ヤマハ、歌声合成性能を高めた「VOCALOID3」を9月発売
-伴奏の同時再生など機能を一新。エディタは約1万円
開発者の剱持秀紀氏(左)と、韓国版VOCALOIDに歌声を提供する歌手のキム・ダヒーさん(右) |
ヤマハは、歌声合成ソフト「VOCALOID(ボーカロイド)」の新バージョン「VOCALOID3」を開発。楽曲制作ソフト「VOCALOID3 Editor」を9月末より発売する。
従来バージョンでは、楽曲制作ソフトのVOCALOID Editor(主に入力などのインターフェイス部分)と、歌声ライブラリ(歌手などの声のデータベース)を一体化した形でコンシューマに販売(クリプトン・フューチャー・メディアの初音ミクなど)されていたが、新バージョンからはそれぞれ分離して販売。ユーザーは1つのEditorをベースに、様々な歌声ライブラリを選択して追加できるようになった。Editorの価格は1万円前後を予定しており、対応OSはWindows XP/Vista/7。
VOCALOID3が発売される9月末には、ヤマハ自身も歌声ライブラリを2種類発売(価格未定)。現行の「VY1」と「VY2」をそれぞれVOCALOID3に最適化した形で提供する。なお、歌声ライブラリには、エディタの機能限定版「Tiny VOCALOID3 Editor」を同梱。機能限定版と通常版の違いについては後述する。そのほか、ライセンスを受けた各社からの歌声ライブラリが順次発売される予定。なお、従来のVOCALOID2も、「V2 Library Import Tool」によりVOCALOID3 Editorで使用可能(一部ライブラリのみ。有料の場合あり)。
VOCALOIDは、同社が開発した音声合成ソフトで、2003年に初代バージョン、2007年に2代目の「VOCALOID2」が発売。これまで、VOCALOID2のライセンス契約により、初音ミク(クリプトン・フューチャー・メディア)やがくっぽいど(インターネット)などのソフトが発売されている。
編集画面 |
VOCALOID3は、2からのメジャーバージョンアップ版で、合成音の改良を行なうとともに、より使いやすいユーザーインターフェイスを採用したことなどが特徴。
歌声合成は、従来に比べて滑らかなつながりを実現しており、従来は難しかった母音→子音→母音といった合成単位でも不自然にならないという。また、これまで音程が変化すると切り替わりで突然音色が不自然に変化する場合があった問題を修正。音色の変化がスムーズに行なえるという。
インターフェイスも一新。従来のピアノロール形式のエディタに加え、各トラックを管理するためDAW(Digital Audio Workstation)のようなトラックビュー画面も導入。各トラックに複数のパートを配置でき、歌声パートの編集が効率的に行なえる。編集/再生可能なトラック数は最大16トラックで、最大小節数は999。
伴奏と合成音声を、エディタ上で同時再生可能 |
さらに、伴奏のオーディオファイルもエディタ上で再生可能となり、合成した音声と伴奏を同時に聴きながら歌声を調整でき、ブレスなどを効果的に使用できるようになった。また、「VST Host」機能を備えたことで、合成した歌声にリバーブなどのエフェクトを掛けることがエディタ単体で行なえ、これまでのようにWAVで一度出力してからDAWで調整する方法をとらなくても、簡単に一通りの制作ができるようになった。
そのほか、「VOCALOID Job Pluguin」機能の採用で、歌声トラックの編集機能を拡張可能。例えばスタッカートやレガートといった歌声の表情を加える作業も、外部プラグインで可能になる。なお、産業技術総合研究所が開発した「VocaListener(ぼかりす)」(VOCALOID専用のパラメータを自動推定して、手軽に歌声合成結果を得られる技術)もヤマハがプラグインとして開発し、発売する予定。
なお、これまで紹介した機能は通常版の「VOCALOID3 Editor」のもので、機能制限版の「Tiny VOCALOID3 Editor」では利用できないものがある。両バージョンの違いは下表の通り。
「VOCALOID3 Editor」 | 「Tiny VOCALOID3 Editor」 | |
提供形態 | VOCALOID Storeで販売 | 歌声ライブラリに付属 |
編集・再生可能なトラック数 | 16 | 1 |
最大小節数 | 999 | 17 |
エフェクト | VST Host機能で 好みのエフェクトを付加 | リバーブのみ(固定) |
VOCALOID Job Plugin 機能 | ○ | - |
V2 Library Import Tool | ○ | - |
上記以外の変更点としては、従来の日本語/英語に加え、新たに中国語と韓国語、スペイン語に対応。各国語の歌声ライブラリを利用することで、その言語で歌が作成可能となる。VOCALOID3 Editorのメニュー表示も、使用言語のローカライズが可能になる。
VOCALOIDの基本構成 |
同社とライセンス契約を結んだ法人や個人に対して、合成エンジンのAPIを公開。従来のユーザインタフェイスとは異なる新たな歌声合成ソフトの開発が可能となる。
また、前述の「VOCALOID Job Plugin」についても仕様を公開。これにより、ユーザーが独自の「VOCALOID Job Plugin」を開発可能となる。開発された歌声合成ソフトウェアや「VOCALOID Job Plugin」は、ヤマハの「VOCALOID Store」を通じて配布することが可能。そのほか、合成エンジン自体のライセンスも開始。PC上でのゲームアプリなどに歌声合成機能を搭載することも可能になるという。
■ 10代女性の24%が「ボカロよく聴く」。Mac版にも意欲
剱持秀紀氏 |
VOCALOID3の開発者で、ヤマハの研究開発センターで音声グループマネージャーを務める剱持秀紀行氏は、新バージョンの合成音の改良を説明し「一聴では合成と分からないように仕上がった」と自信を見せた。
また、「今までは、VOCALOIDを買っても『カエルの歌』を1曲入れて、それで終わったという例も多いと聞く」とし、新バージョンでは伴奏も合わせて使えることなどから「これまで使ったことが無い人、難しいと考えていた人にとっても使いやすい。個人で楽しむ範囲であれば、市販の曲などから歌わせるという楽しみも新たに生まれるだろう」と述べた。
なお、これまでも要望が高かったMac OSへの対応について剱持氏は「これまでiPad用のiVOCALOID-VY1やiPhone用のVocalo Witter(旧名称:iVOCALOID-VY1t)を提供し、合成エンジン自体はiOSでも動くことが確認できている。インターフェイスをどうするかということを含め、VOCALOID3の枠組みに沿って、できるだけ早く提供したい」とした。
田邑元一氏 |
これまで楽曲制作のすそ野を広げてきたVOCALOIDを活用した、今後の取り組みについても説明。同社が都内4カ所(新宿、渋谷、池袋、秋葉原)で14~40歳男女を対象に行なった調査によれば、「VOCALOIDを知っている」という人が10代で68.4%、20代61.1%、30代41.5%、40代35.2%という結果になり、特に10代女性では、「ボカロ曲(VOCALOIDを使った楽曲)を聴くことが多い」(3割以上)という人が15.6%、「ボカロ曲ばかり」という人が8.4%いたという。
同社が推定する「VOCALOID関連国内人口」は、「コアボカロリスナー」が10万人、「一般ボカロリスナー」が500万人、「ボカロ楽曲制作者」が1万人、「ボカロ二次制作者」が8,000人としている。
こうした現象を受けて、同社研究開発センターのネットビジネスグループ 田邑元一マネージャーは、「モノを売っていくことだけでなく、文化をもう少し醸成させたい」とし、音楽制作支援(P養成講座など)や、ゲーム/ライブ企画といった領域にも注力すると説明。4月には、著作権管理やレーベルとして機能させる「VOCALOID MUSIC PUBLISHING」も設立。クリエイターの要望に応じた柔軟な著作権管理を行ない、同人イベント情報など制作者向けの情報を共有することなどで、VOCALOIDのブランド価値向上や、関連市場の拡大を図る。
ヤマハが推定するボカロ関連人口 | VOCALOIDの今後の取り組みなど | 4月に設立した「VOCALOID MUSIC PUBLISHING」 |
VOCALOIDのムーブメントは韓国へも波及。VOCALOID3とK-POPアーティストのサンプリング音声を使った“韓国語版VOCALOID”が今秋に発売される。今夏デビュー予定のガールズ・グループ「Glam」のメンバーで、今回歌声を提供した17歳のキム・ダヒーさんがゲストとして登場した。
キム・ダヒーさんは「このVOCALOIDに関心を持っています。一生懸命頑張りますので、応援してください」と流暢な日本語で話し、自身の声とVOCALOIDを使ったサンプル曲「I=fantasy」を紹介した。
韓国版VOCALOIDの概要 | 声を提供したキム・ダヒーさん | エレクトロポップ調の「I=fantasy」が披露された |
(2011年 6月 8日)
[AV Watch編集部 中林暁]