シャープ新経営方針。「コモディティ商品でも勝利」

-ホンハイと垂直統合。大型液晶事業本部が消える


奥田隆司社長

 シャープは8日、新経営陣による経営戦略説明会を開催。奥田隆司社長が'12年以降の事業展開を説明し、「ホンハイとの新しい垂直統合で、コモディティ化(日用品/汎用品化)したデジタル商品の中で、逃げるのではなく、積極的に事業拡大していく」と宣言した。

 奥田社長が掲げた復活へのシナリオは以下の4点。「堺工場の安定稼働」、「コモディティ化したデジタル商品分野で戦うビジネスモデル構築」、「大型液晶事業のオフバランス化と競争力アップ」、「新オンリーワン商品を創出するビジネスモデルの強化」。

 新経営戦略のキモは、3月に資本提携を発表した鴻海精密工業(ホンハイ)との協業。ホンハイはシャープの大株主となったほか、堺工場の事業運営を担当するSDP(シャープディスプレイプロダクト株式会社)を共同で運営する。

 奥田社長は、シャープの目指す方向を、「グローバルで戦える『世界企業』」と定義。シャープは独自技術や、ブランド、事業計画、マーケティングなどを強化。調達力や生産力に秀でたホンハイと製品設計や生産で協力し、製造コストを削減するとともに、生産リスクの軽減を図る。その上で、オンリーワン商品を創造していくとする。

復活に向けたシナリオグローバルで戦える「世界企業」を目指す

■ 「コモディティ化デジタル商品」でも勝てる体質に

デジタル商品分野で戦うビジネスモデル

 奥田社長は、「社長就任以来、グローバルで戦える新たなビジネスモデルを作ると説明してきた。液晶テレビや携帯電話などのコモディティ化したデジタル商品分野は、生産規模で勝利が決まるパワーゲームになった。ここで勝ち組になるには圧倒的な規模が必要で、もはや技術だけで勝てない。現在この分野で輝いている会社は二通り。スマートフォンやタブレットで躍進する企業(注:Appleと思われる)は、生産リスクや在庫リスクを極小化し、生産パートーナーとうまく協力し、商品企画とマーケティングに特化している。もう一つの勝ち組企業が彼らの生産をサポートしている。それがホンハイだ。当社は単独での垂直統合で取り組んできたが、グローバルで競争するには難しい状況になった。そこでシャープの技術力、ブランド力と、調達、生産に優れたホンハイとで、新たな垂直統合モデルを作る。さらに事業企画とマーケティング力を強化し、生産リスクの軽減を図りながら、コモディティ化したデジタル商品の中でも、決して逃げるのではなく積極的に事業拡大していく」と説明した。

 デジタル商品分野におけるホンハイとの協力は、主に中国市場向けスマートフォンの共同設計/生産と、堺工場の安定操業。

・中国市場向けスマートフォンでホンハイと協力

中国向けスマートフォンでホンハイと協業

 スマートフォンについては、中国市場向けスマートフォン事業を共同で行なうことで話し合いを進めているとし、2013年度から中国市場での本格展開を目指す。「共通プラットフォームと共通の工場を作って、調達力を生かして、複数モデルを複数キャリアに導入。成長する中国市場に対応していく」とした。

 「マーケティングや商品企画などの戦略立案はシャープが担当。ただし、ホンハイ子会社のFIHのプラットフォームもあるので、下位モデルはFIHの資産を活用、LTEのハイエンドはシャープの技術を活用するなど、分担していく。販売でも中国にシャープの販売網があるので、それらを使っていく」とした。


・堺の稼働率向上。シャープから「大型液晶事業本部」が消える

 

堺工場のホンハイへのパネル引渡しを第2四半期に前倒し

 2つめの堺工場については、パネルのホンハイへの引渡しを、当初予定の10月頃から2012年度第2四半期に前倒しする予定。「これにより、堺工場は第二四半期以降も90%程度の稼働率を見込む」とした。ホンハイの顧客となるテレビメーカーからの受注もあり、クリスマス商戦に向けた生産体制を整えることが目的。クリスマスに間に合わせるため、9月までにパネルの引き渡しを行なう必要があるため、前倒しするという。

 不採算事業となっていた大型液晶事業については、「7月にオフバランス化する。当社最大の経営リスクに手を打つ。シャープから、新SDP(シャープディスプレイプロダクト)に1,300人が移動。これにより、シャープから大型液晶事業本部は無くなる。今後の大型液晶は、ホンハイとの協業という枠組みでコストダウンを図り、競争力を高める。「昨年度の3,780億円赤字の大半は大型液晶に起因する。切り離すことで経営安定化を図る」とした。


堺工場をシャープ本体から切り離して経営体質を改善

 ただし、「研究開発や要素技術開発などはシャープに残し、4Kテレビをはじめとする、次世代大画面ディスプレイを進める」と説明。技術流出については、「IP(知的財産権)のマネジメントを適切に行なっており、懸念はない」とした。

 大型テレビの需要については、「'11年度は米国で、シャープだけで60型以上を100万台弱売っている。直近では欧州でも増えているほか、50型以上は60型の3~4倍の市場規模がある。堺がフル稼働してもそれを埋められるものではない。50型以上の市場規模自体は去年から今年で2倍の動きをしていくと考えている」(高橋興三 副社長執行役員 営業担当 兼海外事業本部長)とした。

 太陽電池におけるホンハイとの協力は、「一度にあれもこれもはできない。今はデジタル商品を優先している」と説明。堺工場の現状のソーラーの稼働率は「国内向けの結晶はフル操業。海外向けの薄膜は半分以下」とした。

 また、ホンハイがSDPの将来の上場について言及していることについては、「両社で協議をすすめているが、時期については具体的な話はしてない。ただし、個人としては、上場が行なわれるのはいいことだと思っている。日本で上場は難しいが、新たなビジネスモデルを立ち上げる意義がある。積極的に上場を考えていく」と語った。


■ 新必需品を創出。マーケティング強化に本社改革

オンリーワン商品を「新必需品」に

 もう一つの重要戦略が、「新オンリーワン商品を創出するビジネスモデル」。これまでは、家電商品が中心となっていたが、家電以外の商品で新しい市場創出を図るとしている。

 奥田社長は「新必需品」というキーワードで説明した。「掃除機」はいわゆるコモディティ商品だが、これにプラズマクラスターといった健康環境ニーズを取り入れることで、「オンリーワン」の健康環境商品となる。さらに、安心/安全やロボットなどの要素を加えた「ココロボ」により新しい価値を創出した「新必需品」になるとする。一例として、LED照明とプラズマクラスターの融合なども挙げ、「カテゴリーシフトにより新必需品を生み出していく」とした。

 また、液晶のIGZO技術はスマートフォンやタブレットなどの民生品だけでなく、「医療分野への応用が広がる」と言及。例えばIGZOの大型/高精細とAQUOSの多原色技術により、医療用の画像診断用モニターを実現できるとする。さらに、カメラとIGZOパネルを組み合わせた、「デジタルミラー(デジタル鏡)」などのプランも紹介した。

 商品カテゴリや販売地域の拡大も図るほか、地域販社への権限移譲を加速し、マーケティング機能を強化。中国や新興国などの海外市場で、コモディティ化するデジタル商品やローカルフィット(地域最適化商品など)を積極販売し、売上拡大を図る。

 今後の売上も海外比率を拡大する予定。健康環境、ビジネス、モバイル液晶、ソーラーの4つの重点分野においては、'11年度に約4割だった海外売上高を、中期的には6割まで向上する方針。全体の海外売上高は現在の50%から「70%まで引き上げたい」とした。具体的な商品プランや海外事業の展開については、「担当する両副社長から改めて説明する機会を設ける」とした。


医療分野でもオンリーワン商品IGZOの応用も商品カテゴリーや地域も拡大

 なお、「ホンハイとの協力で、技術、ブランド、マーケティング力を活かすというが、技術はともかくブランドとマーケティングはシャープの弱点では?」との指摘もなされた。奥田社長は、「確かに、企画やプロデュース、マーケティングが弱かった。事業企画とマーケティング力を、新しい人材を投入しながら強化していく」と言及。'11年度で米国で60型超の大型販売で躍進した事例を挙げ、「日本人にこだわる必要ないので、フレキシブルに人材を雇用し、強化したい」とした。

高橋興三 副社長執行役員 営業担当 兼海外事業本部長

 また、昨年まで北米事業を担当していた高橋副社長がマーケテイング強化について説明。「近年のシャープの最大の問題は、商品開発が“商品企画”からスタートしている。これはどういうことかというと“後継機種”しか出てこないということで、マーケット創出製品がでてこない。そのために発想を変え、本社組織を変える。マーケッターは、ハードウェアを前提にするのではなく、日々の家庭や企業、社会における生活を観察し、必要な要素を製品企画に落としていく。そこで独自技術をいかに絡めていくかが、需要創造型の製品になる。アメリカでもチーフマーケットオフィサーを作ったが、本社を大胆に変えていく」とした。

 合計4,000億円規模の財務改善にも取り組む。内訳は液晶のオフバランス化(1,100億円)、第三者割当増資(669億円)、在庫適正化/固定資産圧縮(1,500億円)、設備投資圧縮によりキャッシュ・フロー改善(700億円)。さらに、'11年度に積み上がった液晶の在庫適正化も図り、'12年3月末の約5カ月分の在庫から、'13年3月末には2カ月以下に圧縮する予定。これらにより、棚卸資産減や有利子負債の減少を目論む。奥田社長は、「グローバルで戦える世界企業に向け、着実に成果を出し、業績と信頼を回復する」と語った。



(2012年 6月 8日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]