レビュー
BA最大4基搭載。オーテク新イヤフォン4機種を聴く
見た目は地味でも高音質。リケーブルも可能に
(2013/11/26 10:00)
オーディオテクニカが、バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバを搭載したモニター用イヤフォンの新モデルとして、11月15日から4機種を一気に発売した。4基のドライバを内蔵した最上位モデル「ATH-IM04」など、音質面で注目の製品であると同時に、4機種とも専用端子によるケーブル着脱に対応したのも新しいポイントだ。今回は4機種を一気に聴いてみる。
価格は全てオープンプライス。店頭予想価格は4ドライバ搭載「ATH-IM04」が6万円前後、3ドライバ「ATH-IM03」が4万円前後、2ドライバ「ATH-IM02」が2万円前後、シングルドライバ「ATH-IM01」が15,000円前後となっている。
モデル名 | ATH-IM04 | ATH-IM03 | ATH-IM02 | ATH-IM01 |
店頭予想価格 | 6万円前後 | 4万円前後 | 2万円前後 | 15,000円前後 |
搭載ユニット | 高域×1 中域×1 低域×2 | 高域×1 中域×1 低域×1 | 中高域×1 低域×1 | フルレンジ×1 |
再生周波数帯域 | 15Hz~20kHz | 18Hz~18kHz | 20Hz~16kHz | 20Hz~15kHz |
インピーダンス | 14Ω | 34Ω | 36Ω | 47Ω |
落ち着いたデザイン
4機種に共通するデザインの特徴は“色味”だ。一見すると濃い茶色だが、いずれも内部が透けて見える半透明仕様。IM01とIM03の2機種が透明度が高く、内部パーツがよく見える。IM02とIM04は写真で見ると半透明ではないように見えるが、実際はわずかに内部が透けて見えている。角度によって見え方が変化するため、単色で塗られたものより高級感がある。色味や透明具合は、どことなくShureのSE535を連想させる。
ハウジングの形状は、IM01とIM02、そしてIM03とIIM04で同じに見える。IM01/02のハウジングを少し膨らませて、丸みが強くなったような形状がIM03/04だ。
内部にはそれぞれBAドライバを内蔵。マルチウェイタイプのモデルは、帯域分割用のネットワークも内蔵している。ドライバから出た音は、ノズル(導管)を通って耳穴へと音を出すが、IM01/02では、このノズルがホーンのように広がっているのが特徴。「アコースティック・ホーン」と名付けられた機構で、音響放射抵抗を減らし、音の伝搬効率をアップさせ、より繊細な音が出せるという。
ケーブルは全モデル着脱可能で、2ピンの専用端子を採用している。2ピンと言っても、 Ultimate Earsの「TripleFi 10」などで使われているものではなく、ピンの幅が狭いタイプだ。
断線時に交換が気軽にできるだけでなく、別売ケーブルを使って音の違いを楽しむ事もできるのでリケーブル対応は歓迎したい。ただ、できれば現在採用イヤフォンが増加しているMMCX端子にして欲しかったところ。なお、専用端子のホールドは一般的なMMCXコネクタと比べ強固で、何かのはずみに抜けるといった心配はしなくて良さそうだ。
いずれのモデルも、耳掛け式の装着が可能で、耳裏に垂らす部分のケーブルにはワイヤーが入っており、形状の固定ができる。
装着感は良好
4機種とも、なんと形容したら良いかわからないようなカタチをしているが、実際に装着してみると意外なほど耳にすんなり収まる。ハウジングの外面が平らになっているIM01/02も、耳に触れる内側はラウンドフォルムになっているので、耳が痛いという事もない。
大きさとしてはIM03/04の方が大型だが、いずれのモデルも、ケーブルを除いた重量はIM01/02が約5g、IM03/04が約8gと大きな違いは無いので、上位モデルの方が抜けやすいという印象も無い。イヤーピースはシリコンのS/M/Lサイズと、コンプライフォームのMサイズを同梱する。シリコンのサイズがマッチせず、抜けやすいという人はコンプライフォームのタイプを使ってみると良いだろう。体温でイヤピースの素材が柔らかくなり、耳の内側に圧迫することなく密着する。
音を聴いてみる
ハイレゾ対応ポータブルプレーヤーのAK120を用いて、4機種を聴いてみる。
●ATH-IM01
まずは最も低価格(実売15,000円前後)なフルレンジのIM01だ。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生すると、フルレンジとは思えない、シッカリとした低域に驚く。アコースティックベースの「ヴォーン」という量感が豊かで、「フルレンジBA=高域寄りのスカスカした音」という従来のイヤフォンのイメージを良い意味で覆してくれる。
また、冒頭のギターの音と、ヴォーカルの音色に注意して聴いてみると、ギターの弦の硬質な音と、女性ヴォーカルの温かみのある音の質感の違いがキッチリ描きわけられている。BAイヤフォンでは音が硬質になりすぎて、ギターも人の声も全部が金属っぽい響きで包まれてしまうものもあるが、IM01はBAらしい高解像度な音を出しつつも、まったりとした響きはそのままで、カリカリし過ぎず、ちゃんと“まったり”描写してくれる。フルレンジドライバなので高域から低域まで音の繋がりも自然であり、ぼんやり聴いているとBAというより、よく出来たダイナミック型イヤフォンを聴いているような気分になる。
もちろん、欲を言えば高域をもっと伸ばして欲しいとか、低域の沈み込みを深く、迫力も増して欲しいという欲求も出てくる。だが、これはこれで非常にうまくまとまったサウンドで、特に文句のつけどころが無い。「BAの解像度が欲しいけれど、響きは自然で、バランスの良いイヤフォンを低価格で手に入れたい」という人にオススメできる。
●ATH-IM02
お次は「IM02」。ユニット構成は中高域×1、低域×1の2基だ。「IM01」で「もうちょっと欲しい」と書いた低音が、「IM02」では「ズシン」と深く沈むようになる。ベースの音がドッシリと音楽を支えてくれるので、安定感と凄みが出て来た。
特筆すべきは、それでも中高域が“負けない”事だ。これまでの経験上、4機種や3機種のマルチウェイBAシリーズにおいて、真ん中のモデルは、高域寄りだったり、低域寄りだったり、どちらかに偏ってしまう事が多いのだが、IM02はそれに当てはまらない。低域の再生能力がアップしても、中広域の抜けの良さは確保されており、ゆったりとした重いベースをバックに、しっかりとクリアなヴォーカルを聴き取る事ができる。
非常に良く出来ているが、1つだけ気になるのは2つのユニットの繋がりだ。フルレンジのIM01は、低域と高域の音の繋がりがナチュラルだったが、IM02はパワフルになった低域と、ヴォーカルの中高域がそれぞれしっかり主張する一方で、両者の間に谷間が見える。重要な音はキッチリ耳に届けてくれるのだが、そこがポイントとなって周囲に広がる響きや余韻など、弱い音が聴き取りにくい。わかりやすく良い音ではあるのだが、モニターライクとはちょっと違う。繊細か派手目かと言えば、派手目なサウンドだ。
●ATH-IM03
こうなると気になるのは、上位モデルの「IM03」がどんな音になっているかだ。ユニット構成は高域×1、中域×1、低域×1の3基となる。
一聴して「お見事」と言いたくなる。「IM02」で谷間が見えると言ったバランス面の凸凹感が、IM03ではまったく無く、低域から高域まで、ナチュラルに繋がる。どこかの帯域が強く主張するのではなく、音楽全体がバランスよく耳に入る。まさにモニターライクな音作りで、こちらの要望を見越して作られているかのようでニヤニヤしてしまう。
全体のバランスが良いだけでなく、レンジも拡大。低域がより深く、高域の伸びもより高くなる。派手目なIM02と比べ、悪く言うと“真面目で大人しい”音に聴こえるのだが、それゆえ楽器の質感の違い、声の細かな表情がじっくり聴き込める。e-onkyo musicで配信がスタートした、ランティスのハイレゾ・アニソンから、ラブライブ!の「僕らのLIVE 君とのLIFE」を、16bit/44.1kHz(CDリッピング)と、配信の24bit/48kHzで聴き比べてみたが、24bit/48kHzではヴォーカルの声の質感がCDより遥かに豊かであるのが良く分かる。
可愛い女の子の声も、沢山集まってワイワイやられると何がなんだかわからなくなり、1つの“高い声”にまとめて聴こえてしまったり、単にうるさく感じてしまう。だが、ハイレゾの情報量だと、高い音がキツくなく、シットリ感が出て、個々のキャラの声の表情の違いが聴きわけられる。こうなると、音楽が俄然面白くなる。IM03では、そうした細かな描写もキッチリ聴き分けられる再生能力がある。
他社製品として、先程カラーが似ていると言ったShure「SE535」(実売約4万円)と、価格が近い「IM03」の比較もしてみよう。
オーディオテクニカのIMシリーズ全般に言える事だが、BAドライバではあるものの、音色が硬質になり過ぎず、ナチュラルで響きの自然な音が出ているので、IM03を聴いた後でSE535に変更すると、音が硬く、金属質に感じる。SE535はカリカリに高解像度な、いわゆる“BAイヤフォンらしい”サウンドだと言い換える事もできる。個人的には、音色の自然さに加え、低域の沈み込みの深さ、音場の広さなども含めてIM03の方が好ましく感じた。
●ATH-IM04
「IM03」をずっと聴いていると、もうこれで十分かなという気もしてくるが、「IM04」に交換してみる。今度は高域×1、中域×1、低域×2の4基構成だ。
低域ユニットが2個になっている事から想像できるように、実際の音も低域がより深く沈み、量感も豊かになる。驚くべきは、それでもバランスが崩れない事だ。IM02もそうだったが、低域がパワーアップしても、中高域のクリアさは維持……というよりむしろ抜けが良くなる。音色のナチュラルさにも磨きがかかり、よりリアル。IM03とIM04を交互に聴くと、IM04のヴォーカルの方が付帯音が少なく、人の声がより自然だ。これだけ豊かな低域と、ナチュラルな中高域が同居しているのは見事だ。
ただ、人によっては低域がちょっと強すぎだと感じ、IM03の方が好みだという場合もありそうだ。だが、IM04のパワフルさと繊細さが同居した“上位モデルらしい貫禄”は魅力的だ。モニターライクでスッキリした音を求めるならIM03、それだけではつまらない、リッチさやパワフルさも欲しいと言うならIM04という選択になりそうだ。2万円の価格差をどうとらえるかも悩ましいところだ。
まとめ
価格に対する印象は人それぞれだが、音質と価格のバランスを考えると個人的には「IM03」が一番の注目モデルだと思う。だが、「IM04」を聴いてしまうと、こちらの方が“旨味”が多いので唸ってしまう。まだ発売されたばかりなので、今後2機種の価格が動き、価格差が縮まってくると悩ましい選択を迫らせそうだ。
シリーズ4機種全体を振り返ると、IM01とIM02も不満点は少なく、各価格帯で、それぞ存在感を発揮できるイヤフォンだと感じる。ダイナミック型とBAのハイブリッドだとか、奇抜な形状だとか、そういった目立つポイントは少ないが、どれを選んでも満足度・完成度の高い新シリーズだ。
ATH-IM04 | ATH-IM03 | ATH-IM02 | ATH-IM01 |
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