レビュー

薄型AVアンプとスピーカー2個でも楽しめる!? マランツ「NR1608」を使い倒す

 リビングや自分の部屋にAVアンプとシアタースピーカーを導入し、映画をリッチに楽しみたい……けれど、AVアンプは高価で巨大で置く場所無いし、5個も7個もスピーカーを買うのだって大変なので「まぁテレビのスピーカーでいいや」という人は多いだろう。そりゃあ雑誌に出てくるようなシアタールームが持てれば夢のようだが、実際は部屋のカタチが変則的だったり、リアスピーカーの置き場所さえ無くて「とても無理だ」という人が大半かもしれない。

今回取り上げるマランツの薄型AVアンプ新モデル「NR1608」

 ただ、実際は“巨大AVアンプとスピーカー多数の本格システム”か“テレビのスピーカー”の二択ではない。スピーカーは2chでもテレビ内蔵のものより格段に音質はアップするし、進化を続けるAVアンプは、薄型・低価格で驚くような音質を実現しているものがある。今回はマランツの薄型AVアンプ新モデル「NR1608」と、安価で高音質なスピーカーとして人気のDALI「ZENSOR(センソール)」シリーズを使い、合計20万円を切るシステムで、2chでも楽しめるか? を体験したい。実際に使ってみると「AVアンプをAVアンプと呼ぶのはもう古いのかも……」と思えるほど新鮮だ。

 6月中旬に発売される「NR1608」は、簡単に説明するとDolby AtmosやDTS:Xに対応した、5.1.2ch構成のAVアンプながら、105mmという薄さを実現したモデルだ。小さなモデルだと「エントリー製品か」と思いがちだが、価格は9万円と、ミドルクラスと言っていい。上位モデルに搭載している旭化成エレクトロニクス製の32bit/8ch DAC「AK4458VN」を採用したり、フルディスクリート構成の7chアンプを搭載したり、ネットワーク再生機能や無線LANも内蔵するなど、「薄いけれど手を抜いてない本気モデル」。それでいて10万円を切る買いやすさも維持した、なかなか絶妙な立ち位置だ。

左が薄型AVアンプ「NR1608」。右のAVプリ「AV8802A」と比べると、薄さがわかる

 マランツはこのクラスの薄型AVアンプを長年手がけているが、AVアンプではなく「マルチコントロールセンター」と位置づけている。要するに「AVアンプではあるけれど、薄いし、置きやすいから、リビングとかに気軽に導入して、Blu-rayプレーヤーだけじゃなくてゲーム機とか映像配信とかネットワーク音楽再生とかに使い倒してね」というわけだ。「カジュアルなAVアンプ」と言い換えてもいいかもしれない。

 そんな訴求が消費者にも響いているようで、伸びているわけではないAVアンプ市場において、薄型NRシリーズの出荷実績は右肩上がりで成長している。また、NR1608の前モデル「NR1607」のユーザーの内、なんと31%が“リアスピーカーを使っていない”のだそうだ。つまりフロント2chとか、2.1chとか、そうしたスピーカー構成で使っている人が多いというわけだ。

 そういう使い方で満足度は高いものなのだろうか? 実際にやってみよう。

セッティングから利点を実感

 薄型のアンプである利点は、まず箱から出すところから実感する。上位モデルだと20kg近くある事も珍しくないAVアンプは、持ち上げる時も一苦労で、抱えた瞬間に「あ、これヤベェ」と感じ、しっかり足を曲げてから持ち上げないと腰をグキッとやってしまう。一方「NR1608」は8.3kgであるため、まあそれでも足を曲げてから持ち上げた方がいいのだが、“持ち上げやすさ”が遥かに楽だ。

箱から出した「NR1608」

 外形寸法は440×376×105mm(幅×奥行き×高さ)と、AVアンプとしては非常に薄い。上部に放熱スリットがあるので、10cmほど上に空間をあける必要はあるが、それを含めても薄いため、ラックや棚に置きやすい。また、設置後に配線を変えたい時など、大型AVアンプでは引き出すのも一苦労だが、軽量であるため、そうした時も比較的楽にこなせる。細かい点だが、実際に使うと“ありがたい”ポイントだ。

 もう1つ、カジュアルな使い方ができるAVアンプとして外せないのは“セットアップの簡単さ”だろう。AVアンプは繋ぐ機器が多く配線が複雑で、設定項目も多いので「面倒そう」と敬遠している人もいるだろう。

 NR1608の場合は、セットアップアシスタントをスタートすると、ほぼ説明書を読まなくても大丈夫。ナビゲーションに沿って進めていく機能なのだが、その“親切ぶり”が凄い。「ここにスピーカーケーブルを接続してね」より前に「スピーカーケーブルはこうして先端を剥きましょう」という説明が、アニメーションしながら表示される。さらに本体裏側のスピーカーターミナルを見ると、フロント、リアと、接続するスピーカー別に色分けまでされている。至れり尽くせりだ。

セットアップ画面
スピーカーケーブルの接続をグラフィカルに説明
ケーブルの剥き方までアニメーションで説明
本体背面。スピーカーターミナル自体も色分けされている

 音の設定を簡単にしてくれるのが専用マイクを使ったオートセットアップ機能「Audyssey MultEQ」だ。マイクでスピーカーからの音を最大6ポイントで測定し、スピーカーとリスナーの距離、レベル、サブウーファのクロスオーバー周波数を最適な状態に自動設定するもの。

 ここでも“至れり尽くせり”。測定マイクをリスナーの耳の位置に固定するのだが、そのスタンドまで付属している。紙で出来た簡単なものだが、マイクを固定するには通常三脚などが必要で、どの家庭にもあるとは限らないので便利だ。組み立て式だが、3分くらいで完成する簡単さ。なんだか工作みたいで楽しい。ナビゲートに沿って進めれば、スピーカーから「ビュイ、ビュイ」という不思議な測定音が何度か流れて測定・設定完了。続けてネットワークの設定をすればおしまい。UIもグラフィカルで、「AVアンプも本当に簡単になったなぁ」と感慨深い。

測定用のマイク
スタンドを組み立てているところ
完成したスタンドにマイクをセット
椅子にセットして測定開始!

 スピーカーはDALIの「ZENSOR 1」(ペア43,800円)を接続。エントリースピーカーの位置付けは「ZENSOR PICO」(ペア38,000円)に譲ったが、音質と価格のバランスの良さで人気を誇る定番ブックシェルフだ。

DALIの「ZENSOR 1」

 まずはテレビのサウンドをチェック。ARC(オーディオリターンチャンネル)対応なのでテレビとはHDMIケーブル接続1本でOKだ。普段、テレビ用スピーカーとしてOlasonicの卵型スピーカーを使っており、テレビ内蔵スピーカーと比べると格段に音は良い。特に卵型スピーカーは空間描写が得意で、奥行きのある音が出る。「AVアンプ+ブックシェルフスピーカーに変えても、そこまで大きく音は向上しないかも?」と思いながら音を出した。

Olasonicの卵型スピーカー。これもこれで良い音なのだが……

 だが、テレビのチャンネルをNHKに切り替えて、ニュース番組の男性アナウンサーの声が出た瞬間に笑ってしまうほど音が激変。低域が重厚になり、低い声特有の落ち着いた雰囲気が出たほか、音像もより立体的で、それが定位している音場自体のサイズも3倍ほどに拡大。まったく次元の違う音になる。

 続いていつも見ている「ブラタモリ」がスタートしたが、井上陽水によるオープニングテーマ「女神」の聴こえ方もまったく違う。ミドルテンポのサルサ調が心地よい曲だが、パーカッションの鋭さ、音圧、そしてゆったりとした音場の広さが広大で、「こんな曲だったのか」と初めて聴いた気分。喋っているタモリの声も、低域がしっかりと出ていて、聞き取りやすい。

 試しにHDMIケーブルを引っこ抜いてテレビの内蔵スピーカーから音を出してみたが、低域がほとんど感じられず、スカスカの音に。左右の広がりも画面の範囲にとどまり、包み込まれるような感覚が全部消えてしまう。また奥行きもまったく感じられず、映像は同じなのに、カキワリを見ているような気分になる。“映像鑑賞における音の大切さ”をあらためて痛感する。

 次にAmazonの「Fire TV Stick」とGoogleの「Chromecast」を背面のHDMI入力に接続。テレビの背面にはHDMI入力が3系統しかないので、BDレコーダ、Fire TV Stick、Chromecastと繋ぐと空きが無くなりゲーム機などが繋げない。「NR1608」は薄型なのにHDMI入力が8系統あるので、あれもこれもと繋げられる。それでもテレビのHDMI入力を専有するのは1系統で済む。AVアンプの利点を感じる部分だ。

Fire TV StickとChromecastをHDMI入力に接続

 Fire TV StickでHuluアプリを起動し、海外ドラマの「クリミナル・マインド」を再生。プロファイリングを駆使して犯人の心理を読み解き、逮捕へ繋げる犯罪捜査サスペンスだが、NR1608+ZENSOR 1で聴くと、BGMの低音が音圧豊かに迫ってくるため、緊迫感が一気に増す。ドラマだが、映画を見ている気分で、のめり込み度が違う。

Huluで視聴する海外ドラマも迫力が別次元に

 スマホのDAZNアプリでJリーグを再生。実況と「ワーッ」という歓声の高い部分はスマホのスピーカーでも聴き取れるが、そのままChromecastにキャストし、テレビ+AVアンプ+ZENSOR 1から再生すると、「ウォー!」という歓声の低い部分が押し寄せ、それが画面の外まで大きく広がっていく。誇張なしで、手元の世界から、ワープして観客席に放り込まれたような感覚だ。同じスポーツを見ていても、興奮度が段違いにアップするのは間違いない。

スマホのDAZNアプリでJリーグを再生
Chromecastにキャストし、AVアンプを介してテレビに表示

 Blu-rayもチェック。「ローグワン スターウォーズ・ストーリー」のチャプター28、スカリフでのバトルを再生すると、こちらも迫力満点。飛び交うビームの鋭さや、4足歩行の超大型戦車「AT-AT」のズンズンという足音に圧倒される。2chスピーカーでも音に包まれる感覚は十分味わえ、左右や奥行き方向の音像の移動感も明瞭だ。

 DTS-HD MasterAudioをストレートで再生しても良いが、DTS-HD+Neural:Xでサラウンド再生するとより音場が拡大し、2chである事を忘れさせてくれる。それでいて音像や細かな音の描写は曖昧にならず、シャープで情報量は多い。SNも良いので、爆発音も鋭く、ドキッとさせられる。

ローグワンも大迫力だ
サラウンドモードの切り替え画面

 NR1608は、上位モデルの「SR7010」でも採用している旭化成エレクトロニクス製の32bit/8ch DAC「AK4458VN」を新たに搭載した。SN比と分解能に優れるDACの長所が引き出されていると感じる。また、プリ部も改良され、従来1チップだったボリュームICと信号セレクター回路をあえて個別に搭載する事で、信号経路の自由度をアップさせ、最適・最短化。これによるSN比の改善も効いているようだ。

旭化成エレクトロニクス製の32bit/8ch DAC「AK4458VN」を新たに搭載
プリ部も改良された

 AVアンプもアンプであるため、サラウンドスピーカーに頼らない2chの音を聴くと、“素の音”というか、基本的なアンプとしてのクオリティの高さが良く分かる。アンプに強い老舗のオーディオメーカーの底力的なものを感じる。なお、最大出力は各チャンネル100W(6Ω)だ。

 ZENSOR 1の音は、例えば家に誰かを招いたら「すげぇ! お前んち映画館じゃん」と驚かれるクオリティだが、より低音の迫力が欲しくもなる。そこで、同じシリーズのトールボーイ「ZENSOR 5」(ペア113,000円)に変更。ZENSOR 1(ペア43,800円)と比べると価格は倍以上だが、ZENSOR 1と組み合わせたスピーカースタンド(SOUND ANCHORS製)「SDA6.5DALI」は1台42,857円なので、「スタンドを別に買うならトールボーイにしてしまう」という手もアリだ。

トールボーイ「ZENSOR 5」に変更。低域がさらに向上する

 ZENSOR 5のサウンドは、まさにZENSOR 1に強力なウーファを加えたようなサウンドだ。「AT-AT」の「ズンズン」と響く足音が「ズシンズシン」と一段深くなり、Xウイングの攻撃で破壊された時の爆発音、倒れる時の地鳴りもZENSOR 5ではより肉厚で、重厚になる。「サブウーファ無しでも十分」と感じるレベルだ。

 「シン・ゴジラ」のタバ作戦で主砲を撃つ10式戦車のシーンも凄い。総合火力演習などで本物の戦車が主砲を撃つと、音というよりも、一瞬の凄まじい風圧が押し寄せて、腕のうぶ毛が「ファッ」となびいて鳥肌が立つ。NR1608+ZENSOR 5でそれを完全再現するのは流石に無理だが、ボリュームを上げると「バン!!」という発射音と共に、風圧のような低音がブアッと押し寄せ、スッと消える、トランジェントの良さが良く分かる。押し出した後にユニットがふらつかず、一瞬で音が出た後、余計な音が出ない。この“素早く消える”感覚は、駆動力の高いアンプならではのものだ。

 ゴジラの雄叫びも、Olasonicでは「ギャオー」と低い部分が聴こえないが、NR1608+ZENSOR 5では「グァオー」という地響きのような低音がプラスされ、“神の化身”のような荘厳さが漂う。

 PlayStation 4もHDMI接続。FPSの人気作「オーバーウォッチ」をプレイしたが、複数のプレーヤーが入り乱れて戦う陣取りモードでは、ビーム音などで、どこにどの敵がいるのかわかりやすい。

 ローグワン繋がりで「スター・ウオーズ バトルフロント」というFPSもプレイしたが、その中に、サーマル・インプローダーという手榴弾的な武器がある。周囲の空気を圧縮・加熱し、真空状態を作りながら爆発するものなのだが、その際のサウンドが「ビュイン」という空間が歪むような音の直後に、爆発音が重なる。ZENSOR 5で聴くと「ビュイン」が生々しすぎて首をすくめるほど怖い。PCスピーカーやヘッドフォンではこんなに凄い音だと思っていなかったので、新鮮な気分でゲームが楽しめた。

PS4も接続
ゲームも新鮮な気持ちで楽しめる

ネットワーク再生

 NR1608自体は、音楽プレーヤーとして使うこともできる。Ethernetに加え、2.4/5GHzデュアルバンドのWi-Fi(IEEE 802.11a/b/g/n)を備え、NASなどに保存した音楽ファイルが再生可能。DSDは5.6MHzまで、WAV/FLAC/AIFFは192kHz/24bit、Apple Lossless(ALAC)は96kHz/24bitまでサポートする。FLACやWAVのほか、DSD、AIFF、ALACのギャップレス再生も可能だ。

背面には無線LAN用のアンテナも

 AirPlayやBluetoothもサポートし、スマートフォンなどから手軽に再生も可能だ。インターネットラジオにも対応。シンプルに、フロントのUSB端子に、音楽ファイル入りのUSBメモリを挿して再生するのもいい。

前面にUSB端子やHDMI入力を備えている

 より便利に使う場合はアプリ「HEOS」をスマホにインストールする。起動すると、同一LAN内のNR1608を見つけてくれ、スマホ内の音楽ファイルをNR1608から再生させたり、NAS内の音楽ファイルをNR1608から再生させるといった制御が、スマホの操作感で手軽に行なえる。AVアンプのリモコンを使い、テレビ画面を見ながら操作するより快適だ。

「HEOS」アプリの画面。音楽配信サービスにも対応している

 AWAやSpotifyなどもサポートしているので、それらのストリーミングサウンドをHEOSを介して再生させる事もできる。インターネットラジオのTuneInから、放送局を選ぶ事も可能だ。実際に使ってみると、Bluetoothにも負けない便利さ。

HEOSアプリから楽曲再生を制御

 例えば、スマホでTwitterやWebを見ている時に、ちょっとラジオや音楽を流しておきたいという事はかなりある。しかし、テレビだと画面が気になるし、そもそもBGMには向いていない。そこで、HEOSアプリをちょちょっといじれば、すぐにいい感じのBGMがスピーカーから流れ出す。AVアンプの電源がOFFでも、自動的に起動させられる。なんだかとてもリッチな生活をしているような感じだ。

 同じような流れで、スマホでDAZNのスポーツを見ながら「この試合は面白いからテレビでじっくり見よう」と考え、Chromecastにキャストすると、Chromecastを接続したNR1608の電源がONになり、HDMI連携したテレビもONになり、スピーカーから音が流れる。テレビやAVアンプのリモコンに触らなくてもいいのでとても便利だ。

左は「HEOS」アプリでゾーン再生を管理している画面。右は、DAZNのアプリからChromecastへキャストする設定画面

 このような使い方をしていると、AVアンプに対する「映画を見る時に使うもの」という感覚が薄れ、「映画だろうがテレビだろうがゲームだろうがスマホだろうが音が出るものは全部まとめて面倒をみる存在」と感じはじめてくる。最近Blu-ray買ってない、映画をじっくり楽しむ時間が無いという人も、日々のテレビやゲーム、配信ドラマなどをリッチに楽しむ製品と考えると、コストパフォーマンスの面でも、AVアンプに対する満足度はアップするだろう。

 なお、「Marantz 2016 AVR Remote」というアプリも用意している。これは、AVアンプの設定や制御をメインとしたもの。前述の「HEOS」と遷移しながら、活用できるようになっている。

「Marantz 2016 AVR Remote」

将来的に、もっと凄いスピーカーにした時にどうなるのか

 比較的低価格なスピーカーと繋いでNR1608のサウンドをチェックしてきたが、最後に「高級スピーカーにグレードアップした時に、NR1608は太刀打ちできるのか?」もテストしてみた。相手はBowers & Wilkins(B&W)の「800 Series Diamond」最上位モデル「800 D3」。ピアノ・ブラックモデルは1台225万円、ペアなら450万円。9万円のAVアンプの50倍と、まさにモンスタースピーカーだ。

800 D3
50倍の値段のスピーカーはドライブできるか!?

 NR1608が気の毒になるテストだが、音を出してみると「ちゃんと鳴るじゃん!」と驚かされる。クラシックのオーケストラも、スケール感豊かに鳴らし、低域もしっかり出ている。800 D3自体は、鬼のようにSNが良く、色付けも少ない“無色透明スピーカー”だが、だからこそ組み合わせるとNR1608自体のSNの良さ、高域の透明感のある描写など、素性の良さが良く分かる。

 前モデルのNR1607と、アナログ入力で比較すると、NR1608の方がSNが良くなっているのがハッキリわかる。金管楽器のユーフォニウムなどは、美しい響きの中に、ザラッとした質感の音も混じるが、そうした細かい描写がNR1608の方が生々しく伝わる。奥行きの深さもNR1608の方が数段上手だ。

 光デジタル入力に切り替え、DAC込みの音の進化をチェックすると、違いはより大きくなる。NR1607はTIバーブラウン製で、NR1608は旭化成エレクトロニクス製の「AK4458VN」となったが、弦楽器の上を指が移動する「キュイ」というかすかな音が、より細かく聴きとれる。定位の音像も、ダンゴ状のくっつき感が無くなり、全ての音がほぐれ、分離・定位がよくなり、その奥の空間も見通せる。DACの変更で進化したサウンドを活かしながら、プリ部などの改良でより磨きをかけているようだ。

 さすがに450万円のスピーカーと組み合わせる人はいないだろうが、数十万円クラスのスピーカーにステップアップしても、負けない実力を備えているといえるだろう。

パワーアンプ部は7chフルディスクリート構成。チャンネル間の温度差に起因する特性のばらつきを抑えるために、パワーアンプをヒートシンクに一列にマウントするインライン配置を採用している

AVアンプの“次の姿”

 NR1608のような製品は、AVアンプの中では“異色”な存在だ。だが、実際に使ってみると、薄型でも音質面でのマイナス要素は特に感じず、ネットワークプレーヤーとしての能力や、HDMI入力の豊富さ、Dolby Atmosなどの新フォーマットへの対応といった機能面でも不足は感じない。「薄型だから◯◯」というネガティブな要素の無い製品にまとまっている。

 筐体を薄型化する事で、物理的にも、精神的にも導入しやすいのはメリットだ。ただ、欲を言えば、将来的には薄型化だけでなく、奥行きの短さにもチャレンジして欲しいところではある。

 いずれにせよ、実際に使ってみると、AVアンプと接続・連携できる機種は思いのほか多い。また、ネットワーク経由での電源ONや、HDMIリンク機能を活用する事で、「AVアンプのリモコンに触れずに使えるシーンが多い」のも好印象。「AVアンプのリモコンを手にして、電源を入れて、ソースを選んで……」という工程があると、面倒に感じてしまう。スマホのコンテンツをタップするだけで、AVアンプ+スピーカーが起動して、音が流れ出す手軽さは、AVアンプの活用シーン増加に直結。活用の機会が増えれば、コストパフォーマンスの感じ方も変わってくるというものだ。

 巨大なAV機器を入れたラックと、沢山のスピーカーを並べた“ホームシアター”も憧れではあるが、テレビが超薄型化し、ネット配信や音楽配信など、ソースが多様化した現在、既存の巨大AVアンプと“家庭の中にすんなり溶け込み、日々便利に使えるアンプ”の間には隔たりがあるのも事実だ。AVアンプの中で異色な「NR1608」のような製品が、実は、AVアンプの“次の姿”に一番近いところにいるのかもしれない。

(協力:ディーアンドエムホールディングス/マランツ)

山崎健太郎