【レビュー】6万円を切るDSD対応USB DAC「RAL-DSDHA1」を聴く

質感豊かなDSD音質。設定はやや面倒


 24bit/192kHz対応が珍しくなくなったUSB DAC。よりハイビット、ハイサンプリング対応へ向かうモデルもある一方、注目度が増しているのがDSD再生に対応したモデル。各社から続々と発表されており、USB DACが新しいステージに突入した事を伺わせる。今回は、価格/スペック面でバランスの良いラトックシステムの「RAL-DSDHA1」を紹介する。

 ラトックと言えば、アシンクロナス伝送による高音質を広めつつ、USB DACの豊富なバリエーションを展開。USB DACの先駆者的なメーカーであると同時に、PC周辺機器メーカーならではのコストパフォーマンスの良さも兼ね揃えているのが特徴だ。

 11月中旬に発売される「RAL-DSDHA1」も、同社USB DACのハイエンドモデルにあたり、DSD対応を含む様々な技術が投入されているが、価格は72,000円。実売では6万円を切る店舗もあり、リーズナブルだ。その実力を体験してみよう。




■奥行きが長く

 外形寸法は約133×167×43mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約615g。コンパクトなモデルが多いラトックの従来モデルと比べると、奥行きが伸びている。例えば、24bit/192kHz対応の「RAL-24192HA1」のサイズは約100×83×43mm(同)で、奥行きはほぼ半分だ。

 ただ、横幅はあまり変わらず、高さは43mmに抑えられたままなので、PC用ディスプレイのスタンド脇など、机の上に隙間スペースにも設置しやすい。縦置きにも対応してくれれば、より設置の自由度がアップしただろう。

シンプルなデザイン
左が「RAL-DSDHA1」、右が「RAL-24192HA1」

 前面の左端に標準端子のヘッドフォン出力、その隣にヘッドフォンの出力レベル切り替えスイッチ、PCMのサンプリングレートインジケータやDSDモードのインジケータを用意。右端がボリュームノブになっている。シンプルだが、それが高級感のあるデザインに繋がっている。ボリュームノブの質感も高く、回した時のガタつきやブレなどはない。

 背面もシンプル。入力はUSB入力が1系統のみ。USB DACとしての利用に限定されており、単体DACとして使うことはできない。出力はアナログRCAのライン出力を1系統装備している。アナログ入力のアクティブスピーカーなどを接続すれば、PCに直接接続するよりも音質向上が期待できるだろう。

 なお、ライン出力は前面のボリュームと連動して音量が増減するため、アクティブスピーカーのボリューム調整代わりに使う事もできる。電源は付属のACアダプタを利用する。

ヘッドフォン出力端子部ボリュームノブ背面。USB入力とライン出力のみ
横から見たところ付属のACアダプタ


■PCMでの利用は簡単。DSDの設定はやや面倒

 ではPCと接続してみよう。今回はWindows 7マシンを接続相手として使用した。まず、基本的な仕様として、Windows Vista以降の場合、3つの転送方式に対応している。1つはWindows標準の転送方式「Direct Sound」だ。一番簡単に利用できるが、オーディオエンジンのWindows標準ミキサー(Vista以前はカーネルミキサーと呼ばれていた)を経由して出力するので、音質的には不利とされる。

 もう1つはWASAPIモード。Vista SP1から搭載されたもので、標準ミキサーをバイパスして、音質劣化を抑えた伝送ができる。同様に、ASIOを使った「RAL ASIO」(RAL Audio ASIO Driver)も利用できる。これは、RAL-DSDHA1専用のASIO対応ドライバで、遅延を抑えつつ、標準ミキサーをバイパスできるものだ。後述のDSD再生でもこれを利用する。

 なお、Windowsの場合、使用前に付属のCD-ROMからUSB Audio Class 2.0ドライバをインストールする必要がある。MacOS X 10.7以降では、OS標準のドライバーで動作可能だ。USB Audio Class 1.0では動作しないので、USBポートもHigh-Speed(480Mbps)対応ポートに接続する必要がある。また、CD-ROMからソフトウェアをインストールする時に、自動的に前述の「RAL ASIO」もインストールされる。

 再生ソフトはいろいろあるが、今回は定番の「foobar2000」を使用した。ほかにも、DSD再生可能なアプリとしては、HQPlayer、Audirvana Plusなどがある。

 まず、WASAPIモードで音を出してみよう。セットアップはDSDと比べると簡単で、foobar2000のサイトで公開されているWASAPI再生コンポーネントをダウンロード&インストールすれば良い。後はfoobar2000の設定画面から、「out put」を選び、「WASAPI:スピーカー(RAL-DSDHA1 Audio)を選択するだけ。24bit/192kHzのFLACや、24bit/96kHzのリニアPCMファイルなどを再生したところ、問題なく音が出た。

 DSDファイルを持っていない場合は、これで終わりでも構わない。だが、せっかくDSDにも対応しているので、DSDの設定にもチャレンジしてみよう。

 結論から言うと、WASAPIと比べて設定は面倒だ。前述のように、RAL-DSDHA1のドライバインストールを行なった上で、foobar2000に、ASIO出力コンポーネント(foo_out_asio)と、DSD音源再生用コンポーネント(foo_input_sacd)を追加する必要がある。これらは、foobar2000のサイトで配布されている。

 まず、ASIO Support 2.1.2というコンポーネントをインストールすると、「foo_out_asio」というコンポーネントがfoobar2000に登録される。次に、「foo_input_sacd-0.6.0.zip」というファイルをダウンロード。展開すると中に入っている「ASIOProxyInstall」というファイルを実行。圧縮ファイルが展開され、さらにその中の「ASIOProxyInstall」をダブルクリックするとインストーラーが起動。任意の場所にインストールする。

ASIO Support 2.1.2というコンポーネントをインストールすると、「foo_out_asio」というコンポーネントがfoobar2000に登録される「foo_input_sacd-0.6.0.zip」をダウンロードしているところ

 続いて、foobar2000側で、「Preference」から設定画面を出し、「Components」を開き、インストールボタンをクリック。「foo_input_sacd-0.6.0」の圧縮ファイルを選択すると、登録が完了する。

 あとは、「Components」から「Output」を選び、「ASIO drivers」内にある「foo_dsd_asio」をダブルクリック。ASIO Driverの項目で「RALdsdha1 ASIO Driver」を、DSD Playback Methodの項目で「dCS Marker 0x05/0xFA」をそれぞれ選択。最後に、「Tools」画面の「SACD」にある「ASIO Driver Mode」をDSDに設定すれば完了だ。

「ASIO drivers」内にある「foo_dsd_asio」をダブルクリックASIO DriverとDSD Playback Methodの項目を設定最後に「Output」の中から、今度は「ASIO:foo_dsd_asio」を選択
DSDファイルを再生しているところ。左下のステータス欄にDSDの情報が表示されている

 先ほどのWASAPIと同じように、「Playback」の「Output」の中から、今度は「ASIO:foo_dsd_asio」を選択すると、DSDのネイティブ再生が可能になる。試しに、ototoyで購入した「横田寛之ETHNIC MINORITY Introducing ETHNIC MINORITY live at Yoyogi」のDSDファイルをfoobar2000に登録、再生してみると、無事に音が出た。左下のステータス欄にもDSDファイルの情報が表示され、DSDを再生している事が確認できる。

 丁寧な手順解説書がネットで公開されているので、それを見ながらゆっくりやれば、難しい事は無い。ただ、PCに詳しくない人がすんなりできるか? と言われると微妙だ。USB DACの最新機種や、DSDファイル再生に興味がある人は、PCにも詳しい可能性が高いので現時点では問題にならないかもしれないが、今後DSD再生が広がっていくのならば、より簡単な設定で再生できるようにする環境整備は必要だろう。

 なお、DSDを再生すると、フロントインジケーターのDSD部分が光る。同時に、PCMインジケーターの176.4kHzも光っている。RAL-DSDHA1は、再生方式にDoP(DSD Audio over PCM Flames)方式を採用しており、PCMの伝送方式を使って、DSDのデータを伝送している。おそらく、2.8224MHzのDSDを伝送している時のデータ量が、176.4kHz/16bitのPCMデータと近いためだろう。なお、RAL-DSDHA1はDSD 5.6448MHzには対応していない。


24bit/192kHzのファイルを再生しているところDSDファイルを再生すると、176.4kHzのインジケーターも光っている


■音質チェック

USBケーブルはクリプトンの「UC-HR」を使用

 設定の説明が長くなったが、音を聴いてみよう。USBケーブルはクリプトンの「UC-HR」を使用。ヘッドフォンはソニーの「MDR-1R」や「MDR-ZX700」、Shureの「SE535」などを使っている。

 まず、e-onkyo musicで販売されている24bit/96kHzや24bit/192kHzのFLACファイルを再生すると、色付けの少ない、素直な中高域と、馬力のある低域がしっかりと感じられる。同社のUSBヘッドフォンアンプは、これまでもストレートで雑味の無いサウンドを特徴としてきたが、それらと比較すると、アンプのパワーが向上しているのがわかる。

 「Eagles/Hotel California」でも、ベースの低域の張り出しや、パーカッションの切れの良い中低音の勢いが「RAL-DSDHA1」では強い。先ほどサイズ比較した「RAL-24192HA1」で聴いてみると、情報量の多さは良い勝負だが、低域が弱く感じられる。「RAL-DSDHA1」は音量を上げなくても、ドッシリと腰の座った再生音で、音楽に安定感や余裕、ある種の貫禄が感じられる。「Kenny Barron Trio」から「Fragile」を再生すると、ルーファス・リードのベースの沈み込みが、「RAL-DSDHA1」の方が大幅に深く、ズシンと地を這う。

 出力は39mW×2ch(600Ω)であり、大型ヘッドフォンでもしっかりドライブできるだろう。ドライブ力が弱いアンプではなかなか低域が出てこないAKG「K172 HD」も繋いでみたが、芯のある低音をしっかり出せていた。

 DACは、DSDとPCMのどちらもダイレクトに処理できる、Wolfson製「WM8742」が使われている。また、2個の独立した高精度水晶発振モジュールを内蔵しており、22.5792MHzと24.576MHzで、生成した低ジッタのクロックを直接DACに供給している、再生する音楽データのオリジナルサンプルレートに合わせて水晶発振モジュールを使い分けているわけだ。

 この効果によるものか、高域の描写も細かい。「坂本真綾/トライアングラー」を再生すると、キレが良く、ヴォーカルのサ行の裏側にも、細かな音がある事がわかる。「MDR-1R」と「MDR-ZX700」で聴き比べると、「MDR-1R」のトランジェントの良いサウンドと良くマッチする。

 全体的には、色付けの少ない、マニア好みのサウンドになっている。ただ、エージングにもよるとは思うが、高域の描写が素のまま過ぎて、少し硬質で、かさついた印象も受ける。もう少し艶っぽさがあっても良いかもしれない。欲を言えば音場の奥行きの深さももう一声欲しい。ただ、ハイレゾファイルの情報量を沢山聴き取りたいというニーズには、音像が近めで、細かな音が聴き取りやすい方がマッチするだろう。

 DSDを再生すると、印象が変わる。ハイレゾのPCMは、音像の輪郭や、弦楽器の弦の動きなど、細かな情報をむき出しにして「こんなに細かい音も入ってます」とアピールして来る印象だが、DSDではアナログっぽく、優しいサウンドになる。だが、ナローというわけではなく、聴き込むと細かな音がしっかりと含まれているのがわかる。

 「横田寛之ETHNIC MINORITY Introducing ETHNIC MINORITY live at Yoyogi」は、ハイスピードなJAZZだが、ウッドベースの小刻みな低域をしっかり押し出しつつ、サックスのメロディーラインと、乱れ打ちされるドラムのビートも埋もれず聴きとれる。PCMの時よりも質感が豊かで、ボリュームを上げていってもサックスの突き抜ける高音が耳に痛くない。

 なお、DSDとPCMのファイルを同じプレイリストに登録し、混在再生させている際、独自のソフトウェア制御により切り替えノイズを抑えているというのも特徴だ。確かに目立ったノイズは感じない。ただ、テストした環境によるものかもしれないが、稀に異なるフォーマットのファイルを再生する時、一瞬音が出て、消えて、またすぐに音が出るという事があった。「あれ?」と思って頭に戻って再度再生すると普通に再生できるので特に問題は無いが、他の再生ソフトを試してみても良いかもしれない。




■まとめ

 最近登場したライバルモデルとしては、ティアックのDSD対応で、32bit/384kHz PCMもサポートするUSB DAC「UD-501」(115,500円)や、DSD再生/変換ソフトの「AudioGate」と組み合わせて使うコルグの「DS-DAC-10」(オープン/実売5万円前後/1,000台限定)などになるだろうか。β版ファームだが、DoPでDSDのUSB経由再生を可能にしたフォステクスの「HP-A8」(105,000円)もライバルと言えるだろう。

 「RAL-DSDHA1」は、実売で6万円を切る価格と、アンプの高いドライブ能力、本体の薄さなどが魅力になるだろう。PCMのハイレゾ配信と比べると、DSDの配信はまだ少なく、現時点では“オマケ”的な機能になるかもしれないが、USB DACとしての基本性能の高さを加味すれば、将来的にDSD配信がより盛んになっても対応できる“安心機能”と言い換える事もできる。購入者向けに、e-onkyoからDSD音源がプレゼントされるキャンペーンも2013年3月31日まで実施されているようなので、これを機に、DSD再生にチャレンジしてみるのも面白いだろう。


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ラトックシステム
RAL-DSDHA1

(2012年 11月 22日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]