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テレビ'15年度黒字化に本腰。パナソニックAVC中期戦略

クラウド強化。ドコモのツートップ「間違いなく影響」

 パナソニックは、AVCネットワークス社の中期計画について発表。そのなかで、パナソニック AVCネットワークス社の宮部義幸社長は、テレビ・パネル事業における2015年度の黒字化達成に強い意志を見せる一方、コンパクトデジタルカメラのエントリー製品を、前年比で3割絞り込み、ミラーレスおよび高付加価値コンパクトカメラに集中することを明らかにした。また、クラウド対応プロダクツへの取り組みを加速する姿勢を明らかにした。

4月から事業部制を導入(写真は'13年3月の中期経営戦略説明会のもの)

 パナソニックは、2013年4月から、4つのカンパニーへと体制を再編するとともに事業部制を復活。4カンパニーのうちの1社となるAVCネットワークス社では、テレビやビデオ、業務用カムコーダーや機内エンターテイメントシステム、PCなどを担当していた旧AVCネットワーク社と、電話機やFAX、スマートフォン、映像セキュリティシステムなどを担当していた旧システム&コミュニケーションズ社を統合。15事業部を擁し、約4万7,000人の規模でスタートしている。

 AVCネットワークス社の中期計画では、2015年度に売上高で1兆9,800億円、営業利益率5%以上、3カ年のフリーキャッシュフローで累計500億円以上を目指す。

 また、AVCネットワークス社におけるBtoCおよびBtoBでの経営目標についても公表し、BtoC事業においては、2012年度に6,406億円の売上高に対して、2013年度には6,400億円と横ばい予想としながら、固定費の圧縮と限界利益の向上により、黒字化を実現。2015年度には売上高6,800億円、営業利益率5%を目指すとした。「2015年度には、BtoCにおける赤字事業を撲滅する」とした。

 また、BtoB事業に関しては、2012年度には8,110億円だった売上高を、2015年度には9,700億円にまで拡大させる。モバイルIT事業で500億円増、セキュリティ事業で300億円増、インフラ事業で200億円増、AV系事業で400億円増。そのうち、クラウド運用サービス事業で100億円増を見込んでいる。「システムソリューションとプロダクトソリューションをあわせたソリューション事業では、2015年度までに23%増の成長率を見込んでいる」という。

テレビは'15年度黒字化に向けて収益改善を急ぐ

 テレビ、パネル事業においては、2011年度には2,100億円の赤字、2012年度に885億円の赤字となったが、2013年度は545億円の改善とし、340億円にまで赤字を圧縮する計画を掲げており、「原価モノづくり改革、非テレビ向けパネルの展開強化、流通部門の収益性向上などに取り組む」とした。

 545億円の改善については、原価モノづくり改革で330億円増、流通部門の収益性向上で175億円増、非テレビ向けパネル展開で220億円増、大画面展開およびモデル絞り込みで10億円増、構造改革効果で40億円、売価ダウンでマイナス230億円などを見込む。

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 テレビの商品力強化では、2013年度の商品において、スマートテレビとしての機能を進化。クラウド型サービスや、音声操作、パーソナライズ化した操作環境を提案したことを強調。マーケティング戦略では、先進国におけるスマートテレビの販売強化に取り組むとした。とくに、米国では収益優先とした流通再構築、ネット販売の拡大にも取り組む考えを示した。また、新興国においては、地域密着型製品の導入強化のほか、現地有力ディーラーとのコラボレーション製品の投入や、ODMの積極活用などに取り組むという。さらに、原価モノづくり改革では、32型テレビの材料費を前年比で20%削減するという。

 パネル事業においては、非テレビ用パネルの利用が着実に進展していることに言及。非テレビ向けに、2012年度に17機種を立ち上げ、34社と商談が進行しており、2013年度には液晶パネルの非テレビ比率を8割にまで拡大していく考えも示した。

 「非テレビ用途では、現時点では計画通りの受注状況。来年度見込み案件を前倒しで行っていく考えである」としたほか、新TFT構造による高精細化、光配向技術による高画質化などの技術を活用。「IT用途では特定顧客とのカスタム化対応、業務用で31型4K案件の獲得に取り組む一方、車載用ではパナソニックのオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社と共同で、高画質および高信頼性のパネルの試作品も完成している」などと語った。

デジカメ高付加価値シフト。ドコモ ツートップ戦略は「間違いなく影響」

 一方で、デジタルカメラ事業への構造改革についても言及した。

 同社では2012年度実績で、617万台だったデジタルカメラの販売台数を、2013年度には500万台に縮小。ミラーレスの強化および高倍率ズームを搭載した高付加価値型コンパクトカメラを中心とした製品ラインアップへと移行させることを明らかにした。

 「すべての製品を投入する全面戦争ではなく、スマートフォンの影響を受けているコンパクトデジカメのエントリー領域においては、思い切って機種を絞り込み、メリハリ感を持った製品展開にシフトする。とくに、ミラーレス市場においては、今年度15%のシェア目標を達成し、2015年度には20%にまでシェアを引き上げ、この分野でのトップシェアを目指す」などとした。

 2015年には、デジタル一眼カメラ市場において、3分の1がミラーレスになると予想している。

 さらに、「ミラーレス市場においては、LUMIXとしてのプレゼンスを高めることができる製品展開を行なう。とくに動画性能の高さは当社の強みになるだろう」としたほか、「カメラとしての付加価値をしっかりと訴求する販売戦略が必要。カメラ専門店を通じて、カメラの良さを伝える環境を構築するとともに、今後は光学メーカーとなにかしらの連携を図っていけないかということも検討していく」とした。また、無線技術との融合も重要なテーマだとし、「新生AVCネットワーク社では、同じカンパニーのなかに無線技術、アンテナ技術をもっており、共同開発を行なうことができる。他のドメインの協力を必要としたかつての体制では、一定の融合関係しかできなかったが、それが解決される」と語った。

 さらに、「デジカメはこれまでの成功モデルを引きずってきたところがある。秋モデル以降では、機軸を変えた製品の投入を考えている。ミラーレスの流れを変えるアクションを起こしたい」などと語った。

 携帯電話については、2008年度比で2012年度には出荷台数が55%減、2013年度には59%減とする一方、固定費は同じく2008年度比で2012年度に50%減の実績達成と、2013年度に70%減とする計画を示しながら、「開発および生産の外部委託によって、固定費を圧縮し、2013年度には前年比70億円の営業利益改善を行ない、それらの取り組みを継続し、2015年度に黒字化を目指す。スマートフォンが同質化競争に陥るなかで、BtoB向けの堅牢性の高いスマートフォンを展開。まずは日本および米国で投入していくことになる。これは、同質化競争から抜け出すために、PC事業で取った手法と同じである」と位置づけた。

 また、「ドコモのツートップ戦略(*1)は、間違いなく影響を受けている。この状況を含めて今後修正をしていく必要がある」などと述べた。

*1:ドコモがGALAXY S4とXperia Aを夏モデルの中心として展開する戦略。パナソニックの夏モデルELUGA P P-03Eは対象外

 一方、クラウド対応プロダクツに関しては、スマートテレビによるテレビのIT化、スマートフォンによる携帯電話のIT化、車載システムのIT化といった動きを捉え、AVCネットワークス社とオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社がそれぞれに持つ開発プラットフォームを統合。グローバルIT企業との協業によって、クラウド対応プロダクツを開発する姿勢を明らかにした。

 具体的な製品として、膨大なデジタルデータの保存に対応したBDアーカイバーをあげ、同社が持つメディア技術やドライブ技術、高密度記録再生技術、デジタル信号処理技術、高容量化技術提案力を生かし、HDDや磁気テープと比べて、長寿命、省メンテナンス性、高信頼性の特徴を生かせるとしている。また、HDDでは常時電源を入れておく必要があり、磁気テープでは空調管理コストが必要であるのに対して、BDアーカイバーではこうしたコストが削減でき、「HDDに比べて、最大98%の消費電力削減ができる」という。

CESで披露した20型4K IPSα液晶パネルを搭載した「4K Tablet」

 また、今年1月のInternational CESで発表した4Kタブレットについても、マイクロソフトとの協業関係強化によって共同プロモーションなどを実施。自動車メーカーや建築設計事務所、プロカメラマン、カーディーラー、医療関係などの引き合いが全世界で出ている実績にも触れた。

 BDアーカイバーおよび4Kタブレットは、いずれも「2013年度中に事業化する」とした。

Cross-Valueで成長へ

 一方で、成長戦略としては、BtoB事業における出口の拡大と、ソリューション事業の体制構築、ソリューション事業での成長牽引を掲げ、BtoB事業を主軸に置く姿勢を改めて強調した。

 BtoB事業では、AV系およびICT系が持つそれぞれの販路を活用。「北米でナンバーワンシェアを持つ堅牢PCのタフブックの販路を利用して、堅牢スマホを投入するといったように、販路の相互活用を狙う」とした。

 また、「ソリューションのレイヤーアップ」と表現しながら、ソリューション事業を加速することで、利益率の高い領域へとシフトする姿勢をみせた。

 汎用商品による「ボックス(プロダクト)」販売の上のレイヤーとして、特定顧客向けのカスタマイズ商品による「プロダクトソリューション」、その上位レイヤーとして業界特化システムなどによる「システムソリューション」を位置づけ、「ハードだけでなく、ソフトを含めてトータルに提供していく体制を構築し、そうしたビジネスを増やしていきたい」と語った。

 レイヤーアップの事例のひとつとして、タフブックを起点にして、監視システムや画像分析を組み合わせたセキュリティ事業への拡大といった例をあげ、「セキュリティ事業では年率15%増の成長を計画している」と語った。

 また、海外ソリューション事業では、2015年度に2,500億円の事業規模を目指し、「日本で実績を持つ交通管制システムを、インフラ投資に旺盛なアジアや中国向けに展開していく」と、具体的な事例を示した。

 システムソリューション事業の体制整備については、「2013年度に、新たにソリューション事業推進室を発足し、事業部をまたぐ案件への対応などによって仕込みを終え、2014年度以降には本格的に拡大する」と、その方向性を示した。

 パナソニック AVCネットワークス社の宮部義幸社長は、「AV系である旧AVCネットワーク社が持つ画像圧縮技術、ハードデバイス技術、ICT系である旧システム&コミュニケーションズ社が持つ無線通信技術、画像マネジメント技術が組み合わさることによって、Cross-Valueを創出する。Cross-Valueは、AVCネットワークス社のことを思い、全社スローガンにしてもらったともいえる。パナソニックの強みは、世界2位の特許国際出願数に裏打ちされた確かな技術力。これらを生かして、他社には実現できないCross-Valueを実現していく」と語った。

(大河原 克行)