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ソニーのカメラ技術活用、ドローン空撮「エアロセンス」が'16年前半に事業開始
(2015/8/24 13:57)
ソニーモバイルコミュニケーションズとZMPは、自立型無人航空機(ドローン/マルチコプター)による画像撮影とクラウドによる画像データ処理を組み合わせた産業用ソリューションを開発・提供する合弁会社「エアロセンス株式会社」を3日に設立。2016年前半から、法人向けに提供を開始する。
ソリューションでは、自社製の無人航空機(UAV)を利用。あらかじめ設定した飛行エリアと飛行目的に沿って、離陸ボタンひとつで自動飛行し、自動帰還。自立型UAVを使うことで、人為的な操作ミスや設定目的以外での飛行を防げるという。熟練した操縦技術を持つオペレーターも不要としている。
ソニーのセンシング技術・通信技術も活用。UAVにはカメラが搭載されており、上空から指定した範囲を空撮。そのデータをクラウドサービスにアップロードし、顧客が求める2D/3D地図データ、モデリングデータなどを提供したり、監視業務を行なったりする。
ターゲットとする事業分野は、建築、点検、土木、鉱業、監視、警備、農業、物流、運搬など。砕石場の砂利置き場を空撮し、山のように積まれた砂利の体積を算出したり、建設現場の撮影からハイクオリティな2D地図、3Dモデルを提供。前日の写真と比べてどの資材が増えたのか、どこに移動されたのかなどを把握するといった用途にも利用できる。
各産業分野のニーズに応じて、実際に実際に取得する画像や動画、それを自動で解析(測量、スペクトル解析、画像認識)工程においてもアウトプットがカスタマイズ可能。アップロードされたデータをクラウド上で並列処理する事で、高精細な2Dマップや3Dモデルを、即日提供できるとする。
発表会では、UAVのマルチコプタータイプ(試作機)が公開された。ソニー製のレンズスタイルカメラ「DSC-QX30」を搭載しており、上空で撮影。カメラ部を取り外し、TransferJet技術を用いてPCに高速ワイヤレス転送、そのPCから画像データをクラウド上にアップロードする。UAVには無線切断、バッテリ低下、設定領域外への飛行検知などをすると自動で帰還する機能が搭載されている。外形寸法は515×515×400mmで、重量はカメラとバッテリ込みで約3kg。
さらに、飛行機のようなフォルムを持った、垂直離陸型(実験機)も開発。二重反転プロペラを装備しており、ヘリコプターのように垂直離陸ができるほか、プロペラの向きを変えて飛行機のように高速で飛行、最大飛行速度は時速170kmに達する。飛行時間は2時間以上。10kgまでの最大積載量を誇っている。外形寸法は2,200×1,600×600mmで、重量はバッテリ込みで7kg。
この垂直離陸型は、マルチコプタータイプと比べ、広範囲を高速に飛行しながら撮影したり、より大型で重いカメラを搭載可能。操縦者が撮影ポイント近くまで行かずに、例えば海を隔ててある無人島を上空から撮影するといった特殊な用途にも対応を想定しているという。
発表会において、個々のUAVや具体的なビジネスモデルについて解説した、エアロセンスの佐部 浩太郎取締役CTOは、元々ソニーでAIBOやQRIO、ロボカップといったエンターテイメント・ロボットの開発、商品化を行なっていた人物。
その後はソニーインテリジェンスダイナミクス研究所で人工知能や機械学習について研究を行ない、その成果は、「顔キメ」や「スマイルシャッター」など、ソニーのカメラに搭載されている顔認識技術をつかった機能に投入されている。
自動化で安全性向上、コストも削減
ZMPは、自動車の自動運転技術や、鉱山・建設機械、農業機械などへロボット技術を提供しているメーカー。その社長兼CEOである谷口恒氏と、ソニーモバイルコミュニケーションズの十時裕樹社長兼CEOが2014年4月に出会い、十時氏がソニーのイメージセンサー部門を谷口氏に紹介。そこから、ソニー内でドローンの研究をしているチームとZMPが共同研究を行なう話に発展。ソニーからチームがZMPに常駐し、共同開発がスタート。今回のエアロセンス設立に繋がったという。
十時氏はソニーモバイルがUAVやドローン事業に関与する理由について、「ソニーモバイルはスマートフォンをビジネスの主力として展開しているが、これだけでは色々な意味で成長が望めなく可能性もある。新規事業に積極的に取り組み、投資を行なう事を中期的な目標、経営方針として掲げている。ZMPの自動運転、ロボット技術、そしてソニーとソニーモバイルのカメラ、センシング、ネットワーク、クラウドサービスの技術と経験、これらを融合して新たな価値を生み出せるのではなかろうかと強く期待している」とコメント。
ZMPの社長兼CEOで、エアロセンスの社長兼CEOに就任した谷口恒氏は、中国のメーカーがハードウェアで大きなシェアを持つドローン市場に、後発として参入する上での“エアロセンスの強み”として、高品質な機体、安全性、コスト、ソリューション提案といった要素を提示。
「自動車の交通事故は、9割以上がヒューマンエラー(人間の操縦ミス)が原因。エアロセンスのソリューションは、自動化が重要な要素で、ヒューマンエラーを排除し、安全面が大きなメリットとなる。また、操縦に熟練したオペレーターを雇用するとコストもかかる。ボタンを押せばUAVが自分で飛行し、撮影をしてくれるコストメリットは高い」と説明。
さらに、建築現場などでの省力化などを金銭換算した結果、UVA空撮の市場規模は「2020年には100億円を超える規模にしていけると考えている」と語る。
また、法律面も含めた課題を問われると、「事故が100%起こらない、絶対に(UAVが)落ちないとまでは、なかなか言えない。どこまでその精度を上げていくか、どこまで安全面を担保していくのかが重要。それについては、業界団体や専門家の先生と協議しながらやっていきたいと考えている」。
「飛行する場所については、我々の事業は建設現場や資材置き場、農地など、私有地がメイン。一般の人がいない場所を飛ばすとお考えいただきたい。その際に、GPSのエラーなどで私有地から飛び出す事がないよう、かなり力を入れて開発している」と説明。
今後の可能性については、「VTOLの垂直離陸型は、長距離飛行できる。輸送にも活用でき、緊急の医療品を輸送するといった事も技術的には可能。しかし、その際には民家の上を飛んで行く事になるので、法律の問題でなかなかできない。実績と信頼を積み重ねながら、私有地以外の範囲にも広げていく事が、大きなドローンの活用に繋がると思う」と、ビジョンを語った。