本田雅一のAVTrends

新DIGA「DMR-BW970」だけの高画質/音質設計とは

-“プレミアムモデル”ならではの違い



 パナソニックから年末商戦向けのブルーレイ ディスク(BD)レコーダ、DIGAシリーズの新製品が発表された。例年よりやや早いタイミングでの発表だが、直接的なライバルであるソニーの新モデルもパナソニックの新製品が登場する頃には出荷開始の準備が整うだろう。

 “いつものペース”ならば、ソニーは9月に一連の新製品を投入し、画質・音質チューニングを施した最上位モデルのみ10月の発売となると思われる。(註:実際の販売シェアではシャープがソニーを上回っている場合が多いが、指名買い争いという意味ではパナソニック対ソニーの構図が続いている)


■ 少しづつ変化してきたDIGAシリーズ各機種の位置付け

 新DIGAのラインナップは、一見するとローエンドモデルと同じHDD容量ながら、ダブルチューナを搭載するDMR-BW570が追加された程度で、他は従来機の正常進化版と見えるかもしれない。実際、フロントパネルの意匠に変更はなく、色使いが変化した程度で外観上の違いはほとんどない。

DMR-BW970

 しかし、仕様をよく見ると、今年は最上位のDMR-BW970のみ、画質・音質面を差異化した特別バージョンになっていることがわかる。パナソニック自身、BW970を他モデルとは異なる“プレミアム”モデルとして扱っている。BW900以降のラインナップの変遷を振り返りながら、その位置付けについてまずは説明しておきたい。

 現在のDIGAシリーズの礎になっているUniphierプロセッサを用いた最初の製品(一昨年末向けモデル)では、上位2モデル(BW900/BW800)のみ、電源設計などが別になっていた。一部ではこの2機種でも音質、画質の違いがあると言われたが、筆者は個体差以上の違いがあるとは思えなかったので、BW800は非常にお買い得なモデルになっていた。

 これが昨年末モデルになると、BW830以下の設計が統一され、BW930にのみ特別な電源やインシュレータが与えられるようになる。機能面での差異化は行なっていなかったので、BW830とBW930を比べても使用感に違いはなく、デザインも酷似しているのだが、特に音質面で、HDMI、同軸デジタル、光デジタル、アナログいずれもBW930の方が優れていた。

 この傾向は今年春モデルとなったBW950、BW850の間でも同じだ。従ってそれなりのサラウンドシステムを構築しているユーザーならBW950、音質へのコダワリがあまりないのであれば、BW850以下でも充分とアドバイスしていた。

 しかし、この差異化は製品を選ぶ側からは非常にわかりにくかったようで、低コストに作られたBW850に引っ張られて、特別設計のはずのBW950の価格も下落するという問題をパナソニックは抱えていたように思う。単にHDD容量が1TBに増えたDIGAという以上のモデルとして、マニア層は別としても、なかなか一般層まで訴求できないという悩みを抱えていたわけだ。

 今回の新シリーズで、BW950の後継機であるBW970のHDD容量を2倍の2TBに引き上げ、BW970のみで利用できる新要素を用意したのも、画質や音質にこだわるユーザー向けの機能を際立たせたいという、パナソニックの主張が反映されてのことだろう。

 とはいえ、ほぼ同じハードウェアに細工をして機能の序列を付け、結果として画質と音質が違う……なんて事では、消費者の支持は得られない。果たしてBW970のプレミアムモデルとしての差異化とは、一体どのようなものなのか。BW970開発試作機をBW950と比べながら試聴させていただいた。


■ すっきりと透明感のある画質と深みのある発色

 BW970が高画質化したことは、質の高いディスプレイと組み合わせて見れば、一目でわかる。歴代のブルーレイDIGAで言えば、BW200からBW900へと進んだ時の画質向上幅はとても大きかったが、その時に匹敵する、あるいはそれ以上の画質向上だ。特にインターレス記録されたビデオ映像の画質向上が顕著だ。

 まず、スッキリと透明感が出てきて、雨上がりの風景のように見通しが良くなる。その結果、コントラストが明瞭になり黒がグッと引き締まり、BW950世代の絵が白っぽく曇ったように感じられるほどだ。コントラストが高く見えるためだろう。色のノリも大変にいい。単に彩度が高いというよりも、深みのある色が出てくる印象だ。

 欧州の町並みを映した風景映像など、緻密でコントラストの高いシーンでは、その差はより明確に判別できる。さらに上下方向の情報量が増え、画素密度が上がったような錯覚に陥る。

 この違い、実は両機種を並べて見比べる必要はない。リモコンの「再生設定」を押し、「映像」タブにある「詳細」を選択。その中にある「クロマプロセッサ」という項目を変更することで、映像がどのように変化するかを確認できるからだ。

 設定はやや変則的で、クロマプロセッサが“切”の時は一般的なアップサンプリング(2タップ処理)、“入”とすることでBW930/950/870(下位モデル含む)相当、“オート”(デフォルト値)にすることでBW970だけの「新リアルクロマプロセッサplus」が働く。店頭では繋がっているディスプレイの設定などにより、わかりにくい場合もあるかもしれないが、リモコンが置いてあれば自分でも確認できるハズなので、是非とも比べてみよう。

 なぜ最上位モデルだけなのか? というと、追加ハードウェアがあるためで、恣意的に下位機種の機能を落としているわけではない。新リアルクロマプロセッサplusはI/P変換を行なってから、クロマアップサンプリングを行なっている。実はクロマアップサンプリングのアルゴリズムや精度も上がっているのだが、それ以上にプログレッシブ化後の処理としたことの効果は大きく、縦方向のクロマ信号の応答性が格段に上がる事で、情報の密度が高まっているのだという。

付属のリモコン「新リアルクロマプロセッサplus」

■ 専用HDMIトランスミッタで高画質化を実現

 では、なぜBW970だけの機能なのだろう。

 I/P変換を行なうと60iの映像ソースも60pになってしまう。帯域は2倍だ。すると、Uniphierが扱うメモリ帯域が逼迫してしまい、高精度のクロマアップサンプリングを行なえない。これでは本末転倒である。

 そこでBW970には、昨年末からアイディアを温めてきたという新しいHDMIトランスミッタを搭載した。このトランスミッタには水平・垂直両方向へのクロマアップサンプリング回路が組み込まれている。クロマアップサンプリング処理をHDMIトランスミッタに追い出すことで、メモリ帯域の問題を解決した。このため、新HDMIトランスミッタを搭載していない旧モデルやBW870以下の下位モデルでは、新リアルクロマプロセッサplusを利用できない。

 この新HDMIトランスミッタでは、水平方向のクロマアップサンプリングも改善され、水平方向の色解像度も忠実性がより増しているという。

 さらに映像処理全体のフローを見直したことで、最終段の出力までに行なわれる処理で、桁あふれの丸め処理を一切行なわない階調ロスレスシステムとしたのも新しい点だ。色信号のアップサンプリングをUniphier内で行なわないことで、それまでのデコードからI/P変換の出力まで至るプロセスでデータが肥大化しないため、デコードした8bitの色深度情報がI/P変換時に2bit分階調情報が増加し、さらにクロマアップサンプリングでプラス2bit分の階調情報が加わる過程で丸め処理が不要になった。

 こうした理詰めによる手法でデジタル処理の誤差、アップサンプリング精度向上を図った結果が、実際に出てくる画質に繋がっている。意図して映像の見栄えを良くするために絵を作るのではなく、本来の映像ソフトやハイビジョン放送に含まれている情報を最大限に活かすというのは、近年のパナソニック製映像プレーヤーに共通するコンセプトだ。


■ HDMI出力部を工夫して音質を改善

 さて、高音質化についてだが、BW970のみに搭載されている機能・デバイスのうち、32bitオーディオDACと高音質オペアンプに関しては、アナログ音声出力に効いてくる項目だ。特にDACは旭化成製の32bitフロントエンドDSP採用のもので、40万円オーバーのBDプレーヤーでも使われているもの。従来の旭化成製DACに比べると、32bit世代のものは明らかに歪み感が少なくなっており、ハイレスポンスなオペアンプとともに、高品位な音声を出力してくれる。

 ただし、BW970にはアナログ出力が2チャンネル分しかないので、サラウンド音声を楽しみたい人には関係がない。しかし、手持ちのミニコンポなどをテレビ用に使っている場合など、ちょっとした工夫を薄型テレビに加えて音を良くしている、というユーザーなら、充分にその違いを感じられるだけの違いが下位モデルとの間にはある。

 一方、HDMIから出力される音声の質を大幅に高めてくれるのが、HDMI低クロックジッタシステムだ。こちらもHDMIトランスミッタ内の機能を組み合わせての最適化が効いている。

 HDMIの音質を改善するため、パナソニックではHDMIの送信パケットに添付するオーディオ信号生成のためのパラメータを最適化するという手法を他メーカーに先駆けて導入していた(BW900世代)。次にHDMIトランスミッタに内蔵されているPLLを、音質の良いものに設計変更(BW930世代)、HDMIトランスミッタに入れるオーディオデータのクロック精度を向上(BW950世代)といった改良を重ねている。

 そして今回はBW930世代に改善していたHDMIトランスミッタ内蔵のPLL回路(TDMSクロックを生成する)に入力するクロックに、従来より高精度なVCXO(電圧制御水晶発振器)を搭載してクロックのジッタを抑制し、さらにオーディオクロックスタビライザという回路をHDMIトランスミッタの中に入れた。

 オーディオクロックスタビライザとは、オーディオデータの受信側が生成するオーディオ信号(HDMIでは受信側が信号を再生成する)の、クロックの揺れを穏やかにするための工夫だ。

 HDMIではビデオ信号のタイミングに合わせてTDMSクロックが決められ、オーディオ信号のクロックはTDMSクロックをN倍し、CTS値で割って得られる値で生成することになっている。オーディオクロックとビデオクロックは整数倍の関係にないため、かならず余りが出るため、。NとCTSの値はデータパケットごとに変動する。この変動が音質を低下させると気付き、クロックの変動が緩やかになるよう、つまりN/CTSの値が緩やかに変動するようにする”ダンパー”のような役割をする回路を仕込んだ。


■ 効果的なシアターモード

 加えて効果的だったのが、シアターモードの搭載だ。シアターモードとは、BDソフト再生時にチューナの電源を落とし、HDDの回転を止めることで、振動と電気ノイズの両方を抑制。電源回路にも余裕が出来る。いわばレコーダであるBW970の装備をそのまま活かし、専用プレーヤー同等の品位まで高めるための工夫だ。

セラミックインシュレータを採用

 他にもセラミック製インシュレータを採用するなど、コストと開発の手間(インシュレータや高音質回路の開発はトライアンドエラーのため、ひたすら時間がかかる)を惜しまずに工夫した結果の音は、少々驚くほどのものになった。

 HDMIのジッタ対策で先行していたこともあり、パナソニックのBDレコーダやBDプレーヤーは、もともと低域の力感が優れていたのだが、そこにさらに磨きがかかっている。しかし、もっとも大きく改善したのはS/N感だ。中高域から高域にかけて残っていた歪みが大幅に減少し、結果としてS/N感の良い滑らかで繋がりの良い音となった。

 海外で発売されているDMP-BD80という機種が、BW950譲りの画質を持つ上に専用プレーヤーならではの高音質が楽しめると、一部のマニアには人気が高いが、高域の丁寧な描写と歪みの少なさは、むしろBD80よりも優れているほどだ。

 さらに今世代のDIGAから追加されたHDMIの設定でDeep Colorをオフにすると、HDMIリンク速度が落ち、さらに音場を包む空気感がより濃厚になってくる。高級プレーヤーではHDMIからのオーディオ出力を独立させる装備が当然になっているが、映像+音声の混合出力で、ここまで改善されれば充分という人も出てくるかもしれない。もちろん、理想的にはセパレート出力をパナソニック製レコーダ/プレーヤーにも搭載して欲しいとは思うが。

 ただし、シアターモードは諸刃の剣でもある。シアターモード時は完全に「プレーヤー専用モード」に切り替わる。このため、BDソフトを見終わった後に、突然、大きな音でバラエティ番組が映し出されるなど雰囲気を壊す振る舞いがなくなったが、シアターモードになっている最中には、予約録画が実行されないという問題を抱えている。

 シアターモード時に予約録画をどのように処理するかは、パナソニック内部でも相当に議論があったようだが、今回は「プレーヤー専用機として振る舞う」シアターモードの位置付けを明確にする事を優先させたという。

 このため、シアターモードはデフォルトでは無効になっており、ユーザーが設定を変更しない限りシアターモードに自動的に入る事はない。シアターモードに入る際には警告を示すほか、4時間以内に録画予約がある場合には、その警告を出す。

 しかし、ゴールデンタイムにはほとんど毎日、番組予約が入っているという人が多いのではないだろうか。シアターモードの効果は大きいが、予約録画との折り合いをどう付けていくのかが、今後の課題になるだろう。


■ “小さくシンプルだからこそ映像も音も良い”という考え方

 AVに長くコダワリを持って接してきた人ほど、パナソニックの一連のBDレコーダ/プレーヤーが不思議な存在に見えるかもしれない。従来の常識では、重くしっかりした筐体を持つ製品の方が、画質も音質も良いという傾向があったからだ。

 実際、HDMIで映像と音声を送る時代になっても、インシュレータや天板の材質、筐体の剛性やサイドパネルの材質、ネジの留め方や材質などが、品位に大きな影響を与えている。ソニー、シャープ、パナソニックといったメーカーは、いずれもそうした部分にコストを割り振った製品を開発している。数円単位でコストを削る中で、それらにコストをかけるのは、結果としての画質・音質に変化があるとメーカー自身が考えているからだ。

 そんな中でパナソニックは、異なるアプローチから答えを見つけようとしている。

 現在のUniphierは、HDMIトランスミッタやメモリを除き、BDレコーダに必要なシステムのほとんどを1つのLSIに集積している。メイン基板は119×151mmで、AV信号の経路が短くなっているほか、部品点数の減少でデジタルスイッチングノイズが減少。さらに主要部品のトータル重量が減るため、振動時にかかるメカニカルな応力も大幅に小さくなる。

奥行き239mmのコンパクトな筺体を採用

 BW970の小さく軽い筐体は、見方によっては存在感がないと受け取られるだろう。しかし、小さいからこそ良い面もある。箱のサイズが小さくなれば、同じ鉄板の厚みでも剛性は高くなるからだ。内部の軽量化と筐体の小型化は、見た目には安くなったという印象を与えるが、実は音質向上に大きく寄与しているという。

 さらにシアターモードではハードディスクがシャーシの剛性を高める補強メンバーとして働くといった副作用もあり、BW970の機械的な剛性は大きく、重いAV機器に匹敵するというわけだ。

 無論、これはひとつの考え方であり、正解に向かう道はひとつだけではないが、ここまで来たのであえば、豪華な外装はなくとも画質・音質には自信アリ、という路線を突き詰めて欲しいものだ。

(2009年 8月 11日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]