[BD]尻ゾンビと空手少女の戦い「ゾンビアス」

暴走するグロ&バカに脱帽


「ディスコレ」(Disc Collection)は、Blu-ray/DVD/CDなどから、ジャンルを問わずに選んだ作品のショートレビューコーナーです





■ トイレから来たゾンビ「ウン・デッド」

ゾンビアス

 「片腕マシンガール」や「ロボゲイシャ」、リメイク版「電人ザボーガー」など、井口昇監督の作品は好き嫌いが大きく分かれる。残虐シーンでスプリンクラーのようにありえない血しぶきが飛んだり、シリアスなシーンに脱力するようなギャグを挟んだりと、苦手な人はいると思うが、一度ハマるとそのペースについ引き込まれてしまう力がある。

 そんな井口監督の「ゾンビアス」は、もちろんただのゾンビ映画ではない。副題が「TOILET OF THE DEAD」となっているように、襲ってくるのは墓場から出てきたアンデッドではなく、便所から現れたウン・デッド。さらにそいつが背広のポケットやタートルネックから汚物を取り出し、投げつけてくるという、これ以上ない迷惑なゾンビなのだ。

 初期設定の突飛さは、これまでの井口作品の中でも飛びぬけているのだが、こうした戦いの中でも過去作品のような“ド直球の熱いセリフ”もあるのでは……と期待しつつ、Blu-ray版を購入した。DVD版も価格は同じなので、再生機器があればBD版をすすめる。なお、ネタ的には小学2年生あたりが大喜びしそうな設定だが、血が飛び散るシーンも多く、劇場公開時はR-15指定されていた作品。ホラーには付き物のちょっとエッチなシーンも含まれている。ただし、某アニメのような、色白ゾンビっ娘とのラブコメ展開はない。

 妹の死から立ち直れないことで、友達も作らずに空手に打ち込む女子高生・恵。ある日、先輩の亜矢に誘われて、真希、タケ、直井とキャンプへ出かける。その目的は、モデル志望の真希が、“寄生虫ダイエット”のための虫を探しに行くというものだった。旅先の山中で、彼らは奇声を上げる不気味な男に遭遇し、タケがケガを負ってしまう。5人は急いで近くの村に逃げ込むが、なんとそこには汚物まみれのゾンビ“ウン・デッド”たちが。次々襲いかかってくるウン・デッド相手に果たして生きて帰ることはできるのか……。



■ 「グロ」と「バカ」が止まらない

 この作品のポイントは、得体のしれない怪物に襲われるという単純な恐怖ではなく、「人を嫌がらせることへの過剰なまでのこだわり」にある。ゾンビは仲間を増やそうと襲ってくるのだが、首に噛みつくとか脳みそを欲しがるのではなく、寄生虫がお尻から飛び出てきて卵を産み付けられるという、精神的に一番ダメージがありそうな方法。ホラー映画の基本である「急に出てきて驚かせる」手法ではなく、代わりに「こんなゾンビがいたらイヤだ」という究極の形を求めたのではと思える。メイキングで井口監督が「得体の知れない人間たちに、尻を向けられて迫ってこられると怖いと思って」とコメントしているが、四つん這いになってお尻からサナダ虫を突き出しながらカサカサと駆け寄ってくる姿は、どこか滑稽ではあるが、実物には絶対に出会いたくない。

襲い掛かるウン・デッドたち。この写真はまだマシな方で、もっと気持ち悪いのがどんどん出てくる
(c)2011 GAMBIT

 予算で言えばB級映画(あるいはそれ以下)のカテゴリに入るのだろうが、ウン・デッドなどの今にも臭ってきそうな特殊メイクを見ても、人を嫌がらせることに全力投球しているのがわかる。一方で、従来の井口作品でも同様だったが、CGを使ったシーンは、実写になじませるというよりも、あえてニセモノっぽさを残すことで気持ち悪さの中にコミカルさも感じる。

 序盤の徹底した気持ち悪さを乗り越えると、強烈な色付きのおならが出たり、お尻から出た寄生虫を剣のように振り回すなど、バカバカしさも徐々にエスカレート。きっと、監督の発想に対して「これはさすがに……」とストップを掛ける人が誰もいなかったのだろう。そもそも、ゾンビの繁殖の元になる寄生虫の名前が「ネクロゲドロ」という時点で、昭和の子供が喜々として考えたとしか思えない。こうした状況を出演者も楽しんでおり、スタッフ含めて皆が「行けるところまで行きたい」という信念すら感じられる。なお、おならについては物語の最後で大事なカギになってくる。井口監督のあるメッセージも、そこに込められているとのことだ。

 主人公の恵を演じるのは、NHK「天才てれびくん」の子役出身・中村有沙。ダンスが得意でリレーの選手だったとのことで、蹴りのキレや走り方も美しく、打撃後の決めポーズも凛々しい。どんなにふざけたシーンの後でも、恵が戦い出すと一気に全体が締まってくる。キャンプに行ったメンバーで一番年下ながら、どんな状況になっても一番落ち着いていて頼りになる存在だ。これほど強い恵だが、実は妹の死にもつながった一つの弱点がある。これを乗り越えられるかが終盤のポイントになってくるので注目したい。

 「電人ザボーガー」の柄本明や竹中直人のように、キャラクターの濃いメジャー俳優は出ていないが、個人的には、ロックバンド「ザ50回転ズ」のダニーが演じる直井の存在が良かった。見た目は貧弱なツッコミメガネキャラだが、さりげなく地理や虫に詳しかったり、時には体を張って戦える、頼りになるヤツなのだ。表情やリアクションがいちいち過剰でイラッとすることもあったが、引きのシーンでも一人で変な動きをしていたりするので、それが逆に気になって、いつの間にか目で追ってしまっていた。また、ゾンビ役として、「片腕マシンガール」では主人公の相棒となって戦った亜紗美らが小気味よい動きで戦闘シーンを盛り上げている。主役の中村有沙を含む女優陣は、ある意味裸よりも恥ずかしそうなシーンが随所にあり、よくここまで体を張ったと拍手を送りたい。

 本編の長さは85分と短く、壮大なテーマが隠されているわけでもないが、ところどころでシリアスなシーンもあり、ヒーローばりの決めゼリフも出てくる。ただ、設定が突飛すぎることや展開の早さなどもあり、主人公へ感情移入は難しかった。それよりも、「どこまでこのイヤさに耐えられるか、この突き抜けたバカは一体どこまで行くのか」を見届けたくて、最後まで観てしまった。人を選ぶ作品ということは間違いないが、ナンセンスさを含めて「楽しんだもの勝ち」なのだろう。

「ゾンビアス」の評価ポイント(5段階) 
気持ち悪さ★★★★★
ゾンビ度★★
“発想が小学生”度★★★★

 

ゾンビアス
価格:4,935円
発売日:8月3日発売
品番:GNXD-1015
収録時間:本編85分、特典91分
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
画面サイズ:16:9 ビスタサイズ
音声:日本語(ドルビーTrueHD 2.0ch)
発売元・販売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント

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(2012年 8月 21日)

[AV Watch編集部 中林暁]