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マランツ、Atmos対応、フルディスクリート電流帰還型アンプ採用のAVプリ「AV8802」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランドのフラッグシップAVプリアンプとして、Dolby Atmosに対応し、HDAM-SA回路のフルディスクリート電流帰還型プリアンプも初搭載した「AV8802」を2015年2月に発売する。価格は45万円。カラーはブラックのみ。

AV8802

Dolby Atmosをフレキシブルなスピーカー設定で楽しむ

AV8802

 最大11.2chの同時出力が可能なAVプリアンプ。端子数は、XLRバランス、RCAアンバランスのどちらも13.2ch分用意している。接続するスピーカーや、再生するDolby Atmosなどの音声に合わせ、フレキシブルなスピーカー設定が行なえるのが特徴。

 これを実現するため、アナログ・デバイセズの第4世代、32bitフローティングポイントのSHARC DSPを4基搭載。後述する音場補正技術「Audyssey MultEQ XT32」などを利用しながら、Dolby Atmosを使うことができる。

 Dolby Atmosが推奨するスピーカー配置、全ての組み合わせに対応。5.1.2、5.1.4、7.1.2、7.1.4、9.1.2chの配置に対応。AV8802ならではの特徴として、天井に用意したトップスピーカー×4(6カ所)、もしくはハイトスピーカー×4、ドルビースピーカー×4をAtmos用のスピーカーとして認識・利用可能。例えば、フロントハイト、リアハイトをトップスピーカーとして使うこともできる。

 また、Atmos非対応のコンテンツを再生するときには、Dolby Surroundのアップミックス機能を使い、オーバーヘッドスピーカーを使った再生もできる。

業界最高レベルというフレキシブルなAtmosのセッティングに対応する

 ワイドスピーカーとハイトスピーカーをボタンひとつで切り替えられ、Audyssey DSXの9.1.2ch(フロントワイドあり)と、Atmosの7.1.4を共存する事も可能。

 7.1.4ch環境を構築した上で、残る出力端子を使い、フロントスピーカーをバイアンプで駆動したり、フロントスピーカーA、フロントスピーカーBの2セットのスピーカーを切り替える事も可能。ゾーン2、ゾーン3機能を使い、別の部屋のスピーカーをドライブする事もできる。

スピーカー/アンプの割り当て画面。アサインモードは、全部で何chのアンプを利用するかを設定する項目
フロント、リアハイトを使ってAtmosのコンテンツを再生する事も可能
アサインモード「Dolby Atmos」は、ドルビーが推奨するレイアウトから選べる、シンプルでわかりやすいモードとして用意されている

 音場補正技術「Audyssey MultEQ XT32」は、Audyssey技術のコンシューマ向けとしては最高グレードとなり、Atmosに完全対応。マイクを使った測定は最大8カ所まで対応、512倍のフィルタ解像度も使い、スピーカーの距離、レベル、サブウーファのクロスオーバー周波数を自動的に設定してくれる。サブウーファ×2台環境で、個別にサブウーファを測定・補正する「Sub EQHT」も搭載。マイクで測定する際のスタンドも付属する。

 無線LAN機能を搭載しており、背面に2本のロッドアンテナを接続するダイバーシティ方式を採用。Bluetooth受信機能(A2DP)も備え、AirPlayやインターネットラジオの受信にも対応する。

 DLNA 1.5に準拠したネットワークプレーヤー機能と、USB端子も装備。USBメモリ内の楽曲を再生する事もできる。再生対応ファイルは、WMA/MP3/WAV/AAC/FLAC/AppleLossless/AIFF/DSD。WAV/FLAC/AIFFは192kHz/24bit、Apple Losslessは96kHz/24bitまでに対応。DSDは2.8MHzまでサポートするが、ネイティブ再生ではなく、PCM変換再生となる。

 スマートフォンやタブレットで利用できる「Marantz Remote App」も用意。iOS/Androidで利用でき、電源のON/OFF、入力やサラウンドモードの切り替え、ボリューム調整、ネットワーク音楽再生の制御などが可能。

背面

 HDMI端子は8入力、3出力を装備。4K/60p 4:4:4 24bitに対応する。発売時点ではHDCP 2.2には対応していないが、2015年初夏に対応するための無償アップデートを実施予定。基板交換を含めたアップデートで、4K放送など、著作権保護されたコンテンツのパススルーが可能になる。SD/HD映像を4K/60pにアップスケーリングする機能も用意する。

 その他の入力端子は、コンポーネント×3、コンポジット×5(フロント1)、音声入力がアナログXLR×1、アナログRCA×7(フロント×1)、Phono(MM)×1、7.1ch入力×1、光デジタル入力×2、同軸デジタル入力×2を搭載。

 HDMI以外の出力は13.2chプリアウト(XLR/RCA)、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1を装備。Ethernet×1、USB×2も搭載する。

 外形寸法は440×389×185mm(幅×奥行き×高さ/ロッドアンテナ含む)、重量は13.6kg。消費電力は90W、待機時消費電力は0.2W。

HDAM-SA回路のフルディスクリート電流帰還型プリアンプも初搭載

 音質面も大幅に強化されている。2012年に発売された前モデル「AV8801」では、各チャンネルに独立基板の「HDAM-Pure Lines」を採用、多チャンネルが同一基板上にあり、近接する回路同士がクロストークを引き起こす事を防いだほか、筐体に3ピース構造を採用し、高周波の電位を処理しやすくした。後継モデルの「AV8802」では、これらをさらに進化させている。

マランツ音質担当マネージャー 澤田龍一氏

 AV8801のプリアンプ回路は、スルーレートを上げるため、オペアンプとHDAMを組み合わせた電流帰還型アンプを採用。XLRのバランス出力は、RCAのアンバランス出力からオペアンプを介して作り出していた。

 AV8802では、オペアンプを使わず、HDAM-SAのフルディスクリート電流帰還型アンプを採用。これにより、スルーレートは6V/μsecから、100V/μsecに約16倍の高速化を実現。さらに、位相反転出力にも同じHDAM-SA回路を使ってXLRバランス出力を実現(プラス側はシングルエンドとバランスで共用)。「前モデルは音の鮮度の面でシングルエンドとバランスに差があったが、AV8802ではシングルエンドとバランスは同一クオリティと言って良い」(マランツ音質担当マネージャー 澤田龍一氏)という。

上がAV8801のプリアンプ、下がAV8802。AV8801はオペアンプに挟まれるようにHDAM回路を使っていたが、AV8802ではオペアンプを使わず、HDAM-SAのみのフルディスクリート電流帰還型アンプとなった
右がAV8801のプリアンプ、左がAV8802のもの
このようにプリアンプ基板がチャンネルごとに、独立基板になっている
ディーアンドエムホールディングス CSBU Product Development Core Products 豊間洋技師

 前モデルでHDAM-SAのフルディスクリート電流帰還型アンプを採用しなかった理由は、「AVアンプでは信号の切り替わりでボリュームICの出力が暴れる事があり、元々のDCオフセットが大きいと、ポップノイズが大きくなため」(ディーアンドエムホールディングス CSBU Product Development Core Products 豊間洋技師)だという。

 「HDAM-SAは電気的にシンプルだが、逆に言えばノイズも何もかも増幅してしまう。電源のノイズを落としきれていないと、それも増幅してしまう」(澤田氏)。新モデルでは、この前段階のデジタルノイズを低減する技術が進化したため、HDAM-SAが利用できるようになったという。

 このノイズ制御技術には、ネットワークプレーヤーで培った技術を活用。音質用デカップリングコンデンサによるノイズリダクションや、真ん中の端子がアースになる3端子のコンデンサの採用、独自のグランドラインを用いての低インピーダンス化を徹底した。

 基板は、従来モデルが6層だったものを、新モデルでは8層化。アース用に2層を利用するなど、ノイズ対策に効果があるという。クロックジッタを低減するために、機械的振動も低減。シーラス・ロジックのクロックジッタリデューサー「CS2100」も装備している。

AV8801とAV8802のノイズフロアの比較。青いAV8801の方がノイズが多い。また、高域でノイズが大きくなっているポイントがあるが、これがスイッチング電源の発振周波数によるノイズ。AV8802では可聴帯域外に移動している

 また、デジタルパート用電源部のスイッチング周波数を約3倍に上げる事で、スイッチングノイズを可聴帯域外に移動させた。これにより、HDMIを含めたデジタル入力の音質が飛躍的に向上したとする。

 DAC部には、旭化成エレクトロニクス(AKM)の「AK4490」を新たに採用。選択した理由として澤田氏は、「これまでのDACでは、ディテールの再現性が上手く、音は綺麗だけれど、勢いやスピード感がもっと欲しいと感じていた。AK4490ではその点が良くなり、特性が良く、音にも力があるDACになったと判断した」という。

付属のリモコン

 さらに、「AK4490にはデジタルフィルタにシャープロールオフ/スローロールオフ/ノーマルディレー/ショートディレーの4種類があり、ΔΣ変調のスイッチドキャパシタ回路でアナログにする際にも3通りのスイッチが選べ、全部で12通りの選択ができる。メーカーの音への考え方を反映できるところも評価した」という。AV8802では、スローロールオフ/スイッチドキャパシタ1というモードを使っているとのこと。ユーザーがこのモードを切り替える事はできない。

 プリアンプの基板は全チャンネル独立基板で、クロストークを低減。筐体には銅メッキボトムプレートと、3ポース、ダブルスステーを採用。インシュレータはプラスチック製だが、リブの形状を工夫して強度を高め、フェルトもベタ貼りするのではなく切り込みをいれて、音の細かなチューニングを行っている。

AV8802のデジタル基板
リブを増やし、貼り付けるフェルトの形状にも工夫が施されている

 電源トランスには、PM-11S3と同等グレードのトロイダルトランスを搭載。OFC巻線にアルミケースを組み合わせたもので、AV8801に搭載したものよりコアサイズをアップ。10,000μFx4のニチコン製カスタムコンデンサを使っている。デジタルとアナログ向けで電源は完全に分離。アナログ回路との相互干渉を排除している。

内部構造
電源部

音を聴いてみる

 澤田氏の試聴室で、歴代モデルのAV8003、AV8801、そして新モデルのAV8802を比較。音質の違いがわかりやすいように、CDプレーヤーとアナログ(バランス)で接続、2chでアンプとしての音を聴き比べた。

 AV8003からAV8801に切り替えると、音場の奥行きが深くなり、SN比が良く、細かな音が良く聴き取れるようになる。男性ボーカルの声の低い部分が音圧豊かにせり出しつつ、その音が背後に広がる空間も広い。

 新モデルのAV8802では、こうした特徴を踏襲しながら、音の鮮度がアップ。ボーカルの口が開閉する様子が生々しく、ピアノの鍵盤を押した際の硬い音と、響きの柔らかな音の質感の違いなどがハッキリとわかるようになる。音像もよりクリアになり、試聴室の中に本当にピアノや歌手が立っているかのような実在感が増す。ボーカルの声の低い部分も、単に音圧が豊かなだけでなく、押出てくる低域の中の音が細かく見える。音の勢いと情報量の多さが高次元で同居したサウンドは、ピュアオーディオのハイエンドプリアンプを聴いている感覚とほぼ同じだ。

 Dolby Atmosのデモ映像や、映画「ネイチャー」などを再生しても、豊かな音圧と、マルチチャンネルの相乗効果で包み込まれるような音場が体感できる。同時に、Atmosならではのクリアな音像の移動感にハッとさせられる情報量の多さも備えている。マルチでも2chでも、極めて高いクオリティで再生できるAVプリだ。

Marantzの試聴室で聴き比べた

(山崎健太郎)