レビュー

新ウォークマン「NW-ZX2」を聴いてみる。AKとも対決。グランド分離出力可能?

 ソニーから2月14日に発売される、ハイレゾ対応ウォークマンの最上位モデル「NW-ZX2」。価格は実売12万円前後と、ZX1(直販75,000円)と比べるとかなり高価だが、市場を見ると約28万円の「Astell&Kern AK240」を筆頭に、より高価なモデルは多数存在しており、ハイエンドポータブルプレーヤーとしては、むしろ購入しやすい価格と言ってもいいだろう。

ウォークマンの最上位モデル「NW-ZX2」

 同じくAndroidベースの下位モデルZX1と比べ、microSDスロットの搭載や、シャーシの強化、Bluetoothの新コーデック「LDAC」の採用、バッテリ駆動時間の大幅な強化など、強化点は多いが、やはり最も気になるのは“音質がどうなのか”という点だろう。

「NW-ZX2」のBluetooth設定画面。LDAC優先、SBC固定が選べるようになっている

 そこで、短時間ではあるが編集部で下位モデルやライバル機種と試聴。そのファーストインプレッションをお届けしたい。なお、製品の詳細についてはニュース記事を参照して欲しい。

ZX1とZX2を聴き比べる

 音質の前に、デザインを見ていこう。ZX2単体を写真で見ると、ZX1とサイズがさほど変わらず、ボディカラーがブラック基調になっただけ……と思うかもしれない。しかし、実際に並べてみると、ZX2の方が一回り大きく、厚みもある。

 そして、サイズよりも違いが大きいのが重量だ。ZX1の約139gに対し、ZX2は約235gと100g近く重い。ハイブリッドシャーシや電源の強化などによるものだが、持ち比べると、ZX2の方がズシリと重い。ブラック基調のカラーと合わせ、“中身がミッチリ詰まった重厚感”があり、高級感にも繋がっているが、重いというのは、普段持ち歩くポータブルプレーヤーとしては歓迎しにくい面もある。重量というトレードオフがありながらも、音質を最優先にしたのがZX2と言えるだろう。

 試聴用に、3Hz~100kHzと、ワイドレンジな再生ができるヘッドフォン「MDR-1A」を用意。まずはNW-ZX2とNW-ZX1を比較してみた。

左がNW-ZX2、右がNW-ZX1

 非ハイレゾの44.1kHz/16bitの楽曲で聴き比べると、バスドラムのトランジェントがZX2では大幅に向上しているのがわかる。低域自体の沈み込みもZX1よりも数段深く、重さとスピードを兼ね備えた低域表現が可能になっている。

 楽曲全体も低重心化しており、安定度が増した。ポータブルに限らず、オーディオ機器では電源まわりを強化すると“ドッシリ感”が出てくるが、ZX1とZX2の大きな違いはこの低重心化にあるといえる。

 低域だけでなく、エレキギターのピッキングのクリアさ、コンガの音の生き生きとした表現、ヴォーカルの艶やかさなど、SN比や質感描写も数段アップしている。細部の向上ではなく、全ての音がクオリティアップしており、その進化幅は、誰でも一聴してすぐわかるレベルだ。

 次に「Linda Ronstadt/What's New」をハイレゾで聴き比べると、空間表現力も大幅に向上しているのがわかる。左右の広さ、奥行きもZX2が深く、静かな音場から、トランジェントの良い音がスッと立ち上がってくる様子が良く見える。ゆったりと押し寄せてくる中低域の量感、ドラムのズシンと沈み込む低音も深い。ZX1に切り替えると、低域が伸びきらず、腰高で、平面的なサウンドに聴こえてしまう。あらゆる面でZX2が上位モデルの貫禄を見せつけている。

AKシリーズとも比較

 約28万円と、さらに高価なプレーヤーである「Astell&Kern AK240」とも簡単に比較した。

左からAK240、AK120II、NW-ZX2、NW-F880

 中高域の分解能の高さは良い勝負だが、低域の沈み込みの深さ、低い音の分解能はAK240に軍配が上がる。音圧の豊かさ、ステージの奥行き、音像の厚みもAK240がやや上手だ。オーケストラなど、音圧豊かなサウンドが「グワッ」と胸に迫る部分などでは、AK240の音作りの上手さやアンプの強力さが光る。

 だが、どちらも自然で色付けの少ないサウンドであり、ZX2はよりニュートラルなバランスの良さを意識して音作りがされていると感じる。女性ヴォーカルやストリングスなどの高域の質感は、両者で肉薄しており、ハイレゾらしいナチュラルなサウンドを楽しむにはどちらも適したプレーヤーと言えるだろう。

左からAK240、AK120II、NW-ZX2、NW-F880

 AK240は倍以上高価なプレーヤーなので比較相手としては本来適当ではない。直接のライバルは、「AK100II」(直販109,800円/税込)、「AK120II」(同208,000円)あたりだろう。

 このAK100II、AK120IIと、「茅原実里/この世界は僕らを待っていた」(WAV/96kHz/24bit)で聴き比べると、高域の質感ではZX2とAK120IIが良い勝負を繰り広げる。AK100IIは音量を上げると、高域の粗さとキツさが目立つ。

左AK120II、NW-ZX2

 低域の沈み込みや安定感では、3機種の中でAK120IIが頭ひとつ抜け出おり、重くて芯のある低域がズシンと出ている。AK100IIとZX2を比べると、ZX2の方が僅かに低域が深く、上手だと感じる。低音に関しては、価格通りの順序と言って良い。

 だが、アンプの出力自体はAKシリーズの方が、ZX2よりも強力であるため、能率の低いヘッドフォンで単純に大きな音を得たいという場合はAK100IIの方が良い。例えば静かな楽曲である「Suara/sakura」(DSD/2.8MHz)をMDR-1Aで聴き比べた場合、ボリューム値はAKシリーズの場合、65程度で十分に大きな音が得られ、最大の75にするとちょっと大き過ぎて耳が痛い。

 一方、ZX2ではフルボリュームに設定しても、うるさいと感じるほどの音量は出ず、AK100II/120IIのボリューム値で例えると、63程度しか音量がとれない。

 DSD再生で違いが現れやすい。もともとPCMとDSDでは、原理的にフルスケール・レベルに違いがあり、DSDの方が音が小さい。DACによっては、内部でPCMの信号を抑えて、DSDに合わせる機能があったり、それをあえて使わず、DSDを3dB低い音のまま出力するようなマランツのようなメーカーもある。

 ZX2の場合は、「DSD再生設定」という項目の中にゲイン選択があり、推奨の「-3dB」と、「0dB」(PCMと同レベル)が選べる。試聴は推奨の「-3dB」で行なっているが、これを0dBにすると音量不足感は僅かに改善される。だが、全体的にもう少しパワフルさが欲しいというのが正直なところだ。もっとも、これは組み合わせる楽曲やイヤフォン/ヘッドフォンによっても変わってくるだろう。

DSD再生設定画面

 なお、ZX2は新たに5.6MHzのDSDファイルも再生できるようになったが、DSD再生はネイティブではなく、PCMへの変換再生となるのはZX1と同じだ。しかし、ZX2は、この変換再生の音質が秀逸だ。

 設定画面において、質感重視の「スローロールオフ」、メリハリのある「シャープロールオフ」が選べるのだが、スローロールオフのサウンドが、PCMに変換していると思えないほど滑らかで、DSDらしいアナログっぽいサウンドが楽しめる。言われなければネイティブ再生だと思い込んでしまうだろう。最上位モデルながら、DSDネイティブ再生ができないのは残念ではあるが、そうした不満も薄れる完成度だ。

実はグランド分離出力対応?

 他社のハイレゾプレーヤー、特にAstell&Kern AK240/AK120II/AK100IIとスペックを見比べた場合、気になるのはバランス駆動だろう。ご存知の通り、AK240/AK120II/AK100IIにはバランス駆動用に、4極のミニミニ出力を備えており、対応ケーブル&イヤフォン/ヘッドフォンを用意すれば、外部アンプを使わず、バランス駆動が楽しめるというステップアップの余地がある。

 一方、ソニーのポータブルバランス駆動と言えば、昨年発売されたポータブルアンプ「PHA-3」(約93,000円)が思い浮かぶ。このアンプは、バランス接続用として、3.5mmの3極×2本端子を用意。この端子に対応したケーブルを使い、「MDR-1A」と「MDR-Z7」という2つのヘッドフォンをバランス駆動できるようになっている。

ポータブルアンプ「PHA-3」

 ZX2のヘッドフォン出力を見ると、ステレオミニ×1のアンバランス端子しか用意されておらず、バランス駆動対応と謳われてはいない。ハイエンドプレーヤーとしては残念な限りだ。

ZX2のヘッドフォン出力
「MDR-1A」のバランス接続用ケーブル「MUC-S20BL1」。ヘッドフォン側は4極ミニでバランス接続している

 しかし、ここで1つ思いついた事がある。それは「MDR-1A」のバランス接続用ケーブルについて。以前レビュー記事で記載した通り、MDR-1Aは、別売の「MUC-S20BL1」というケーブルを用いて、PHA-3とバランス接続できるようになっていた。このMUC-S20BL1、アンプ側は前述の通り3.5mmの3極×2本端子だが、ヘッドフォン側は4極ミニでバランス接続を可能にしている。

 そこで、「もしかしたらZX2のステレオミニ出力は、4極ミニのバランス出力にも対応しており、4極ミニ-4極ミニというケーブルを使ってMDR-1Aと接続すると、バランス駆動できるのでは?」と考えた。

 編集部のケーブル箱をひっくり返してみると、オーディオ用と呼べるグレードではないが、秋葉原で購入した4極ミニ-4極ミニのケーブルを発見。これでちゃんと音が出るか試して……みようとしたのだが、MDR-1A側の接続部が深い位置にあり、対して、発見したケーブルのプラグの根本が太くて奥まで入らない。

 そこで、秋葉原で細身の4極ミニ(オス)-4極ミニ(メス)のプラグを追加購入したのだが、この細身端子でもまだ奥まで入らない。時間も限られているので最終手段として、ペンチでプラグの付け根部分を少し剥がしたところ、ようやくMDR-1Aと接続できた。

右が、編集部で見つけた4極ミニ-4極ミニのケーブル。左は新たに購入してきた、細身の4極ミニ(オス)-4極ミニ(メス)プラグ
そのままではケーブルの付け根が太くて、MDR-1Aに挿入できない
ペンチでプラグの付け根部分をはがすとようやく接続できた

 この状態でZX2を再生すると、予想通り綺麗に音が出る事が確認できた。ZX2にデジタルアンプの「S-Master HX」が4ch分入っているとは思えないので、恐らくBTL接続ではなく、バランス駆動ではない、グランドをL/Rで分離した接続が4極ケーブルを使うと可能なのではないかと想像する。付属の3極ステレオミニケーブルと聴き比べてみると、音場の広がりが4極ケーブルの方が広く、細かな音が聴き取りやすくなっていると感じる。なお、BTL接続した時のように、ユニットの駆動力が大幅にアップしているようには感じなかった。

 テストに使ったケーブルは数百円のもので、なおかつ変換プラグまで入れているので音質評価には適当ではないが、ZX2には4極ケーブルを接続した時の裏ワザ的な機能があるのではないかと思われる。もしかしたら、ソニー製ヘッドフォンとグランド分離接続するための、4極ケーブルが今後オプション製品として登場するのかもしれない。

【表記訂正】
記事初出時に「バランス接続(非BTL)」と記載しておりましたが、「グランド分離接続」に表記を改めました。(2月16日)

ZX1から大きく音質向上

 ZX1と比べると音質向上は明らかで、“ウォークマンにおける最高の音質”を求める人は文句なしでZX2がオススメだ。ハイエンドモデルに相応しい音質であり、同価格帯のライバルプレーヤーとも十分渡り合える。

 さらなる高出力や、バランス出力などに興味がある人は、ZX2に別売のハイレゾ・オーディオ出力用ケーブル「WMC-NWH10」を組み合わせ、ポータブルアンプと組み合わせて、さらなる音質アップを図るというのもありだろう。

 一方で、ウォークマンでは現在、新Aシリーズの「NW-A16」(32GB/実売25,000円前後)、「NW-A17」(64GB/実売35,000円前後)が人気を集めている。DSD再生には対応していないが、microSDスロットを装備。何よりも低価格なのが魅力だ。

 例えば、ポータブルアンプのハイエンドモデル「PHA-3」(約93,000円)と、Aシリーズを組み合わせると、価格は12~13万円程度と、ZX2とあまり変わらなくなる。DSD再生や、プレーヤー単体で扱える取り回しの良さなどにどこまで魅力を感じるかというのも、ZX2購入時のポイントになるだろう。

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NW-ZX2

山崎健太郎