小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1175回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

空撮ゲームチェンジャー!? 360度インフィニティジンバル搭載、DJI「Mavic 4 Pro」を飛ばす

5月13日に発表された、DJI 「Mavic 4 Pro」

ゲームチェンジャーになる!?

空撮用ドローンは、世界的に見れば多くのメーカーがあるのだろうが、日本においてはほぼDJI一択の様相を呈している。2021年に発売されたソニーのドローン「Airpeak S1」も、今年3月に終売となっている。事業としては撤退ではないが、DJIに勝てる方法を模索することになる。

そんなDJIの新モデルが、5月13日に発表された「Mavic 4 Pro」だ。

これまでMavicシリーズでは、「Mavic 3」で2眼、「Mavic 3 Pro」で3眼となっている。今回はノーマルの「Mavic 4」を飛ばして、「Mavic 4 Pro」がリリースされた。新開発となる4/3インチの1億画素センサーを搭載したHasselbladカメラと、デュアル望遠カメラの合計3眼カメラを搭載、ジンバル部がZ軸方向に回転する新ジンバルを搭載、”ゲームチェンジャー”ドローンとして紹介されている。

内蔵メモリ64GBの本体とDJI RC2コントローラの基本セットが277,200円、本体とRC2コントローラに予備バッテリー2個を含めた「Fly Moreコンボ」が355,850円、512GBメモリー本体に新コントローラとなるDJI RC Proと予備バッテリーが付属する「512GBクリエイターコンボ」が497,860円となっている。

今回はいち早く「512GBクリエイターコンボ」をお借りすることができた。ダイナミックなカメラワークを実現するMavic 4 Proを、さっそく試してみよう。

大幅に見直されたボディ設計

DJIのドローンは毎回新設計ではあるのだが、今回のMavic 4 Proはこれまでになく大胆に設計が変わっている。

かなり大きく設計が変わったMavic 4 Pro

まずボディのビジョンセンサーは、これまで前方あるいは後方と横を同時にセンシングするために、ボディの角にカエルの目のような格好で取り付けられていた。しかし今回は上方に3つ、底面に3つという格好にデザインされている。また夜間撮影時の安全性を高めるため、右アームの前方にLiDARセンサーを搭載し、0.1ルクスでも飛行可能としている。

上向きに3つ設けられたビジョンセンサー
底部のビジョンセンサーも同じ配置
右アーム先端にあるLiDARセンサー

従来通りバッテリーの電源ボタン二度押しで電源を入れる事もできるが、本機では4つのアームを展開すると自動的に電源が入るようになった。

展開時のサイズは328.7×390.5×135.2mm(長さ×幅×高さ/プロペラ長含まず)で、同社ドローンとしては中型機になる。重量はバッテリー込みで1,063gとなっている。最大飛行時間は1バッテリーで最大51分、最大ホバリング時間は45分となっている。バッテリー1本でかなり長時間の使用が可能だ。

では注目のカメラ部を見ていこう。3つのカメラは球体のジンバル部に搭載されており、この球体部が上下左右だけでなく、Z軸方向にも回転するようになっている。回転角は時計回りに400度、反時計回りに40度だ。反時計回りには1回転しないことになるが、その場合はあらかじめ時計回りに360度回しておいて、そこから0度に向かって回すと、反時計回りに1回転することになる。

球形のジンバル部

メインのHasselbladカメラは35mm換算28mm/F2で、4/3インチの1億画素CMOSセンサーを搭載している。ISO感度は最大6400。中望遠カメラは35mm換算70mm/F2.8で、最大ISO感度は3200。望遠カメラは35mm換算168mm/F2.8で、最大ISO感度は3200。メインカメラのみHasselbladと協業ということである。

上部のカメラがメインとなるHasselbladカメラ
焦点距離絞りセンサーサイズ有効画素数最大ISO感度
Hasselbladカメラ28mmF2.04/3インチ100MP6400
中望遠70mmF2.81/1.3インチ48MP3200
望遠168mmF2.81/1.5インチ50MP3200

動画撮影としては、Hasselbladカメラのみ6K撮影が可能で、他のカメラは最大4Kとなっている。なお120fpsは撮影時のフレームレートで、再生時にはスローとなる。

対応解像度フレームレート
Hasselbladカメラ6K(6016×3384)24/25/30/48/50/60fp
DCI4K(4096×2160)24/25/30/48/50/60/120fps
4K(3840×2160)24/25/30/48/50/60/120fps
FHD(1920×1080)24/25/30/48/50/60fps
中望遠4K(3840×2160)24/25/30/48/50/60/120fps
FHD(1920×1080)24/25/30/48/50/60fps
望遠4K(3840×210)24/25/30/48/50/60/100fps
FHD(1920×1080)24/25/30/48/50/60fps

録画コーデックとしてはH.264/H.265のどちらも選択可能で、H.264ではALL-Iフレームも使用できる。またHLGやD-Log M、D-Logも選択できるので、HDRコンテンツにも対応する。

コントローラ側のカメラ設定メニュー

ボディ後方にはMicroSDカードスロットを備えるが、内蔵メモリーが64GB若しくは512GBあるので、ほとんどの撮影ではSDカードは使わなくても対応できるだろう。

ボディ後方にあるカードスロットとUSB-C端子
折り畳んでレンズカバーを付ければコンパクトに収納できる

新設計の「DJI RC Pro 2」は、高輝度7インチミニLEDディスプレイを折り畳み型アームで一体化したコントローラーだ。こちらも電源ボタンを押さず、ディスプレイを立ち上げるだけで自動的に起動する。ディスプレイは最大2000ニト、持続輝度1600ニトのHDR対応型で、色域はDCI P3の98%を確保する。

ディスプレイ一体型コントローラー「DJI RC Pro 2」
側面から見たところ
コントローラ背面。アンテナは下向きに立てるようになっている

またディスプレイを縦向きに回転させると、それにあわせてドローンのカメラも縦撮りに連動する。左側のダイヤルを回転させると、ディスプレイの輝度調整ができる。ディスプレイを折り畳む際も、操作用のジョイスティックを取り外す必要はない。一応交換のために外せるようにはなっているが、収納する凹みもないので、しまうために外す機会はない。

ディスプレイの折り畳んでしばらくすると電源OFFになる
ディスプレイのローテーションに合わせてドローンカメラが回転する

右側の小さなジョイスティックは、上下でカメラ切り替え、左がフォーカストラック、右が再生モードとなっている。またセンター押しするとカメラ設定が表示される。ローテーションのオペレーションは、デフォルトでは本体下のC2ボタンを押しながら右ダイヤル操作となっている。

右側の小さいジョイスティックでカメラ切り替えなどができる

コントローラは基本的にはAndroid端末なので、128GBの内部ストレージを持っている。ドローンからコントローラに画像を転送することも可能だ。

またコントローラ側にHDMI端子を装備しており、ドローン映像のライブ中継にも対応する。ちょっと変わった機能としては、コントローラ側の内蔵マイクを使い、飛行中の映像に音声を追加することも可能だ。飛行中の映像を見ながら状況を記録しておきたいといった時にはリアルタイムで同時収録できるため、便利だろう。

このコントローラはMavic 4 Pro専用というわけではなく、DJI Mini 4 Pro、DJI Air 3S、DJI Air 3にも使えるコントローラーだ。単体での価格は158,400円となっている。

充電器も見ておこう。240WのACアダプタが付属しており、3つのバッテリーを同時に充電できる。1つのバッテリーの充電時間は約50分だが、3つ同時に充電しても90分で充電できる。

同時に3本充電可能な充電器
「512GBクリエイターコンボ」では全部のパーツがしまえるバッグが付属

新コントローラで良好な手応え

では早速撮影してみよう。Hasselbladカメラのみ6Kで撮影できるが、デフォルトでは4K解像度になっている。一旦マニュアルモードに入って6Kに切り替えると、以降はオートモードでも6Kで撮影できる。

カメラは3つを切り替えられるわけだが、切り替えるためには一旦録画を停止する必要がある。このあたりがドローンならではの不便なところだ。それぞれのカメラは電子ズームが使用できる。Hasselbladカメラは1倍から2.5倍まで、中望遠カメラは2.5倍から6倍まで、望遠カメラは6倍から24倍までズームできるので、途中カメラ切り替えのために録画を停止しなければならないものの、一応カメラ間で隙間ができないようにズームできる。

各カメラのズーム画質

コントローラ画面には、ビジョンセンサーが捉えた前方や下方の映像も確認できるようになっている。メインカメラには写らない方向の状況が把握できるので、より安全に飛行できるだろう。

飛行中には小画面で前方や下方などビジョンセンサーが捉えている状況が表示できる

メインカメラであるHasselbladカメラの解像感は良好で、HDRでの撮影も十分対応できる。D-Log MとD-Logでは、D-Logのほうがダイナミックレンジは広いが、D-Log MのほうがSDRの映像に近いので、SDRとHDR両方のコンテンツを作りたい場合には楽だろう。

新コントローラーを使った飛行性能

フォーカストラックによる機体の追従性は、今回ビジョンセンサーの位置が違うので不安があったが、従来モデルと遜色ないようだ。

フォーカストラック時の障害物検知と自動飛行精度は従来と同等

本機のメインフィーチャーであるZ軸方向の回転も試してみた。回転角が最も広く撮れるのは、カメラが真正面を向いている時である。カメラの上下角を変えた場合は、Z軸の回転角が狭くなる。また縦撮りの場合はジンバル部が90度ローテーションするので、回転角は時計回りに310度、反時計回りに130度となる。

Z軸方向のローテーション

ローテーションのオペレーションは、本体下のC2ボタンを押しながら右ダイヤル操作なので、前進しながら回転させるという動作では右手ばかりを使う事になる。前進かつ旋回しながらローテーションするといった撮影は、なかなか難易度が高い。ボタンを押せば勝手に一定速度でローテーションするといった、マクロ的な動作モードも欲しいところだ。

ローテーション中は角度表示が出る

また回転していく画面に気を取られていると、機体の上下左右の把握が混乱するので、機体操作が難しくなる。画面はあまり見ずに機体の方を見ながら操作したいが、でも撮影の取れ高も確認したいし……といったジレンマがある。安全に狙った効果を撮影するには、操作と画面確認の2人体制が望ましいだろう。

ローテーション角度をリセットするには、コントローラ裏のC1かC2ボタンのアクション、すなわち正面と真下の切り替えもしくは縦横位置の切り替えを行なうと、0度にリセットされる。

夜間撮影にも有利なメインカメラ

夜間撮影にも強いと言うことで、こちらもテストしてみた。ただ夜間飛行は申請が必要なので、機体を手で持って撮影している。

メインカメラであるHasselbladカメラでは、ISO感度が最高6400なので、あまり照明がない場所でもかなり良好だ。ほぼ目視と同じぐらいの明るさで撮影できる。またLog撮影もできるので、後からグレーディングで補正しても十分対応できる。

メインカメラは夜間撮影でも十分明るい

一方中望遠と望遠カメラは最高ISO感度が3200なので、夜間撮影するにはちょっと暗い。ネオンライトや街灯が沢山ある場所では対応できるかもしれないが、基本的には夜間撮影はメインカメラのみと考えておいた方がいいだろう。

夜間撮影時の3カメラのズーム画質

機体の内蔵メモリーからの画像の転送方法だが、一番早いのは機体とパソコンをUSB-Cケーブルで直結する事だろう。機体の電源を落としておき、接続したあとに電源を入れると、内蔵メモリーがマウントできる。

そのほかスマートフォンに対しては、DJI Flyアプリを使用することで「クイック転送」が使える。これは機体とスマートフォン間で直接画像転送するので、コントローラの操作が不要になる。

本体からスマホに直接転送できる「クイック転送」

これらの転送が上手く行かない場合は、コントローラを使って内蔵メモリーの内容をmicroSDカードにコピーできる。内蔵メモリ記録は撮影時は安心できるが、映像が取り出せないと意味がない。こうしたいろんな転送方法をサポートしているおかげで、どれかは動くという安心感がある。

総論

元々ドローンのジンバルには、水平維持のためにZ軸方向にも動くようにはなっていた。それを進めて、2022年の「DJI Mini 3 Pro」では、カメラを物理的に90度開戦させて縦撮りに対応するという機能を搭載した。

今回はさらにそれを推し進めて、マニュアルで自由な角度に回転出来るようにしたという事である。400度まで回せるので、機体が斜めになっていても最低限360度は回転できるようになっている。

確かに撮影された映像は、ドローンごと回転しているかのようなアクロバティックな映像が撮れて面白い。ただ、そんなに頻繁にそうした映像を撮影する需要があるのかと言われれば、若干微妙な気はする。

また回転速度も、サンプル動画のスピードがマックスで、これ以上早くできない。ダイヤルばバリアブルなので、遅くはできるのだが、もっと早く回りたいという場合は、倍速撮影して凌ぐことになるだろう。

一方で機体よりも感銘を受けたのが、新コントローラの「DJI RC Pro 2」だ。HDR対応ディスプレイを搭載するだけでなく、縦撮り対応やジョイスティックによるカメラ切り替え、HDMI出力やマイク搭載など、面白い機能がてんこ盛りである。Mavic 4 Proはこのコントローラとのセットが、もっともその能力が発揮できるだろう。

実はゲームチェンジャーの本質は、コントローラではなかったのかという気がする。「DJI Ronin 4D」も、このコントローラで操作できたら面白いんじゃないかと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。