「日本力全開! 」を打ち出すソニーマーケティングの新戦略
-栗田伸樹新社長に話を聞く
「日本力全開!」--。7月1日付けでソニーマーケティングの代表取締役執行役員社長に就任した栗田伸樹氏は、就任早々、社員に対して、この言葉を提示した。「力」は「りょく」と読まずに「ぢから」と読ませる。「底力」や「火事場の馬鹿力」などと同じ読み方にこだわった。「ソニーが元気になるには、日本で元気になることが、いまこそ求められている。だからこそ、日本からの情報発信、成果にこだわっていく」と語る。日本のマーケットを担当するソニーマーケティングの取り組みを、栗田新社長に聞いた。
■ 「日本力」でソニー復活へ
―ソニーマーケティングの社長に就任して、まず社員に対してはどんなことを語りましたか。
ソニーマーケティングの栗田伸樹社長 |
ところが、いま求められているのは、「ネットワーク」を前提としたモノづくり。こうなると、ブロードバンド先進国である日本における成功が重要な意味を持ってくる。日本において、いかに評価される製品を作るか、ソニーブランドの価値を高めるかといったことが重要な時代に入ってきたのです。社外の方に話すのは初めてなのですが、就任後、「日本力全開!」という言葉を社員に発しました。いまこそ、日本の力が試される。そして、それがソニーの復活につながると。「日本力」の読み方は、「にほんりょく」ではなくて、「にほんぢから」です。
―なぜ、「ぢから」なのですか。
栗田:底力(そこぢから)とか、火事場の馬鹿力(ばかぢから)というじゃないですか(笑)。そういう力と同じ、意味を持たせたわけです。
―あえて「全開」という言葉を使うということは、これまでは「全開」ではなかったと。
栗田:かなりアクセルは踏んでいたと思います。ただ、経済環境の悪化や、低価格化したコモディティ製品に注目が集まり、そのなかで収益性が悪化するといった事態が発生した。ソニーが得意技とするポジティブな製品戦略にブレーキが掛かったということはあるでしょう。また、どこにいくのかといった方向性が揃っていなかったところもあったのではないでしょうか。今年度から、ソニー本社の組織が、「コンスーマプロダクツ&デバイスグループ」と「ネットワークプロダクツ&サービスグループ」に再編され、ベクトルが揃う体制が整った。これからは、ベクトルをひとつにした上で、「全開」できる環境になってといえます。
―ソニーマーケティングが「日本力」を発揮する領域とはなんですか。
BRAVIAのポストカード画面 |
栗田:ソニーでは、製品カテゴリーの9割をネットワーク対応するといっています。ただ、これだけでは意味がない。ネットワーク対応するのは、ソニーにとっては当たり前のことであり、「入場券」でしかありません。大切なのは、ネットワークに対応するという「モノ軸」の考え方ではなく、その上でどんな価値を提供できるか、どれだけ楽しんでもらえるかといった「コト軸」の考え方です。ここが差異化のポイントになってくる。
ソニーでは、BRAVIAで、ポストカードサービスを提供しています。当社のLife-Xのプラットフォームを利用して、携帯電話で撮影した画像を、そのままケータイメールで送信すれば、BRAVIAの画面上にメールが到着したことが表示され、すぐに画像を大画面で見ることができる。携帯電話から送られてきた孫の写真などを、すぐに大画面テレビで楽しむことができるのです。
ポストカードサービスは、これまではauだけの対応でしたが、7月30日からはNTTドコモやソフトバンクモバイルの携帯電話からも利用できるようになった。リビングに置いたテレビをいかに楽しむかといった提案を、ネットワークを使って進化させた一例です。そして、これは携帯電話とブロードバンドが浸透している日本だからこそ、いち早く提案できたサービスであるともいえます。社内では、2015年の世界を考えてほしいといっています。2015年には、高齢者の人口比率が25%に到達する。この世界において、ソニーはなにが提案できるのか。そこにもフォーカスしていく考えです。
―マーケティング会社、販売会社の場合、営業数字が優先されますから、なかなか中長期の視点では物事を捉えることがありません。栗田社長の口から、2015年という言葉が出たことには正直驚きましたが。
栗田:もちろん、営業数値に関しては、四半期ごとに明確な指標を設けて、それに取り組んでいます。しかし、日本での成功が、ソニーの復活につながるのではあれば、ネットの超先進国である日本においてどんなものが求められているのかを考え、それをソニーの事業部門に提案する必要がある。2015年の高齢者は、Eメール世代の高齢者です。ITリテラシーを持った高齢者が増加した社会は、ソニーの強さをより発揮できる市場でもあり、ソニーが提案するネットワークサービスによって、新たな利用が広がりやすい市場でもある。
今日のビジネスを考えることは当然。それとともに、ソニーマーケティングは、2011年7月の地デジ需要が一巡したときに、どんな提案ができるのか、2015年の高齢者社会を迎えたときにはソニーはなにができるのか、といったことを同時に考えていき、明日の製品づくりにつなげる役割を担うべきだと考えています。いまは、それに向けた入場券を手に入れた。入場券は入場券でしかありません。どこにいくのか、どんな提案ができるのかが、我々のミッションであるというわけです。
■ 付加価値商品でのシェア拡大に意欲
― 一方で、短期的な視点として、年末商戦を含むこの下期は、どんな取り組みがポイントになりますか。
付加価値戦略や、アクセサリの充実を重視するという |
栗田:やはりひとつは、エコポイントの追い風をいかに生かすかということです。5月15日以降、薄型テレビの成長率は極めて高い。エコポイントによる需要拡大に続いて、来年はサッカーワールドカップがありますし、その先には2011年7月の地デジ完全移行が控えている。それまでの間は、旺盛な需要が見込まれますから、むしろ、いかに製品を供給できる体制を構築できるかが、鍵になると考えています。現時点でも、液晶テレビ市場は、数量ベースで前年同期比30~40%増、金額ベースでも15%増という成長を遂げています。前年同期には、北京オリンピック需要があった上での上乗せですから、大きな成長を遂げていることがわかります。
もうひとつは、付加価値戦略による提案強化です。人感センサーによって、人がいないときには自動的にテレビの電源を切るといった取り組みも、他社との差異化ポイントとなります。また、4倍速は、他社が追いつけないソニーならではの機能ですから、この下期も積極的に訴求していきたい。現在、当社の40インチ以上の大画面テレビのうち、4倍速モデルの出荷構成比は4割弱に達していますが、この構成比はさらに高めていきたい。ソニーマーケティングの強みは、全国の量販店や専門店の店長の顔までわかり、店のイメージもわかるという、結びつきの強さです。これを生かして店頭展示の強化、店員向けセミナーの充実を図っていきたい。ソニーマーケティングの社員には、わかりやすく、すっきり感がある訴求を心がけるように徹底しています。年末商戦向けの店頭POPも、そうしたスタンスで作り上げていく予定です。それと、もうひとつ、この下期に力を注ぎたいのはアクセサリーです。
―アクセサリーは、これまではあまりフォーカスしてきませんでしたね。
栗田:確かにそうでしたが、アクセサリーはユーザーにとって付加価値を提供できる商材ですし、販売店にとっても顧客単価を引き上げる手段ともなる。また、ソニーにとっても、値引き競争に巻き込まれない収益を取りやすい商品だといえます。ソニーには、数多くのアクセサリーがあり、これを提案していくことが、ソニー製品の差異化につながる。アクセサリーに関しては、今年前半からプロジェクトチームを編成して、銀座のソニービルでアクセサリーだけのイベントを開催したり、大手量販店と連携して、ヘッドフォンを試用できるような展示も開始しました。これにより、ソニーのアクセサリーの良さを多くの人に知っていただきたい。社内の計画では、アクセサリーの売り上げを前年比2倍にまで引き上げていきたいと考えています。
―ここ数年、ソニーは商戦ごとに意欲的なシェア目標を掲げますが、結果として、これを下回ることが多いように感じます。今後、この点はどうしていきますか。
栗田:これからもシェアにこだわっていくことには変わりはありません。シェアを取りに行く気持ちにも変わりはありません。ただ、そればかりを優先していいのかという考えはある。数を狙うばかりに、ローエンドゾーンにフォーカスするというのは、決して得策ではない。ソニーは、プライスリーダーにはなりたくないですし、無理な値付けをするつもりもありません。下期は、前年実績を確実に超えていくことを目指しますが、コモディティ分野でシェアを取っていくのではなく、付加価値商品分野でシェア拡大を狙っていきます。ここにソニーの強みを発揮したい。これから年末商戦に向けて、新製品が順次投入されることになります。BRAVIA、BD、ウォークマン、ハンディカム、デジタルスチルカメラなどの主力製品でも強い製品を投入します。そして、コト軸での提案も行なっていきたい。ぜひ、楽しみにしていてください。
(2009年 8月 4日)
[Reported by 大河原克行]