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日立、外光下でも輝度を上げずに見やすい映像補正技術

プロジェクタ/車載モニター向け。視覚特性に基づき分析

 日立製作所は、外光が射す明るい場所でも見やすいプロジェクタの実現に向け、高精細映像を毎秒60フレームでリアルタイム処理する映像処理技術を開発したと発表した。プロジェクタのほか、車載モニターや監視モニターなどの利用も想定している。

 スマートフォン/タブレットなどのモバイル端末と連携したプロジェクタの利用が増え、明るい場所でも使われる機会が増えたことなどを受けて開発。プレゼンテーションなどの業務用途だけでなく、映画/放送コンテンツなどのホームシアターや、アミューズメント用途においても見やすい高画質な映像表示が行なえるという。同技術を搭載した超短焦点プロジェクタを、日立マクセルが米国と欧州で発売する予定。

補正前(左)と補正後(右)の比較

 表示する映像信号を人の視覚特性に基づいて分析し、視認するために重要な成分を抽出・強調することで視認性を高める技術。プロジェクタの映像出力(光源の輝度)を上げることなく、見やすい映像を表示できるという。実装するハードウェアの構造に合わせた処理アルゴリズムの最適化により、小型ハードウェアでも高精細映像のリアルタイム処理を可能にした点も特徴。

 コントラスト補正やカラーマネージメントなどで画面全体に処理する方法とは異なり、今回の新技術では、画面内の場所ごとに映像の明るさや細かさなどを分析、特性を変化させて局所的に映像を補正する。このため、もともと見やすかった部分が補正によって潰れるといった副作用を抑えながら大きな視認性向上が見込めるという。

 今回の技術は、人間の脳が色や光をどのようにとらえるのかをモデル化した「Retinex理論」を応用。映像中の視認性に影響する複数の光成分を分離し、映像の明るさ、細かさ、色合いなどの特徴に応じて強調した後で合成する映像補正アルゴリズムを開発した。

 具体的には、「質感」(精細感、光沢感、陰影感を向上し、映像内におけるオブジェクトの輪郭を鮮明化)と、「コントラスト感」(映像の明部に影響を与えることなく、暗部に隠れて見えにくい領域を高視認化)、「演色性」(元の映像に含まれる色情報を失うことなく色鮮やかに再現)を改善することで、高い視認性が得られるという。

 Retinex理論を応用した映像補正は光成分の分離に多量の演算を必要とするため、これまでは論理回路規模や処理時間が課題だった。今回の新開発アルゴリズムを製品に搭載するため、映像に含まれる光成分を分離、強調、合成する処理過程において、ハードウェアが備える論理回路を効率よく利用できるように処理順と内容を最適化。小規模な論理回路で、静止画だけでなく1,920×1,200ドット/60fpsの高精細映像もリアルタイム処理可能になった。この処理は、17×17mmの小型ハードウェアで実現しており、小型プロジェクタ用など小さな基板への実装も容易なため、幅広い分野への適用を見込んでいる。

 日立グループでプロジェクタを開発/製造/販売している日立マクセルは、同技術を搭載して視認性の向上を図った超短投写プロジェクタを開発し、米国・欧州より順次発売する予定。日立は今後、車載モニターや監視モニタなどでの見やすい映像表示ソリューションを提供するという。

(中林暁)