富士通、テレビ映像にスマホを向けて情報取得する技術

-関連情報やクーポンなどを利用できる「映像媒介通信」


映像にスマートフォンのカメラを向けて、情報取得しているところ

 富士通研究所は4日、テレビ映像をスマートフォン/携帯電話で向けることで関連する情報を取得可能にする新たな通信技術を開発したと発表した。

 テレビやデジタルサイネージの映像の中に、人間の目にはわからない通信情報を埋め込むことで、これをスマートフォンなどのカメラで撮影した場合に関連した情報が取得できるというもので、同社は「映像媒介通信」と呼称している。例えば、CMに関連したクーポンを携帯電話などで受け取ることや、買い物番組で商品が表示されている時に購入までのステップに早く進むこと、海外の映像が表示されている時に旅行の情報や周辺の店舗情報取得などが可能。2013年度中の実用化を目指している。

 従来の技術と比べた利点は、画質への影響が少ないこと、離れた距離でも情報を受信できることの2つがある。

 今回のような映像と携帯電話の連携には、既に4つの技術が存在するが、光の点滅で0と1を表す「可視光通信」では通信距離が数十mと長い一方で、映像に情報を埋め込む(多重化)することができないほか、数MHzの高速な点滅を受信するために特殊な受信装置が必要で、フレームレートが30fpsの携帯電話のカメラでは受信できないという課題があった。

 また、その他の技術についても、映像にノイズを加えて0と1の情報を送信する「電子透かし」は、画質が劣化するということ、無線LANは、複数のディスプレイがある場合などに認証の複雑な設定が必要なこと、QRコードは画面にカメラを近づけないと読み取れないことを、同社は課題として指摘している。

テレビ映像からクーポンを表示したところデジタルサイネージやテレビでの利用を想定従来技術の課題

 今回開発した技術は、可視光通信と電子透かしの両方の特徴と利点を兼ね備えたとしており、映像に微小な灯りを埋め込み、その灯りの数を増減することで光通信のような明暗を緩やかに発生して情報を送信する。点灯の速度は1秒に7.5回と高速ではないが、可視光通信のようにはっきりしたON/OFFではなく、時間をかけて徐々に明暗を切り替えることで、人の目で知覚しにくいようにしたことが特徴。灯りの数を制御して、送信したい情報を埋め込むという仕組みになっている。

 情報を携帯電話などに送るには、明暗のタイミングの異なる2種類の波を用意。2種類の波の一方が0、他方が1を表し、通信する情報に合わせて2つの波を組み合わせて送信。携帯電話側では、撮影した映像から画面の明るさの変化を抽出して2種類の波が発信されている順番を判定して情報を読み取る。1秒間で送れる情報量は16bitで、2~3秒撮影することにより情報を取得できる。受信可能な距離は約2mで、QRコードのように画面に近づく必要が無いという。また、使用するテレビや携帯電話についても、現行の製品がそのまま活用できるとしている。

 人に知覚されない形で情報が埋め込まれていると、“その映像に情報があること”自体を知ることができないという問題もあるが、これについては“情報が埋め込まれている”ことを示すマークのようなものを映像に入れておくことも検討している。なお、画面上で光が明滅するが、てんかんを起こしやすい周波数は避けているという。

人に見えない微小な灯りを映像に埋め込み、緩やかに明るさを変化2種類の明暗パターンを組み合わせて情報を埋め込む2m離れていても受信可能
カメラの十字が示す場所に対象物を写すタブレットが表示されている映像にカメラを向けると、富士通の製品サイトが表示された


■ テレビ映像とITをダイレクトにつなげる技術

富士通研究所の阿南泰三氏

 同社のメディア処理システム研究所 主管研究員の阿南泰三氏は、今回の技術の開発背景について「家のテレビでCMを観て“このレストランはどこにあるのか”といった情報を知りたいといった場合に、現在は“続きはWebで”とネットでわざわざ調べるようになっており、テレビ映像とITがダイレクトにつながっていない。一方で、多くの人が携帯電話を持っていて、近くのレストランを検索したり、クーポンを使って買い物をしている。そこで、映像から直接クーポンやURLを受信する技術を開発した」と説明した。

 富士通は、この技術を「映像に情報を埋め込むプラットフォーム/サービス」として広告主や広告代理店などに提供。また、コンシューマには携帯電話向けカメラアプリを配布して、配信事業者や放送局からの映像を受信して情報取得できるようにする。

 映像への情報埋め込み方法については、富士通が用意したクラウドサーバーに広告主らが映像や埋め込みたい情報をアップロードすると自動で埋め込まれるという形と、ソフト自体を広告主らに提供して、広告主らが自ら埋め込むという形を想定。ただし、一度埋め込んだ情報を入れ替えるのは容易ではないことから、URLそのものを埋め込むよりも、識別子を入れておいて、どの情報が表示されるかを後から決められる形にすることをイメージしており、携帯電話がある識別子を受け取ったときに「夏だとアイス、冬だと肉まん」といった形で柔軟に変えられるという。

 現在の16bpsというデータ量では約6万種類の映像を識別できるレベルとしており、阿南氏は「最初の段階では問題無い」としているが、2013年度の実用化に向けて、これを32bbps/64bpsに強化することを目指す。また、この技術を使ったサービスプラットフォームも構築していく。さらに、広告、電子商取引、放送と通信の融合、秘匿通信といった様々な分野への応用も検討するという。

開発の背景従来技術との比較広告主などにプラットフォームとサービスを、コンシューマにはアプリを提供する


(2012年 6月 4日)

[AV Watch編集部 中林暁]