大河原克行のデジタル家電 -最前線-

「パナソニックの3Dテレビは100点満点に近い完成度」

~デジタルAVCマーケティング本部の西口本部長に聞く~


パナソニック デジタルAVCマーケティング本部 西口史郎本部長

 パナソニックが、フルハイビジョン3Dプラズマテレビ「VIERA VT2シリーズ」と、Blu-ray 3Dディスクの再生が可能な「ブルーレイDIGA」を、4月23日から発売する。フレームシーケンシャル方式を採用した家庭用フルハイビジョン3D対応テレビとしては世界初となる商品だ。

 「2000年代がデジタル産業革命の10年だとすれば、2010年からの10年間は3D産業革命の10年になる」と、パナソニックのデジタルAVCマーケティング本部の西口史郎本部長は語り、3Dテレビ時代の到来を宣言する。西口本部長に、パナソニックの3D戦略について聞いた。(以下、敬称略)



■ 「50型以上のテレビは全て3Dテレビに」

3D対応VIERA/DIGAを発表

-2010年2月9日にパナソニックは、3Dテレビおよび3D再生が可能なブルーレイディスクレコーダを発表しました。どんな気持ちでこの日を迎えましたか。

西口:「いよいよきたぞ」というのが実感です。長年に渡り、テレビ事業に携わってきた立場からも感慨深いものがありました。テレビは、この半世紀の歴史のなかで、白黒テレビからカラーテレビへ、さらには大画面化や薄型化、デジタル化という大きな変化を遂げてききました。


 3Dテレビの登場は、白黒テレビからカラーテレビへ進化した時以来の大きな進化だと、私は捉えています。発表後の手応えも想定していたものよりも大きかった。テレビ、新聞、ウェブ媒体といったマスコミの反応も想像以上でしたし、量販店や販売店の関心も想定以上に高い。主要量販店の間から、全店舗で3Dテレビとブルーレイディスクレコーダをセットで展示したいという声をいただいていますし、先頃名古屋で行なった合同展示会でも、地元放送局が駆けつけて、3Dテレビを取り上げていただいた。

 パナソニックが投入する3Dテレビは、「奉って置く」ような商品では意味がない。多くの人が最先端の3Dテレビを体験できるものにしなくてはならない。その点が理解されたと思っています。3Dテレビも発売から一気に垂直立ち上げを狙います。

-奉らない商品という点では、やはり価格設定がポイントかと思います。このあたりの手応えはどうですか。

西口:3Dテレビに導入期において最も需要が見込まれるのが50型、54型と判断しました。この領域から製品を投入し、さらに、2Dテレビに比べて7万円差、レコーダでは2万円差、あわせて10万円を切る、9万円という価格差で投入したことに、値頃感を感じていただけたと思います。大型サイズに限定したり、高い価格設定に留めるような形にはしたくなかった。今後は58型、65型といった大型サイズの投入も予定していますし、40型クラスにも展開していくつもりです。

-パナソニックの広報部門に調べてもらったのですが、白黒テレビからカラーテレビへの進化では、当時の17型の白黒テレビが約10万円だった時に、テーブル型の第1号カラーテレビの価格が37万円。4倍近い価格差があったわけですが、3Dテレビへの進化ではわずか2割の増加に留まったといえます。

西口:もちろんこの価格設定に満足しているわけではありませんが、テレビとレコーダで9万円の価格差は、3Dという新たな機能を体験していただく最初の製品としては、魅力的な価格ではないでしょうか。3Dを実現するためには、半導体やソフトウェアが司る部分が大きいですから、この部分は低価格化が進展しやすい。また、オプションで1万円の価格設定とした3Dグラスも、今後、コストダウンを図ることができる。年を追うごとに、より購入しやすい価格で3D環境を手に入れていただけるようになると考えています。

-この価格設定で利益は取れるのですか。

西口:コストを度外視した設定はしていません。国内のマーケティングを担当するデジタルAVCマーケティング本部と、開発を行なうAVCネットワークス社が協議した結果、3Dへの進化を体験し、価値を認識していただくには十分といえる価格と、当社の利益を確保できるという点でこの価格に決めました。どちらかが無理をいったというものではありません。また、日本での価格を設定する際には、当然、パナソニックとしてのグローバルでの価格設定との整合性を取る必要があります。グローバル展開においても同様の価格差になると捉えてもらって構いません。

-3Dグラスを標準で1個添付した理由はなんですか。

西口:3Dテレビを購入して、すぐに体感していただきたいという点から1個添付しました。まずは、最初の製品ですから、必ず3Dグラスが必要になる。一方で、50型クラスの購入者でも、一人暮らしという方がいますから、2個にはしなくていいだろうという判断もありました。第2弾商品以降は、3Dグラスを標準添付するかどうかは、また検討することになります。

3Dグラスを1個同梱

-今後、サイズを下方向に展開する際には、当然、液晶パネルが視野に入ってきますが、このサイズの線引きはどこになりますか。

西口:プラズマパネルの方が、コスト面や性能面で優位なのは明らかです。プラズマパネルの優位性を改めて強調できるのが3Dの世界だといえます。パナソニックは、基本展開を、40型以上はプラズマ、37型以下は液晶としていますが、3Dテレビもそれに準拠したものになります。

-一方で、今後、大画面サイズはすべて3D対応になる可能性もあるのですか。

西口:来年の今頃に発表する春モデルでは、50型以上はすべて3Dテレビにするという意気込みでやっています。


■ 「2010年以降は“3D産業革命”の時代になる」

-西口本部長は、今回の3Dテレビの投入において、「3D産業革命」という言葉を使いました。この意味はどう捉えればいいですか。

西口:先ほどお話ししたように、3Dテレビの登場は、白黒テレビがカラーテレビに進化した時と、同じぐらいのインパクトがある進化です。その進化にあわせて、産業そのものが大きくなる。それはテレビの出荷台数が増加するとか、単価が上昇するとかといったレベルの話ではありません。

 例えば、3Dテレビとともに、3D対応のブルーレイレコーダを発売しました。また、将来的には、3D映像が撮影できるホームビデオカメラも登場することになるでしょう。さらに、コンテンツの増加も期待できる。2Dの映像が3Dになるわけですから、新たなコンテンツビジネスも生まれることになる。放送局の設備や放送コンテンツの進化、加えて、3Dゲームソフトの広がりも期待される。3Dによって、産業そのものが大きくなるのです。

 1990年代に、3Dテレビが登場したことがありました。しかし、この時には、技術的な課題があったほか、コンテンツが揃っていなかったという課題もあった。今回は、プラズマパネル技術の進化、デジタル化の進展や圧縮技術の進化、そして、コンテンツも揃いはじめている。

 しかも、ハリウッド映画の「AVATAR(アバター)」の大成功は、3Dとはどんなものかを知っていただく大きなきっかけになっています。アバターは、公開以来トップの興業成績を続けていますし、日本での3D版の鑑賞者は300万人以上、実に鑑賞者の約79%が3Dを見ています。

 このように3D映画の興行が成功していますから、3D映画コンテンツをブルーレイの世界に展開した際にも、ビジネスが広がるという期待感が映画会社などにある。そして、ネットの世界も3Dを視野に入れた展開が始まることになるでしょう。こうした要素が積み重なっているからこそ、2010年以降は、3D産業革命の時代になると予言できるわけです。

「'10年は家庭内で3D」3D産業は一気に加速

-今回の3Dテレビの商品投入において、最も気を使った点はどこですか。

西口:かつて3D映像を見たことがある人は、「3D映像といっても、おもちゃみたいなものだろう」という印象があります。立体的な映像を見せることばかりが先行し、どちらかというとそれで驚かせるといった程度のもので、画像は全体的にボヤっとした印象がある。

 今回の3Dテレビはそうではなく、臨場感や没入感を実現する本当の意味での3Dの世界がやってきたことを体感してもらう点に力を注いだ。コンテンツを含めて、3Dの世界とはこういうものだということを提示したかった。今後、他社からも3Dテレビが登場することになるでしょう。しかし、パナソニックの3Dテレビは、他社の3Dテレビよりもすばらしいという評価を得られるだけの自信がある。そうした品質のものを世の中に送り出すことができたと自負しています。

-パナソニックの3Dテレビの強みはどこにありますか。

西口:強みをあげるとすれば「垂直統合」、そして「エンド・トゥ・エンド」という言葉に集約されます。統合3D事業展開ができるのはパナソニックだけだといっていいでしょう。垂直統合では、プラズマパネル、半導体、圧縮技術を持ち、そして3Dグラスを含めたセットまでを提供できますし、ハリウッドとの長年に渡る密接な関係もあり、オーサリングから商品開発に至るまで、ハリウッドのノウハウを活用している。MPEG-4 AVC High Profileの技術開発で主導的役割を担い、さらにブルーレイの3D規格に採用されたMVC方式でもパナソニックは重要な役割を担ってきた。

 こうした経験は、規格や技術を熟知し、それをいち早く商品に反映できるという点で、他社にはない強みがあります。ハリウッドでの映画づくりや放送局で採用するカメラや放送システムの導入でも、3D分野への取り組みにおいて、パナソニックは先行しているといえます。3Dテレビは、パネルなどの部品を買ってきて、組み上げれば完成するというものではありません。3Dグラスとのシンクロ技術や、圧縮技術をより最適に活用するノウハウなどが積み重なって高画質の3D視聴環境が実現される。品質の差は明らかだといえます。

-その一方で、3Dの視聴には専用グラスが必要になり、非日常的な視聴環境が余儀なくされます。白黒テレビからカラーテレビへの進化では視聴スタイルに違いはありませんでしたから、それに比べると3Dテレビの導入はハードルが高い。3Dテレビへの買い換え促進は限定的という感じも受けますが。

西口:確かに、3Dで見ようとする場合には、3Dグラスをかけますから、「これから3D見るぞ!」と気合いを入れたり(笑)、意識をした上での視聴方法にはなります。しかし、アバターの成功もあり、3Dという特別感は、我々が想像した以上に引き下げられていると感じます。これから3Dコンテンツが増加しますし、3Dの放送も増えてくるでしょう。ビデオカメラやデジカメなどを含めた「3Dリンク」の時代も想定以上に早くやってくるはずです。そうなると、「3D Ready」となっていることが、これからのテレビには不可欠になってくる。

 かつて、アナログチューナしか搭載していないテレビでも、HD(ハイディフィニション)対応の商品が売れたことがありました。近い将来、HDのコンテンツが増加することを見越して、HD Readyのテレビを購入したいというユーザーが多かったからです。今回の3D Readyの提案は、これと同じで、7万円の差ならば3D Readyのテレビを購入した方がいいという考え方も出てくるはずです。

 これから3Dというキーワードはあらゆる場面で聞くことになるでしょう。3Dの潮流を感じるようになると、3Dテレビを選択肢のひとつとして捉える人が増加する。いまの3Dに対する機運が高まっていることを考えると、そう感じる人が一気に増えるはずです。そのときにどれぐらいの価格差ならば購入してもらえるか、ということになる。それが3Dテレビの普及に大きく作用すると思います。

-裸眼で3Dテレビが見られるようになると、ハードルはさらに低くなりますね。

西口:最終的なゴールは裸眼での3D視聴にはなるでしょう。ただ、この技術が確立するのが、いつになるかはわからない。パナソニックが追求している3Dは、臨場感、没入感がある3Dの世界です。しかし、いまの裸眼の3D技術では、残念ながらそこまではいかない。ようやく実現することができた3Dの臨場感を、裸眼を優先すことで後退させるつもりはありません。いまは3Dグラスで、臨場感、没入感を体験していただくことが、3D視聴に最適な回答だといえます。


■ 「国内の3Dテレビ市場で半分以上のシェア獲得を目指す」

-3Dテレビの販売目標はどれぐらいを想定していますか。

西口:国内の3Dテレビ市場の規模は、2010年には50万台規模、2012年度には200~300万台に到達すると予想しています。パナソニックは、この領域で少なくとも半分のシェア獲得を目指したい。しかし、この数週間の手応えからすると、計画を上方修正をした方がいいかとも感じています。

-どのぐらい修正するのですか?

西口:37型以上の大型テレビ市場のうち、約10%を3Dテレビが占めるだろうというのが、2010年に年間50万台という市場規模の算出根拠です。ただ、今後、各社から3Dテレビが出揃い、製品ラインアップも増加し、コンテンツも揃ってくると、3Dテレビの出荷比率がさらに高まってくるでしょう。

 来年の今頃、つまり2010年度第4四半期になれば、3割以上を3Dテレビが占める可能性がある。2010年度に年間100万台の市場規模というのも視野に入れたいと考えています。そして、そのなかでもパナソニックは、やはり最低でも半分以上のシェアをとりたい。一方で、2012年度の市場規模は、大型テレビの約8割を3Dテレビが占めると見た上での予測です。ゲーム利用などを中心に、中小型の3Dテレビの普及も見込まれますから、これもさらに市場が拡大する可能性があります。

発表会での様子

-現在、3Dテレビを体験できる場所は、パナソニックセンターに限られていますね。

西口:4月23日の発売にあわせて、全国の主要量販店や、専門店であるスーパー・パナソニック・ショップに3Dテレビを一斉に展示する予定です。そこでぜひ体感していただきたい。また、発売にあわせて、大規模なプロモーション展開を行なっていく予定ですので、その詳細については改めて公表したいと考えています。

-今回の3Dテレビの自己評価は何点ぐらいですか。

西口:第1弾商品としては、極めて100点に近いものができた。臨場感、没入感という技術的な側面に加えて、値頃感のある価格も実現できた。3D映画の興行成功という追い風もある。この勢いをこれから持続させることが、これからの課題だといえます。

(2010年 3月 2日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など