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利益重視し、自動車/住宅で成長。パナソニック新中期経営計画
TV/携帯など赤字5事業も'15年度黒字化へ。「辞めない」
(2013/3/28 22:04)
パナソニックは28日、2015年度を最終年度とする中期経営計画「CROSS-VALUE INNOVATION 2015(CV2015)」を発表。2015年度には、営業利益で3500億円以上、営業利益率で5%以上、フリーキャッシュフローで3年間累計6,000億円以上を目指すことを明らかにした。
また、同中期経営計画の初年度となる2013年度は、営業利益で2,500億円、純利益で500億円以上、フリーキャッシュフローで2,000億円以上を目指す。
パナソニックの津賀一宏社長は、「この中期経営計画においては、一刻も早く赤字事業を無くすこと、同時にしっかりと将来を見据え、自分たちが力強く進んでいける道筋をつける。この2点に不退転の決意で臨む」とし、「2013年度の純利益500億円は必要最低限の水準。2014年度までに、赤字事業の止血、課題事業を中心とした大きな構造改革を積み残すことなくやり遂げる。2015年度の目標は少しでも前倒しで達成したい」とした。
2015年度の営業利益目標については、「現在の実力である1,400億円の営業利益を出発点として、150億円の若干の円安効果に加え、テレビ事業をはじめとする赤字事業の止血によって1,300億円の効果、営業利益率5%以上とする各事業部の収益改善策で1,400億円、効率化や制度改革で700億円を想定。これに事業リスクを織り込むことで、グループ目標を3,500億円以上とした」と語る。中期経営計画の為替レートはドルで85円を想定しており、「個人的にはあまり円安に振れないように期待したい」などとした。
売上高目標を設定しない理由は「利益優先」
今回の中期経営計画は、売上高目標を設定していないのが特徴だ。
津賀社長は、「意図的に全社売上高目標を作らなかった。だが、売り上げがない利益はない。売り上げはあげていくことになる。事業部は売上高目標がなければ事業をやっていけないため、その数字はある。また、事業部が積み上げた結果の売上高の数値は社内にはある。だが、それによってマクロ(パナソニックグループ全体)の売上高を求めることはしない。マクロはマクロのポジションとして目標を策定したのが今回の中期経営計画である。事業部からあがってきた数値に関しては、それに対して多い、少ないということは本社からは言わなかった。ただ、その決意の数値をそのまま必達目標としていいのかということで子細にリスク分析した。結果として、十分な裏付けがなく、決意が強い数値も結構あった。コンシューマ事業でいえば、事業部はこれだけいい商品を作ったのだから3年後にはこんなに売れるというが、販売サイドは3年後にそんなに売れるわけがないという。こうした意識にギャップがあるのが実態。これをマクロにみて、リスクを判断した。それが450億円程度になる。地震や海外の経済破綻の影響などのリスクを含めたものではない」などと語った。
また、「売上高を追うことで、従来の延長線上から抜け出せず、転地が図れない、体質の転換ができないということになるのは、絶対に避けなくてはならないことである。売上高も追う、利益も追うということでは現場ががんじがらめになる。そのため、売上高目標については、全社計画として設定はしなかった」と説明した。
事業部制導入の理由。プラズマは「頑張る」
津賀社長は、2012年6月の社長就任以来、ビジネスユニットを基軸とした経営を進めているが、その方向性をより明確にするため、4月から事業部制を導入。従来の88のビジネス責任を負える単位にくくり直し、49事業部でスタートする。
さらにこれらの49事業部を、アプライアンス社、エコソリューションズ社、AVCネットワークス社、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の4社からなるカンパニー制を導入。「カンパニーは、事業部単独では難しい大きな事業展開や、新規事業の創出、基幹デバイスの強化などに取り組み、事業部の進化を支える」と位置づけた。
事業部制度については、2015年度に赤字事業部をゼロとすることを目標に、事業構造の転換を図ることに言及。「テレビ事業や携帯電話事業などの赤字事業は、事業から撤退すれば赤字は消える。だが、撤退は最後の最後の判断。この事業を継続する努力をしながら、赤字を消すという姿勢を示したのが今回の事業部制。事業撤退という安易な選択肢は選ばない」と語った。
テレビ事業では、初めて赤字額を公表。2011年度にはマイナス2,100億円だった赤字を、2012年度にはマイナス860億円の赤字に圧縮しており、2015年度にはテレビ事業の黒字化を見込む考えだ。
津賀社長は、「テレビ事業については、セットだけなら黒字化も見えてきたが、パネル事業、流通部門を含めると様相が大きく変わる。今年度は大規模な構造改革などで赤字を大きく圧縮したが、まだ860億円の赤字が残る。この中期経営計画で、赤字を必ず解消する。私自身、大きな決意をして、これに取り組む」と宣言した。
プラズマパネルを使用したプラズマテレビ事業撤退の可能性については、「可能性があるという意味では、ゼロではない。どんな技術も、どんな製品についても未来永劫続いていくわけではない。どこまで頑張れるのかという問題であり、頑張れるだけ頑張ることを決めている。ただ、テレビ事業トータルで赤字の垂れ流しは止めるという決意だ」と述べた。
半導体事業では、2013年2月に、富士通との事業統合で基本合意したことに触れたほか、システムLSI以外の分野については、従来のAV中心、国内中心から大きく転換したことに触れた。
「半導体事業では、デジタル家電で培った技術をベースに、アナログ、イメージング、化合物半導体を進化させ、自動車や産業インフラ分野などにおける省電力、高効率、小型軽量化への貢献を目指す」と語った。
さらに、この半導体事業分野では、他社とのアライアンスも含めてアセットライト化を進め、早期の赤字解消を図る姿勢を明らかにした。
また、携帯電話事業は、BtoB向け堅牢スマートフォン市場への参入を行なう一方、開発・生産の外部委託を進め、固定費の削減に取り組む。
回路基板事業は、スマートフォン基板市場の競争激化を捉え、「内層基材および半導体パッケージ事業への転地を進める」とした。
ドライブやピックといった光事業については、既存事業の縮小のほか、海外メーカーなどの他社への生産委託の拡大、国内拠点を再編を行なう考えを示した。
なお、パナソニックでは、事業構造改革費用として、今後2年間で約2,500億円を見込んでいる。
脱・自前主義。ROE10%へ
一方、中期経営計画の重点施策のひとつとして津賀社長は、「脱・自前主義による成長および効率化」を掲げた。
今後の成長が期待される医療関連事業では、中核子会社であるパナソニックヘルスケアに外部資本を導入する考えを示した。
「パナソニックヘルスケアは、着実に収益を上げているが、医療業界における知見が限定的であり、グループとして十分な投資ができない。事業成長の可能性に限界があると考えている」とし、「この分野におけるノウハウと資金リソースを持ち、事業ビジョンを共有できるパートナーと手を組む」などとした。
資本提携の相手となる具体的な企業名については言及しなかったが、「パートナーの選定と新たな事業戦略の策定に向けて、2013年4月から、社長直轄プロジェクトをスタートさせる」と語った。
さらに、物流業務を担当するパナソニックロジスティクスの過半数の株式を日本通運に譲渡することを3月28日付けで合意したことも明らかにした。
なお、財務体質の改善については、2015年までの3カ年累計で6,000億円のフリーキャッシュフロー創出に向けて、設備投資の絞り込みによる減価償却費との差額で2,700億円、キャッシュフロー経営実践プロジェクトによって2013年度に1,000億円を積み上げるとした。
キャッシュフロー経営実践プロジェクトは、すでに2012年度下期からスタート。2012年度だけで、資産売却を中心に2,000億円のキャッシュを創出できる見通しだという。今後も、資産売却や、在庫削減などによる運転資金の圧縮などに取り組むという。
「生み出した資金によって、この3年間で期限を迎える5,000億円の社債を円滑に償還し、ネット資金黒字化へ目処をつける」と語った。
2015年度まで株主資本比率を25%にまで高めるほか、ROE(自己資本利益率)は10%を継続的に達成できる体質を目指す。
今後の成長領域は「自動車」と「住宅」
さらに、津賀社長は、「お客様からの逆算による成長戦略」という言葉を使い、今後のパナソニックの方向性についても言及した。
2013年1月8日に米ラスベガスで開催された 2013 International CESのオープニングキーノートにおいて、津賀社長が講演した内容に触れながら、「CESの基調講演では、パナソニックは、単なるテレビのメーカーではなく、様々なパートナーとともに “Engineering A Better World for you”を実現する企業であることを示した。これがパナソニックが目指すべき姿である。パナソニックが従来から持っている、お客様のくらしに寄り添う『家電のDNA』を継承しながら、様々な産業のパートナーと一緒になって、お客様のいいくらしを追求していく」と語った。
具体的な領域として、自動車産業と住宅産業をあげて、「車載関連事業部のすべてをAIS(オートモーティブ&インダストリアルシムテムズ)社にまとめた。システムからデバイスまで、自動車産業におけるコアバリューを高める提案を行なう」としたほか、「2018年には自動車産業向けのビジネスを2兆円事業に成長させる。現在の実力は約1兆円。これをオーガニックに成長させても1兆5,000億円。M&Aを含めて2兆円を目指していく」などと語った。
M&Aでは、ボッシュやデンソーといった自動車産業で「Tear-1(ティアワン:一次請け)」と呼ばれる領域でビジネスを行なえる体質への進化を目指し、これまでのビジネスを補完する領域をターゲットに実施するという。
また、自動車産業分野では、従来のマルチメディアのハード事業に加えて、サービス事業の展開を加速する姿勢をみせ、その一例として、ドイツのインターネットラジオ会社であるAUPEO社と、協業を前提にした協議を進めていることを示した。
住宅産業では、家電、設備、電材、建材のほか、ハウスメーカーであるパナホームを持つ強みを活かした新たな価値提案に取り組むとし、「グループの総力を結集することで、最高の住宅を提案することを目指す」とした。
第1弾として、2013年4月から、パナホームが戸建住宅の新製品として「カサート・エコ・コルディス」を発売。屋根の全面をHIT太陽電池パネルとし、蓄電池と連動したスマートHEMSを採用するという。これを、現在建設中の藤沢サスティナブル・スマートタウンにおける主力製品にしていくという。
2018年度には、家電を除く住宅関連事業で2兆円規模にまで成長させるという。
「企業全体の売上高が7~8兆円とすれば、そのうちの半分を自動車、住宅で占めることになる」と、津賀社長は今後のパナソニックの事業構造の方向性を示した。
さらに津賀社長は、就任時にパナソニックの事業領域として掲げた「住宅」、「非住宅」、「モビリティ」、「パーソナル」の4つの空間を、今回の中期経営計画では、「4つの戦略領域」と言葉を変え、「住空間ネットワーク」、「エコ&スマート ビジネスソリューション」、「モビリティシステム+サービス」、「コネクテッド・パーソナル」と言い換えた。
津賀社長は、この4つの戦略領域に力を注ぐことで、「デジタルコンシューマへの依存から脱し、BtoBを中心とする空間のソリューション事業へとシフトする。さらに、お客様とつながり続ける事業にシフトする」と宣言。「デバイス事業に対する考え方も大きく転換する」とした。
津賀社長によると、「これまではプラズマパネルに代表されるように、BtoC事業を起点とする垂直統合を基本としていたが、今後は、強いコアデバイスを、お客様のニーズに応じてカスタマイズし、あらゆる空間で広くソリューション展開していくことを基本戦略にする。これをEverywhere!という言葉に込めていく」などと述べた。
この考え方を展開することで、例えば、ディスプレイ事業については、テレビ用だけでなく、壁や机への埋め込み、車載用ヘッドアップディスプレイ、公共施設向けサイネージまで、あらゆる場所に展開していくとした。
「メーカーとしてのDNAを生かしながらBtoB事業を推進していく。自動車、住宅関連はモノづくりのDNAを生かせる領域である。ただ、単なるメーカーや部品メーカーを超えて、サービスの領域にどれだけ入っていけるか、またエンジニアリングの領域に入っていけるかが鍵である。よりサービス産業に踏み込み、そこでどれぐらいの連携ができるかが課題であり、目標となる。アビオニクス事業では、ボーイングやエアバスといったメーカーがビジネスの相手ではなく、JALやANAといったサービス事業者が相手である。ここにメーカーとしての強みを生かすことができ、こうしたビジネスを推進するのがパナソニックにとって理想的な形である。これをグローバルに展開していく」という。
CROSS-VALUE INNOVATIONで復活。中計達成できなくても「辞めない」
また、津賀社長は、「この9カ月の間、社長としてなかなか全体が見えなかった。全体が見えないなかでどう経営するのか。これが大きな課題であった。ステップ・バイ・ステップで見えるようにしていくのがこれまでの取り組みの基本的な考え方であった。また、私一人が見えればいいのではなく、経営するチームや事業部長を含めて、より多くの人が大きなパナソニックが見えるような形にするにはどうしたらいいのかということにも取り組んできた。常務会を廃止し、グループ戦略会議を作り、人事、経理、企画によって構成される本社組織の130人をワンフロアにしたのもそうした取り組みのひとつである」と語った。
さらに、津賀社長が当面の目標としていた「普通の会社になる」ということについては、「普通の会社のポイントは2つある。ひとつは本業で利益を出せるかどうか。もうひとつは自ら独立した経営を進めることができるかという点。今回の中期経営計画では、本業の儲けである営業利益率で5%以上を目標とし、ネットの借金を減らすことに挑む。これを達成すれば、数字の面では普通の会社に戻れることになる。ただ、メンタルな面では会社固有のものがある。そこは改革する必要はあるだろう」などとした。
最後に津賀社長は、「新たなパナソニックに向けて」と前置きしながら、「CROSS-VALUE INNOVATION」を、中期経営計画のキーワードに打ち出すことを示し、「社員も、事業部も、カンパニーも、そして、パナソニックそのものも既存の枠組みを超え、異なる強みを掛け合わせるなかで、より大きな価値を生み出していくことが、中期経営計画の大きなテーマになる。事業部制による自主責任経営、カンパニーによる大きな事業戦略とが真に機能することで、パナソニックは世界に類のないユニークな会社として、力強く復活できると考えている」と語った。
質疑応答のなかでは、今回の計画をコミットメントとして捉えた場合、目標を達成できなかった場合の経営責任を問うものもあったが、「覚悟を持って、執念を持って達成する目標を作ったつもりである。しかし、だからといって100%達成することを保証しているものではない。だが、今回の中期経営計画の策定は、これまでにものに比べて、相当丁寧な形で作り上げた。これでうまくいかなければ、中期経営計画の策定方法そのものを見直さなくてはならない。やり方をさらに大きく変える必要がある」とし、「達成できなかった場合に辞めるのかという点については、辞めない。そんなに簡単にはあきらめない」と断言した。
なお、6月26日付けで、大坪文雄代表取締役会長が特別顧問に就任し、長榮周作副社長が代表取締役会長に就任することが発表された。
これに関して津賀社長は、「大坪が自身の判断によって、このタイミングで辞任を発表することを決めたもの。これは3月に決めていたようだ。大坪はいま置かれた立場で、パナソニックに対して、なにができるのかを自問自答していた。社長経験者として悩んでいた。中期経営計画の発表時に、辞任を発表するのが最適なタイミングと判断したと理解している」としたほか、「取締役会議長は会長であるが、事業の責任は社長が持っている。これがパナソニックの役割分担。旧パナソニック電工の長榮が会長に就任したが、最も会長の役割に相応しい人物であり、旧電工の出身であるからどうこうというようなことはない。電工とも一体化しており、むしろ積極的な入り交じりを行ない、いかに強いパナソニックとして復活するのかが大切である」と語った。