大河原克行のデジタル家電 -最前線-

国内累計2千万台を達成した、AQUOSの強さの秘密とは

~今年度の液晶TV事業戦略を聞く。3D TVを積極展開~


 

シャープAVシステム事業本部 液晶デジタルシステム営業部 居石勘資部長
 シャープの液晶テレビ「AQUOS」が2010年3月に、国内累計出荷2,000万台を達成した。2001年1月にAQUOSの第1号機を発売して以来、9年2か月での達成。国内における液晶テレビの累計出荷台数としては初めて、2,000万台を突破することになった。

 シャープAVシステム事業本部 液晶デジタルシステム営業部・居石勘資部長は、「新たな技術を投入し続け、液晶テレビ市場を常にリードしてきたことが、2000万台の実績につながっている。AQUOSをご購入いただいた方が、買い増し、買い換えの場合にも、またAQUOSを選ぶ例が多い」と語る。


■ 国内シェアを落とすほど、予想を上回る需要のLEDバックライトTV

LED AQUOS LX1シリーズ

 新たな技術の採用という点では、これまでの歴史を振り返っても、裏付けられる。ハイビジョン化へのいち早い対応のほか、かつては32型までと言われていた液晶テレビを40型、50型、60型へと大型化を促進してきたのもシャープの功績が大きい。

 そして、ここにきてLEDへの積極的な展開、UV2Aという新たなパネルの投入、4原色表示による新方式の採用など、技術進化は留まるところをしらない。

 実際、LEDバックライトTVでシャープは先行している。3月の国内販売実績を見ると、シャープが出荷した液晶テレビのうち、LED AQUOSの構成比率は22.9%。業界全体では11.6%であることと比較すると約2倍の構成比となっており、他社を圧倒的にリードしている。LEDバックライトTVだけの市場シェアをみると、シャープのシェアは68.1%となっているのだ。

 「LEDバックライトTVの出荷構成比は15%程度になるだろうと予測していたが、それを上回る実績になっている。3月はエコポイントの駆け込み需要が集中し、低価格モデルに需要が集中すると見られていたが、そうした動きのなかでも、LEDバックライトTVに強い関心が集まっていることの証」と、居石部長は語る。

 シャープ・片山幹雄社長自らが指摘するように、シャープは3月に国内シェアを落としている。予想を上回る需要に供給が追いつかなかったのが要因だ。LEDバックライトTVも予想を上回る需要があったというわけだ。


■ 2010年度は、LED AQUOSのラインナップをさらに拡充

 では、2,000万台の累計出荷を達成したシャープは、2010年度はどんな点に力を注ぐのだろうか。やはり重要な要素のひとつが、LEDバックライトTVとなる。

 シャープでは、2010年度の液晶テレビの国内出荷計画を前年比41.8%増の780万台と、大幅な伸びを見込んでいる。それに対して、2010年度中に、半分以上をLEDにしたいという同社・松本雅史副社長のコメントを当てはめると、年間400万台規模のLEDバックライトTVの出荷計画が浮上することになる。

 シャープでは、国内のLED AQUOSの具体的な出荷数量計画については言及していないが、「すでに2割以上がLED AQUOSになっており、今後のラインアップの拡充を検討していることを考えれば、ますます構成比は高まっていくのは間違いないだろう」と、居石部長も予測する。

 

AQUOS DX3
 その先鋒的役割を担うのが、5月20日から順次出荷を開始するLED AQUOSのDX3シリーズだ。同社では、LED AQUOSとして、すでにLX1シリーズ、Sシリーズをラインアップしているが、DX3の投入はLED AQUOSのラインアップ強化という点で2つの特徴がある。

 ひとつは、BDドライブ内蔵としては初のLEDバックライトTVであるという点だ。シャープは2008年11月にBDドライブ内蔵のDX1シリーズを発売。2008年度下期におけるBD内蔵モデルの構成比は14%にまで上昇した。これが2009年9月のDX2シリーズへの進化によって、2009年度下期には17.5%の構成比にまで拡大してきた。

 「BDレコーダ内蔵テレビが、テレビとしての新たな商品カテゴリーを確立するのに従って、BD内蔵のLEDバックライトTVはないのかという声が高まってきた。今後、安定的に2割以上の構成比を担うという点でも、DX3シリーズの存在は大きい」とする。

 そして、もうひとつのポイントは、4サイズ8機種をラインアップするDX3シリーズにおいて、初めて32型というLEDバックライトTVを用意したことだ。ブラック、ホワイト、レッドの3色からの選択が可能で、よりパーソナルに視聴するといった領域においても、LED AQUOSが広がることになる。

 当然、今後はLED AQUOSのラインナップが広がることも期待され、それもLEDバックライトTVの構成比の拡大に寄与することになるだろう。


■ LED AQUOSならではの特徴を生かした訴求を行なっていく

 「DX3の引き合い状況は、予想を1~2割上回るほどの好評ぶり。量販店においても、指名で事前予約が入るといった動きが見られている。LED AQUOSで録画ができること、さらに、DLNA対応やUSB対応など、必要とされる機能はすべて搭載し、安心してご購入でき、販売店でも自信を持って勧めていただける製品となっている。常連番組表、電子番組表ジャンル色分けなどの上位モデルで好評な機能を搭載し、液晶パネルの性能を引き出す高画質マスターエンジン、ユーザーの好みに色を調整できる好画質センサーなども搭載している」とする。

 内蔵BDレコーダでは、従来の50GBで30時間録画であったものを、8.5倍モードを新たに搭載することで、36時間にまで拡張しているのも特徴のひとつだ。

 「LED AQUOSについては、CCFL管の従来製品と並べて展示を行ない、画質比較、省エネ比較、音の比較の3つの観点から訴求していく。画質に関しては、オンスクリーンPOPを活用して、沈み込んだ黒の表現力、輝く白い文字表現などがわかりやすいように訴求する」という。

 また、エコ性能についても「省エネ比較については電力計を用いて、機種によっては半分以下に消費電力が落ちていること、さらに自らセーブボタンを押せば、そこからさらに7割程度にまで消費電力が落ちることを体感していただくようにしている。自らの操作でさらに省エネができるという点に、多くのユーザーが関心を寄せている」とする。

 さらに、「ブラウン管テレビに比べて、液晶テレビを購入したら音質が落ちたという声があがっているが、こうした声に対応するため、LX1の6スピーカーの迫力を体感していただくといった提案も積極化していく。画質比較は約1,500店舗で展開。電力計を活用した省エネ比較は1,000店舗以上で展開している。DX3シリーズでも、LEDバックライトTVならではの特徴を生かした同様の訴求を行なっていく」と今後の展開を説明する。

 DX3では、UV2A液晶とLEDバックライト技術の活用により、テレビ視聴時には200万:1のコントラストを実現する一方、内蔵レコーダでのBDソフト再生時にはシネマコントラストとして、500万:1のコントラストを実現できるという表現力についても訴求していく考えだ。


■ 今年を3Dテレビ元年として、積極的に3Dテレビを展開

 

4月12日発表した、4原色やUV2Aの採用などにより、従来の1.8倍の輝度を実現したパネル。5月中に採用製品の発表が予定されている
 もうひとつは3Dテレビの展開だ。シャープでは、今年4月に3Dテレビ用の液晶技術を開発。RGBにY(黄色)を加えた同社独自の4原色技術や、UV2Aの採用により、液晶の透過率向上および色再現性範囲を拡張。従来のパネルに比べて、1.8倍という高輝度を実現したパネルによって、3D視聴での優位性を発揮できるとしている。

 5月後半には、このパネルを使用した3Dテレビを正式発表し、夏商戦向けに国内市場に投入する予定を明らかにしている。

 「3Dテレビは、2012年度には全世界で1,000万台の市場規模が見込まれる。来年度には、3Dがベーシックな機能のひとつになる可能性もある。そのなかでシャープの強みをどう発揮できるかが鍵になる。今年を3Dテレビ元年として、積極的に3Dテレビの販売展開を行なっていく」とする。

 同社では、3Dテレビの発売にあわせて、コンテンツホルダーと連携したプロモーションも予定しており、シャープならではの3Dテレビの優位性や楽しみ方を訴求する考えだ。

 2010年度の商品戦略のなかで、シャープが改めてこだわりたいとするのが、「液晶パネルの強み」と「垂直統合の強み」だ。液晶パネルでは、国内累計2,000万台の出荷実績に裏付けられる「匠の液晶技術」を強調。UV2A液晶技術の優位性や4原色表示技術による再現性の向上、LEDバックライト技術の採用などを、店頭でも強調する。

 「UV2Aの良さをわかりやすい訴求するためのPOPも用意する。材料不足などの懸念材料もあるが、今年7月からのグリーンフロント堺でのフル生産量産体制も、旺盛な需要に対して、安定した供給を行える体制づくりにつながる」とする。

 もうひとつの垂直統合では、液晶パネルの自社生産だけに留まらず、LEDやBDドライブなどの基幹部品を内製化していることをあげ、「これらの内製基幹部品をテレビ技術と組み合わせることで、信頼性の高い製品をいち早く市場に投入することができる」などとした。

 シャープは、国内トップシェア維持に向けて、自社開発/生産の液晶パネル技術の強みと、基幹部品の内製化の強みを、これからも引き続き訴え続ける姿勢である。

 それによって、年間780万台という今年度の出荷計画を達成し、次の国内累計3,000万台という数字にまで、早期に引き上げていく考えだ。


(2010年 5月 14日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など