大河原克行のデジタル家電 -最前線-

「目新しい技術訴求がないCESだった」~パナソニック津賀社長インタビュー

津賀一宏社長

 「今年のCESは、目新しい技術訴求があった年ではなかった」―

 米ラスベガスで1月7日から開幕した2014 International CESの会場を視察したパナソニックの津賀一宏社長は、率直な感想をこう述べた。そして、「各社のパネルの大型化への取り組みは、テレビから、ディスプレイへと軸足を移すことを示したものではないかと感じた」と、同社が昨年のCESで打ち出したBtoBの流れに、各社が追随を始めたとの見方を示してみせた。

 その一方で自社ブースの出来映えについては、「70点」という厳しい評価を与え、「『これぞ、パナソニック』という点での見え方が薄かったことが反省点」とした。パナソニックの津賀社長に、CESの感想とともに、2014年の取り組みについて聞いた。なお、インタビューは共同で行なわれた。

自動車メーカーとの結びつきが深まる

--2014 International CESの会場を視察した感想はどうか

津賀氏(以下敬称略):ソニー、サムスン、LG電子、フォード、GMのブースを視察し、BMWの方には当社のブースに来ていただいた。同業他社のブースを見ると、新たな技術は行き着くことところまで来ているのではないかと感じた。今年は、目新しい技術訴求があった年ではない。これはパナソニックも一緒である。パナソニックブースでは、昨年初めて印刷方式を採用した有機ELディスプレイを展示し、技術的な目新しさがあった。今年は輝度を高め、曲げれるようにしたというように進化系をみせることはできたが、新たなものではない。だが、来年以降も新たな技術が出てこないと言っているわけではない。

 各社に共通しているのは、大型ディスプレイをいかに次のフェーズにつなげていくか、4K8Kへと進化させるという点であるが、その姿はテレビからディスプレイに移りつつあることを示すものだと感じている。曲がったディスプレイを、どれだけの人がテレビとして購入したいと思っているのかといえば、少し疑問もある。テレビという商品から、一歩距離をおいて、ディスプレイを見直す年になっている。

津賀社長も視察したソニーブース

 また、ソニーのブースを見て感じたのは、ソニーのオリジンとはなにか、ソニーらしさとはなにかということを賢明に考え、それを前面に押し出している点だ。今年は有機ELは展示していなかったが、技術的進歩がなければ、あえて出さないという割り切りをしたともいえるだろう。各社各様に、自らの姿、自らのアイデンティティをより明確にしていこうという姿勢がみえ、どちらの方向に行くのかということをより鮮明に出してきたショーだったといえる。

 韓国メーカーは、昨年まではテレビとモバイルにウエイトを置いていたが、これがだいぶ変わってきた。私が受けた印象は、ディスプレイに関しても、テレビとは言い難いBtoBの比率が増えているという点。韓国メーカーもいままで通りのグローバルナンバーワンのコンシューマ商品だけでは訴求しきれないと思い始めているのではないか。韓国メーカーは両社とも、大きな規模でパネルビジネスをやっており、展示も大きくなるのは当然だ。しかし、モノづくりのポテンシャルはあるが、それに見合っただけの市場があるのかどうかが課題であり、そこが韓国メーカーの勝負どころになるだろう。

 一部には、パナソニックは、BtoBにシフトすることで、韓国メーカーとのBtoC領域における競争を避けているというような指摘もあるようだが、我々は競争がすべてだとは思っていない。いままでは「トゥマッチ」な競争をしてきたことが、お客様不在のなかで、自分たちを見失うことにつながったと考えている。これが反省である。

 ある特定のセグメントのお客様に対して、なにでお役立ちするのかを、明確に訴求する形に変えていきたい。しかも、そこに対して、他社が簡単に真似ができないというものをやっていきたい。これにネットワーク、サービスを加えて、ソリューションにつなげていく。ここにBtoBシフトの意味がある。韓国メーカーはまだその領域には行っていない。パナソニックはBtoBの領域での成功事例を増やし、それぞれの業界において、お役立ちできるような体制とし、そこにパナソニックの技術が光るという形にしたい。これが単なる競争からの脱皮につながる。

 一方で、2014 International CESにおける自動車メーカーの位置づけが高まってきているのを感じる。2週間後には米デトロイトでモーターショーが開催されるにも関わらず、このイベントに力を注いでおり、フォードにしても、GMにしても、エレクトロニクス関連の強化、ネットワークまわりのサービス提供を行なっていくということを、このCESで打ち出している。自動車産業とエレクトロニクス産業との接点が、CESの場にできあがっているともいえよう。

 自動車メーカーにとって、エレクトロニクス、情報通信、ネットワーキングの価値が相当あがっている。これは我々にとってチャンスであり、リスクでもある。パナソニックは、インフォテイメントでTier 1(ティアワン。自動車メーカーに直接部品供給する大手メーカー)との連携を進めてきたが、ここをTier 1の企業に丸投げするようなビジネスでいいのかということを改めて考える必要が出てきたのではないか。新たな関係を作り上げることが不可欠である。自動車産業のサイドからみて、なにがいいのかということを発信していく必要がある。

 International CESは、一般の方々よりも、業界の方々が来場者するイベントであり、これまでは流通領域の方々に対して、メーカーの新製品や戦略などを理解していただくことが中心であったが、いまでは様々な業界が入り乱れて、意見交換を行なう場になってきている。そういう意味では、パナソニックがBtoBにシフトしても、CESは重要な場であると感じている。

パナソニックブースの自己採点は70点

--今回の2014 International CESにおいて、パナソニックが発信した内容はなにか

津賀:昨年のInternational CESでは、基調講演などを通じて、パナソニックは、BtoBに明確にシフトすることを示し、BtoBを含めて「お客様のくらし」に貢献するいう姿勢を打ち出した。そのときには、Engineering a Better World for youというフレーズを使ったが、これをグローバルにどう展開していくのかということを考えた結果、「a better life,a better World」という形で、BtoCとBtoBのバランスを意識した形で事業を推進し、そして、価値の提供は、一人ひとりのお客様に向けるという姿勢を打ち出し、ブランドスローガンへと進化させた。

 こうした思いを込めて、今年のInternational CESでも、BtoCの展示だけでなく、BtoBも商品、サービスを展示し、これらが技術でどんな関係づけができたかを示させてもらった。たとえば、有機ELについては、BtoBにフォーカスし、しかも、曲げた4つのディスプレイを組み合わせることで、BtoBアプリケーションとしてのひとつのイメージを出した。有機ELの「出口」がBtoCのテレビだけではないということを示し、順番としても、BtoBの商品を先に出していくということを打ち出した。

--パナソニックブースを自己採点すると何点か

パナソニックブース

津賀:他社のブースが行なっていた立体的で派手なパネル展示は、一般受けはするだろうが、我々はBtoBを意識して、じっくりご覧いただけるような形でブースをしつらえた。また、従来は会場の階段を挟んで2段階だったものを見直して1段階とすることで全体での一体感、統一感を持たせた。今年のブースではBtoBシフトを鮮明にしたこと、BtoBとBtoCを融合していくことを見せるという狙いがあり、その点では70点の採点ができる。

 なにが足りないのかというと、一般の来場者が見て、「これぞ、パナソニック」という点での見え方が薄かった点が反省点である。ただ、スピード感を持った形でブースを構成できたと考えている。既存の商品を並べた縦割り的な展示から、パナソニック全体としてなにを訴求したいのかを見せるように変わってきた。だが、まだ一部の商品では、いままでのような商品のラインアップを展示するだけであった。私は、そうした展示はやめた方がいいと、現場で苦言を呈した。なにを、誰に訴求したいのかがはっきりしない展示はやめた方がいい。すべてにおいて、誰になにを訴求するのかということを、明確にすることが大切であり、ここに対して、スピード感を持って取り組みたい。

スマホがなくてもビジネスは成り立つ

--現在、BtoCから派生した商品が、BtoB市場に大きな影響を与えている。そのなかで、パナソニックは、BtoBシフトを鮮明にしている。それは、消費者の感覚を捉えられないことにつながらないのか

津賀:BtoCを捨てて、BtoBに行くのには大きなリスクがある。また、BtoBをやりながら、BtoCをやるというのもバランス感が大切である。BtoCの競争に対して、どう取り組むのかといった判断も大切である。そうしたなかで、パナソニックは、BtoBとBtoCをやっていく姿勢を明確にした。家電ビジネスも捨てるとは言っていない。2018年には家電で売上高2兆円を目指すことになる。だが、家電ビジネスの構成比が大きく変わることは明らかだろう。

 スマートフォン一つをとってみても、これは我々にとっては、BtoCではなく、BtoBtoCとなる。スマートフォンのどこに価値を見いだすのかということが他社との差別化になる。ソニーブースを見ると、ソニーにとって、スマートフォンのビジネスは、もはや外せないものとなっている。だが、パナソニックは、外したところからビジネススキームを考える。お客様にとって、スマートフォンは重要な商品、サービスであるが、我々にとって、自分たちでスマートフォンを作らないとビジネススキームが成り立たないのかというとそれは違う。そこに、ソニーとのスタンスの違いがある。ナンバーワンになれば価値がでるが、この領域でナンバーワンになり続けることができるのかということを考えると、ビジネスリスクが大きい。

 BtoBでは、パートナーシップが不可欠であり、他社との協調といったことが不可欠となる。そして、それが当社の欠点を補うこと繋がる。当社が比重を軽くした領域においては、戦略的なパートナーシップで展開していくことになる。

--具体的には、スマートフォンのビジネスはどう展開していくのか

津賀:パナソニックは、スマートフォンそのものを開発、製造しているメーカーであるという側面と、スマートフォンを使った様々な事業を行なっているメーカーであるという側面がある。後者には、白物家電とスマートフォンの連携提案ということも含まれている。だが、この2つの「顔」が、これが1対1で結びついているわけではない。クラウドを通じて、お客様の先で結びつけることができれば、顔ができてくるだろう。しかし、スマートフォンというハードウェアで囲い込めるのかというと、それは囲い込めきれないと考えている。パナソニックがやるべきことは、どのスマートフォンからも繋ぎたいと思ってもらえるサービスを作り、家電商品と結びつけるということになる。スマートフォンを持たなくてもビジネスのやりようはあると考えている。

プラズマテレビに変わる次の「顔」は?

--プラズマテレビからの撤退を発表したパナソニックにとって、今後の「顔」はなにになるのか

津賀:私が2011年にAVCネットワークス社の社長に就任したときに、将来、プラズマから撤退しなくてはならなくなることを想定し、液晶テレビ、有機ELテレビの開発を加速してきた。仮に、プラズマから撤退した場合に、パナソニックの存在感がなくなるのかということについては地域ごとに反応が異なると考えたが、特に、北米のテレビ事業においては、プラズマを一番強くプロモートしてきた地域であるため、プラズマ撤退のダメージが最も大きな地域であると考えた。また、ほかの地域でも同様にプラズマテレビを一番の顔として進めてきたため、液晶ですぐに同じ「顔」は作れないという思いもあった。これは仕方がないことであり、別の「顔」を作っていく必要がある。

航空機向け機器などをブースでも紹介

 航空機向けのアビオニクスや、車載関連事業のBtoBは、多くの「顔」を持っているが、これはパナソニックにとっては、顔にならない「顔」である。コンシューマの「顔」を新たに作っていかなくてはならない。その顔になりうるのが、パナソニックビューティーで展開している美容商品や、キッチン向けの調理小物などである。パナソニックビューティーはアジアから、調理小物は欧州から展開している。また、デジタルカメラのLUMIXは、北米において、フォトルートの開拓が十分にできていなかったという反省があり、量販店でのプレゼンスが高くなかった。昨年からこれを強化しており、イメージング、ウェアラブルといった領域においても特徴があるものを出していきたい。つまり、小物系で「顔」を作っていけると考えている。

--今後のパネル生産はどうするのか

津賀:液晶パネルの生産については、基本的には、姫路では高精細のパネルを生産し、それ以外のパネルは購入することになる。また有機ELのパネルについては、当面は業務用としての生産を行なうが、歩留まりがあがってきた段階で、民生用に展開するのかどうかを検討しながら、パートナーと一緒にやる方向で、将来への布石を打っていきたい。いますぐに有機ELテレビ用の生産を自前でやることは考えていない。

パナソニックが考える4Kへの取り組みとは

--4Kへの取り組みをどう考えているか

ブースでの4K製品展示

津賀:4Kは大きなポテンシャルを持った商品であると認識している。昨年末に、汐留のミュージアムで絵画の展示会を行ない、皇后陛下にもご来場いたただき盛況だった。この展示会場の出口に65型の4Kテレビを設置し、作品を紹介した。これに多くの方が見入っていた。展示会場の現物を見るのとは異なるが、それでも引き込まれるような精細感、臨場感を出せた。これが4Kの魅力である。だが、言い方を変えれば、4Kディスプレイの良さはそこにしかない。精細度、臨場感を持ったコンテンツを用意できるかに尽きる。ディスプレイを生かせるコンテンツやアプリケーションを提案することがメーカーの役割である。放送局にもコンテンツを揃えていただき、これまでのハイビジョンの世界とは違うものを作るんだという思いでやってもらいたい。

4Kタブレット「Tough Pad 4K」

 私は、年末に量産試作の4Kタブレット「Tough Pad 4K」を自宅に持ち帰り、日経電子版を読んだが、紙のリアルのイメージを持ったまま、さらに拡大縮小ができ、紙の世界が変わるなと感じた。電子化されているので紙以上の読み応えがある。だが、Tough Pad 4Kは、2.4kgもあるため持ち運びしにくく、バッテリ駆動時間が2時間と短い。もっと薄くなり、軽くなれば、世界が変わる。これが4Kのひとつの方向性である。

 こうしたものを探していけるかが、私にとっての4Kの興味となっている。4Kのポテンシャルを生かした良いテレビを購入したいという人にだけ提供するのでは、メーカーとしては足りない。ディスプレイの性能を十分に発揮できるアプリケーションをいかに提案し、パートナーシップを作り、テレビに限らず、幅広く展開していくことが重要である。

--4Kはビジネスとして成り立つのか

津賀:BtoBという観点では、4Kはビジネスとして立派に成り立つと考えている。4Kだからといって、コストがすごく高いわけではない。セットの価値をBtoBで取り込めれば、収益につながる。4Kディスプレイが普及する段階においては、4K向けのコンテンツを作り、アプリケーションを作るところでもビジネスになると考えている。ただし、すべてのテレビが4Kテレビになれば、いまのコモディティ化したテレビと同じになってしまうということも考えなくてはならない。

--ウェアブル端末の可能性をどう見ているのか

津賀:これは非常に重要な分野である。また、パナソニックが、この市場でどんなポジションを作れるのかといったことも考えていく必要がある。人のくらしのなかでは、空間をどうするのかということと、人という個人からみた世界をどうするのかといったことを組み合わせて、どう提案するのかということが、エレクトロニクスメーカーに求められる姿である。ウェアラブルが発展すれば、空間との協調が発展し、空間の制御ができるようになる。そして、クラウドベースでコントロールできる世界が訪れる。

 人間の外から見えないものもわかるようになる。人の体のデータをもとにして病気を知るだけでなく、自動車を運転している時にどれぐらいの負荷がかかっているのか、高齢化によって体力がどう落ちてきているのかといったこともわかるようになる。これがくらしの改善につながり、くらしを豊かにすることになる。個人への負担を減らすという点でもウェアラブルは必要なものとなる。

 今回CESで展示した耳に付けられるカメラは、人間の記憶をどう残していくのかということに着目したものになる。これまでのカメラでは、その時々の臨場感を伝え切れたのかというと決してそうではなかった。カメラを構えて、撮られる側もそれを意識し、その画を切り出してきた。人が目で見ている臨場感とはまったく異なるものであった。ウェアラブルのカメラによって人間の視覚により近い形での映像が撮影できるようになる。人の人生が潤うことになるのではないかと考えている。

2014年は「反転攻勢」をやり切る1年に

--パナソニックは、「普通の会社」に戻ることを示していたが、それに向けての進捗はどうか

津賀:パナソニックを普通の会社に戻すためには、何個ものステップを踏まなくてはならない。1つめは、資金調達、格付けという面で、社会からの信頼を回復し、復配し、株価をあげて、株主の信頼を回復するということ。2つめには、事業構造を変えて、世の中に求められる事業、商品、サービスを提供できる会社になるということ。そして、その次の第3ステップに入ることができる段階に到達した。事業構造の改革については、まだ道半ばではあるが、普通の会社に向けて着実に進むことができている。これからなにをすべきか。それは、会社のなかに身を置くのではなく、外に身を置いて、社会が求めるものを実感し、外部にうまく応えて、内部を変えていくということである。

--2013年度は、黒字化を必達目標としているが、現状はどうか

津賀:詳細は申し上げられないが、第3四半期までは順調に推移している。第4四半期や、4月からの来年度第1四半期以降にどうするかが課題であり、とくに日本では消費増税の反動をどうするのかというところが課題である。反動の影響で、商品導入計画がへこまないような形で、第1四半期がスタートできるかどうかがポイントである。2015年度までの3年間に渡る中期経営計画で掲げた数字をやりきることができるかが最大の関心事となるが、初年度は比較的順調に進めることができた。その上で、2014年度も最低限の数字をクリアしなくてはならない。

--2014年は「反転攻勢をやりきる」ということを掲げたが、これは具体的にはどういうことか

津賀:反転攻勢のひとつには新興国がある。いままでも新興国をやっていなかったわけではなかったが、日本主導で家電商品を開発し、新興国市場に売っていくという仕組みであり、必ずしも競争力のある商品を投入できていたわけではなかった。新興国に求められる商品は新興国にいかないとわからない。現地の裁量を広げて、現地で責任をとれるように権限を拡大する取り組みを昨年からスタートしている。

 インドでは特別プロジェクトを通じて、品質基準などについて裁量を与え、日本がサポートする形としている。これをさらに発展させ、商品の自前開発を新興国でできる体制を中国、ASEANを中心に進めたい。いままでとの違いは主が日本で、従が新興国であったものを、主を新興国として、日本がそれをサポートするという点にしたことであり、責任をより明確化していくことになる。

 これまでのデジタルテレビは、グローバルで戦うために象徴的となる商品を作っていたが、日本で象徴となる商品はなにか、新興国で象徴となる商品はなにか、欧州で象徴となる商品はなにかということを考えていきたい。誰に向けて象徴的なのかがわからない商品は無くてもいいと思っている。

 一方で、BtoBでは、多くの日系企業のインフラ投資が進むなかで、パナソニックが、それに対して十分な対応ができたのかという点が反省点である。いま、それを解決するために、重点パートナーになりうる企業を訪問し、どんなBtoB提案ができるのかといったことを話し合っている。具体的な事例としては、携帯電話の基地局へのインフラ投資において、パナソニックは基地局に対してなにができるのか、新興国において先進的なLTE環境が構築された際に、どんなサービスを提供し、BtoB展開ができるのか。あるいは、電力事情が悪いなかで、どんな点が問題になり、どう解決するのかといった、現地での対応力を高めるといったことに取り組む。こうしたことを、様々な地域で始めている。インドで成功事例ができれば、これを他の国への横展開を図っていくこともできるだろう。

--「攻勢」の達成については、どんな尺度でみるのか

津賀:一番わかりやすいのは売り上げである。これまでは売り上げは追わないということを示し、体質改善を最優先でやってきた。そうしたなかで、「攻勢」が始まったな、といえる状況を捉えるとするならば、それは「売り上げ」に尽きる。だが、これが1年で数字として見えてくるのかというと、正直なところ、自信がない。いまの売り上げは円安によって、見かけの売り上げができているだけであり、現地通貨ベースではまだ攻勢はかかっていないからだ。課題となっているデジタルAV事業が、下げ止まっているのかという指摘があるのも事実だ。これ以外の指標では、新興国などの重点領域での売り上げがどうなるのかというのも大切である。

--「攻勢」は、売り上げを追うということの宣言か

津賀:売り上げを追うということではない。売り上げがあがるということである。いまの認識は売り上げが下がっているというもの。復配し、資金ポジションが良くなり、株価が戻った、利益が出始めたという点では反転したが、売り上げは反転していない。特定のセグメントであっても、売り上げが反転しはじめたら、それは「攻勢がはじまった」と見なしうると考えている。

--為替は競合環境に影響しはじめているのか

津賀:いまは収益に影響しているというだけであり、競争環境の改善には影響していない。しかし、これからは競争環境に影響が出てくるだろう。円安がアゲンストとなる海外生産品の日本国内への持ち帰りがどうなるか、韓国メーカー、中国メーカーとの競争関係にどう影響するのかというところも見ていかなくてはならないと考えている。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など