レビュー
“ハイレゾ時代の頼れる相棒”e-onkyo music対応NASを試す
「寝ている間にアニソン自動DL」が便利
(2015/1/23 09:50)
ハイレゾ配信サービスが盛り上がり、再生対応機器が増加している。好きな音楽をより良い音で楽しめるのはオーディオファンとして嬉しい事だが、実際に“ハイレゾ生活”に突入してみると、2つの大きな問題が持ち上がる。ハイレゾ楽曲はデータサイズが巨大であるため“どこに保存するのか”、そして妙に聞こえるかもしれないが“いつダウンロードするのか”という問題だ。
そして、この問題をシンプルに解決してくれるe-onkyo music対応のNAS(ネットワークHDD)の新製品「HS-210-ONKYO-2T」を使ってみる。導入してみると、問題の解決だけにとどまらない、「ハイレゾ配信時代のNASってこういうものか」とスッキリできる製品になっている。
ノートPCにハイレゾデータって入らなくない?
SACDで高音質盤として人気があり、私も試聴ソフトとして使っている「Pure AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS」が、DSD(2.8MHz/1bit)で配信されるようになった。このアルバムの中の「キミガタメ」という曲のファイルサイズは、1曲で230MBだ。例えば、これが10曲入ったアルバムがあったら、約2.3GB。それが10枚あればもう23GBだ。ハイレゾ時代は、MP3で1曲4MBだ、5MBだと言っていた時代と比べると、文字通り桁が違うストレージ容量を必要とする。
まだハイレゾ配信が本格スタートしてから日が浅いので、ほとんどの人は非ハイレゾライブラリが大半、ハイレゾ楽曲は10数曲、多くても数十曲という状態だろう。今だからこれで済んでいるが、近い将来、新たに購入する楽曲がほぼ全てハイレゾになり、古い楽曲のハイレゾ配信も開始され「買い直すかぁ」なんて事になったら、「500GBのHDDが音楽フォルダだけでパンパンになってしまった」なんて事も珍しくなくなるはずだ。
にも関わらず、量販店のPC売り場に行けばわかるが、現在のPCはノートが主流。HDD増設が容易なデスクトップPCは、PCゲーマーなど一部の層に向けた製品になった。しかもノートPCのストレージはSSD化が進んでいるので、128GB、256GBなど、HDD全盛時代と比べて少ない機種も珍しくない。今後タブレット端末が主流になれば、64GBの内蔵メモリに64GBのmicroSDを挿して「もう増やせません」なんて端末がメインになる可能性もある。
USB外付けHDDを買い足していけばノートでもなんとかなるが、音楽を聴いたり、端末で読み出すたびにPCを起動するのはおっくうだ。タブレット端末の場合、そもそもUSB HDDが接続できないものもある。家庭内で使うPCが、音楽を保存する母艦として機能していた時代は終わり、今後はNAS(ネットワークHDD)がその役割を担いそうだ。以前からこの流れはあったが、ハイレゾ配信の本格化が、それを後押しする形になるのだろう。
いつダウンロードするのか
実際にハイレゾ楽曲を購入した人はわかると思うが、意外にやっかいなのがダウンロードだ。ファイルサイズが大きいので当然ダウンロードに時間がかかる。爆速な光回線を使っている人ならあまり気にしないかもしれないが、全ての人がそうではないし、宅内の無線LANを使っている場合は速度はさらに遅くなる。
個人的な話だが、深夜に帰宅して就寝する前のネットサーフィンタイムに「お、欲しかったアルバムがハイレゾ配信開始された」と発見、「寝る前に聴こう」と購入するも、なかなかダウンロードが終わらず、椅子に座ってプログレスバーを眺めているのがバカらしくなり、でも途中まで落としてしまったのでPCの電源を切るわけにもいかず……というもどかしい思いをした事がある。
また、会社にいる時に欲しい楽曲を発見、とりあえず購入手続きだけをして「家に帰ってからゆっくりダウンロードしよう」と思っていたら、すっかり忘れてしまい、後日慌ててダウンロードしたという事もある。
ちなみにe-onkyo musicの場合、DL可能な期間は購入完了から30日間(720時間)と決められている。思い出したのが1カ月以上経ってからだった場合、購入したのにダウンロードできなかった可能性もあるわけだ。
薄型ファンレス、オーディオ機器風デザイン
こうした細かい不満を払拭するNASとして登場したのが「HS-210-ONKYO-2T」だ。特徴は実にシンプルで、「e-onkyo musicでこのハイレゾアルバム買ったから、あとはキミ(NAS)がダウンロードして、保存もしておいて」と、“丸投げ”できる事だ。
発売しているのはオンキヨーマーケティングジャパンだが、NAS自体はQNAP製の、高機能な「HS-210」というモデルをベースにしている。簡単に言えば“HS-210のオンキヨー特別モデル”というわけだ。なお、後述する自動ダウンロード機能に対応しているハイレゾ配信サービスはe-onkyo musicのみだ。
昨年の12月下旬から発売が開始されており、価格はオープンプライス。店頭予想価格は、2TB HDD×1基を内蔵した「HS-210-ONKYO-2T」が9万円前後、HDDをユーザーが別途用意するNASケースのみの「HS-210-ONKYO」も用意されており、こちらは65,000円前後。使っていないHDD(3.5/2.5インチのSATA HDD)が転がっているとう人は後者が良いだろう。今回はHS-210-ONKYO-2Tを使っている。
外観はシルバーで、天面にはヘアライン仕上げのアルミパネルを採用。NASというと“黒い箱”というイメージがあるが(実際に通常のHS-210は黒い)、HS-210-ONKYO-2Tオーディオ機器っぽい雰囲気で、高級感のあるデザインだ。
色味だけでなく、放熱設計を工夫する事でファンレス化し、静音性も実現している。一方で、CPUはMarvell 1.6GHz、メモリは512MBとパワフル。外形寸法は302×220×41.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量は2.1kg(HDD無しで1.6kg)だ。消費電力はスリープ時で7.4W、HDD 2基を搭載した運転時で13.7W。
前面パネルは取り外しでき、2基のHDDスロットを備えている。HS-210-ONKYO-2Tの場合は、片方のスロットにWestern Digital製の「WD Red」2TBモデルが最初から搭載されている。
説明書がシンプル
オーディオに詳しくても、PC周辺機器の設定には自信が無いという人も多いだろう。特にあの分厚い説明書を見るとゲンナリするのは私だけではないはず。だが、HS-210-ONKYO-2Tを開封すると、説明書と言えるのはカラーの紙3枚のみ。しかもスクリーンショットやイラストが大半で、文字があまり書かれていない。このシンプルさには驚きだ。
説明書に従い、ACアダプタやEthernetケーブルを接続。その後、PCからQNAPのサイトにアクセス。「オンラインサポート」の中にある「ダウンロードセンター」のページに移動し、「ユーティリティ」から「Qfinder」というソフトをダウンロードする。ソフトはWindows/Mac/Linuxに対応しているので、ダウンロードの前にOSを選択する。
「Qfinder」という名前の通り、このソフトは、同一LAN内にある「HS-210-ONKYO」を探してくれるソフトだ。一般的にNASにアクセスする際は、IPアドレスや、NASの名前を入力するものだが、そうした方法はPCに詳しくない人にはよくわからないもの。このような専用ソフトがあると心強いだろう。
「Qfinder」を起動すると、さっそく一覧の中にNASが見えているので、名前をダブルクリックすると、ブラウザが立ち上がる。ユーザー名とパスワードを入力するよう求められるが、まだ設定していないので、ここでは初期値の「admin」と入力する。ユーザー名とパスのどちらも「admin」だ。
NASへのログインが完了すると、NASのホーム画面が現れる。今どきのNASにはホーム画面があるのだ。「コントロールパネル」や「Photo Station」、「Music Station」、「バックアップマネージャ」などの機能アイコンが並んでおり、さながらスマートフォン/タブレット端末のよう。昨今では、PCよりもむしろスマートデバイスに慣れている人が多いので、このUIは親しみやすいだろう。
NASの様々な設定はここから可能だが、今回はe-onkyo musicとの連携機能に絞って説明しよう。それ以外の機能は通常の「HS-210」と同じであるため、以前掲載したHS-210のレビュー記事を参照して欲しい。
アプリ追加でハイレゾ対応NASに早変わり
e-onkyo musicとの連携機能を利用する前に、アプリをNASにインストールする。「App Center」にある「e-onkyo music」というアプリがそれだ。インストールが完了すると、ホーム画面にアイコンが現れる。これを立ち上げ、e-onkyo musicのアカウントを入力すると共に、ダウンロードした楽曲をNASのどのフォルダに保存するかを設定する。
さらに「更新スケジュール」という項目もある。これは、前述した「e-onkyo musicで購入した楽曲をいつダウンロードしてくるか?」を決めるもの。1時間、3時間、6時間、12時間、24時間ごとから選べる。
つまり、ユーザーがPCなどを使いe-onkyo musicで楽曲を購入。NASはe-onkyo musicに自らログインし、「ご主人様が新しく購入した楽曲はあるかな?」とチェックして、あった場合、それを自動でダウンロード。NASの指定のフォルダに保存する……というわけだ。
これにより、例えば会社の休み時間にe-onkyo musicにログインし、楽曲を購入すると、帰宅した頃には自宅NASに勝手にその曲がダウンロードされているわけだ。いちいち家のPCを立ち上げたり、PCでダウンロードしたり、落とした楽曲をNASにコピーしたりする手間は一切かからない。
さらに、e-onkyo musicはスマートフォンのブラウザからも利用できる。電車内や移動中などに、忘れてしまう前にとササッと購入、数時間後には自宅NASにその曲が保存されている……という事も可能だ。
自動チェック時間に挙動を観察していたが、予定時間になると自動的にダウンロードがスタート。アプリのタスクウインドウを見ていると、次々とハイレゾファイルがNASに保存され、キチンとフォルダ分けもしてくれる。楽曲だけでなく、アルバム購入特典で動画ファイルなどがオマケで付属する場合は、それも含めて全部ダウンロードしてくれる。
ダウンロード状況の確認や、これまで購入・ダウンロードした曲のリストもしっかりアプリで確認できる。嬉しいのは、トラックナンバー、曲の長さ、ファイルサイズに加え、WAV 48kHz/24bit、DSF 2.8MHz/1bitといった、ファイルの形式も表示してくれるところだ。
また、アルバムアートをクリックすると、e-onkyo musicでそのアルバムを配信しているページにジャンプする。「1曲だけ買ったけど、アルバムの他の曲も買いたくなった」という時に、すぐに購入できるので便利だ。アーティスト名でもジャンプできるとさらに便利だろう。
DLNAサーバー、リモートアクセスを試す
ここまででe-onkyo musicとの連携機能は終わり。ダウンロードしたハイレゾファイルは、エクスプローラーなどから自由に取り出せるので、PCで再生したり、ポータブルプレーヤーに転送したりと、便利に使える。これだけでもNASとして便利だが、せっかくなので、もう一歩踏み込んだ使い方をしてみよう。
NAS用アプリの中に「DLNA Media Server Hotfix for Onkyo」というものがある。名前の通り、「HS-210-ONKYO」で利用できるDLNAサーバーソフトで、オンキヨー製のDLNA対応コンポに向けて、先程購入したハイレゾ楽曲を配信できるようにするアプリだ。
インストール後、コントロール・パネルの「DLNAメディアサーバー」から、サーバー名などを設定。さらに、「Media Library」機能を利用できるようにして、DLNAサーバーとして配信したいコンテンツのあるフォルダも指定しておく。
再生するコンポとして、同じくオンキヨーのCDプレーヤー「C-N7050」(オープンプライス/実売5万円前後)を用意した。このプレーヤーは、Ethernet端子を備えており、DLNA 1.5準拠のネットワークプレーヤー機能も内蔵している。
再生対応ファイルはDSD 2.8MHz、5.6MHzのネイティブ再生、WAV/FLACの192kHz/24bitもサポート。Apple Lossless、WMA Lossless、AAC/WMA/OGG Vorbis/MP3再生にも対応し、radiko.jpやvTunerにもアクセス可能と、低価格ながら高機能なのが特徴だ。
「C-N7050」のリモコンから、NETボタンを押してネットワークプレーヤー機能を起動。サーバーを検索すると、先程「Media Library」で設定したサーバー名が見つかる。後は、アルバムやアーティストメニューに移動すれば、NASの中のハイレゾファイルにアクセス可能だ。音楽ファイルを選んで再生ボタンを押すと、無事音楽が流れだした。
なお、リモコンを使わずに、スマホ/タブレット向けの汎用的なDLNA制御アプリを使えば、より手軽にNAS内の楽曲選択、C-N7050への再生指令ができるだろう。
ここまで、設定にPCは利用しているが、ぶっちゃけ難しい設定は何もない。PCが苦手という人でも、半日あれば大丈夫だろう。また、一度設定してしまえば、スマホやタブレットでe-onkyo musicにアクセスして楽曲を購入、自動的にNASにダウンロードされ、それを「C-N7050」から再生するという一連の流れを、一切PCを使わずに完結させる事も可能になる。
こうなってくると、よりPCレスを推進したいという気にもなってくる。「C-N7050」にはCDプレーヤー機能はあるが、CDをリッピングする機能は無い。CDを再生すると自動でFLACなどにリッピングし、NASのフォルダに蓄積してくれるようなCDプレーヤーが登場しても便利そうだ。
ここまでは“家の中”、つまりLAN内での使い方だが、「HS-210」には宅外からアクセスする機能も備わっている。「myQNAPcloud」というサービスで、アカウントを作成、自分のNASをアカウントに登録(紐付け)すると、宅外から「AVWatch.myqnapcloud.com」などのアドレスにアクセスするだけで、自宅のNASの内部を見たり、設定ができるようになる。UPnPがサポートされていない環境でも、ルータの設定を変更することなくNASにリモートでアクセスできる新アプリ「CloudLink」も、NAS用アプリとして用意されている。
これらを使うと、想像以上に便利だ。例えば編集部でヘッドフォンの試聴などをしている時に、「このあいだ家で購入したハイレゾ楽曲も聴いてみたいな」と思ったら、リモートアクセスして楽曲を編集部のPCにダウンロードすれば良い。
ほかにも、ポータブルハイレゾプレーヤーのストレージメモリが少なく、好きなアルバムが全部入らないという場合、「出社の時に聴き飽きた楽曲をプレーヤーから削除し、家のNASから別の楽曲をダウンロード、会社のPCからプレーヤーに転送し、帰宅時に新しい音楽を楽しむ……」という使い方もアリだろう。
ハイレゾ時代の頼れるNAS
ハイレゾ音楽配信サービスと連携して、自動ダウンロード・保存機能を備えた「HS-210-ONKYO」。機能としてはシンプルで、“痒いところに手が届く”アイデア勝負のような製品ではあるが、実際に使ってみると“ハイレゾ時代のNAS”として想像以上に頼れる存在だ。
また、従来NASは「保存空間は用意するので、好きなモノを入れてください」という受け身の製品だったが、e-onkyo musicに関しては、自分で能動的に動き、新たなコンテンツを増やしてくれるという新鮮味があり、NASの新しい役割、使い方を予感させる製品にもなっている。
e-onkyoだけにとどまらず、他の配信サービスにも対応できるアプリの追加や、音楽だけでなく、例えば映画などのVODコンテンツのダウンロードを自動でやっておいてダウンロードしておいてくれる……そんな製品に成長してくれると、さらに面白くなりそうだ。
(協力:オンキヨーマーケティングジャパン)