パナソニック、薄型テレビのリサイクルラインを公開
-ブラウン管の新リサイクル技術も発表
パナソニックは2日、兵庫県加東市のパナソニックエコテクノロジーセンター(PETEC)において、報道関係者を対象に薄型テレビのリサイクル処理ラインを公開。あわせて、テレビのリサイクル処理に関する新技術として、レーザー光を用いて、ブラウン管を自動的に溶融割断するリサイクル技術を開発した。
パナソニックエコテクノロジーセンター |
新リサイクル技術は、高速であり、人手による修正が少ない処理が可能になるため、ファンネルガラス部とガラスパネル部を切り分ける1台あたりの処理時間は50秒で済み、従来の熱線方式に比べて3倍の処理能力を実現。1時間あたりの処理能力は24台から72台となった。
また、レーザー光の焦点を常にガラス表面にあわせる「加工面倣いヘッド機能」と、周速に応じて一定エネルギーをガラス表面に照射する「照射エネルギー制御」により、表面の溶融と熱応力による亀裂を発生させ、さらにハンマー打ちによって亀裂を生じさせ、安定した溶融割断を可能にしたという。
加えて、14~36インチの4:3および16:9の多様なブラウン管の種類を自動計測し、その機種サイズに応じた38種類のレーザー条件で処理する新技術を加えることで、全自動化を図ったという。
ブラウン管テレビの排出量は、2007年度から増加に転じており、2011年7月の地上デジタル放送への完全移行により、排出量はピークに達すると予想されている。すでに、5月15日からのエコポイント制度の開始以降、ブラウン管テレビの回収数量は増加傾向にあるという。
PETECの開発部長・島博三取締役 |
「2011年度には、2008年度の約2.2倍となる65万台を、PETECにおいて処理することになると予想している。ピーク時に向けた処理能力の拡大、保管スペースの拡大が求められている。その解決という意味でも、高速化、安定した処理が可能となるレーザー割断方式の導入は大きな意味がある」(PETECの開発部長・島博三取締役)としている。
これまで同社では、ブラウン管テレビのリサイクルラインの再編に取り組んでおり、パレットレス化や物流導線の簡素化で搬送距離を3分の1に短縮したほか、CRT分解のセル方式の導入、横滑り方式の採用により持ち上げ作業レス方式、バンド除去やブラッシング装置の改良などのボトルネック設備対策などにより、2分の1にスペースを削減。1人あたりの1時間あたりの処理台数を3.3台から、4.3台へと約30%向上するなどの成果をあげてきた。現在、ブラウン管の処理能力は年間30~70万台に達するという。
では、PETECのブラウン管テレビのリサイクルラインを見てみよう。
リサイクルラインに投入される前のブラウン管テレビ | ラインには機械を使って投入される |
ラインに投入されたブラウン管テレビ | まずは背面部を取り外す |
取り外されたブラウン管部分 | レーザー光割断機の概要 |
新開発されたレーザー割断機 | レーザー割断機を通ったあとのブラウン管を分離する |
分解された基板など | プラスチックのカバー部 | ケーブル部も分類されている |
取り出されたブラウン管部分 | ブラウン管テレビからリサイクルされる材料 | リサイクルされる材料のうち57%がガラスである |
■ 新たに薄型テレビ用のリサイクルラインを設置
一方、ブラウン管テレビのリサイクルラインの再編によって空いた作業スペースに、新たに薄型テレビ用のリサイクルラインを設置。今年4月から家電リサイクル対象に、薄型テレビが加わったことを受けて、リサイクル作業を開始している。現在、月300台程度の薄型テレビがリサイクルされているという。
ラインでは、2人体制によるセル方式を採用。セル作業を行なう分解作業台1つで、年間1万台の処理が可能となっており、現時点ではこれを3台設置することができ、年間3万台程度の処理までが対応可能となる。
ラインに投入された薄型テレビは、重量自動計測機で重量を測定したあと、情報を登録。その後、セル作業台で分解作業を行なう。
「薄型テレビは、ブラウン管テレビに比べて、ビスの数が多いこと、基板数が多いこと、有価材料が多いことなど、ブラウン管テレビの解体方式をそのまま活用できない。新たな仕組みを模索しながら、体制を作っているところだ」(島取締役)という。
PETECでは、薄型パネルガラスからの貴金属回収方法や、ガラスリサイクルの手法についても、現在開発中であり、将来的にはラインに活用していく考えだという。
それでは、薄型テレビのリサイクルラインを見てみよう。
薄型テレビのリサイクルライン。空いたスペースを利用している | リサイクルラインに投入される薄型テレビ | 重量自動計測機で重量を測る |
計測後、リサイクルラインに投入される | 薄型テレビはセル方式で分解される | 取り外された基板類。さまざまな種類がある |
取り外された背面部 | プラズマテレビから分解された部品 | 液晶テレビから分解された部品 |
これまではブラウン管テレビだけのリサイクルを行ない、今年4月から薄型テレビとの並列処理を開始したPETEC。現在、薄型テレビのリサイクルは、わずかひとつの作業台だけで対応しているものの、将来的には回収数量が増加し、ブラウン管テレビと構成比が逆転する時期が来ることになるのは明らかだ。
PETECでは、その時期を2015年度と見ており、それに向けて、2013年度からは本格的なライン再編成が必要になると見込んでいる。
ブラウン管テレビの台数の減少に伴い、2013年度からはブラウン管テレビのリサイクル台数は、年間27万件に留まると予想。それにあわせてラインを縮小し、薄型テレビのラインを拡張する計画だ。
「薄型テレビは、2013年度以降は年間3万3,000台から6万台程度のリサイクルが見込まれる。液晶テレビ、プラズマテレビというような方式別、あるいは画面サイズの大きさによってラインを切り分けるということも考えていきたい」(島取締役)という。そうした体制に向けた研究活動も、今後行なっていくことになるという。
■ 「リサイクル量の増加に対応していく」
パナソニックエコテクノロジーセンターは、2000年4月に設立。家電リサイクル法が本格施行された2001年4月から稼働している。これまでに540万台の家電製品をリサイクル。2008年度は、年間75万2,800台をリサイクルしたという。
PETECの冨田和之社長 |
内訳は、テレビが29万4,700台、9,230トン、エアコンが13万5,700台、5,802トン、洗濯機が17万3,300台、6,016トン、冷蔵庫が14万9,100台、5,802トンとなっている。
「新たな技術導入だけに留まらず、今週から土日勤務を開始するといったことも開始し、リサイクル量の増加に対応していく」(PETECの冨田和之社長)としており、勤務体制の変更も、ブラウン管テレビのリサイクル量増加への対策手段のひとつとなっている。
(2009年 7月 2日)
[Reported by 大河原克行]