Shure、最上位モニター「SRH940」など新製品体験会

-実売9,500円のカナル「SE215」やDJ用の音も体験


左からSE215を着けた百瀬みのりさん、「SRH940」を首にかけたホフディランの小宮山雄飛氏。DJ Jumiさんがかけているのは「SRH550DJ」

 Shure Japanは26日、ヘッドフォンやイヤフォンの新製品をマスコミ向けに紹介するイベントを都内で開催した。

 紹介されたのは、6月発売のモニターヘッドフォン最上位「SRH940」(オープンプライス/店頭予想価格26,800円前後)、カナル型(耳栓型)イヤフォンSEシリーズのエントリーとして4月下旬に発売する「SE215」(オープン/実売9,500円前後)。DJ用ヘッドフォンのエントリーとして4月下旬に発売する「SRH550DJ」(オープン/実売8,500円前後)。

 なお、各モデルの発表は3月23日に行なわれており、詳細は同日の各記事で紹介している。




■SRH940

SRH940

 同社のヘッドフォン市場参入モデル第1弾の1つとして、2009年11月に発売されたモニターヘッドフォン「SRH840」(実売20,000円前後)。低価格ながら高音質なモニターとして注目される機種だが、今回追加される「SRH940」は、その上位モデルであり、モニターヘッドフォン最上位と位置付けられている。

 「録音エンジニアやミュージシャンに最適なヘッドフォン」として開発されたもので、「正確な周波数特性により豊かな低域、クリアーな中域、伸びのある高域エンドを提供する」という。

 ハウジングは密閉型で、耳全体を包み込み、騒音を低減するサーカムオーラル・デザインを採用。ヘッドバンドは軽量デザインで、プレミアムパッドを装備。「人間工学に基づくフィット感により、長時間の使用が可能」としている。イヤパッドにはベロア素材を使っている。


2009年11月に発売された「SRH840」左が「SRH840」、右が「SRH940」SRH940のヘッドパッド部分
Shure Japanの岩崎顕悟社長

 Shure Japanの岩崎顕悟社長は、「SRH840」の発売当時を振り返り、「スタジオモニターヘッドフォンでは、既に長年スタンダードとして使われている他社さんの製品がある。どうしてもそれと戦わないといけないので、そんなに高価なモデルは出せない。そこでSRH840は2万円程度で出してみたところ、音質で高い評価を頂き、価格の面でも“Shureのわりには安いよね”と言われた。そこで、よりハイエンドなモデルとしてSRH940を出す事にした」と説明。

 SRH940の音質については「840では、低域をシビアに聴くと、ややブーミーだと言う人もいた。今回はドライバーから何から全て見直し、低域までほぼフラットになり、高い音も20kHzで落ちていたものが、30kHz程度まで伸びるようになった」と進化点を解説。「ミュージシャンやエンジニアだけでなく、普通のユーザーまで広く使って欲しい」と自信を見せた。


ケーブルは着脱可能。ストレートとカールの2種類が付属するヘッドアーム部分にロゴマークSRH840とSRH940の周波数曲線比較



■SE215

 「SE215」の特徴は、同社がバランスドアーマチュアユニットを搭載したカナル型としてラインナップしている「SE535」(実売5万円前後)、「SE425」(実売3万円前後)、「SE315」(実売2万円前後)と同じデザインの筐体を採用しながら、ダイナミック型のドライバを搭載した事。また、価格を実売約9,500円に抑えた、エントリーモデルになっている。

 ユニットは、前モデル「SE115」の8mm径から、よりコンパクトな6mm径のMicroDriverに変更。装着方法はアーマチュアモデルと同様に、耳の裏にケーブルをまわすスタイルを採用する。

 低価格ながらケーブル着脱が可能な点も特徴で、アーマチュアモデルと同様に、簡単に取り外しができるスナップ・ロック式を採用。360度回転するため、装着時などの取り回しも容易になっている。イヤーピースはソフトフレックスタイプのS/M/L、フォームタイプのS/M/Lを同梱する。

トランスルーセントブラック(SE215-K-J)モデルケーブル着脱が可能で、簡単に取り外しができるスナップ・ロック式を採用クリアー(SE215-CL-J)モデル

 岩崎社長は、前モデルの「SE115」が、豊富なカラーバリエーションを備え、一般ユーザーをメインターゲットにしたモデルだった事に触れ、「SE115は好評だが、Shureとしてやはり原点回帰し、プロにも使ってもらえるような……、そしてプロが認める音を一般ユーザーの皆様に聴いていただけるような製品にしたいと考えた」と語り、アーマチュアモデルと同じ筐体を採用し、遮音性の高さや音質の高さと共に、独特の装着方法もアーマチュアモデルと同じにした理由を説明。

 また、ダイナミック型ユニットを採用した理由については、「バランスドアーマチュアは素晴らしい方式なのだが、それとは別に、スタジオエンジニア達から、(ダイナミック型である)モニタースピーカーに近い音作りのイヤフォンが欲しい、という要望が多々あった。そこで、やはり“ダイナミック型もラインナップしなくては”と考えた。アーマチュアの廉価版としてダイナミック型を出すと思われるかもしれないが、そうではなく、プロも含め、ダイナミック型の音を求める人に向けたモデル」とした。



■SRH550DJ

SRH550DJ

 DJ用のエントリーヘッドフォンで、2009年末に発売したプロDJ用ヘッドフォン「SRH750DJ」(実売15,000円前後)の下位モデルにあたる。DJ用途だけでなく、通常の音楽リスニング用ヘッドフォンとしても訴求しており、「DJや低域に重心が置かれた音楽のリスナーに最適」という。

 ユニットはダイナミック型の50mm径で、ネオジウムマグネットを採用。ハウジングは密閉型で、「SRH750DJ」は耳を覆うタイプだったが、「SRH550DJ」は耳に乗せるスープラオーラル・デザインを採用。イヤーカップは90度回転し、ミキシングの際に片耳モニターが可能。ハウジングをヘッドアーム方向に収納し、小さくして持ち運ぶこともできる。

 なお、ケーブルは両出しで、着脱はできない。長さは2mのストレート。感度は109dB/mW。再生周波数帯域は5Hz~22kHz。最大許容入力は3,000mW。インピーダンスは32Ω。ケーブルを除いた重量は約235g。入力プラグは金メッキ仕上げのステレオミニで、標準プラグへの変換アダプタを同梱する。


右が上位モデル「SRH750DJ」耳乗せ型になった正面から見たところ

 岩崎社長は、先行するプロDJ向け「SRH750DJ」について、「プロの機材で聴いてもらうための製品になっているので、普通のポータブルプレーヤーで再生すると、ちょっと音が違うかなと感じる人もいた」と説明。その上で、「SRH550DJ」については、「中域を3~6dB程度上げており、ポータブルプレーヤーで小さめのボリュームで再生しても音が痩せず、幅広い人に楽しんでいただける音になった」と説明。一方で、DJ用としての3,000mWの最大許容入力を実現している事にも触れ、本格的なDJプレイにも活用できる事をアピールした。

SRH750DJとSRH550DJの周波数曲線比較SRH550DJの開発にあたり、世界的なDJが多数テスターとして参加した



■3機種を聴いてみる

試聴にはヘッドフォンアンプとしてiBasso Audio「D12 Hj」を使用。iPhone 3GSとALO AudioのDockケーブルで接続している

 短時間だが3機種の試聴ができたので、音質の傾向を簡単に紹介する。モニター最上位「SRH940」は、「SRH840」と比べ、重量が約372gから約320gと、50g軽量化。840は装着時に若干“重い”という印象があるが、940は軽量でホールド性が高く、負担が少ない。長時間利用が多くなるモニターヘッドフォンとしては大きな進化点と言えるだろう。ベロアのイヤーパッドも高級感がある。

 音は中高域の分解能が高く、密閉型とは思えないほど広い音場が展開。ハウジングの存在を感じさせない抜けの良さで、音場が狭めな840とは大きく異なる。コンシューマ向けヘッドフォンとしては若干高域がキツく感じるが、モニターとして音の問題点を探すツールとしては有用な描写傾向だろう。840と比べると中域の盛り上がりが少ないため、低音がアッサリした印象だが、聴き込むと最低音が深く沈み込み、タイトで太いベースラインが描写されている事がわかる。高域同様、低域も音の動きが見えやすいモデルと言える。高域描写をどう感じるかで好みが分かれるモデルになるだろう。


 SE215は、形状からするとアーマチュア「SE535」のような、各帯域でカッチリとした、分解能の高い、細かな音が力強く出てくる印象を受ける。しかし、実際に聴いてみるとダイナミック型ならではの、豊かで音圧の高い中域が特徴。そこから高域、低域への繋がりが自然で、分析的な描写のアーマチュアとは異なる、ダイナミック型ならではの余裕やしなやかさを感じさせるサウンドだ。なお、形状が同じなので当然だが、遮音性の高さはアーマチュアモデルと同様だ。

 同社のアーマチュアを愛用しているユーザーにとつては、高域の抜けや分解能がもう一歩欲しいと思うかもしれないが、これがSE215ならではのサウンドとも言えるだろう。アーマチュアの音に馴染めない、たまには違った傾向が聴きたいというユーザーにオススメできるほか、いずれ「SE535」や「SE425」へのステップアップを睨んでいる場合は、装着方法や装着感なども含めて、気軽にShureの世界に触れられる入門モデルとなりそうだ。

 DJ用の上位モデル「SRH750DJ」は、迫力と凄みのある、野太い低音をゴリゴリと描写する「まさにDJ用」というサウンドデザイン。一方で、高域の抜けの良さや、中低域の分解能の高さなども両立させた「派手だが、実力もキッチリ持ったサウンド」だった。エントリーの「SRH550DJ」は、その傾向を受け継ぎながらも若干低域の派手さを抑え、中域も見えやすくなり、全体にバランスの良い、聴きやすいサウンドになっている。DJ用としてだけでなく、幅広い音楽に対応できるモデルと言えそうだ。



■トークショーも開催

ライターの山田祥平氏スタパビジョンでもお馴染みの百瀬みのりさん

 イベントでは、僚誌PC Watchでお馴染み、ライターの山田祥平氏や、スタパビジョンでもお馴染み・百瀬みのりさん、Soundgirlシリーズでも知られる録音エンジニア&オーディオライターの岩井喬氏、さらにShure製品の愛用者としてホフディランの小宮山雄飛氏が参加してのトークショーも開催。

 山田氏はSE215について、「以前のSE115と比べ、ユーザーに迎合しているところが無い。“Shureの世界”を、この価格で体験できる事には大きな意義があると思う」と語る。

 プライベートでもShureのイヤフォンを愛用しているという百瀬さんは、「“Shure巻き”はしなくてはならないものなんですか?」と、耳の裏にケーブルを通す装着方法について岩崎社長に質問。社長はステージで激しく動くミュージシャンにも、同社のイヤフォンが愛用されている事を紹介し、「そういうステージ上では絶対に外れては駄目。そこで、あのShure巻きが一番安定する。必ずしもShure巻きで装着しなくちゃ駄目というわけじゃないんですけどね」と笑う。また、他社からも同様の装着方法の製品が増えている事については、「Shure巻きの特許はとっていなかったので(笑)。あの着け方をする事で、他社のものでも外れにくく、密閉度は高まると思います。もちろんShureのモデルがベストですが」と笑いを誘った。


ホフディランの小宮山氏録音エンジニア&オーディオライターの岩井喬氏

 ホフディランの小宮山氏は「SRH940」の音について、「非常にバランスが良く、スピーカーのモニターと聴き比べても変化が少ないので、僕らのような仕事では助かっています」と、実際の音楽制作での体験を踏まえた感想を語る。

 岩井氏はShureの製品について「(マイクなど)音の入口から出口までを持っているブランドなので、しっかりとした軸を持っている。そのため、使っているとバランスが取りやすく、録音エンジニアとして助かっています」と説明。940の音については、「840にあった低域の膨らみが少なくなっているので、低域が出ていないように聴こえますが、よく聴くとアタックや立ち上がりが良い低域が出ており、低域をコントロールする力は840より上がっています。全体のバランスも良くなり、空間の透明度も向上した」と分析した。



(2011年 4月 26日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]