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ソニーが作る本気のコンパクトオーディオ「CAS-1」
ESシリーズの血をコンパクトに
(2015/9/3 08:48)
ソニーはIFA 2015のプレスカンファレンスにて、いくつものオーディオ製品を発表した。ここではその中でも特に、「コンパクトオーディオシステム CAS-1」(以下CAS-1)について、詳報をお伝えする。IFAブースで、開発メンバーに話を聞きながら試聴することもできたので、その感想もお伝えしたい。
元祖S-Master開発者を含む「ESシリーズ」の血をコンパクトにも
CAS-1は、PCやヘッドフォンとつないで卓上で使う、いわゆるデスクトップオーディオシステムである。価格は欧州では900ユーロが予定されている。日本での価格や発売時期は未公表であるが、担当者によれば「日本での発売も予定されている」という。
展示会場では、USBでPCと接続することを想定したホワイトのモデルでのデモと、ウォークマンやスマートフォンでの無線接続を想定したブラックのモデルでの展示が行なわれた。ちなみに欧州ではブラックのモデルのみが市場に投入される予定だという。もちろん、どちらの色も機能や音質は変わりない。
入力は、前面にUSB-A、後面にUSB-Bが一つで、USB-BとPCを接続して、USB DAC搭載オーディオシステムとして動作。前面にヘッドフォン端子がある。天面には無線系の設定のため、NFCもある。Bluetoohでの接続は、LDACを含め搭載しているし、スマホからの制御にも対応している。USB-Aに接続したメモリーカードなどに含まれた曲から再生したいものを選んで聞くこともできる。この辺は、ソニーのスピーカー制御に標準的に使われているアプリである「SongPal」を使う。
とはいえ、用意されているのはそのくらいのもので、ネットワークオーディオには直接は対応しない。Bluetooth系を除けば、今時の機器としてはかなりシンプルなもの、と言える。
CAS-1は、専用のアンプと2ch、2Wayのスピーカーがセットになっている。大型のオーディオシステムではなく、PCを視野に入れたものは近年珍しくないし、単なるPC用スピーカーであれば、数千円から数万円の安いものが中心。900ユーロという価格を高いと思う人もいそうだ。だが、CAS-1の特徴は、開発者の以下の一言に集約できる。
「ソニーとしては、コンパクトなものでもいい音を楽しんでいただきたいと思っています。小さな音しか出せないから、と我慢してほしくはありません。そこで、ハイエンドオーディオの開発者が本気で取り組み、小さいけれど本物の音が楽しめるものを開発しました」
商品企画を担当した、ソニー・ビデオ&サウンド事業本部・マーケティング部門・商品企画部の三浦愛さんはそう説明する。
本製品は、付属のスピーカーとヘッドフォン、両方で楽しめるのが特徴だが、アンプ部の中には、スピーカー用とヘッドフォン用、それぞれに最適化されたアンプが内蔵されている。2つのアンプがあることから、ソニーはこれを「デュアルアンプ」と呼んでいる。
ヘッドフォン用のアンプ部は、同社のヘッドフォンアンプ「PHA-2」を流用したもの。一般的なオーディオ機器では、スピーカー用の出力を流用する場合が多いのだが、CAS-1ではそうしない。
そしてスピーカー用のアンプについては、完全新規設計のものが使われる。いわゆるデジタルアンプが採用されているが、ソニーのデジタルアンプシステムといえば「S-Master」。本製品には、初代S-Masterの開発に携わったスタッフが担当し、開発している。初代S-Masterが登場してから10年が経過しているが、その間に起きたデバイス技術の進化に合わせて、より精度の高いものを目指したという。
付属のスピーカーも同様だ。62mmのウーファーには、低歪・高剛性にこだわった素材と機構が採用され、14mmのツイーターも、ハイレゾ音源に求められる音場感・空気感を重視したものが使われている。スピーカーのボディのバッフル板には、12mm厚のMDFを使用し、胴板にはバーチ合材が使われている。実はこちらにも、ソニーのハイエンドオーディオである「ES」シリーズのエンジニアが関わり、ESシリーズに近い素材での製造が行われる。
接続は、基本的に背面のUSB-Bによって接続するか、Bluetoohを使うかになる。Bluetoothの場合には、もちろんLDACにも対応する。こちらの場合ハイレゾ対応とはいえなくなるが、それに近い聴感にはなる。
高性能スピーカーならではの豊かな音場、Low Volume Modeに技あり
聞いてみてすぐにわかるのは、デスクトップサイズのスピーカーながら、音場感・精細感がとてもよく、せせこましい感じがしない、ということだ。開発スタッフも、ESシリーズの音をデスクトップの環境で、というコンセプトを持っており、そのコンセプトが守られたような形になっている。当然、ヘッドフォンで聴くと、PHA-2譲りの音がする。改めて聞くと、ヘッドフォンアンプ側の豊かな音量と再現性もいいが、スピーカー側は、小さな面積・体積で出ているとは思えないくらい豊かで自然な音場ができていて、いい意味で「デスクトップサイズらしからぬ」印象を受ける。
写真をよく見ていただけるとわかるのだが、スピーカー部にはメタル製の足と、下敷きになる金属の板がセットになっている。これは、机上で音場を構成する際、8度の仰角をつけて机などでの過度な反響を防止し、理想的な音場を作るために用意されたもの。これらも別売ではなく「標準添付」だという。この辺は、オールインワンで求める高音質を再現するためにこだわった部分である、という。
もう一つ、スピーカー利用時に特筆すべきなのが「Low Volume Mode」の存在だ。深夜であったり、集合住宅であったり、同居する家族への気遣いであったりと、「音楽は聴きたいのに大音量は出せない」時は少なくない。だからこそ、特に都会ではヘッドフォンでの視聴ニーズが増えている。音が小さい=音圧が小さい状態だと、人間の耳には高音・低音が聞こえにくくなり、中域だけが目立つ不自然な音になる。だからこそ、我々は小さい音では満足しにくい。
だがCAS-1の場合、「Low Volume Mode」を用意することで、こうした不満の解消を試みている。聴感上、小さな音では聞き取りづらくなる周波数帯の音圧を補完することで、小さな音でも全域の音が聴こえるようにしている。また、スピーカー用のアンプの電源電圧は可変で運用される仕組みであるため、音量を絞っても、音質を司る音声データそのものは変わりにくい。一般的なボリューム制御では、小さな音量では再現できない部分が多くなるのだが、「パルスハイトボリューム」と呼ばれるCAS-1で採用されたボリューム制御では、音量データの特徴が極端に失われることがない。
この相乗効果は大きい。例えば音量を、「スピーカーの前にいる自分には聴こえるけれど、他の人にはあまり気にならない」くらいの小さな音にした場合、Low Volume Modeボタンを押した時とそうでない時では、音全体の深みが全くことなって感じられる。ヘッドフォンでは得られない音場感を楽しめることも加味すると、Low Volume Modeは、「大音量にできない」事情を多く抱えた日本の住宅事情にぴったりの機能と言えそうだ。