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ソニー、密閉型モニターヘッドフォン「MDR-M1」。米著名スタジオがリファレンス
2025年8月27日 09:02
ソニーは、有線接続の密閉型モニターヘッドフォン「MDR-M1」を、9月19日に発売する。価格はオープンで、市場想定価格は45,000円前後。
コンテンツ制作者の意図を忠実に再現するサウンドを目指したというモニターヘッドフォン。ソニー・ミュージックソリューションズが発売しているモニターヘッドフォン「MDR-M1ST」をベースにしつつ、クリエイターと協業し、綿密な対話と音質調整を通じて、音源制作を行なう上で制作意図を正確に再現する音質を目指したという。
MDR-M1では、ボブ・ディランやジェームス・ブラウンの楽曲を手掛けたマスタリングエンジニアのマイク・ピアセンティーニ(Mike Piacentini)氏と協力。アメリカ・ニューヨークにある音楽スタジオ「Power Station at BerkleeNYC」のもっとも大きなスタジオであるスタジオAと、併設のコントロールルームのサウンドをリファレンスに、サウンドを作り上げた。
このモニターヘッドフォンはレコーディングだけでなく、ミキシングでも使うことを目的に開発。ミキシング作業では音楽全体のバランスを見て、俯瞰しながら音を作り上げる必要性があること、また音源自体がハイレゾ化されてきていることから、より広い帯域の再生能力が求められるため、MDR-M1では専用のドライバーユニットを開発した。
ドライバー口径は40mm。振動板は十分な量感と低歪みで低音域を再生するための柔らかさ、超高音域を再生するために形状を保持する硬さを兼ね備える必要があり、複数回の試作を経て、これらを両立して超広帯域再生ができる特殊な振動板形状を採用している。
この振動板には汎用的な材料を使用し、形状だけで超広帯域再生を実現。音質設計を担当した潮見俊輔氏によれば、業務用ヘッドフォンのため「10年以上の長期で同じ品質を提供する必要がある。そのために特殊な素材や加工方法を使わない手段が求められた」とのこと。
ハウジング上にポート(通気孔)を備え、低域における通気抵抗をコントロールする「ビートレスポンスコントロール」を採用。振動板の動作を最適化することで、低域の過渡特性を改善し、リズムを正確に再現するという。
さらにレコーディング時にヘッドフォンからの音をマイクが拾ってしまわないように、またエンジニアが外出先で作業する際に外部の音を可能な限り排除できるように、高い遮音性を備えた密閉型音響構造を採用した。
再生周波数帯域は5Hz~80kHz、インピーダンスは50Ω、最大入力は1,500mW、音圧感度は102dB/mW。
エンジニアのなかには6時間ヘッドフォンを着けたまま作業する人もいるといい、長時間の作業でも快適な装着感を実現するために、イヤーパッドの形状を設計。厚みのある低反発ウレタンフォームを使うことで気密性を確保した。
またヘッドフォンの軽量化も実施。「数々のヘッドフォン開発で得た知見を活かし、細部に至るまで軽量化を実現した」という。重さは本体約216g。
ケーブルは片側出しの着脱式でメンテナンス性も考慮。製品には6.3mm標準プラグで長さ2.5m、3.5mmステレオミニプラグで長さ1.2mと、プラグ形状・長さが異なる2種類のケーブルが付属する。
またイヤーパッドはサーピースパーツとして交換用も用意され、ユーザー自身で交換できる。
なお、ソニーからバランス接続用ケーブルは発売されないが、内部回路としてはバランス接続に対応。既発売のモニターヘッドフォン「MDR-MV1」とコネクタ形状も同じのため、サードパーティ製バランスケーブルを接続することは可能だという。ただしその場合の音質保証はしていない。
収納しやすいスイーベル構造も採用。付属品はケーブルのほか、3.5mm to 6.3mm変換アダプター。MDR-MV1と同じく、メーカー保証も付属する。
なお、国内での発売が海外から約1年遅れたことについて、ソニーの担当者は「関係各所との調整に時間を要した」と説明した。
「元々MDR-M1STは日本国内でのみ販売していて、海外でのMDR-M1の展開はかなり遅れました(編注:MDR-M1STは2018年発売、MDR-M1は2024年海外発売)。基本的には国内にはM1STがあったというのもありますが、やはりM1STとM1は音作りがだいぶ違います」
「そういったところもあるので、国内においても一部の店舗で並行販売されていたり、いろいろなお客さまからもご要望をいただいていたので、各所と協議して、少し遅れてしまいましたが、(国内でも)発売する形となりました」
実機を聴いてみた
短時間ながら実機を試聴。MDR-MV1や、ベースモデルとなっているMDR-M1STとも聴き比べてみた。
MDR-M1と、MDR-M1STの外観はほとんど一緒だが、装着してみると、M1のほうが側圧が弱めで、イヤーパッドも肉厚なので、個人的には装着感はMDR-M1のほうが好み。開発陣の意図通り、長時間でもストレスなく使えそうな装着感に感じられた。
今回のMDR-M1と、MDR-M1STは40mm径のドライバーユニットを搭載していること、再生周波数帯域が5Hz~80kHzと超広帯域であること、音響設計者も同じなど共通点も多いが、音質面ではリファレンスとなったスタジオに大きな違いがある。
MDR-M1では、上述のようにニューヨークにあるPower Station at BerkleeNYCがリファレンスとされたのに対し、MDR-M1STは東京・港区にあるソニー・ミュージックの乃木坂スタジオがリファレンスとなっている。
そのため、人の声に重点を置くことが多いJ-POPで使われるMDR-M1STは中域、声がより近く聴こえるような設計を採用。
それに対し、今回のMDR-M1では低域のバスやハイハットなど、打ち込みも含めて低域から高域の伸びまで見通せるようなサウンドを目指したとのこと。また商品企画を担当した松尾伴大氏によれば「sやtの発音が鮮明に聞こえて欲しいという言語の違いによるニーズにも応えた」という。
実際に音楽を聴いてみると、このリファレンススタジオと目指したサウンドの違いが明確で、「ダフト・パンク/Get Lucky」を聴いてみると、MDR-M1のほうがMDR-M1STよりもボーカルがクリアで、ベールが1枚剥がれたような解像感の高さ。曲中のクラップも、MDR-M1のほうがパワフルに感じられた。
一方で、J-POPの女性ボーカル曲を聴いてみると、MDR-M1ではボーカルが浮かび上がりすぎて、前に飛び出しているようなイメージ。MDR-M1STでは、適度にボーカルが前に出つつ、楽器隊のサウンドとのバランスも良く感じられた。
また、「ダフト・パンク/Get Lucky」を、MDR-M1と空間オーディオのミックス用に開発されたMDR-MV1と聴き比べてみると、MDR-MV1のほうがさらに低域がパワフルで、ボーカルとの距離も近くなる。より音楽の迫力を楽しめるのはMDR-MV1に感じられたが、サウンドがかなり“濃いめ”にも感じられるので、長時間のリスニングでは聴き疲れしそうな印象もあった。