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シャープ欧州テレビ戦略転換の理由。ブランド供与でテレビ事業収益改善へ

 シャープは、欧州における家電事業を再編。スロバキアのUniversal Media Corporation /Slovakia/s.r.o.(UMC)と提携し、同社は、液晶テレビをはじめとするAV事業において、欧州市場に向けにシャープブランドで展開することで合意した。今後、UMCの液晶テレビの設計および開発も、シャープがサポートすることになる。

 また、ポーランドにあるシャープの液晶テレビ生産拠点であるSharp Manufacturing Poland Sp.zo.o.(SMPL)をUMCに譲渡する方向で協議することにも合意。SMPLはすでにUMCのODM生産を行なっており、今回の提携によって生産量は増える見通しだという。

ポーランドの液晶テレビ生産拠点であるSharp Manufacturing Poland Sp.zo.o.(SMPL)

 さらに、マレーシアのオーディオ生産拠点であるS&O Electronics (Malaysia)Sdn.Bhd.(SOEM)で生産したオーディオ製品についても、UMCがシャープブランドのまま欧州で販売する。

シャープの大西徹夫副社長

 9月26日午後に大阪市内で会見したシャープの大西徹夫副社長は、「欧州市場は、国ごとにニーズが異なり、テレビにおいても要求仕様が異なる。 欧州市場では、シャープの販売シェアが小さく、開発コストに見合う販売量を確保できないことが赤字の原因だった。UMCは、欧州市場で約6%のシェアを持つのに加え、商品ラインアップにおいても当社との重複がない。UMCはハイエンドの機種を追加することができ、量的な拡大が狙える。事業構造改革の肝は、欧州の液晶テレビ事業であった。液晶テレビは全体では黒字を確保できているが、今回の提携で欧州の液晶テレビの赤字が消えることになり、収益が改善されることになる」と、テレビ事業における提携の狙いを説明した。

 さらに、白物家電事業については、トルコのVestel Elektronik Sanayi ve Ticaret.の販売会社である VESTEL TICARET A.S.(Vestel)と業務提携し、販売事業を移管。同社がシャープブランドで展開することを明らかにした。

 タイの生産拠点であるSharp Appliances (Thailand) Ltd.(SATL)や、中国・上海の生産拠点であるShanghai Sharp Electoronics Co.,Ltd.(SSEC)で生産するシャープブランドの冷蔵庫、電子レンジなどの白物家電を、Vestelがシャープブランドで販売。Vestelが生産するボリュームゾーン向けの冷蔵庫、洗濯機、食洗機、電気オーブンなどのキッチン家電についてもラインアップ拡充を目的に、シャープブランドを供与し、Vestelが販売する。なお、このなかに、エアコンは含まれない。

白物家電をシャープブランドで販売するVestelは自社ブランドのテレビを販売している

 今回の2つの提携により、欧州市場において、シャープのブランド力と生かすとともに、UMCおよびVestelの販売力を融合させることで、収益力向上を目指すのが狙い。シャープは、2013年5月に発表した中期経営計画の重点施策のなかに、欧州における液晶テレビ事業の収益性改善を掲げており、今回の2つの提携は、欧州事業の大規模な事業方針の転換となる。

 なお、今回の提携では、イタリア、ロシアおよび契約対象外となるイギリス、オランダ、フランスを除く欧州市場が対象になる。「イタリアは合弁会社があるため、現状のオペレーションを継続。ロシアは規格や商品ラインアップが欧州市場とは異なるため、今回の提携の対象外とした。イギリス、オランダ、フランスは、現地のワークカウンシルでの交渉において6カ月の告知期間が必要なため対象外とした。状況が進み次第、順次対象にする」(シャープの大西徹夫副社長)という。

 また、イギリスの工場では、太陽電池モジュールの生産を終息する一方、欧州の有力ブランド向けに電子レンジをOEM生産しており、黒字を維持。そのまま継続的に稼働させることになる。

 一方で、デジタル複合機などのドキュメント事業、インフォメーションディスプレイなどを中心とするビジネスソリューション事業、大規模太陽光発電所のEPC(設計・調達・建設)事業を核とするエネルギーソリューション事業、デバイス事業などの非家電事業については継続し、さらに収益力を高めていく姿勢を示した。

 「欧州事業全体を見た場合、液晶テレビが赤字、白物はトントン。ドキュメント、ソーラー、デバイス部門は黒字。液晶テレビの赤字が消えるため、全体として黒字になる。今回の構造改革によって一定の目途がついた。これにより欧州の構造改革はほぼ終わり、今後は反転攻勢に出る」(大西副社長)と意気込んだ。

 シャープは、今回の欧州市場におけるブランド供与事業への移管とともに、人員の適正化および、新しいバリューチェーンへの移行などに伴う事業構造改革費用が2014年度第2四半期以降に発生することを発表。63億9,900万円の特別損失の計上を見込んでいるほか、第4四半期以降にも特別損失が発生する見通しだという。「外部倉庫の解約損などが発生する可能性もあり、その場合は構造改革費用として計上することになる」としている。

 なお、通期業績見通しの修正はないという。

 人員整理では、家電の販売部門を対象に300人前後を予定しており、「可能な限りUMCやVestelに引き継いでもらうように交渉する」(大西副社長)という。また、SMPLの従業員は、譲渡先のUMCに引き継がれることになるという。

(大河原 克行)