ニュース

USENとレコチョク、店舗BGM用にiPad定額音楽配信「OTORAKU」。違法BGM代替も

 USENとレコチョクが協業し、タブレットを活用した店舗BGM向けの音楽配信サービス「OTORAKU-音楽-」を7月1日より開始する。サービス内容などに関する記者発表会が6月15日に行なわれた。利用は法人、店舗のみ(個人事業主含む)で、月額料金は3,780円。長期割引「OTORAKU 3年割」の場合は同2,980円、「OTORAKU 2年割」は同3,380円。トライアル7日間と初月は無料(最大30日)。

新サービス「OTORAKU」発表。左がUSENの宇野会長、右がレコチョクの加藤社長

 対応端末は当初iPadのみで、iOS 8.1以上をサポートする。Android端末やPCへの対応は「ニーズに合ったものを提供する。現段階では検討中」(USEN)としている。

店舗がオリジナルのプレイリストを作成可能。頭出し/カットインも可能に

 50年以上に渡って店舗用の音楽サービスを提供しているUSENと、主にコンシューマ向けのマルチデバイス音楽配信などを手掛けるレコチョクが協業。店舗でかかる音楽のニーズや環境が、ここ数年で大きく変わったことなどを背景に、「低価格で高品質な店舗用BGM」として提案するという。

 楽曲提供や権利処理などはレコチョクが担当し、主要な大手レコード会社28社が参加。配信楽曲数は、既存のUSENサービスで提供している約300万曲と同等。カテゴリとして、J-POP/洋楽/ジャズ/クラシック/K-POP/ヒーリング/ワールド/カフェ/イージーリスニング/和風/USENオリジナルBGMを用意。USENオリジナルプレイリストは300程度からスタートし、順次追加予定。USENはサービスとアプリの開発、店舗への営業/サポートなどを主に行なう。

 配信ビットレートなど音質については非公開だが、既存のコンシューマ向け配信サービス「スマホでUSEN」などと比べて大きく違う音質ではないという。

 既存サービスとの違いとしては、「圧倒的な楽曲数」や、「オーナー自ら選曲できるプレイリスト」、「アプリケーションサービスで、工事不要」、「好きな曲を頭出し再生できるカットイン機能」の4点を説明。

OTORAKUのロゴ
4つの大きな特徴

 店舗オリジナルのプレイリストが1つ作成でき、店舗オーナーや担当者が最初から曲をセレクトしてプレイリスト化できるほか、既存のUSENプレイリストから一部を変更するといったことも可能。

 好きな楽曲を頭出しで聴けるという「カットイン機能」は、例えば飲食店で客が誕生日を迎えたときなどに利用可能なもの。特定のタイミングで店のBGMをスティービー・ワンダーの「Happy Birthday」などのバースデーソングに切り替え、ケーキが登場するといった演出ができる。

アプリの画面例
プレイリストの作成や編集も可能
協力する28のレコード会社
プレイリストは、曲のジャンルだけでなく、店舗の業態別で選ぶことも
プレイリスト詳細
再生画面

現状は違法BGMが約46万件。初年度目標は3万件

 スマートフォンなどで手軽に音楽を流せるアプリやインターネットサービスなどが増えたことで、著作権の正式な手続きを経ずに違法に音楽を流している飲食店が増えていることも、新サービス開始の大きな要因。既報の通り、JASRACはBGMを利用していながら音楽著作権の手続きが済んでいない全国の171事業者/258施設に対し、民事調停を全国の簡易裁判所に申し立てたと6月9日に発表している。JASRACは6月と7月を「BGM手続き推進月間」に定め、日本BGM協会や全国有線音楽放送協会と共同で、店舗などがBGMを適法に利用するための活動を進めている。

 こうした環境のなかで、BGM放送のUSENと音楽配信のレコチョクが組むことにより、正規で利便性の高い音楽サービスの実現を図り、店舗用BGMの市場拡大や、音楽市場の活性化につなげる狙いがある。

 現在、USENは店舗向けにチューナ(STB)を使った放送という形で音楽サービスを展開しているが、新たに「OTORAKU」は、通信を使ったサービスとなる。インターネット通信環境やタブレットはユーザー側が用意することになるが、USENグループのオプションサービスとして、要望に応じてネット環境(8,000円)や音響機器の設置(20,000円)も可能。

 USENの調査では、BGMを利用している店舗は全国で305万件で、そのうちUSENなどの放送サービス利用者は74万件、それ以外のBGM利用は10万件。一方、正規の手続きを経ずにCDや配信の音楽をそのまま店舗で流す「違法/不適切利用店」は、46万件に上ると見ている。テレビやラジオをそのまま流すといった、「その他」の利用は175万件。このうち、「違法/不適切利用店」と「その他」を“ホワイトスペース”と位置づけ、BGM利用店舗の15%超にあたる新規顧客獲得を図る。

BGM違法利用店と、OTORAKUのターゲット

 来年で55周年を迎えるUSENの宇野康秀会長は、サービス開始の理由について、「USENはずっと変化し続けてきたが、同じサービスが原型となっており、これからの50年に向けた新サービスが必要と考えていた。そんな時に加藤社長と会って議論したところ、一緒に作ろうとお声がけいただき、2年前からすり合わせをしてきた。日本で最大の配信事業者であり、草分け的存在であるレコチョクとの融合によって、これからの50年の基礎となるサービスができるのでは」と自信を見せた。

 USENの田村公正社長は、音楽を正規にBGMとして利用する店舗が増えることでアーティストなど権利者の収益につながる点を挙げ「認識の有無に関わらず、違法に利用している店舗がここ数年増えたと実感している。違法な店舗に向けても営業を強化し、アーティストの権利を保護する仕組みが作れるのでは」とした。

宇野康秀会長
田村公正社長

 前述したサービスの特徴や、USENが既存事業で持つ高い営業力やサポート力も活かし、初年度の目標は3万件。サービス開始記念のキャンペーンも実施予定で、詳細は改めて発表される。

販売戦略
料金体系と初年度目標
USENの各サービスの位置づけ
BGMサービス市場の開拓

 宇野会長は、最近のAWAやLINE MUSIC、Apple Musicといった定額制音楽配信の動向と、このタイミングでOTORAKUを開始したこととの直接的な関連については「コンシューマ向けとビジネス向けは違う」と否定したものの、「私見では、アメリカをみても一定の定額制ビジネスの分野が成立している。一方で“毎月いくら”という額を、全ての人が払うわけでは無く、都度購入も何らかの形で残っていくのでは。(有線放送などの)ビジネス向けは、定額制がこれまで親しまれてきた。これから通信/配信に変わっていっても、利便性が上がれば浸透していくのでは」との見方を示した。

 サービス開始後もユーザーやレコード会社などの意見を取り入れて進化し続けるという方針を示し、「BGMは、音楽と触れ合う場所。個人でヘッドフォンを使って聴くだけではなく、たくさんの人と同じ曲を聴いて共有できる。こうした文化の貢献につなげられれば」と述べた。

レコチョクの加藤裕一社長

 レコチョクの加藤裕一社長は、「圧倒的に強いマーケットリーダーと一緒にサービスできるのは幸せ。USENの強みと我々の強みが足し算ではなく掛け算となり、大きな果実を結ぶことを確信している。今の時代だからできる新しい店舗向けサービスで、アーティストや権利者も含めた皆さんが喜んでいただける」と述べた。

デビュー20周年の華原朋美さんが応援

 ゲストとして、デビュー20周年を迎えた歌手の華原朋美さんも登場し、サービスの開始を応援。華原さんは16年ぶりに小室哲哉氏とタッグを組んで5月にシングルを発売したことも話題となり、6月24日にはベストアルバムを2作品同時にリリースする。OTORAKUの開始については「音楽をもっと気軽に聴けて、私の曲も流してもらえるとの期待があって楽しみ」とコメントした。

華原朋美さんが来場した

 OTORAKUの特徴であるプレイリスト機能について、「もし華原さんが店のオーナーとなってプレイリストを作るならどういった曲に?」という質問には、「90年代のいい曲を集めた店をやりたい。90年代の曲を知らない今の人にも、改めて届けられれば」と語った。

宇野会長や加藤社長とトーク。普段行く店のBGMなどについて話した

(中林暁)