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ソニーでちょっと先の未来を体験。動くモニタ、身体で聴く音楽「STEF」レポ
2025年12月22日 08:00
2025年12月12日、ソニーは「Sony Technology Exchange Fair 2025」を開催。通称「STEF(ステフ)」と呼ばれるこのイベントは、社内向けの技術交換会のことで、ソニーグループ内に今ある技術を共有し、新たな価値創造に繋げることを目的としたイベント。
STEFは1973年から毎年開催されており、実は今年でもう53回目。2025年のSTEFでは新たな “感動体験” の共創を目的として、約100テーマに及ぶ展示技術のうち、エンターテインメント業界での活用が見込まれる19テーマの展示が、社外のクリエイター向けに公開されました。
今回、そのクリエイター向けに公開された技術のうち、厳選された5テーマを体験できるメディアツアーに参加。ソニーで生まれた技術を活用した「ちょっと先の未来(になるかもしれない体験)」を取材してきました。
未来は音楽を“肩で聴く?”ソニーが注力する「エンタメ」領域の最新技術
メディアツアーで紹介された5テーマの展示は、大きく分けて2つ。主にエンターテイメントの世界において、“体験” に繋がる可能性を持つ技術と、 “制作現場” での活用が見込まれる技術です。
まず最初に、私たちがこれから触れる機会があるかもしれない “体験” の技術から。今ツアーでは「Sensory Re:Fusion for LBE」「エンタテインメント向け群ロボット」「Feel So Music」の3つの展示を体験しました。
もう、全部入り!風や匂いも感じて世界に没入する新感覚ゲーム体験
「Sensory Re:Fusion for LBE」の展示は、ロケーションベースエンタテインメント(LBE)向けに設計された統合型体験。
会場は、壁と床に映像投影するプロジェクションマッピングのゲーム空間。コントローラーが消防車のホースのような役割になって、壁の汚れを洗い流す動作に連動して、映像と音、さらには風や振動、香りが発生する仕組みになっています。
なんかもう、 “全部入りエンタメ” といった感じ! 床も振動するので、どこかの古びたエレベーターに乗ったみたいな感じとか、雪だるまに凍らされた床が割れる感覚とか、妙にリアルで気持ち悪いんです(いい意味で)。
もうすでに、どこかの施設にありそうな完成度。例えば、映画やゲームなどの世界に入り込める体験スポットなどにはうってつけ。目で見て耳で聴く “以外の感覚” も使うから、より記憶に残る特別な体験になると思います。
新バックダンサーは“動くモニターロボ?”ありそうでなかった、新たなステージ表現へ
ライブステージの上を “モニターが動く” 。そんなありそうでなかったロボット技術「エンタテインメント向け郡ロボット」の展示スペースでは、大小2種類のLEDディスプレイによるステージ演出の一例が披露されました。

モニターというと、今までステージの背景とか、左右の上あたりにドーンと設置されていたわけですが、これは違います。
ステージの上を自由自在に動かしながら、映像を映し出せるので、例えば、アイドルグループのライブで各メンバーの名前を表示したり、VTuberのライブでキャラクターをいろんな角度から一度に見ることができたり。バックダンサー的に使うこともできるかもしれません。
ロボット掃除機のような動く台の上にLEDディスプレイを設置したシンプルな仕組みですが、過酷な照明環境でも安定して動作するセンサー技術や位置認識精度などが活用されており、ソニーのロボティクス技術の知見が詰まっています。
すでに実際のライブで使用する予定もあるそうで、みなさんも目にする日が近いかもしれません。
肩掛けスピーカー、ではありません。迫力の重低音を身体で感じる新体験
「Feel So Music」という音の技術展示では、本来聴覚で捉えられない20Hz以下の低周波の成分を “体感” して味わえるという新しい音楽の楽しみ方を提案していました。
いわゆる肩掛けスピーカーの形をしたデバイスが用意され、これを身につけると、重低音が振動として胸部に伝わり、音を聴覚ではなく、触覚で感じられるという仕組みです。さらに振動とともに風が発生する仕掛けも。目と耳以外の感覚も使うことで、音楽の迫力やライブ感を実現しています。
例えばライブ会場で、後ろの方だと聞こえ方が変わってしまうこともあります。こういったデバイスの導入で、どこにいても熱量たっぷりの音楽体験ができる可能性が広がるし、ヘッドフォンと組み合わせて、自宅にいながら “音楽を浴びる” ことができる。そんな時代もくるかもしれません。
制作現場の精度と効率のどちらも引き上げるソニーの新技術
“制作現場” での活用を想定したプロクリエイター向けの技術としては、「XYN(ジン):空間コンテンツ制作ソリューションと関連技術」と「4D Capture Technology」の2つが公開されました。
XYNは、難度もコストも高くなりやすい空間コンテンツの制作作業を、より楽に行なえるようなサポートを目指す、制作支援ソリューションのこと。
会場では、モバイルモーションキャプチャー「mocopi」と連携して、より手軽なモーション制作を実現する「XYN Motion Studio」、ミラーレス一眼カメラで撮影した画像と独自アルゴリズムを用いて、現実の物体や空間から高品質でフォトリアルな3DCGアセットを創り出す「XYN 空間キャプチャーソリューション」などの技術展示が行なわれました。
静止画の背景画像に対して「風に吹かれた時の様子(木が揺れるなど)」を再現できる機能や、画像の中にある柱や椅子などの要素を把握し、不要なオブジェクトを消したり、追加したりできる機能も公開。空間情報をきちんと補完しながら行なえるから、仕上がりに違和感が少ないことも特徴です。
もちろん私はクリエイターじゃないけれど、「こんな手軽にコンテンツが作れるなら、ちょっとやってみたいかも」と思うほど、直感的にあらゆる操作ができる手軽さと、精度の高さが印象的でした。
もう一つの「4D Capture Technology」は、1台のカメラで撮影できる映像の幅をぐんと拡大する技術。カメラに車載LiDARデバイスを組み合わせたシステムと独自のアルゴリズムによって、通常の映像撮影のほか、動きのある3D映像の撮影も可能にしています。
今までは何台ものカメラが必要だった動きのある立体映像の撮影を、たった1台のカメラシステムで完了するなら、手間も時間もかなり改善されますよね。ちなみに展示システムにはソニーのα 9が用いられていましたが、一定以上の性能基準を満たしていれば、ソニー製以外のカメラでも実現できるそう。
4K/120fpsのXRコンテンツを手軽に作ることができるようになると、もっとコンテンツの提供も増えていくはず。見る側としても、映像の楽しみ方がまた一段と広がりそうです。
答えは、まだない。STEFで見つけた「これから価値を作り出す技術の価値」
「今ある技術を共有する場」と聞くと、ソニーの最新技術やプロダクトがずらりと並んだ展示会のようなものを想像するかもしれません。しかし、STEFはちょっと違います。
STEFで公開されるのは、これから “育てていく” 技術。決して技術が半端ということではなく、展示される技術はソニーの豊富な知見と高い開発力のもとで生まれたハイレベルなものばかり。STEFではその技術を共有し、これから先の技術の価値をみんなで一緒に考えていく、そんなイベントでした。
今回体験した技術は、少し先の未来には当たり前になっているかも。ソニーとクリエイターの共創のカタチを、期待して待ちたいと思います。













