吉田伊織のA&V奥の細道

スピーカーなどのケーブルが長い時に活躍、“半径ずらしの技とは?”

半径ずらしの技とは?

前回はイヤフォンコードの長さ調整用巻き枠(アジャスター)について、音質の観点から簡易無誘導巻きの意義について考察した。そして、その発想は各種ケーブルの引き回しにおいても応用できると予告したので、今回はそれを探ってみることにする。

スピーカーケーブルの例

まずは古くからのお題である、スピーカーケーブルの片チャンネルたるみ問題について。

これは多くの方が経験済みだろう、両チャンネルのスピーカーケーブルを同じ長さにしても、アンプの配置によっては左右どちらかの長さが余ってたるんでしまう問題だ。

すこし蛇行させるくらいで済むのならいいのだが、ぐるぐるととぐろを巻いてまとめるような事態となると、片チャンネルだけコイル状になるから音質が劣化するのでは? と懸念される次第。

私的な経験としては、実際にはさほどあからさまに音質が劣化する例は少なかった。とはいえ、コイル巻きを解消させるとはっきりと音が蘇ることもあったので、やはり無視はできない。

ではどうむやみに蛇行させず、スペースを取らずにコイル巻き問題が解消されるのか?

写真1:赤白のスピーカーケーブルを4段巻きした例
写真2:2段ずつ半径ずらしした例。8の字の2つの輪が互いに半径分侵入した形だ。これで簡易無誘導巻きになる

それは写真1と2でお分かりの通り。余った分をひとまずコイル巻きにしてから、それを上下半分に分割して互いに半径分ずらすようにするだけでいい。

たとえば、4段になったコイル巻きなら上2段分をまとめて半径ずらしすることで簡易無誘導巻きになるわけだ。2段巻きなら1段ずつ。3段巻きになってしまったら巻きの径を変えて2段巻きにするか4段巻きにしてから等分にずらすようにする。

これで8の字のそれぞれの輪が互いに半径分侵入する形になり、重なった輪に流れる電流の向きが互いに逆向きになって簡易無誘導巻きになることは理解できるだろう。

こうしてコイル巻きを変形させただけで音質が向上すれば、めでたしだ。ただし神経質な人は、片チャンネルだけ無誘導巻きにするのはまずいのでは? と思われるかもしれない。

ならば、両チャンネル共に長さに余裕をもたせて、たとえば片チャンネルは4段巻き、もう方チャンネルは2段巻きにしてから無誘導巻きにする、というような「公平」なやり方も試してみるといい。さほどの違いはないはずだが。

電源ケーブルではどうか

写真3:電源ケーブルの半径ずらし。矢印は電流の向きを示し、中央で互いに逆方向になることを示す。これで同相(コモンモード)の成分を抑える力が弱くなる

こういうやり方は電源ケーブルにも応用できる。写真3はとあるメーカーの試聴室にて試した例だ。ネットワークオーディオ系機器の電源ケーブルなので期待したのだが、効果はほどほど。じっくり聴き比べると改善効果はわかるという程度だった。ま、これは単発の対策だったので、多数形成されてしまうノイズのループを徹底遮断するなどの合わせ技を用いると様相は一変するはずだ。

HDMIケーブルへの応用

もっと効果がはっきりするのはHDMIケーブルだ。筆者宅では動画配信のためのネットワークの最終段に近いところ、ストリーミングデコーダーのHDMI出力をAVアンプに接続するところでHDMIケーブルを半径ずらしして使っている。映像と音声のデータが同居している部分なので、このケーブルの品位やノイズ対策は双方に効果があるわけだ。

ただし高品質を誇示したHDMIケーブルは概して頑丈な外皮であったり、平形であってもごつい仕上げになっているものが多く、そうしたものは曲げにくく、半径ずらし手法はやりにくい。無理に短い径にてそれをやると、ケーブル自体や端子部に問題が生じる懸念があるのでご注意。

ところが、高品質にして細くて柔軟性を持つ製品もあるわけで、光伝送ケーブルの中にはそうしたものが多い。

筆者が使っているのはFIBBR(フィバー)の8K対応のPURE3。これは現実的な価格にして高品質。取り回しが容易であり、小さな径に巻き取れるなど使い勝手も上等。

FIBBR PURE3

ところで、光伝送ならばコイル巻きによる電気的な誘導、無誘導といった問題は関係ないのでは? という疑問が生じるだろう。

それについては断面を見ることができれば一目瞭然だが、メタルの信号ラインも同居しているのであり、電気的な性質を普通の金属線ケーブルと同じくかかえていることになる。もちろん制御用のCECラインや着脱の確認用、電源ラインは元々金属線だ。

写真4:HDMIケーブルの例。光ケーブル仕様であり柔軟性があるのでやりやすい。光伝送であっても金属線が通っていることに留意したい

そこで、写真4のように小さな輪の2回巻きとして半径ずらしすることが可能だ。その効果は意外なほどであり、映像は立体感、遠近感が際立ち、細部はくっきりとし、質感も向上。輝度系の純度が向上した効果はあきらかだし、色情報も高密度になった。

また音質についても画質と同様というべきか、空間構成が明瞭となり、微小な音の実体感が向上。声の語勢や抑揚、声音の性状が明瞭になってきた。

これは自宅のLANシステムのノイズ対策の効果にもよる。つまり構成する各機器のDC電源そのものや電源ケーブル、電源タップに配慮し、絶縁トランスも多用。他に多数あるLAN端子の使い分け、空き端子のノイズ対策など徹底しているので半径ずらしの効果も明らかになった次第。

ところで、このHDMIケーブルの半径ずらしが一番効いたのはプロジェクターや映像モニターに接続する場合だ。ケーブルが10mを超える長さのものを使うことがあり、余りの部分を大きく蛇行させたりコイル巻きにすることにもなるわけだ。そこでちょいと半径ずらしをすると著効を発揮することが多くて嬉しくなったことが多々ある。

追記

「半径ずらし」について、これは筆者が独自に発想したものだと思っていたが、省みるとそのアイディアを練ったり具体化するまで試行錯誤した記憶がない。いつのまにか取り入れていたわけで、ならばどこかの文献に同じような発想が記述されていたのかもしれない。

そこでノイズ関係やケーブル関係の手持ちの文献を調べてみたが該当するものは発見できなかった。ただし、Webで検索すると色々関連しそうなものはあるわけで、たとえばプロ用映像音響機器で知られるヒビノのサイトには、同相ノイズ対策になるケーブルのまとめ方の説明が掲載されている。演奏や放送、録音の現場ではとっくに織り込み済みの技だったかもしれない。

ただし、趣味の映像や音方面にて、こうしたケーブルの巻き方による同相ノイズ対策の効果について宣揚してきたところに筆者の独自性があるのでは、と自己評価している。

HIBINO BREAK TIME「順巻き、逆相巻き、8の字巻き!ケーブル巻きのお話」

吉田伊織

小学生(1962年)のころから数年、電気工作に熱中。ラジオの深夜放送を自作のラジオで聞くようになり、大人向けのポップスやラテン、ジャズ、映画音楽などに魅せられる。ジャズやロック、モダンフォークが大変革する前夜であり、後の音楽志向の原点となる。またギターの各ジャンルに興味が移り、クラシックギターは一時教室に通ったことがある。また40歳ころにヴァイオリンも習ったが両者とも短期間で限界を知って縁遠くなる。高卒後各種の就業を経験。産業用変圧器や電動機などの修理業では、高電圧ケーブルの絶縁性維持の仕組みにオーディオ用途との関連を見出す。また映画館やポストプロダクション(録音スタジオ)の映写室勤務を経験。 映画館ではアナログ式のドルビーステレオ用再生装置(パッシブ型サラウンドデコーダー相当)を自作。装置を実際の興行に供して好評を得る。光ファイバーを用いた光学音帯のピックアップとしては世界初であった。 趣味のオーディオについては、ジャズ喫茶通いや自作派名人、WE(ウェスターン・エレクトリック)系の大家との交流などで少しずつ接近。管球式、半導体式アンプのキット品や自作などで部品や実装法による音質の違いを研究し、今日のオーディオ評、ビジュアル評に生かしている。