レビュー

A4サイズのDACアンプでヘッドフォンとスピーカーに確かな音。TEAC「AI-503」

 机に小型スピーカーを置いて音楽を楽しみたい。音源はポータブルプレーヤーやノートPC。時にテレビとつなぎ、そのうちアナログレコードプレーヤーも買うかもしれない。ヘッドフォンでも音楽を聴くが、音のクオリティは落としたくない。アンプのサイズはそれほど大きくなく、ただしモノとしての魅力は欲しい。そんな音楽の楽しみ方を15万円以内で実現しているのが、ティアックのプリメインアンプ、AI-503だ。

ティアック「AI-503」と、beyerdynamicのヘッドフォン「T1 2nd Generation」の組み合わせ

 AI-503は、DSD 11.2MHzまで対応したデュアルモノラル構成のUSB DAC機能と、グランド分離接続対応のヘッドフォンアンプを装備。デジタルプリメインアンプとしても利用可能。さらにLDAC対応のBluetoothレシーバも備え、3月に発売された。価格はオープンプライスで、実売13万円前後。

 サイズは290×264×81.2mm(幅×奥行き×高さ)。奥行きに関しては、手前の把っ手のような部分やボリュームのツマミ、バックパネルのスピーカー端子を含んでいるので、感覚的にはもっと小さい。実際、本体の四角い部分だけで見るとA4の紙を載せるとちょうど隠れるサイズだ。

AI-503

 カラーは2種類で、ブラックとシルバーがあり、今回、筆者の自宅に来たのはブラックだった。その質感は写真を見ていただきたいが、ボディのなめらかな表面と、手前に出ている把っ手のようなデザイン部の無骨な感じ。天板もフロントパネルもサイドプレートもアルミ製で、特にサイドプレートは8mm厚のまま手前に突き出している。そしてインプット・セレタクーとボリュームのノブに施された滑り留めの平目のローレット加工のひっかかり。さらに電源のオン/オフのトグルスイッチのコクッという感触。また出力と連動して作動するふたつのメーターの目への訴えなど、再生音の聴覚はもちろん、視覚、触覚、そして操作感も楽しめる。

 デザインは無機質でなく、なおかつやりすぎていない。ほどほどにレトロで、ほどほどにモダン。

アナログメーターを装備
ボリュームノブ
サイドプレート部

 入力は4系統のデジタル端子、2系統のアナログ端子、そしてワイヤレスとしてBluetoothレシーバー機能を持っている。

背面

 まずデジタル端子はバックパネルにUSBのB端子、同軸デジタル、光デジタル、そしてフロントパネルにある3.5mmステレオミニジャックが光(OPT2)とアナログ(LINE 2)との兼用)の入力コネクターだ。同軸と光はPCMの192kHzまで。USBはPCM系が384kHz、DSDが11.2MHz(これはWindowsだけでなくMacにも対応している)。

スピーカーターミナル端子などの部分

 アナログ入力としては、バックパネルのRCA端子と上記の3.5mm ステレオミニジャックがある。後述するようにパワーアンプ部にはClass-Dのモジュールを採用しているが、これはデジタル信号に変換して増幅するわけではないので、入力されたアナログ信号がDA変換されることはない。なので、たとえば同社のフォノアンプ内蔵アナログプレーヤーTN-350やTN-570を用意すればレコード再生を鮮度感高く楽しめることになる(これは後半で検証している)。

 ワイヤレスについてはBluetoothとはいえ、LDACやaptX、AACなど高品位なワイヤレス受信に対応している。

 DACデバイスは旭化成エレクトロニクスのAK4490。2014年に発売されたチップで、さまざまな製品に採用されている。たとえばティアックの高級オーディオのブランドであるエソテリックでは、58万円するデジタルプレーヤーK-05Xに搭載されているクオリティで、現在のAKMの中では2番目にいい(AK4497に次ぐ)チップだ。

 このチップ自体、デジタルフィルター切り換えモードを豊富に持っていて、AI-503ではPCMの5種類、DSDでは2種類のフィルターを設定変更することができる。実際に聴いてみると変化量は大きくないものの、それぞれ特色のある音になるので、使えるフィルター切り換えと言っていい。

 そしてデジタルではクロックの精度をどう確保するかが再生音のクオリティを決定するキモになっているが、AI-503では44.1kHz系と48kHz系という2種類のクロックを持っている。これによって低位相雑音を実現しているという。ちょっと説明すると、どんなクロックでも多かれ少なかれ本来のクロックの周波数近辺に雑音としての周波数成分が出てしまう。この余分な周波数成分を位相雑音とか近傍雑音などと呼んでいるが、これを抑制しているという意味。時間軸の揺れ、ジッターを抑えることになる。

デュアルモノラル構成、フルバランスで伝送

 DAC部でデジタル信号からアナログ信号に変換されるが、その出力はバランスで、D/Aコンバータ部、プリアンプ部、ボリューム部と、一貫したフルバランス回路。しかも左右チャンネルの回路を独立させたデュアルモノラル構成を取っている。

 音量調整、特に低い音量の調整では左右チャンネルの不揃い(ギャングエラー)が出たり、音の鮮度感や情報量に大きな影響のある部分だが、ここにTEAC-QVCS(クワッド・ボリューム・コントロール・システム)を採用している。ボリュームノブ自体はエンコーダ的な役割をしていて、そこから伝わるコントロール信号により信号のプラス側とマイナス側、それが左右のチャンネル分あるので、4つをコントロール。可変ゲインアンプ型のボリュームだ。ただし、その操作感は一般的な摺動抵抗型のようで、心地よい操作感と、始まりと終わりも持っている。ロータリーエンコーダーのようにどこまでも回らない。

 ヘッドフォンリスニング時でもこの音量調整機構を通るので、メーカーではギャングエラーの発生を「完全に解消し、低インピーダンスIEMの使用時にも快適なリスニングをお楽しみ頂けます」と紹介している。ちなみに、リモコンでボリュームをコントロールした場合、インプット・セレクターの周囲のランプが音量を示すように点灯。離れていてもだいたいどのあたりにボリューム位置があるのかがわかるようになっている。

 また、RCAのプリアウト(音量調節の効いたライン出力)もあるので、別体のパワーアンプを使ってシステムを構築したり、アクティブスピーカーとの接続もできる。

ハイエンドのヘッドフォンも余裕で駆動。立ち上がりの俊敏さも魅力

 試聴に使ったヘッドフォンは、beyerdynamicの「T1 2nd Generation」('15年発売のT1 第2世代モデル)。インピーダンスが600Ω、感度102dB。AI-503の適合インピーダンス上限いっぱいのモデルだ。とは言うものの、聴き出してボリュームの位置を確認するとゲインをHIGHにしなくても十分な音量で、ある程度コンプレッサーをかけたポップスならボリューム位置はアナログ時計の針の位置で10時くらい。クラシックでも1時くらいだ(AI-503のボリュームノブには、最大音量からのマイナスでの目盛りが振ってあるのだが、わかりやすいように表現した)。ちなみにゲインをHIGHにするとポップスは9時くらい、クラシックは12時くらいの位置だった。

beyerdynamic「T1 2nd Generation」を使用

 今回はスピーカーでも試聴しており、その音については後で触れるが、中高域と低域で音調の違ったスピーカー再生とは異なり、ヘッドフォンでは最低域から超高域まで一貫している。アコースティックギターのような弦を弾く楽器の場合、その音の立ち上がりが俊敏で、なおかつその繊細さ、倍音を含みながらたくさんの情報を持って立ち上がる成分が良く聞こえてくる。

 続いて筆者のリファレンスであるShureのイヤフォン「SE535 Special Edition」で聴いてみた。こちらはインピーダンスが36Ω、感度が119dB。これはこれで厳しいテストだ。まずボリュームをもっとも低い位置に絞ってみると、ごくごく低い音量ではあるがブーンというノイズが聞こえてくる。音楽を聞き出せば気にならない程度のノイズだが。そこからボリュームを上げても、メーカーの主張通りにギャングエラーは発生しない。ボリュームの位置は時計の針で言うと8時すぎくらい。

Shure「SE535 Special Edition」を接続

 ただ、やはりいまひとつSN感が良くなく、躍動感にも欠ける音。こうした場合には固定抵抗式のボリューム等の機能を持つiFI AudioのIEMatchを使うことが多いのだが、今回もベイヤーダイナミック並にボリュームが上がるようになり、ダイナミックで彫りの深い音を聴くことができた。左右の精度に対しては優秀なボリュームだが、ヘッドフォンアンプ部としてはさすがに9時よりも上にボリュームが上がった方が音はいい。

iFI Audio「IEMatch」

 なお、今回はテストできなかったが、3.5mmのジャック部は4極タイプ。アンプ部からジャック部までLchとRchのグランドを分離した接続ができる仕様になっている。経験上、4極端子接続の威力は知っているので、クリアで見通しが良く、明確な音を聴けるのは推測できるところだ。ちなみに、一般的な3極プラグのイヤフォンやヘッドフォンもそのまま使用することができる。その他、2段階のゲイン切り替え機能を持っている。

前面のヘッドフォン端子。今回の接続は3極だったが、4極のグランド分離にも対応

スピーカー接続でプリメインアンプの実力をチェック

 次は、スピーカーとの接続。プリメインアンプでもっとも気になるのはアンプとしての駆動力だ。

 AI-503では電源部に高効率で安定した電源を供給できるというトロイダルコアトランスを採用。それに対して出力部にはICEpower製のパワーアンプを使っている。サイズはコンパクトだが効率のいいClass-Dのモジュールだ。出力部自体も小さくできるが、それによってA4サイズのボディでありつつデュアルモノラルでしかもフルバランスという、大きくなりがちな回路構成を取ることが可能になったとも言える。

 定格出力は28W×2ch(4Ω)、15W×2ch(8Ω)。今回は家にあったスピーカーのひとつ、ハーベス(Harbeth)の「HL-P3ESR」を組み合わせてみた。スペックとしてはノミナルインピーダンスは6Ωだが能率は83.5dBという低さ。率直に言ってアンプにある程度のパワーがないとうまく鳴らないスピーカーなのだが、結論から言うとこれがきちんと駆動できていた。ツイータとウーファの発音するタイミングが合って、一体感を持った再生音。実際に鳴らしてのレポートをしていく。

スピーカーはハーベスのHL-P3ESR(右)を使用

 もっとも高次のデジタルデータに対応できるPCからのUSB入力で、基本的なトーンやデジタルフィルターのモードを変更した時の音をテストしていった。PCはMacbook Pro。再生ソフトは基本的にAudirvana Plus1.4。DSD 11.2MHz等を再生する時はAudirvana Plus2.3、USBケーブルはクリプトン「UC-HR」、スピーカーケーブルはTMD「エルドラド」を使用した。

 デジタルフィルターOFFのモードにした音はアキュレートさを基本に、反応の良さと明確な音楽の聴かせ方をしてくる。特に中高域の透明感の高さや音像を明確に描いてくる音の傾向は顕著だ。低域はやや量感タイプながら反応のいいもので、このあたり、Class-Dのモジュールという、ICEpowerの素性をきれいに反映している。アンプ内蔵型のサブウーファなどにClass-Dのパワーアンプが使われることが少なくないが、ある意味即物的に、情を入れずに駆動してくれるClass-Dの良さを感じさせる部分だ。

 分解能も高い。たとえばユリア・フィッシャーがソロヴァイオリンを弾いているチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(192kHz/24bitのWAV)。これを聴くと、コンサートホールのステージ上に、手前にソロヴァイオリン、その周囲から背後にかけて弦楽器群、その後ろに木管、そしてさらにその後ろに金管や打楽器という前後の定位が明確。

 また、SN感がかなり良く、コンサートホールの余韻の消え際の美しさや、ややひんやりとした温度のホールの空気の感じがきれいに伝わってくる。

 今回はハーベスのHL-P3ESRという暖かみのある音のスピーカーを鳴らしているが、よりアキュレートな、モニター系のスピーカーであれば、コントラストの強さやシャープさも持っている再生音を楽しめるだろう。

デジタルフィルタのモード変更による音の違いも

 リモコンの「FILTER」のボタンを押すことにより、音楽を再生しながらでもデジタルフィルターを変更できるのもポイント。それぞれのモードはセレクターのランプの位置によって表示されるが、PCM系だと1番目から順に5番目まで送っていくことによって設定する。逆に言うと、3番目を聴いている時に、ダイレクトに1番目に戻ることはできない。

リモコンでフィルタを切り替えられる
PCM系のデジタルフィルタ

 「OFF」 音の輪郭が若干強調される感覚があり、ちょっとCDらしい感じと言ったらいいかもしれない。明確な音でもあり、高域に硬さが残った感じもある。音色感は濃いめ。左右方向は狭め。サウンドステージの奥行きが良く出てくるし、クラシックのソフトでのホールトーンが多めに感じられる。

 「FIR Sharp」高域が若干スムーズになり、ライブでのオーディエンスの拍手はほぐれてくる。ヴァイオリンの高域の倍音は抑えられている。ただし、アコースティック楽器の音のまとまりは良くなっている。低音は量感が若干増加。音場感としては、左右のスピーカー結んだ線よりもやや手前にサウンドステージが展開してくる。

 「FIR Slow」音のテンションが全体的にやや下がったように聞こえる。高域も穏やかだ。同時に全体的な再生音の雰囲気として締めつけがゆるやかになって、伸びやかに鳴っている感覚が出てくる。サウンドステージは前後左右にブロードに。低域はややソフトな感触。

 「Short delay Sharp」音像は大きめで、トーンとしてすこしだけマッシブなニュアンスが出てくる。空間よりも、音像の比重が若干上がる傾向。高域の楽器の音像が少し奥めに見えてくるのも興味深い。低音感はけっこうありつつ、高音もはっきりしている。

 「Short delay Slow」これは音の変化率は多めで、低音感が増す。音場はセンターにまとまる傾向。高域はちょっと「OFF」のモードに近く、若干強調感を持っている。音場は若干手前に展開。

DSD系のデジタルフィルタ

 「CUTOFF 50kHz」DSD系の、空気感たっぷりのアナログ的な音というよりも、PCM的な明確な音。細かいニュアンスが出てくる。若干コントラストが高めに感じる。

 「CUTOFF 150kHz」DSDというと想起するやや柔らかい音の感触の、キメの細かいトーン。アコースティック・ギターの音色が甘く、音楽をやっている空間が広めに、開放的に感じられる。音の感触もやわらかい。

多彩な機能と確かな駆動力。USBはもちろん、アナログの楽しみも

 続いて、CDプレーヤー(エソテリックK-03X)のアナログ出力と接続し、入力端子ごとの音の違いをテストした。RCAケーブルは、ACOUSTIC REVIVEのRCA-1.0TripleC-FM。さすがに高級機のCDの音そのままを感じさせてくれるクオリティで、空間的な広がりと音像の実在感を両立。また、このプレーヤーのなめらかな表現も充分に感じさせてくれた。音痩せはない。今回はアナログプレーヤーを接続してのテストはしなかったが、プレーヤーやカートリッジの良さを十分に楽しめる性能を持っている。

 今度はCDプレーヤーの同軸デジタル端子から入力して検証。デジタルケーブルはワイヤーワールドGold Starlight 3/RCA 1.0Mを使用した。音の鮮度感が高く、細かい情報量が出てくる。若干サ行がきつい感じもあるが、このシャープさは魅力。古いCDプレーヤーを使っている人だったら同軸デジタルで接続した方が、明快で分解能の高い音を楽しめる。今回は試していないが、光デジタル入力端子では、これに準ずる音調で、光ケーブルの性質としてややマイルドな感じになるだろう。

 アンプ部はディスクリート構成による回路で、TEAC-HCLD(ハイ・カレント・ライン・ドライバー)バッファーアンプという名前が付いている。かなり高いインピーダンスのヘッドフォンでも実用上の音量であればほぼA級で動作するという。ちなみにスペックとしては実用最大出力が280mW×2ch。適合負荷インピーダンスは16~600Ωとなっている。

 今回使用してトータルで感じたのは、多彩な機能と、きちんとした駆動力を持った製品だということ。コンパクトなので、時にテレビの近くに置いて、時に机の上でといった、移動させるような使い方も苦にならない。RCA端子からのアナログ入力でも鮮度感は良好だが、特にUSB入力では明確に損失感のない音で、組み合わせるメディアの音をくっきりと聴かせてくれる。入力する時のRCAケーブルやスピーカーケーブルのクオリティも敏感に反映させるところがあるので、そこに何を使うかで音のコントロールもできる。

 プリ出力があるので、パワーアンプを加えたり、アクティブ型のスピーカー型との接続などのシステムの発展性もあり、いろいろと遊べそうなコンポーネントだとも感じた。

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AI-503

鈴木 裕