大河原克行のデジタル家電 -最前線-

パナソニック、2010年の3Dテレビの出荷比率を1割に

-プラズマディスプレイ 長野社長インタビュー


パナソニックプラズマディスプレイ株式会社 代表取締役社長 長野寛之氏
 PDP技術革新――。パナソニックは、2010年1月7日に発表した新たなプラズマディスプレイパネル(PDP)をこう位置づける。2007年に生産されたPDPに比べて、発光効率を4倍としたことで、これまでプラズマテレビの課題とされてきた消費電力についても解決することができたほか、2010年に迎える「3Dテレビ元年」において、最も威力を発揮するのがプラズマディスプレイであると強調する。

 パナソニックは、新PDPによって、プラズマテレビ事業をどう発展させるのか。そして3Dテレビ事業はどう発展するのか。パナソニックプラズマディスプレイ株式会社の社長であり、パナソニック AVCネットワークス社 映像・ディスプレイデバイス事業グループ PDPデバイスビジネスユニット長である長野寛之氏に話を聞いた。(以下、敬称略)


 ■ 42型の消費電力は、電球1個相当の100W

発光効率4倍を実現した新たなパネル

―発光効率を4倍にした新PDPを発表しました。長野社長はこのパネルに対して「PDP技術革新」という言葉をあえて使いましたが、その理由はなぜですか。

長野:確かにPDPは、これまでにも大きな技術的進化を遂げてきました。しかし、今回発表した新PDPに「PDP技術革新」という言葉を使った理由は大きく2つあります。ひとつは、これまでの延長線上の技術ではなく、材料やプロセス、構造を一から見直したという点です。

 その点では、エンジニアにとっては、まさに革命ともいえる技術によって、実現したパネルです。そして、もうひとつは、42型プラズマテレビで、電球1個に相当する100Wを切ったという消費電力を実現できた点です。目標はまだまだ高いところにありますが、ひとつの節目をクリアできました。2008年1月には発光効率2倍を達成したNeoPDPパネルを開発し、2009年1月には発光効率を3倍に高めたNeoPDP ecoパネルを発表しましたが、PDPは、まだまだ進化する可能性がある。PDPの発光効率は、一般的な蛍光灯の発光効率を100とした場合に、約1割の効率にしか到達していませんから。

―また来年1月にはさらに発光効率を高めたパネルが登場するのですか。

長野:春にテレビの新製品を投入すること、また、米国でCESが開催されるという時期的なタイミングからも、1月に新たなパネル技術を発表するということはちょうどいい。日本のパネル技術を世界に発信するという意味でもタイミングがいいのです。すでに、来年に向けて、いまから準備を進めています。来年は、さらに発光効率が高まるのは明らかです。

―これまでNeoPDPパネル、NeoPDPecoパネルというように名称がついていましたが、今回の新パネルには名称がありませんね。

長野:2003年のパネルから2倍の効率化を実現するまでに4年かかりましたが、2008年にNeoPDPパネルを発表してからわずか3年で発光効率は4倍となっており、毎年のように新たなパネルを発表しています。これからも、そのペースで進化を遂げていくと、毎年、名称を考えなくてはならない(笑)。社内では、画期的な進化を遂げたという意味を込めて、「エボリューショナルPDP」という言い方もしていましたが、名前をつけずに、あえて新パネルという言い方をしています。

―これからも新パネルには名前はつかないと。

長野:それはわかりません。

デジタルサイネージなどの業務利用にも広がりをみせる

―これまでプラズマテレビの最大の課題は、液晶テレビに比べて消費電力が大きいということでした。新パネルでその課題を解決し、イメージを払拭できるようになりますか。

長野:新パネルであれば、消費電力の水準は、液晶パネルの水銀ランプ以上、LED並みという言い方ができます。42型プラズマテレビに採用した場合で、IEC動画基準で95Wという低消費電力を実現しました。ちょっと明るい電球ですが(笑)、それでも100W電球1個相当のところまできた。IEC動画標準規格は、これまで米国で使用されてきた動画再生時の消費電力の規格ですが、今年から日本でも採用されるという話を聞いています。

 動画という点ではPDPが得意とする部分ですし、動画以外の部分でも液晶並の消費電力を実現しているといってもいいレベルに到達しています。もはや、消費電力で液晶に劣っているとはいえない。そうなると、あとはPDPの優位性だけがクローズアップされてくる。高いコントラストによる黒の再現性や、高速動画応答性など、PDPならではの強みが強調される。

 液晶パネルは、LEDローカルディミングによって、部分発光を行ない、黒の再現性を高めているが、自発光であるPDPは究極のローカルディミングであるともいえます。画素のひとつひとつがローカルディミングになっているといえるからです(笑)。

―テレビ市場全体のなかで、液晶テレビの比率が上昇し、パナソニックにおいても2009年度上期で、初めて液晶テレビの出荷台数が、プラズマテレビの出荷台数を越えるという状況になっています。ここしばらくはプラズマテレビの劣勢感もあったのですが。

長野:中小型テレビの市場が拡大すれば、当然、液晶テレビの出荷台数が増加します。それは当社のテレビ事業でも同じです。リーマンショックの影響もあり、中小型に需要が集まったという点も否めません。

 ですが、一方で、2009年度における40型以上の薄型テレビ市場では、プラズマテレビのシェアが拡大しているという事実もあります。フルHD化が進展するなかで、プラズマテレビの良さが認知されている。その点では、プラズマテレビが劣勢であるとはいえないのではないでしょうか。

 一方で、業務用分野でも、PDPの良さが理解されはじめています。業務用プラズマディスプレイの出荷実績をパネル面積で換算すれば、前年比50%以上の伸びとなっています。昨年、業務用として85型の製品を投入しましたが、これが好調な売れ行きを見せている。103型と65型の間のラインアップがなかったのですが、このサイズが業務用として使いやすいサイズとして受け入れられている。業務用領域はこれからも加速していきたいですね。


■ 3Dテレビはすべて新パネルを採用。3月以降に出荷

パナソニックは2010年を3Dテレビ元年に位置づける

―パナソニックでは、2010年を「3Dテレビ元年」としています。新パネルが、3Dテレビ事業を加速することになりそうですね。

長野:今年春には50v型、54v型、58v型、65v型の3Dテレビを順次投入する計画です。これらの3Dテレビに搭載するパネルは、すべて新パネルを採用することになります。そして、今年秋に出荷する152v型プラズマディスプレイも、3D対応を図ります。

―春というのは何月になりますか。

長野:日米で出荷時期は異なりますが、3月以降となります。

―価格はどの程度になりますか。

長野:まだ検討中です。市場調査によると、50型クラスのプラズマテレビの場合、500ドル程度の差ならば3Dテレビを購入したいという声が多い。700~800ドルの差でも購入したいという声があります。こうした市場の声を反映した設定をしたいと考えています。

3DテレビにはPDPが最適だと訴える

―パナソニックでは、いの一番で3Dテレビを投入するとしていますが、そのこだわりはどうしてですか。

長野:3Dの特徴を最も生かすことができるのがPDPであると考えているからです。フルHDで3D表示するために、片眼60コマ/秒、両眼で120コマ/秒で、左右交互に再生する必要があります。そのために高速駆動技術が求められるわけですが、動画応答性能の高さはPDPの大きな特徴であり、その点でもPDPは、3D化に適しています。

 また、液晶パネルは、走査によって描画する線順次方式を採用しているため、左右の画像の切り替えに左右のフレームの映像が混ざり、立体像の二重映りの原因となってしまいます。しかし、PDPでは画面全体を切り替える面順次方式を採用しているため、原理的に左右の画像の重なりが少なく、二重映りが少ないという特徴があります。

 蛍光体の残像特性による二重像という課題もありましたが、独自の新発光制御と、新短残光蛍光体の採用により、二重像を低減することに成功しています。PDPこそ、3Dテレビ時代に最適なデバイスだといえます。かつての3Dとは違う、本物の3Dを家庭に向けて提供できるようになってきた。パナソニックは、画質に妥協しない3Dテレビを投入していきます。

3Dテレビは、プラズマテレビ全体の約1割を目標にする

―3Dテレビの出荷規模はどの程度を想定していますか。

長野:初年度という点では年間100万台に目標をおきたいですね。

―パナソニックでは、2010年度にはプラズマテレビで1,000万台規模の出荷を目指していますから、約10%という出荷比率になりますね。

長野:ぜひ、1割まで引き上げたい。まだ3Dコンテンツが少ないですから、急激に増加するというものではないでしょう。しかし、来年には、3Dコンテンツがかなり増えるでしょうし、3D対応のゲームも増えてきます。2011年度には、3Dテレビの構成比は2~3割まで高まると考えています。


■ 2010年は、「飛躍の年」

右端が尼崎のPDP第5工場で生産されるパネル。マザーガラスのサイズが大きく進化していことがわかる

―2010年は、パナソニックのプラズマディスプレイパネル事業にとって、どんな1年になるでしょうか。

長野:私は「飛躍の年」だと位置づけています。PDPは、昨年までのパネルの進化とは一段違った進化を遂げた。その手応えを強く感じています。そして、尼崎の国内PDP第5工場の稼働で、新たなパネルの生産についても体制が整う。画質の進化、消費電力の削減、そして3Dという新たな提案に対して、具体的な商品を通じて評価をしていただける段階に入ってきました。

 いわば、技術が実を結ぶ1年になります。しかし、まだまだPDPの技術は進化することになる。PDPが量産化されて、まだ10年。進化する要素は大きい。次の目標に向けて改善を加えていくことになります。

―あえて課題をあげるとすれば、どんな点でしょうか。

長野:プラズマの良さを伝え切れていないという点でしょうか。新たなパネルによって、もはや消費電力の課題は払拭できるようになった。あとは高画質であること、大画面化に適していることなど、プラズマテレビのメリットをもっと訴えていけばいい。改めて、プラズマの良さを訴求し、プラズマのイメージを高めていくことが必要だといえます。そうした活動にも取り組む1年にしたいですね。

(2010年 1月 8日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など