ミニレビュー

ついに4K化! 西川善司、人生3台目のビデオカメラにソニー「FDR-AX55」を選ぶ

 筆者が取材時にいつも携行しているのがビデオカメラだ。席についてインタビューをする場合はもちろん、スクリーンに投影されるPowerPointスライドを使った製品発表のプレゼンテーションなどでも、ボイスレコーダではなく、ビデオカメラを回すようにしているのだ。

西川善司最新の取材の相棒ソニー「FDR-AX55」

 その理由は、あとで記事を書く際にも、ボイスレコーダの録音音声を聞き直すよりも、取材時の状況の情報量が圧倒的に多いから。

 英語圏の人物へのインタビューは、口の動きや手の動きがあると聞き取りやすさが段違いだし、なにより音声だけよりも長く飽きずに「聞いていられる」ことがありがたい。

 プレゼンテーションの場合は、説明不要だろう。登壇者はスクリーン上でスライドを見せながらしゃべっているし、場合によってはレーザーポインターでスライドの中の図版に対して局所的なコメントをしたりもするので、映像があると大助かりだ。「この図のここは、こういうことを示しています」という喋りを音声だけを聞き直したところで、もう一度理解しなおすのは難易度が高い。

 筆者は、ビデオカメラで映像作品作りをしているわけではなく、あくまで「状況記録のメカ」として使っているので、新製品が出ても、ひょいひょい買い替えたりすることはない。壊れても、コストパフォーマンス的に見合えば修理して使う。なので必然的に1台を長く使う傾向にある。

ビデオカメラ遍歴(1)~ソニー「DCR-TRV900」(1999年購入。使用年10年)

 筆者のビデオカメラ歴は今回、購入した最新のものをふくめてわずか3台である。

 西川善司の初代愛機は、ソニーの「DCR-TRV900」だ。各RGB光を個別の撮像素子(CCD)で撮影する3CCD型ビデオカメラとしては初のコンパクト(当時のサイズ感で)モデルで、なかなか優秀なモデルだった。購入したのは発売後1年経った1999年で、購入価格は25万くらい。当時の筆者からすればそうとうに頑張って購入したモデルだった。

'98年発売のソニー「DCR-TRV900」

 録画先はminiDVカセットテープで、出張の際には十数本のDVカメラをもって出掛けたものだ。というのも、miniDVでは、最も記録時間の長いカセットが80分タイプのもので、これに対して長時間録画モードを使っても120分が1本のカセットで録画できる最長時間になる。長時間モードは、録画した個体そのものでないと再生出来なかったり、また記録ヘッドユニットのクリーニングを怠ると標準モードでの録画よりも録画エラーが起きやすいこともあり、「標準モードか、長時間モードか」は撮影する対象に応じて適宜切り換える判断が必要であった。

 撮影した映像のキャプチャには、テープを巻き戻してから撮影時間と同じ時間がかかるし、キャプチャしたDV映像は、連続した静止画のようなものなので、SD映像なのにもかかわらず、ファイルサイズにして数GBになっていることはザラ。当時のノートパソコンの内蔵HDD容量は50GBとかそこらだったので、海外出張などではテープ状態のまま取材を聞き直し、帰国して自宅に戻ってからキャプチャというパターンも多かった。

 さて、このDCR-TRV900、ユニークだったのは普段の「カメラ(撮影)」モードから「ビデオ」モードに移行させると、ビデオデッキのように外部ビデオを入力させて録画ができたこと。カメラモードではテレビ出力用のコンポジットビデオ端子やSビデオ端子が、ビデオモードでは入力端子に早変わりして、色んなAV機器から出力映像をminiDVテープに録画することができたのだ。

海外のプレスカンファレンスでは、よく、こんな感じのコンソールが開放されていて、これをメディアは自由に録画することが出来た。アナログビデオとアナログ音声が提供されているときは端子を変換すればDCR-TRV900で録画ができたのだ

 この機能は、ビデオフィードが提供されている海外のカンファレンスを録画するのに重宝した。海外の大手カンファレンスでは各テレビ局向けに「映像のお裾分け」とも言うべき、コンソールが開放されていて、そこにNTSCのSD映像がBNCコネクタではあったが自由に録画できたのだ。そう、会場のオフィシャルカメラが捉えている映像やプロジェクターからスクリーンに向けて出力されている映像の原信号が、そのまま手に入ったのだ。

 コンポジットやSビデオでは、SD映像になってしまうとはいえ、遙か遠くに三脚を立ててカメラを設置してステージやスクリーンを撮影するよりも各段に良質なカンファレンス映像を持って帰ることができたので重宝した。

2006年のE3のプレスカンファレンスの抜粋。ビデオフィードからDCR-TRV900で録画

ビデオカメラ遍歴(2)~ソニー「HDR-XR500V」(2009年購入、使用年7年)

 2010年くらいから海外のカンファレンスで、コンポジットビデオのビデオフィードが廃止され、HD解像度のデジタル映像のみになってしまう。業務用のデジタル映像のビデオフィードは以前と同じBNC端子で提供されるのだが、伝送信号はHD-SDI規格のものになっているので、アナログビデオ機器では録画ができない。ということで、10年間共にしたDCR-TRV900との付き合いは終了した。使用期間の10年間で2回ほどヘッドの交換をしたが、概ね、よく保ったと思う。今は、自分の父親のもとにわたって、第二の人生を歩んでいる(笑)。年寄りには「撮影映像をパソコンに取り込む」という概念が理解できないので、カセットテープに録画という方が分かりやすくていいらしく、結構、楽しげに使っているようである。

デジタル時代になってからは、HD-SDIをHDMIに変換して、ポータブルHDMI録画機を使って録画するようになった。写真はAverMediaのHDMI録画機「AVT-C875」

 DCR-TRV900は、2009年まで使っていたが、同時にこの2009年には、買い足しの格好で、「HDR-XR500V」を購入している。購入金額は約11万円。

HDR-XR500V

 このHDR-XR500Vの記録メディアは120GBのHDD。今でこそ、ビデオカメラの記録メディアのスタンダードはSDカードなわけだが、当時は、小型のHDDに録画するのが主流だったのだ。

 購入したきっかけは、2つ。さすがにSD解像度の映像の撮影は、プレゼンテーション等がHD解像度化している中で力不足になってきたということが1つ。そしてそれまで高価だったフルHD解像度で撮影できるビデオカメラが10万円台前半になったこととが2つ目だ。

 購入後、すぐに撮影画角が意外に狭いことに気がつき、ソニー純正のワイドコンバージョンレンズの「VCL-HG0737C」を購入している。このワイコンレンズによって純正状態でワイド端が43mm(35mm換算で。以下同)相当だったものが、30mm相当にまで広げられ、この不満はいちおうは解消された。

 実際に使ってみて最も便利だと感じたのは、ごくシンプルな部分であった。具体的には、「miniDVテープの時は2時間おきにテープチェンジが必要だったのが、HDD記録になって不要になったこと」や「撮影映像のキャプチャもファイルコピー感覚で行なえるため、miniDVテープから比較すると爆速で完了すること」など。当然、撮影映像も、DCR-TRV900のSD映像と比較すれば各段に綺麗なのだが、使い勝手というか、利便性の方にまず感動したのであった。

 適当に設定して使っていて、いつの間にやら機能していて後日「ゲゲ、便利じゃん」と感動したのは、情景内に人間の笑顔を認識すると、たとえ動画撮影をしている最中であっても、静止画(写真)撮影を行ない、本体に挿したメモリースティックに記録してくれる「スマイルシャッター機能」。

 その静止画撮影は動画撮影のバックグラウンドで勝手に行なわれるため、撮影動画側には一切の影響がない。これはどういうときに便利かというと、向かい合ってのインタビューをしている情景を撮影しているとき。インタビューを終えて、そのままインタビュー相手の顔の写真を撮影せずに退室してしまい、帰宅後に「あ、忘れてた」と気が付いたときには重宝した。画質的には一眼レフで撮影したカメラ目線の写真には及ばないものの、すくなくともフルHD解像度はあるのでWeb記事に使う分には申し分ない。そして自然な会話中の笑顔が撮れているのもよかった。

 2009年以降、HDR-XR500Vは、今年の6月まで、約7年間、取材の友として活躍してくれたのである。

HDR-XR500Vで撮影。こんな感じでカンファレンスを撮ることが多い。まさに記録映像。

ビデオカメラ遍歴(3)~ソニー「FDR-AX55」(2016年購入)

 という流れを経て今年6月、西川善司は人生3台目となるビデオカメラ「FDR-AX55」を購入した。購入価格は約13万円。なんと4Kビデオカメラである。

FDR-AX55

 買い換えのきっかけは、HDR-XR500Vが記録メディアがHDDベースなので、7年も使い続けてきて、取材先で故障したりしたらやばいな、という不安感が芽生えたから。実際問題としてHDR-XR500Vは、外装に幾つかの擦り傷を作ったものの、7年間、一度も故障せず。しかも、現在は、親類のところで第二の人生を歩んでいて、そちらでも今のところ問題は出ていない模様なので、よく出来た相棒であった。

 それと、HDR-XR500VでフルHD撮影できると言っても、画質的には1080i/60fpsという点も、そろそろ時代が要求する画質に見合わないと感じた。1080i/60fpsの映像はプログレッシブ変換してしまうと、画質的には1080p/30fpsと同等映像になってしまうので、例えばゲーム映像関連の取材で動きの速い映像を伴った撮影をするときなどは、やや力不足だった。

 機種の選定は、それほど迷わなかった。

 まず、メーカーをソニーとしたのは、これまでのアクセサリー類がそのまま使えるから。具体的には、HDR-XR500Vを丸一日取材で使うことを想定して、一個あたり18,000円もする大容量バッテリの「NP-FV100」を複数個所有しており、これを有効活用したかったからである。

 4K撮影対応のFDR-AX55としたのは、今後、また5年以上使い続けるとすると、このタイミングで買い替えるのに「フルHD」というのもないだろう、と考えたため。

 以前は、4Kビデオカメラといえばとてもサイズが大きかったが、FDR-AX55は、HDR-XR500Vと比較してわずかに大きい程度で、重さも約30g重いだけ。普段携行して使うのに問題ないと判断したのだ。

取材にはビューファインダーが必要だ!

 撮影機能や基本機能はほとんど同等の下位モデルの「FDR-AX40」もある。より安価なAX40を選択しなかったことには幾つかの理由がある。

FDR-AX40

 1つは、FDR-AX40は液晶モニターしかなく、「ビューファインダ」がないため。これは、記者特有の事情なので、一般ユーザーには気にするポイントではないかも知れない。我々記者は部屋を真っ暗にした暗がりでのプレゼンテーションを受ける機会が多く、そうした現場では、皓々と光る液晶モニターを開いての撮影が周囲の人に嫌がられるのだ。

 2つ目は、FDR-AX40にはオート撮影のみでマニュアル撮影モードが搭載されていないため。これまた暗がりのカンファレンス現場での撮影に起因した事情なのだが、ビデオカメラに限らず、カメラ機器はオートフォーカス機能が暗室状態では効きが非常に悪くなる。カンファレンスなどでは、一面真っ黒なスライドから、文章や図版が演出で外から出現するものがあるし、ゲーム映像などでは暗いシーンが連続するものがあり、これらをオート撮影モードで撮るとワーストケースではオートフォーカスがうまく働かずピンぼけ状態で撮影されてしまう。マニュアル撮影モードがあれば、プレゼン開始前に、フォーカスなどの基本撮影パラメータを設定でき、撮影対象の明暗に影響されずに安定した撮影ができる。

 FDR-AX40とFDR-AX55の価格差は3~4万円。けっこうあるのだが、仕事で使うことを考えると妥協できない部分なので、ここは奮発したというわけである。

ストラップは純正オプション設定されている「BLT-HSA」を購入
バッテリの持ちと画質に感動! 7年の進化を実感

 実際に使ってみて驚かされたのは、画質以外の部分であった。

 まずは撮影時間。HDR-XR500Vでは、長時間バッテリーのNP-FV100を使って連続で1080i/60fpsのFHモードで撮影できるのは5時間程度。対して、FDR-AX55は、1080p/60fpsのSPモードで約1.5倍の7時間くらいは撮影できるのだ。7時間も撮れるため、カンファレンスによっては、NP-FV100一本で、一日バッテリー交換無しで撮りきれる場合も出てきたほど。

左が標準付属してくる「NP-FV70」、右が筆者がHDR-XR500V使用時から所有している「NP-FV100」。写真は本物だが、Amazonで購入して掴まされたニセモノも所有。皆さんも注意されたし

 ただし! 4K/30p(60Mbps)モードで撮影すると撮影時間は半分くらいになってしまう。

 まぁ、インタビューやカンファレンスのプレゼンの撮影は、4Kで撮影する必要はないので、もっぱらメインで活用しているのは1080p/60fpsのSPモードになっている。

 ちなみに、メモリカードは128GBのSDXCカードを使用。本体内蔵メモリも64GBあるので、一日で足りなくなると言うことはまずない。

FDR-AX55を用い4K/30p/60Mbpsで撮影された巨人VRを体験中の筆者

 2つ目のFDR-AX55の気に入ったポイントは、ワイコンレンズ無しで約27mmの広角撮影が出来てしまうところ。この撮影画角は、約165gのワイコンレンズを付けたHDR-XR500Vの撮影画角よりも広角なのだ。FDR-AX55の本体サイズは、若干HDR-XR500Vよりも大きいが、HDR-XR500Vにワイコンレンズを付ければサイズ感は逆転するし、ワイコンレンズ脱着の手間もないのだ。

 というわけで、FDR-AX55にしてからは、撮影時間が延びたので、半日取材であれば、予備バッテリーなしで出掛けられるようになったし、ワイコンレンズも不要になった。携行する機材荷物の体積と重量もわずかだが減った実感がある。これは地味にありがたい。

 もちろん、画質面でも満足度は高い。

 4K撮影すれば、そりゃあFDR-AX55の方が美しいのは当たり前なのだが、メインで活用しているフルHD撮影でもHDR-XR500Vとは結構違いがある。そもそも、HDR-XR500VはフルHD撮影といっても1080i/60fps撮影だったので、FDR-AX55でメインで活用する1080p/60fps撮影の方がシンプルに画質がいいのだ。

 そして、これは「ビデオカメラ製品の7年分の進化」から来る恩恵だろうが、FDR-AX55は、HDR-XR500Vよりも暗がりでの撮影画質が向上している。ノイズが少ないし、なにより明るく撮れる。

広角で撮影してもフォーカスムラも少ないし、コントラスト感も良好。暗い部屋でプレゼンテーションを撮影しているわりにはコントラスト感も良好。同じフルHD撮影をしてもHDR-XR500Vに対して7年分の進化は感じられる画質

 また、広角撮影時においても、ワイコンを噛ませて撮ったHDR-XR500Vの映像と比較すると、FDR-AX55で撮った映像はフォーカス感に優れている。

 それと、HDR-XR500Vの時に地味に活用していた「スマイルシャッター機能」は、FDR-AX55でも健在であった(笑)。

「スマイルシャッター機能」はFDR-AX55にも搭載されていた。笑顔として認識する「笑顔の度合い」も設定できる。

おわりに

購入したリモコン付き三脚は「VCT-VPR1」。縮小時48cmで伸張時約1.5mになるなかなかの優れもの。飛行機内に持ち込める三脚は全長60cm未満なので、コイツはOK

 HDR-XR500VからFDR-AX55への買い換えにあたっては、リモコン三脚も一緒に買い替えている。

 というのも、HDR-XR500Vの頃は、リモコン三脚のリモコン部に付随している接続ケーブルがソニーハンディカム独自専用端子(AVリモート端子)だったのだが、FDR-AX55では、これが汎用性に配慮してかmicroUSB端子に変更されてしまったため。

 カメラ側の操作ボタンをいじらずにズーム制御や録画開始/終了操作ができるリモコン三脚は何かと便利で、DCR-TRV900の時代から使い続けている。そういえば、DCR-TRV900の時代は、LANC端子というミニジャック形状の端子でリモコンを接続させていたのだった。HDR-XR500Vに買い替えたときにはこのLANC端子は廃止になったわけで、筆者は、ソニービデオカメラの製品世代の大きな変化にあわせて、ビデオカメラを買い替えているようだ。

リモコン三脚のリモコン制御用の接続ケーブルはmicroUSB端子になった。たまたまなのか、ビデオカメラを買い替えるためにここの規格も変わっているため、ビデオカメラを買い替えるごとにリモコン三脚を買い替えている

 果たして、次に買い替えるのはいつか。“その時”には8K時代に突入しているのだろうか。

Amazonで購入
FDR-AX55

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら