レビュー

iPhoneで屋外から自宅の録画番組視聴、ソフトバンクBB「エリアフリー」を試す

 ソフトバンクBBが25日から発売する「エリアフリー 録画対応デジタルTVチューナー」(SB-TV04-WRIP)は、屋外のiPhoneやiPadから、自宅で受信&録画したテレビ番組を視聴できるようにする製品だ。これまではワンセグで受信したり、自宅で録画した番組をレコーダなどから端末に転送してから出掛ける手間が必要だったが、インターネット経由で自宅のチューナと接続できれば、これほどシンプルな話はない。1つの夢を実現した製品と言えるだろう。

 25日に発売される「SB-TV04-WRIP」は、ソフトバンクのスマートフォンなどの周辺機器ブランド「SoftBank SELECTION」の1つとして販売されるもので、価格はオープンプライス。直販価格は19,800円となる。

 外観を見てピンと来る人も多いと思うが、2011年に発売された「デジタルTVチューナ」や、昨年発売の「録画対応デジタルTVチューナー」に続く新モデルで、視聴専用機から、USB HDDを接続しての録画対応へと進化し、今回ついにインターネットを介した伝送を可能にしたという形だ。開発は従来と同じくピクセラ製だ。

 そのため、セットアップ方法や本体の使い方は、従来製品と共通している部分が多い。以前のレビュー記事や、小寺信良氏の「週刊 Electric Zooma!」なども参照していただきたい。

「エリアフリー 録画対応デジタルTVチューナー」(SB-TV04-WRIP)
縦置きも可能だ
背面



DTCP+は使わず独自の暗号化でネット伝送

 SB-TV04-WRIPは、地上/BS/110度CSデジタルの3波チューナを内蔵している。受信したテレビ番組を、iPhone/iPadでの視聴用に、リアルタイムで解像度やビットレートを落としながら、独自の暗号化をほどこし、無線LANで再送信。それを、iPhone/iPadで受信し、専用アプリで視聴するというのが、基本的な仕組みだ。

 新モデルの特徴は、従来は家庭のLAN内にしか伝送できなかったものが、インターネット経由でも伝送できるようになり、屋外や旅行で宿泊しているホテルなど、自宅以外の場所でも受信できるようになる。

模式図

 このネットを介した視聴を実現するためには、前述のように、独自の暗号化によるコンテンツ保護が行なわれている。なお、同様に、インターネット越しのDTCP-IP接続を可能にする新機能群「DTCP+」が登場しており、アイ・オー・データ機器とバッファローが対応のNAS(LAN HDD)の開発表明を行なっているが、今回の「SB-TV04-WRIP」では、DTCP+は使われていない。いずれにせよ、2013年は“ネット経由での自宅のテレビ視聴”が可能な製品が続々と登場する1年になると見られ、SB-TV04-WRIPは、その口火を切るモデルと言えるだろう。



ネット伝送のため、ルータと接続

 ネット経由での視聴の前に、セットアップ方法を簡単に紹介しよう。本体の動作モードは、チューナとiPhoneをダイレクトで接続する「スタンドアローンモード」、チューナとルータをLANケーブルで接続してチューナの無線LANに接続する「APモード」、チューナとiPhoneがそれぞれ無線LANでルータに接続する「STモード」が選択できる。

【APモード】
チューナとルータをLANケーブルで接続するAPモード。チューナをアクセスポイントとしても使う機能で、iPad/iPhoneは常にデジタルTVチューナと接続。テレビの受信と同時に、ネットへのアクセスも可能になる
【STモード】
iPad/iPhone、チューナがそれぞれ無線でルータに接続するモード。iPad/iPhoneではテレビを受信しながら、ネットへの接続も可能になる。デジタルTVチューナとルータが離れており、LANケーブルで接続できない時に便利なモード
モード選択画面

 「スタンドアローンモード」は、ルータと接続できないので、テレビ視聴とネット通信が両立できないほか、インターネットに伝送する事もできないので宅外視聴も不可となる。よって、新製品の持ち味を活かすためには「AP」か「ST」モードで利用する事になる。まず、編集部内にあるルータとチューナを有線LANで接続。APモードで利用してみた。

 受信端末としては、iPhone 4Sを使用した。対応製品はiOS 5.1/6.0を搭載した、iPhone 4/4S/5、第2~4世代iPad、第5世代iPod touch。ただし、iPhone 4では視聴が可能なものの、動作が不安定な場合があるという。

アプリ「エリアフリ―TV」(StationTV i)

 アプリは「エリアフリ―TV」(StationTV i)というものが、App storeで無償公開されているので、これをダウンロードする。なお、このアプリでは、ユーザー宅のLAN環境をテストし、伝送速度なども含め、チューナが利用可能な環境かどうか、宅外配信ができそうかどうかをチェックするツールとしても使用できる。購入を検討している人は、その前にアプリをダウンロードしてテストしてみた方が良いだろう。

 アプリを起動すると表示される「かんたん接続設定」に進み、「Wi-Fi設定」の中の「自動」をオフにして、動作モードから「APモード」を選択。IPアドレスの取得を「自動取得」にして「決定」をタップ。メッセージに従ってアプリを終了させ、チューナのACアダプタを一度抜いてから再起動する。

 次に、iPhone自体のWi-Fi設定に進み、チューナ内蔵の無線LANアクセスポイントへと接続する。接続時のパスワードは本体のシールに記載されている。接続できれば設定はほぼ完了。「エリアフリ―TV」アプリを起動し、製品同梱の紙に書かれているプロダクトコードを入力してアクティベーションをすれば、チャンネルスキャンを経てテレビ視聴が可能になる。



いよいよ宅外受信! ……のはずが

 外に出る前に、編集部内の無線LAN環境でテレビを見つつ、基本操作をおさらい。基本操作は従来モデルと同様で、画面を横にフリックすると、チャンネルリストがオーバーレイ表示される。横にフリックしていくとチャンネルと放送中番組情報が次々と表示され、好きなものをタップすると、その放送局に選局。横だけでなく、上下にもフリックでき、地デジからBS、110度CSの放送も選択可能。外付けHDDを接続していれば、録画番組もこのメニュー内に現れる。

 また、メニューが表示されていない状態で画面をタップすると、音量スライダーが登場。素早いボリューム調整が可能だ。また、端末を縦向きにすると、上部にテレビ、下部にブラウザを表示する「ながら見モード」となり、文字通り、テレビをみながらネットサーフィンができる。

編集部内でLANに接続した環境では、無事受信が可能
画面を横にフリックすると、チャンネル変更、放送波変更が可能。録画番組にもここからアクセスできる
画面をタップすればボリューム調整。録画ボタンも備えている
選局中も番組名が表示される
下部にブラウザを表示できる「ながら見モード」

 APモードでLAN環境で接続した場合のレスポンスは、タスクからアプリを消した状態から、アプリを起動し、テレビ画面が表示されるまでが約13秒、チャンネル切り替えが約6秒だ。チューニング中も画面に番組名が表示されるので、あまり待たされる感覚は少ない。

 ではいよいよ外に出てみよう。その前に、宅外受信用の設定をする必要がある。アプリのチューナ設定の中にある「外出先で使用する」を「オン」に変更しておく。チューナ側の準備はこれで終わり。受信するアプリ側は、外に出てから無線LANに接続し、アプリから視聴する際に、アプリの「接続設定」から「リモート接続(デフォルトはローカル接続)」を選ぶと、接続可能になる。帰宅した時は「ローカル接続」に戻す形だ。

無線LANに接続されていないと、宅外受信はできない

 まずは屋外受信を試してみよう。テレビの受信は3GやLTE通信で使う事はできないので、無線LANに接続する必要がある。だが、屋外ではどこにでも無線LANがあるわけでもないので、イー・モバイルのポケットWi-Fi(D25HW)を用意。裏ワザ(?)的な使い方になってしまうが、iPhoneからは無線LAN接続に見えているので、これでも受信可能なはずだ。

 なお、仕様によれば、快適に利用するためには、チューナが接続するネットワークの上り回線、iPhone/iPadが接続する下り回線、どちらも1Mbps以上の帯域が必要とのこと。D25HWはHSDPA(下り最大7.2Mbps)対応なのでスペック的には大丈夫だろう。

ポケットWi-F経由で接続……できない

 しかし、ポケットWi-Fiに繋いで編集部内のチューナと接続しようとしても、繋がらない。「チューナを探しています」という表示が続くだけだ。諦めて、別の無線LANに接続しても繋がらない。

 こうなると、編集部内のルータから、アップロードがうまくできていない可能性がある。戻ってアプリからテストを実行してみると、案の定「外出先からは利用できません。現在の環境では利用できません」、「視聴に必要な通信速度が不足しています」など、散々な結果が。この結果からは何か問題なのかわからないが、会社のLAN環境なので、一般家庭のそれとはかなり違っているためだろう。通信速度も十分あるはずだが、不足という結果が出ているのは、そもそもアップロードができていないのかもしれない。

編集部のネット環境をテスト、なんだか散々な結果が……



自宅でテストしたら、無事成功!

自宅環境をテスト。今度はなんとかなりそう

 編集部でのテストを諦め、チューナを持ち帰り、自宅の光回線で試してみた。ただ、自宅はルータの場所と、テレビのアンテナ端子が離れた場所にあるため、有線LANでルータとチューナを接続する「APモード」は利用できない。そこで、無線LANでチューナとルータを接続する「STモード」にしてテストしてみた。

 まず、自宅のネットワーク環境をテスト。すると、「外出先から利用できる可能性があります」、「視聴に必要な通信速度は、ほぼ問題なくあります」という結果が。「利用できる可能性があります」という表現が引っかかるところだが、とりあえず家の外に出てみた。

 ポケットWi-Fiを文字通りポケットに入れ、ゆっくり歩きながらアプリを起動すると、しばしの後、接続成功! 無事にテレビの画面が表示された。外にいながら、家の中のチューナにアクセスし、その映像を見られるというのはワクワクする感覚だ。外付けHDDに録画してある番組も再生できる。

 視聴画質は高画質(1,280×720/約4Mbps)、標準画質(720×405/1.5Mbps)、低画質(320×180/800kbps)、低速回線用画質(320×180/300kbps)から選択できる。標準や低画質で受信しながら、自宅から最寄り駅まで歩いてみたが、映像は途切れず視聴できた。

無事に宅外から視聴に成功! 歩道橋の上でもテレビが見られる
画質は4モードから選べる

 高画質に変更すると、5秒ごとくらいに映像が引っかかり、滑らかに再生できない。低速回線用画質では極めて安定した表示が可能。漢字のテロップなどがやや潰れるが、番組の内容を把握するには十分な画質。フレームレートは30fpsが維持されているので、スポーツなどもワンセグより滑らかで見やすい。

 立ち止まってチャンネルを変更。タップから映像が切り替わるまで、標準画質で約9秒、低画質で約8秒と、あまり違いはない。起動までの時間も計ってみる。タスクからアプリを削除した上で、再度アプリを起動させると、「チューナを探しています」という表示が約36秒続き、そこからチャンネル名と番組名が表示(つまりチューナとの接続に成功)。その表示が12秒ほど続き、合計48秒でテレビ画面が表示された。

 ディスプレイを凝視していると長く感じるが、アプリをタップして、イヤフォンからテレビの音が聞こえたらディスプレイに目を向ける……というくらいの使い方が良さそうだ。

 筆者のiPhone 4Sはソフトバンクだが、街中で「ソフトバンクWi-Fiスポット」の無線LANをキャッチ。アンテナが3本立つところに立ったままテストしてみた。チャンネル変更は約8秒、アプリ起動はチューナ接続まで約37秒、番組表示までは約47秒と、ポケットWi-Fiとほとんど変わらない。

ソフトバンクWi-Fiスポットに接続完了
ポケットWi-Fiとあまり変わらない

 ポケットWi-Fiでは途中で引っかかる高画質モードは、滑らかに再生できるだろうと試してみたが、やはり5秒ごとに引っかかる。つまり、ダウンロード回線が遅い&不安定なわけではなく、自宅のチューナからルータへの無線LAN接続、もしくはルータからインターネットへのアップロード速度がネックになっているのだろう。

 こうした経路各部のスピードをアプリからモニタリングできるわけではないので、安定受信ができない場合、どこが悪いのかが判断できないところが悩ましい。それゆえ、対策としては、“最良の環境を準備する”事に尽きる。家ではなるべくアップロード速度が早い回線を使い、ルータとチューナは有線LANで接続。外で視聴する場合は、喫茶店や駅のホーム、ホテルの部屋などで無線LANを使うか、LTEなどの高速通信対応のモバイルルータを使うなどだろう。

 ただ、テストした限りでは、高画質モードにこだわなければ、LTEでもないポケットWi-Fiや、街中の無線LANで安定した視聴ができたので、実用性は高いと感じる。レスポンスには相応の時間がかかるので、「サッと取り出してサッと観る」という感じにはならないが、なかなか電車が来ない駅のホームで、気になるスポーツの試合を観るとか、喫茶店でリラックスしながら、録画しておいた番組を観るといった使い方は十分可能だろう。



録画予約もダイレクト

 外付けHDDをチューナに接続すれば、録画も可能。ダブルチューナになっているので、裏番組録画も可能だ。

 予約録画はGガイド・テレビ王国からの予約に加え、チューナのEPGを使った予約も可能。LAN内で使っている時と、宅外から視聴している時で、ほぼ同じ操作を実現しているので、宅外からもEPGをスクロールしながら予約録画ができる。

iPhoneでEPGを表示しているところ
EPGから予約録画も可能
iPad miniからEPGを表示しているところ

 Gガイド・テレビ王国を利用する場合は、チューナが定期的にテレビ王国のサーバーにアクセスし、予約指令を確認してから録画するというシステムになっているため、ユーザーが予約してから、それがチューナに反映されるまでタイムラグが発生する。

 しかし、宅外からアクセスし、EPGで予約する場合は、チューナのEPGを遠隔操作して録画予約をしているので、ダイレクトな操作ができる。同時に、「しっかり録画予約ができた」事が目に見え、安心感もある。

 一方で、不安定な回線で宅外から接続している場合は、その影響も受けてしまい、EPGのスクロールが滑らかに動かず、途中で止まってしまったりする。そういった場合はテレビ王国を利用するなど、使い分けると良さそうだ。

チューナとデザインをマッチさせた専用の録画用HDD「SB-HD01-ORST/WH」も用意。容量は500GB
USB接続だが、中身はiVDRを採用しているので、HDD容量が一杯になったら、カートリッジ交換でさらに録画できる
HDD付属のプレートで、チューナとくっつけて縦置きも可能
チューナとUSBで接続しているところ

 宅外から、自宅のチューナ&録画番組を視聴できるというソリューションは、実際に体験してみるとやはり非常に便利だ。アナログ放送時代に「ロケーションフリー」などが実現していた事が、デジタル放送でも可能になっただけという見方もできるが、現在ではスマートフォンやタブレットが普及したという大きな環境的変化もある。テレビ番組の視聴スタイルを、また新しい方向に広げてくれる製品と言えるだろう。

 レスポンスなどの面で、さらなる改善も望みたいが、まずはiPhoneでの宅外視聴を実現した製品の登場を歓迎したい。独自の暗号化や、これまでのiOS用チューナの開発ノウハウなど、ピクセラによるこれまでの技術が結集したモデルでもあり、ワンセグチューナを内蔵していないiOS機器で、まっさきに実現した事にも大きな意義があるだろう。

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山崎健太郎