ヤマハ、新生「ヤマハ銀座ビル」を報道陣に公開

-音響技術を投入したヤマハホール。楽器販売の拠点


中央が新しいヤマハ銀座ビル

2月26日グランドオープン

 

 ヤマハは22日、東京・銀座にあるヤマハ銀座ビルの建て替えを完了。26日のグランドオープンを前に、報道陣に公開した。

左から土井取締役、ヴァイオリニストの礒絵里子さん、梅村社長、ピアニストの三浦友理枝さん、ヤマハミュージック東京の花本眞也社長
 ヤマハ銀座ビルは、60年前の1951年、静岡県浜松市に本社があるヤマハの東京支店としてオープン。世界的な建築家にデザインを依頼し、当時としては斬新なデザインのビルとして誕生。楽器販売やヤマハホールで演奏会など多くの人に親しまれ、半世紀に渡って同社の顔として機能。1954年には、後に世界的に展開するヤマハ音楽教室が、このビルの地下で誕生した。

 しかし、ビル自体が老朽化したことや、地域の建築条件の緩和などを受け、「これからの半世紀を考えるにあたり、4年前に新しいビルを建築する事を決定した」(梅村充社長)という。全体の投資額は約100億円にのぼる。



■ アコースティック楽器の販売や音楽教室、ホールがメイン

 ビルの構造は地上12階、地下3階建てで、地下1階から5階は、ピアノ、防音室、管楽器、弦楽器、楽譜、音楽書、CD/DVD、エレクトーン、電子ピアノ、ギター、ドラム、デジタル楽器などの販売フロア。国内販売子会社であるヤマハミュージック東京銀座店として、6フロアで店舗面積は1,943m2(589坪)となる。なお、AVアンプやスピーカーなどのAV機器は取り扱っておらず、メインはアコースティック楽器となる。

ピアノ販売コーナー。銀座ビルオープン記念モデルなども用意される防音室の展示コーナーも用意。実際に中に入って試奏できるサックスなど、管楽器の品揃えも豊富
各楽器に試奏室を設け、修理・調整受付のリペアスペースも用意されている様々な楽器を取り扱っている
楽譜販売コーナーも充実の品揃えCD/DVD販売も手掛けており、試聴コーナーも用意ギターやデジタル関連の楽器も豊富に備えている

 アコースティック系の楽器は、ほぼ全て専用スペースで試奏でき、弦/管楽器の修理・調整を受け付けるリペアスペースも用意。楽譜も洋書を中心に約8万冊を品揃えを強化(従来は7万冊)している。

 6階は最大約100人を収容でき、収録にも対応する小規模コンサートサロン。地下2階は多目的に使える「ヤマハ銀座スタジオ」。7階~9階は最新の音響技術を取り入れた音楽ホール「ヤマハホール」、10階~12階は成人専用音楽教室の「ヤマハミュージックアベニュー銀座」で、3,000人の在籍が可能な、日本最大規模の音楽教室となる。

ヤマハミュージックアベニュー銀座の中音楽教室用の小部屋が多数用意されている多人数で練習するための部屋も用意
ドラムの練習も可能だ6階にある最大約100人が収容できるコンサートサロン。天井のUFOのような木製突起が音をやわらかく全方位へ反射する地下にも多目的ホールを備えている

 中でも注目は「ヤマハホール」。333席と、規模としては小ホールだが、アコースティック楽器に最適なホールとして設計されている。特徴は、左右の幅の狭さに対して、天井の高さが非常に大きくとられている点。音が上部に滞留し、豊かな響となって降り注ぐように設計されており、残響時間は約1.6秒。

 天井裏には音響調節扉を備えており、扉の向こうはグラスウールの吸音材を充填した部屋になっている。ここにホール上部の反射音を入り込ませることで、響きの量をコントロールできる。

ヤマハホールの内部。左右の幅が狭い一方、高さが非常に高いのが特徴天井にある透明のパーツが後述する「浮雲」で、高さが調整でき、反射音をコントロールする側面の壁は、80cm角のパネルを最適な角度で配置

 さらに天井には、音場支援装置(AFC:Active Field Control)も装備。これは、ステージ上のマイクで拾った残響音に、反射音を合成し、天井に設置したスピーカーから放出。ホール空間に響きを追加することで、残響を最大で約3秒まで延長できるシステム。こうした装置/構造により、様々な楽器の演奏において「豊富な響きと、芯のある音」という両立が難しい音響特性を実現したという。

 ほかにも、ステージ上部に位置を調整可能な「浮雲」を用意。初期反射音を客室に届けて鮮明な音を供給したり、ステージの演奏者に反射音を戻すことで演奏をサポートする役目を担う。さらに、横の壁からの反射音が強くなりがちな小ホールの欠点を克服するため、80cm角のパネルを最適な角度で配置した専用の壁を採用。形状や角度は音響シミュレーションや縮尺模型実験などを繰り返して決定していったという。

 さらに、ステージの床には楽器作りのノウハウを取り入れた、同社ならではの工夫がある。ピアノやチェロなどの楽器をより響かせるために用いる、木材に対してのエージング技術「ARE処理」をステージ用の無垢の檜材に使用。これにより、ピアノやチェロなど、地面に音が響きやすい楽器で使用した際、低い音から高い音までバランスよく振動するようになり、楽器の鳴りが良くなり、音が華やかになるなどの効果があったという。

浮雲で反射。天井裏には吸音部屋があるステージの床は無垢の檜。ARE処理をほどこしている

周辺のスイーツ店、8店舗とコラボレーションした企画「Music & Sweets」も26日~3月27日まで実施される
 各ホールやスタジオは防振ゴムを介してビル本体に設置しているSEC構造を採用し、振動の影響を排除。銀座の地下には電車が通っているが、可能な限り地下鉄側から離すよう配置したという。また、前述のAFCは、デッドな空間である1階エントランスにも採用。適度な響きを追加することで、1階で行なわれるイベントにも対応するという。なお、各ホールやスタジオはデジタルやアナログケーブルケーブルで地下の録音室に接続されており、様々な遠隔操作にも対応している。

 内部は吹き抜け構造を多様するほか、外観デザインにもこだわり、“音や音楽の視覚化”をテーマに、ランダムな濃淡を付けた金箔をガラス板で挟み込んだものを、波を表現するように配置。昼はガラス張りの現代的な印象、夜は木材をふんだんに使った内部空間が、浮かび上がるように、ビルの外から確認できる柔らかなイメージの外観になるという。


外壁。ガラスで構成されており、金箔で濃淡を表現。全体で波をイメージしている金箔を挟み込んだガラス板をアップで撮影したところ


■ 家族で音楽を楽しめる場所に

梅村社長
 梅村社長は新ビルの役割について、「グループの情報発信だけでなく、お客様との交流の場としても活用していきたい。私は以前からお爺さんお婆さん、両親、子供の三世代が音楽を楽しむ、“ファミリーアンサンブル”を提案しているが、ファミリーが手軽に音楽を楽しめる場所にしていきたい」と語る。

 しかし、市場的には「マクロ的には確かに経済環境は厳しく、少子化という問題もあり、日本市場では人口増加も見込めない」(梅村社長)と、厳しい状況だ。打開策として梅村社長は、「今までと同じやり方では成長できない。音楽教室も子供だけでなく大人にも広げ、時間はかかるかもしれないが、(音楽を楽しむ人を増やすという)ソフト事業を成長の軸とし、ハードとソフトを立体的に提案し、これまで音楽をやる事がなかった人にも、楽しんでもらえるような取り組みをしていきたい。そして、それを成長の糸口にしていきたい」と語る。

 銀座ビルの初年度の売上目標は50億円。音楽教室は2,000人からスタートし、3年以内に3,000人の在籍を見込んでいる。


ヴァイオリニストの礒絵里子さん、ピアニストの三浦友理枝さんがヤマハホールでさっそく演奏を披露。響きが豊富かつ明瞭に聴き取れるので、演奏しやすい音響になっているという

(2010年 2月 22日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]