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宮崎駿監督「風立ちぬ」主演声優に、庵野秀明氏を起用

7月公開のジブリ最新作。飛行機設計士・堀越二郎の半生

「風立ちぬ」の主人公・堀越二郎
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK

 7月20日より劇場公開される、宮崎駿監督・スタジオジブリのアニメ映画最新作「風立ちぬ」。同作品の主演声優として、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の監督などで知られる庵野秀明氏の起用が発表された。

 庵野秀明氏は、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」('84年公開)で巨神兵がオーム(王蟲)を薙ぎ払うシーンを担当。その後も「火垂るの墓」('88年)への参加や、短編「巨神兵東京に現る」('12年)の企画など、スタジオジブリ/宮崎監督との深い関わりでも知られている。庵野氏は長編アニメ映画での主演声優は初挑戦となる('02年の「アベノ橋魔法☆商店街」第12話にて声優を経験)。

 「風立ちぬ」は、月刊モデルグラフィックスにて連載されていた宮崎駿の漫画を原作とし、宮崎氏が監督・脚本を手掛けたアニメ映画。かつて「零戦」を設計した堀越二郎氏をモデルに、一人の青年技師“堀越二郎”の半生を、完全フィクションとして描いた物語。音楽は久石譲、主題歌は荒井由美「ひこうき雲」。

 堀越二郎の声について、宮崎監督は「早口である」、「滑舌がよい」、「凛としている」というイメージを持っており、適任者を探す会議の中で、鈴木敏夫プロデューサーから庵野氏の名前が候補に浮上。庵野氏は「最初から断ることはできない」とオーディションに参加した。声を聞いた宮崎監督は満面の笑みで「やって」と直々に依頼したという。

庵野秀明氏のアフレコ風景

 スタジオジブリにて4月中旬から始まったアフレコ収録の序盤では、「難しい」を連発した庵野。宮崎監督から「うまくやろうとしなくていい。いい声だからでなく、存在感で選んだのだから、それを出さなくてはならない」とのアドバイスを受け、外国語や声を張るシーン等にも果敢に取り組み、人を背負うシーンでは実際に手を後ろに回して声を出すなど、体も動かしながら調子をつかんでいったという。また、同じセリフをリズムを変えて何度も繰り返しながら「この練習部分も(録音を)回しておいてくださいね」とお願いしたり、「今の中で使えるものがあると思います」と自分でOKを出すなど、宮崎監督が「監督が二人いるみたいでややこしいな」と笑う場面もあったとのこと。

 宮崎監督からは、主人公の半生を描くゆえに年齢が変化していく様子を「まずは20代、語尾を上げ、明るく高い声で」と指示が出されたり、二郎が冷静にみんなを諭すシーンでは「三船敏郎のように」と注文。4日間に渡ったアフレコ収録を通じ、二郎という役どころを掴んだ庵野氏は、ヒロインとの愛をささやくシーンで現場の全員が息をのむほどの完成度の高さを見せ、一発OKだったという。

 鈴木敏夫プロデューサーは、声優として庵野氏を起用した理由について「役者さんでは演じることのできない存在感です。映画を設計する監督と飛行機の設計士、作るものは違うが共通点もあると思いました。こじつけですが(笑)」とコメントしている。

堀越二郎役・庵野秀明氏のコメント

 突然ある日、鈴木(敏夫)さんから「二郎の声をやってほしい」と電話がかかってきました。“まぁ無理だろう”と思いましたが、無理とはいえ宮さん(宮崎駿)から是非にということでしたし、まずはオーディションをして本当にいけるかどうか確認してみようということになりました。オーディションが終わると、しばらく見たことないくらいニコニコと満面の笑みの宮さんに「やって」と言われまして、“これはやるしかないんだろうな”と思ったのが正直なところです。できるかどうかは別にして、やれることはやりますけれど、そこまでです、ということで引き受けました。ダメだったときは、僕を選んだ鈴木さんと宮さんが悪いんです(笑)。といいつつも、頑張ります。

 主役は初めてなので、シーンが多すぎてどこも大変だなあという印象です。もともと宮さんにオーディションで言われたのが「寡黙な男でセリフはそんなにないから」ということで。それを信じて引き受けたのですが、絵コンテ見たらびっくりですよ。ずっとしゃべりっぱなしだし、歌はあるわ、フランス語もドイツ語もあるわで、完全にだまされた!って感じです(笑)。役作りは、素人なのでやっても無駄ですから、意図してやっていません。素のままぶつけて宮崎さんが気に入ればいいし、違えば直していこうと思っていました。役柄についてはあまり説明がなく、注文もそんなにありませんでした。アフレコ2日目くらいから、宮崎さんがニコニコと、とても喜んでいる様子で。それだけでよかったなと思います。

 この映画の中に出てくる堀越二郎さんと僕自身が共通するのは“夢を形にしていく”仕事をしているところだと思います。そこはすごくわかるし、自分の実生活にも通じるところがあります。素の自分のままアフレコをやったところを宮さんが喜んでいたので、やっぱりそうなんだなと。アニメや映画を作るということと飛行機を作るということは、作るものは違えども、夢を形にすることは同じ仕事なのだと強く思いますね。

 2時間を超える長編をつくるというのは、体力的にも精神的にも本当に大変な作業です。ラストシーンは、正直感動しました。

(中林暁)