レビュー
DSD対応したQNAPのNAS「HS-210」で“ハイレゾ化”計画
静音サーバーとAVアンプで手軽にネットワークオーディオ
(2014/4/8 10:00)
QNAPが2013年12月に発売したNAS「HS-210」が、4月に予定しているアップデートでDSDにも対応する。この製品は家庭向けメディアサーバーという位置付けで、ファイルの保管や静止画・動画ファイルの共有、DLNAサーバーなど、多彩な機能を備えたホームエンターテイメントを集約するストレージシステムだ。
これまでも、「HS-210」が内蔵するDLNAサーバーソフトにより、MP3やWAV、FLACといった圧縮音源やハイレゾ音源の配信にも対応してきたが、「HS-210」に限らず通常のDLNAサーバーは、DSDファイルを配信可能なファイルとして認識しない。このため、「HS-210」では新しいファームウェアとTwonkyMedia Serverを導入することで、DSD配信が可能になる。
ハイレゾオーディオ市場は盛り上がってきてはいるものの、特にDSD絡みとなると対応機器はまだ多くない。そんな中で新たな選択肢となる「HS-210」がどれほどの実力を秘めているのか、DSD再生にフォーカスしてレビューしてみよう。今回、再生にはパイオニアのAVアンプ「SC-LX77」を使用している。
なお、「HS-210」の実売価格は4万円前後。これとは別に内蔵するHDD/SSDが必要だ。
DSD対応でネットワークオーディオ機能を強化した静音動作のNAS
「HS-210」について紹介する前に、まずDSDファイルの再生方法について考えてみる。DSD再生を行なうにはいくつか方法があるが、音源ファイルをUSBメモリなどに入れてオーディオシステムに接続して聴く方法、ポータブルメディアプレーヤーを使う方法、PCとUSB DACを組み合わせる方法、ネットワーク経由で再生する方法、という4種類に大きく分かれるだろう。いずれの場合でも、各機器がDSDに対応していることは必須条件だ。
方法はいろいろあるとはいえ、わずか数分の1曲あたりで200MB、300MBが当たり前のDSDファイルにおいては、将来に渡って安心して楽しめるようにするためにも、できる限り大容量のストレージでファイル管理できるようにしたいところ。そういう意味では、大容量のストレージを実現しやすいNASを活用した“ネットワークオーディオ”によるDSD再生が、宅内においては最も都合の良い手段と思われる。
QNAP Systemsの「HS-210」は、そんなネットワークオーディオに適したNAS製品の1つだ。同社はサーバー向けストレージ製品を中心にラインナップしているが、「HS-210」は、サーバー向け製品で培われた信頼性に加え、1.6GHz CPUと512MBメモリを搭載するという高い基本性能をも兼ね備えたネットワークストレージシステムとなっている。
一般的なNASと同様に、静止画/動画を含むファイルの保管と共有、PCデータのバックアップなどが行なえるほか、iTunesサーバー機能、DLNAサーバ―機能を備える。このうちDLNAサーバー機能を用いた音声ファイル配信により、WAV/FLACフォーマット等のハイレゾ音源はもちろん、前述の通りアップデートによってDSDファイルにも対応する。実務的な用途からマルチメディアプラットフォームとしての使い方まで、幅広い活用方法をカバーし、しかも本格的なネットワークオーディオを支える製品になったわけだ。
筐体デザインはオーディオ製品と並べても違和感のないブラックとシルバーを基調としたカラーリングで、背の低い平置き型。ファンレスであるため、静音動作もウリとしている。この点もオーディオファンにとっては注目したいポイントだ。
外観は小さめのHDDレコーダーといった趣だが、製品はあくまでも“ガワ”のみのため、実際にNASとして動作させるにはストレージを別途用意する必要がある(販売店によってはストレージとセットで提供しているところもあるようだ)。外形寸法は302×220×41.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量は1.56kg。
内部には2台までのSATA HDD/SSDを内蔵できるようになっており、今回は2台の2TB SATA HDDとともに使用した。シャーシにドライブを固定し、前面のパネルを外して奥にあるドライブベイに格納し、あとはLANケーブルとACアダプターをつなげて電源を入れればハードウェアの準備は完了となる。
購入直後は完全な初期状態のため、まずはPCを使って「HS-210」の登録情報を管理するための専用Webサイト「myQNAPcloud」にアクセスしてユーザーアカウントを作成する。アカウント作成後、「myQNAPcloud」経由で自動的に初期ファームウェアのインストールが行なわれ、「HS-210」に搭載したストレージのフォーマットが実行される。
最初に梱包から出して接続し、初期化が終わって使用可能になるまで、ざっくり1時間ほど。ストレージ容量にもよるだろうが、最初だけは使い始めるまでに多少時間がかかる。セットアップ完了後は、ドライブのスタンバイモードや電源オン・オフのスケジュール設定などもポータルページからできるため、いちいち「HS-210」の電源ボタンを操作する必要性は少ない。たとえ完全に電源を切ったとしても数分で起動し、利用準備が整う。
ちなみに、標準の設定でストレージはRAID1(ミラーリング)でフォーマットされ、2TB HDD 2台だと全体で2TB弱が使用可能な領域となる。できる限り容量を確保したい場合は、搭載したストレージ分の容量をそのまま使えるRAID0(ストライピング)でフォーマットし直すのもOK。もちろん1ドライブで運用することも可能となっている。
セットアップ完了後は、「HS-210」の設定ポータルサイトにLAN経由でPCのWebブラウザ、もしくはスマートフォン向けの専用アプリ「Qmanager」(Android/iOS)を使ってアクセスし、「HS-210」がもつ各種機能を利用したり、細かいサーバー設定などを行なえる。今回はまだ一般公開されていない新しいファームウェアと、DSD配信を可能にする最新版のTwonkyMedia Serverを入手し、設定ポータルサイト上でそれぞれ手動インストールして稼働させた。
手間のかかる設定はいらないが、利便性を考えた設定は必要
「HS-210」のDLNAサーバー機能を使って音声ファイルを配信するのに特別な設定は必要ないが、当然ながら別途再生のためのDLNA対応機器が最低限必要だ。今回は、「HS-210」との組み合わせでDSD再生の動作確認が取れているパイオニアのAVアンプ「SC-LX77」を使用した。
「SC-LX77」は、9.2chサラウンドに対応し、DLNA 1.5準拠のネットワークオーディオ、AirPlay、USBメモリからの音楽再生などをサポート。MP3/WMAはもちろんのこと、192kHz/24bitまでのWAV/FLAC/AIFF、96kHz/24bitまでのApple Lossless、そしてサンプリングレート2.8/5.6MHzのDSDをも再生できるという、非常に多機能な製品だ。
こういったネットワークオーディオ機器は本体と付属のリモコンでも一通りの操作は可能だが、最近はスマートフォン向けアプリを独自に用意していることが多い。「SC-LX77」向けにも「iControlAV2013」(Android/iOS)というアプリが用意され、楽曲選択や機器制御が楽に行なえる。また、ネットワークオーディオ機器は通常LAN内のDLNAサーバーを自動検索するため、機器本体の設定も基本的に必要ない。
周辺機器の準備ができたらいよいよ「HS-210」でDSD配信を行なうわけだが、その前にいくつか設定しておきたいところがある。
新しいTwonkyMedia Serverをインストールすると設定ポータルの「App Center」にアイコンで表示されるが、まずはこれが[ON]になっていることを確認する。次に、同じく設定ポータルの「コントロール・パネル」内にある「DLNAメディアサーバー」の設定で、[DLNAメディアサーバーを有効にする]と[TwonkyMedia DLNAサーバーを有効にする]の2つのチェックを外して無効にしておく。
こうすることで、既存のDSD配信非対応のDLNAサーバーを停止し、「HS-210」のリソースを最大限活用できるようになるとともに、再生機器側ではDLNAサーバーを選ぶ際に複数の選択肢が表示されることもなくなり、無用な混乱を避けることもできる。
もう1つ、「HS-210」にコピーした音声ファイルをDLNA配信するには、それらのファイルを“スキャン”して認識させる必要もある。そうしないと、ネットワークオーディオ機器側で音声ファイルを参照できないためだ。
「HS-210」は、指定した間隔で定期的にスキャンできるほか、ファイルを「HS-210」にコピーした瞬間に自動スキャンしてすぐにDLNA配信を可能にする設定もある。すぐに認識させたい場合は、「App Center」にあるTwonkyMedia Serverのアイコン横の[開く]から設定ページにアクセスし、「Advanced」内の「Rescan Interval」を[-1]に設定しよう。
音源ファイルは、PCから「HS-210」に通常のネットワークドライブとしてアクセスし、[Multimedia]フォルダにコピーするか、「HS-210」の設定ポータルにある「File Station」機能を用いてファイルをアップロードする。この「File Station」でのアップロードは、ドラッグ&ドロップが可能なだけでなく、バックグラウンドで処理されるため、Webベースといえど使い勝手は良好だ。
ファイルのアップロード後、ネットワークオーディオ機器側でTwonkyMedia Serverを選んで楽曲を選択すると、曲の再生が始まる。「HS-210」の新しいTwonkyMedia Serverで対応するDSDは2.8MHz(DSD 64)と5.6MHz(DSD 128)。今回動作確認したところでは、DSDIFFとDSFの両フォーマットのファイルを再生することができた。もちろん従来どおりにハイレゾのWAVやFLACなども再生可能だ。
ハイレゾ再生の邪魔にならない静音と感性に訴える音質
驚いたのは、DSDファイルの再生中であっても「HS-210」のHDDのアクセス音がほとんど聞こえないこと。静かな部屋で息を潜めても、本体に耳をかなり近づけない限りHDDの回転するモーター音すら聞こえてこない。繊細な音まで再現するDSD音源を聴くにあたっては、曲とは無関係なノイズの少ないオーディオ環境を作り上げたいものだが、「HS-210」をリスニングルーム内に置いたとしてもなんら支障はなさそうだ。モーターのないSSDを搭載すれば、さらにハイレベルなノイズレス環境を構築できるに違いない。
また、HS-210とSC-LX77によるDSD再生時の音質は、やはり圧巻。艶やかな中高音と伸びやかな余韻は、これまで聞いていたPCM系の音源とは一味違う体験だ。普段iPhoneからMP3をAirPlayで再生して音楽を聴くような環境でも満足している妻に聞かせたところ、「曲がいいのか音質がいいのかはわからないが、とにかくいい」との感想で、こだわりのない人に対しても、感性に訴えかける音質だったようだ。
DSDをはじめ、ハイレゾ音源はとにかくファイルサイズが大きく、データ保管場所の確保が悩みどころだ。少なくとも、カジュアルにというより、音質重視でじっくり聴きたい宅内の据え置きオーディオ環境では、大容量を実現しやすいNASを使ったネットワークオーディオが、今のところ最も有力な選択肢ではないだろうか。
PCを使うため音源ファイルを管理する際の自由度が高いうえに、ネットワークオーディオ機器のほとんどがスマートフォンアプリを用意していることから、操作性の面でもメリットは大きいはず。DSDに限らずネットワークオーディオをこれから始めたいと思っている人、すでに所有しているがストレージのデザインやノイズが気になっている人に、「HS-210」をおすすめしたい。
(協力:テックウインド)