CEATEC JAPAN 2009【基調講演】

パナソニック大坪社長「これから4つの変化の波が訪れる」


JEITA会長を務めるパナソニックの大坪文雄社長

会期:10月6日~10月10日

会場:幕張メッセ

入場料:大人1,000円/学生500円
    (事前登録で無料/最終日は無料)


CEATEC会場を視察する、パナソニックの大坪文雄社長(右)と、経済産業省 増子輝彦副大臣(左)
 CEATECの初日となる6日、基調講演のトップとして、主催者である社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の会長を務めるパナソニックの大坪文雄社長が講演した。「新しい時代の『くらし価値創造』を目指して」とテーマに、社名変更から1年を迎えたパナソニックが、くらし価値創造に取り組む事例などを紹介した。

 冒頭、大坪社長は、「いま、大きな変化の波が訪れている」として、「新興国の台頭」、「環境・資源問題」、「世界的な高齢化の進展」、「デジタルネットワークの進化」の4つの観点からの変化を指摘。さらに、「これらの動きを背景に、新たな時代の価値観が生まれている。パナソニックは、それに対応した活動に取り組んでいる」とした。

 新興国の台頭については、2015年には家電市場全体の27%をBRICsが占め、欧米や日本を上回ること、新興国における年間可処分所得分布のピークが、2020年には5,000ドル以上になることを示し、「可処分所得が5,000ドルを超えると、冷蔵庫などの購入が増加することになる。5,000ドルを超える世帯数は今後12年間で倍増し、構成比は71%にまで高まる」とした。

 環境・資源問題については、「今のままでは、全世界のCO2排出量が、2050年までには倍増することになるが温暖化防止のためには半減させることが求められており、深刻化が進んでいる。石油は今後40年、銅は約30年、銀は約15年、そして、薄型テレビなどに利用されるインジウムは約6年で枯渇するといわれている。また、10億人が飢餓にあり、26億人が生活用水の確保に困難している一方で、肥満人口が8億人、水道水が飲める日本でミネラル水が大量に売れているというアンバランスさも課題だといえる。環境対応が急加速する一方、世界同時不況が、環境を後押しすることになった」と現状を分析。

 将来の見通しを「環境対応は、社会、経済の大転換期を迎えることになる。例えば、ガソリン車から電気自動車に変わることで、自動車の内部構造が大きく変わり、関連産業のあり方も変化する。会社、個人の浮き沈みが出てくる可能性もある。グリーン革命は、18世紀の産業革命、20世紀の情報革命のように、社会、経済の姿を大きく変えるものになる」と語った。

 高齢化の進展では、2050年には65歳以上の高齢者の構成比が38%にまで拡大。欧米、中国などでも右肩上がりで高齢者人口が増加することを指摘。健康・医療への不安、孤独への不安、変化対応力への不安、身の安全への不安などがある一方で、「60歳代前半では6割以上、80歳以上でも15%近い高齢者がネットを利用している」と、アクティブ指向、ネット活用の増加といった新たな意識、行動が見られる社会になるとした。


 ■ エコ発想とスマート消費といった価値観が生まれている

 デジタルネットワークの進化では、ネットの活用によって、新たな情報の流れを生み出している新たな社会の形を指摘し、これにより、コミュニケーションの形が大きく変化する可能性に触れた。

 「新興国の存在感や影響力の高まりによって、多様性が生まれている。また、豊かさや充足を感じる基準が、従来の『できるだけ多くのものを所有する』、『他人と同じものを持つ』といったものから、『無駄なく適量に持つ』、『自分だけのものを持つ』といったように変化してきている。エコ発想のほか、地域最適や自分最適、余分なものを求めないスマート消費といった価値観が生まれており、それとともに安心・安全の希求が強まっている」と現状を分析した。

 パナソニックでは、こうした変化に対して、松下幸之助創業者が打ち出した「綱領」を堅持し、モノづくりによって、社会の発展と、豊かなくらしに貢献することを使命に掲げていることを説明し、「経営理念をいまの時代にあわせていえば、新しい時代の価値観にあった商品・サービス、モノづくりを具現化することであり、これにより、心豊かで持続可能なくらしに貢献する」などとした。

 さらに、パナソニックではそれに向けた挑戦として、全事業活動の機軸にエコを置くことを掲げ、商品、サービスを通じたエコライフの提案や、環境負荷を極小化したビジスネスタイルの実践などに取り組んでいることを強調。「製造業の究極の形は、コストを抑え、時間を短くし、在庫ゼロにするというもの。これと同様に、Zero Emissionsを捉えることが、今後の究極の製造業の姿になる」と語った。

 また、お客様起点および現地起点の商品づくりに取り組むことが大切だとし、「それぞれの地域でお客様の憧れを呼ぶ商品を創出したい。これは、先進、洗練、信頼というパナソニックのブランドバリューに則り、満足と安心感を持つ商品を提供するものであり、低価格、低性能、低品質といった商品とは一線を画すものである。満足を呼ぶボリュームゾーン商品の開発が必要だ」などと述べた。

 加えて、「家・ビルまるごとのソリューション」に取り組んでいる姿勢を示し、「これまでは単品で機能提案していたが、これをトータルで価値提案することが必要になる。家まるごと、ビルまるごとの提案には、商品の連携が必要であり、それはパナソニックでなければ出来ない、と言われるようにならなくてはならない。商品をつなぐことで、より高い価値を提供できることを訴えたい」とし、まるごとソリューションの進化に取り組んでいく姿勢を見せた。「エコ発想の事業活動、お客様起点での商品づくり、まるごとでのソリューションが、くらし価値創造に向けて必要な挑戦であり、モノづくりにイノベーションを起こすことが必要である」という。


 ■ 「エコなくらし」、「つながるくらし」、「安心・安全なくらし」

 大坪社長は、ここからパナソニックの具体的な商品や技術を紹介しながら、「エコなくらし」、「つながるくらし」、「安心・安全なくらし」の3点での取り組みを示した。

 「エコなくらし」では、商品の省エネに加えて、燃料電池や太陽電池による創エネ、リチウムイオン電池による蓄エネなどによるCO2±Oのくらしの提案や、センサー技術やプログラム技術を活用して、使い方や使用環境にあわせて制御するECO NAVI対応商品を今年秋から投入していること、LED照明による省エネ化の提案を開始したことを説明する一方、配電網や情報配線網までカバーすることで、あらゆる機器を快適制御する、エネルギーマネジメント提案が可能なメーカーであることを強調。「ソファに座るとエアコンが自動的に風を送り、テレビをつけるとLED照明が最適な明るさに変化し、リビングから離れると自動的にテレビの電源が切れるといったことが可能になる」と、未来の生活の様子を語った。

 また、AC/DC配線システムにより、直流から交流への変換ロスの削減が可能になるとして、「安全性確保などの課題はあるが、これを実現し、エネルギーロスの削減に寄与したい」としたほか、住宅で培ったノウハウを活用してエコカーへの技術展開が可能になるとして、応用分野の広がりを示した。

 研究段階として説明したのが、光触媒技術である。水素から生成したデバイスを太陽光パネルに実装することで、CO2を排出せずに燃料電池での電力/給湯供給が可能になるほか、CO2をメタノールに交換できる光触媒技術を研究中であり、バイオ燃料車の動力源に利用できる可能性などを示した。


■ つながるくらしで、臨場感コミュニケーション

 「つながるくらし」では、「ビエラにリンク」や「臨場感コミュニケーション」を紹介。「2006年にリンク機能を搭載して以来、リビングでのつながる提案を行なってきたが、いまでは、キッチンや書斎、外出先にまでリンクが広がっている。また臨場感コミュニケーションでは、離れた場所にいる人とも、ハイビション映像をリアルタイムに共有し、好きな人と好きな映像を一緒にいるうよな感覚で見ることができる。臨場感があるビジュアルコミュニケーションの世界を実現したい」と語った。

 そのほか、パナソニックブースに展示している2K4KやフルHD 3Dシステム、昨年のCEATECでも参考展示したライフウォールなどを紹介した。「ライフウォールは未来提案の技術であり、インターフェイスにはさらなる改善の余地もあるが、動かせるレベルのものには到達しており、日常生活を変えるコミュケーション手段になる」などとした。

 「安心・安全なくらし」では、センサーカメラを結んで、家中どこからでも、あるいは外出先からでも気になる場所を確認できる仕組みを提供。複数のカメラで撮影した画像を自動合成することで、死角がない形での表示が可能になるほか、これを街の見守りシステムにも展開することができるなどの広がりを示した。

 さらに、Advanced Video Motion Detector(AVMD)という人物検知、行動分析の独自技術を活用することで、異常に動きを自動に検知、追跡できようになるという。「これまでのセキュリティカメラの使い方は、事件が起きた原因を分析したり、捜査を支援するというものだったが、AVMDを利用することで、事故・犯罪の発生時点での即時対応、未然防止に活用できるようになる」とした。

 一方で、安心・安全は健康にも広がるとして、「ボディエリアネットワーク技術」として、超小型の貼付型生体センサーを体に貼り付け、24時間、体温、血圧などを計測し、この情報を携帯電話で健康管理センターなどに送信。医師が適切なアドバイスを行なうといったこと可能になる、近未来の生活を示してみせた。

 ロボット技術についても説明し、注射薬払い出しロボットのほか、キッチンで利用するロボットハンド、ベッドから車椅子に変化するロボティックベッドなどを開発している事例を紹介。「ロボットに関しては、業界の先頭に立ち、人と触れあうロボットを開発していく。安全法規の問題もあるが、家電で培ったノウハウを生かし、生活快適分野に対して、ロボットを本格導入していく」と述べた。

 最後に大坪社長は、「これからもくらしに役立つ技術を生み続け、社会の発展に貢献する会社であり続けたい」と締めくくった。


(2009年 10月 6日)

[Reported by 大河原克行]