号を同時記録再生するために48Gbpsの帯域を確保。最大20分の非圧縮デュアルグリーンSHV映像を同時に記録/再生できる。これを使うことにより、スポーツなどでスロー表示をしたり、収録を継続したままクリップのトリミングなどを行ない、ハイライト映像を作ることができる。

新開発のスイッチャーSHVからHD映像を切り出してリアルタイムで表示ライブスローモーションシステム
SHV番組制作のための中継車も公開。8×8のSHV映像用ルータや、光伝送装置、28型の4Kモニタ3台を搭載(写真は22型モニタ)する。20kVAの発電機も搭載。総重量は7.9t。SHVのエンコードは現在MPEG-4 AVC/H.264を使用。これを8台のエンコーダユニットでの並列処理で符号化、最終的には2本のTSでIP伝送。8台のデコーダユニットで再生可能とする


(2011年 11月 21日)

[AV Watch編集部 中林暁]