大河原克行のデジタル家電 -最前線-

クアトロンプラスで“ゲームチェンジ”。シャープのTV戦略を水嶋副社長に聞く

シャープ 水嶋繁光代表取締役副社長

 シャープの水嶋繁光代表取締役副社長は、米ラスベガスで開催中の2014 International CESの会場で取材に応じ、「Quattron+(クアトロンプラス)は、フルHDを4Kの世界にどうつなげていくかという転換において、重要な意味を持つ技術であり、これは8Kへの橋渡しでも重要な役割を果たすことになる」などと述べた。

 また、有機ELに関しては、「必ずしもポスト液晶になるとは考えていない。本来の有機ELの強みを発揮できる状況にはなっていない」と、当面、液晶を軸とした戦略に変更がないことを示した。さらに、水嶋副社長が担当する新規事業推進本部への取り組みについては、「2013年に約30種類の新規製品を創出した。2014年はこれをビジネスに変える1年になる。スタートから半年の成果は進捗通り」などと自己評価した。

4K相当クアトロンプラスでテレビの「ゲーム・チェンジ」を

展示された「Quattron+」テレビ

 シャープは、今回の2014 International CESにおいて、フルHDの最高峰モデルとして、AQUOSクアトロンプラスを搭載した「Q+シリーズ」を、今年2月から発売すると発表した。

 クアトロンプラスは、日本ではすでにAQUOSクアトロン プロとして、2013年11月に発売したパネルであり、独自の信号処理と輪郭強調処理を施すことで、フルHD解像度でありながら、4K2Kに相当する高精細表示を実現したのが特徴だ。

 4K市場は拡大傾向にあるものの、視聴できるコンテンツの約9割がフルHD対応であり、4K対応コンテンツの普及にはもう少し時間がかかる。

 水嶋副社長は、「テレビのエリアでは4Kが大きなトレンドであると理解しているが、シャープらしい取り組みとして、クアトロン プロおよびクアトロンプラスがある。今後1年は、これを前面に押し出していく」と前置きし、「クアトロンプラスとは、4K、8Kの時代を手前に引き寄せる技術である」と位置づけた。

 「4Kのインフラが確立するまでにはまだ時間がかる。そうしたなかで、フルHDの放送コンテンツ、映像コンテンツを4Kの時代にどうつなげていくかがポイントであり、その解決手法として、フルHDのコンテンツを、アップコンバードするという手法がある。そこに、フルHDパネルでありながら、4K2K相当の映像を体感できるクアトロンプラスの役割がある。しかも、コストをそれぼどかけずに、4K相当の画質を楽しむことができる。4Kの普及に重要な役割を果たすと位置づけている」とする。

 また、「今後、4Kのインフラが揃ったときには、4Kのクアトロンプラスが出てくることになる。それは4Kの環境下で、8K相当の画質を楽しんでもらえることが特徴になる。その準備はできているが、まだ投入時期は明らかにできない。クアトロンプラスは、常に、本来の解像度をワンランク上の画質で見ることができる技術であると捉えてもらいたい」とする。

 さらに、「クアトロンは、RGBに加えて、色の再現範囲が広く、色がきれいに表示できる。そして、一般的に色の再現性をあげると消費電力が高まるという傾向にあるが、クアトロン逆に消費電力を下げることができるという特徴がある」とする。ワンランク上の画質、広い色再現範囲、低消費電力という3つがクアトロンプラスの特徴だと強調してみせた。

 また、視野角の確保に使っていたサブ画素を、ワンランク上の解像度実現のために使ったことから、視野角が狭くなっているのではないかとの指摘に対しては、「視野角をそれほど犠牲にすることなく、解像度をあげることができたと考えている」と反論した。

 クアトロンプラスの位置づけは、ハイエンドのフルHDテレビだ。

 「4K放送を見ることができるフルハイビジョンテレビ。また、フルハイビジョンテレビでありながら、4K相当の画質が表示できるテレビとして意味があるもの。フルHDの価格が下がるなかで、高い収益性をあげることができるもの」としている。

 シャープでは、米国における2014年の年間出荷計画を110万台としており、そのうちクアトロンプラスで70万台を予定。過半数を占める考えだ。また、全世界では、大画面が受け入れられる市場を中心として、約半分をクアトロンプラスで占めたいとしている。

 シャープでは、これを「ゲームチェンジにつながる製品」とし、大型化、高精細化といった動き同様に、新たな需要にシフトする流れを作ることができると捉えており、クアトロンプラスの独自性を訴求していく考えだ。

8Kによる自然な裸眼3D映像に自信。有機ELは「ポスト液晶ではない」

85型8K4K裸眼3Dディスプレイ

 2014 International CESにおいて、シャープは、85型8K4K裸眼3Dディスプレイを参考展示している。大型、高精細の特徴を生かし、臨場感のある立体表示を可能としているのが特徴だ。

 水嶋副社長は、「単に8K化するのではなく、8Kによる3D画像を実現した。これにより4K相当の3D画像が表示できる。今回の製品を作ってみて、私自身感じたのは、初めて自然な3Dを、めがねなしで見てもらえる技術であるという点。8Kの時代になれば、こういう3Dが実現できる、ということを示せた。私自身も驚きであり、確実に一歩進むことができた」と自信をみせた。

 「3Dが普及しなかった理由には、めがねをかける作業の面倒さだけでなく、両眼の視差だけに基づく立体表現には限界があったという点だ。2年前に、8Kディスプレイを発表し、2Dを表示した際に、『これは3Dなのか』という質問が一番多かった。それ以降、いかに自然に見ていただける3Dをつくるかが鍵だった」とした。

 試作品の開発に当たってはドルビー、フィリップスと提携しているが、「最適なコンテンツを作るにはどうするか、レンズなどの光学系をどうするかといったところを3社で共同で進めている」と語った。

 また、「今回の試作品では、視野をすべて画面で埋めてしまう没入感によって、3Dを体験してもらうように視聴距離感を短く設定している。スムーズな3D映像を視聴できる」とも語る。

 なお、8Kディスプレイについては、すでに小規模にビジネスをスタートしていることを明らかにし、「NHKが8Kのデモストレーションを行う液晶ディスプレイは、すべてシャープ製である。来年度に向けてビジネスとしてスタートさせたい」としている。

 一方、有機ELディスプレイへの取り組みについては、「有機ELについては、我々も研究開発を進めており、将来には備えている」としながらも、「必ずしも、有機ELがポスト液晶になるという短絡的な考え方は成り立たない。また、現時点では、有機ELの新たな顧客価値が生まれにくいと判断している。低消費電力が魅力といわれるが、そうはなっていない。さらに色がきれいだといわれるが、RGBのバックライトを使用すると、同等以上の色再現にはならない。有機ELの価格は2倍、3倍となるため、需要を創出できないという課題もある。そのため、有機ELに対する設備投資、開発投資が回収するシナリオを引くことが難しくなっている。有機ELの特徴を生かすことができるようなアプリケーションを追求していく必要がある。これは業界全体として見えていない」などと述べ、現在、有機ELの事業化は優先課題としていないことを示した。

 また、中小型のIGZO液晶パネルについては、「これまではシャープの製品にのみ搭載されているという感じであったが、IGZO搭載のスマートフォンや、タブレットが着実に増えてきている。IGZOの生産能力も供給量を維持できる体制を整える」などとした。

家族を支えるテレビへ。機動的に新規事業を

 水嶋副社長は、テレビなどの製品づくりに対する姿勢を次のように述べた。

 「シャープは、テレビという製品に対して、お客様から対価をいただいているとは思っていない。製品が生み出すライフスタイルに対して対価をいただいている。メーカーである以上、新たな価値、評価してもらえる価値を提供していく姿勢が必要だ。その点では、最終製品を提供しつづけることに意味があり、コンシューマ向けテレビというところにもこだわっていく」とし、「朝、椅子に座って、テレビを見ているだけで、自分の健康状態を見守ってくれるというようなものが、ライフスタイルを提案する製品だといえる。デバイスだけを売れば、シャープの役割が終わるとは思っていない。ブラウン管から、2倍も3倍も価格が高かった液晶にテレビが置き換わったのは、画像がきれいだというだけでなく、液晶によって実現される世界観が受け入れられた。これらかもテレビも変化するなかで、次の変化はどうなるか、次の映像文化はどうなるかといったことを捉えていく必要がある」とした。

 スマートテレビに関しては、「スマートテレビには、テレビなどの映像配信を受けること、インターネットとの連携した情報機器としてのテレビの位置づけに加えて、クラウドの窓口となり、利用者の生活をサポートしてくれるテレビといった役割がある。スイートスマートホームは、見せる画面としては重要である。またテレビ自身が喋りだし、家と人間を結ぶ役割をテレビが果たすことになる。携帯電話はすでに自分の分身のようになり、肌身離さず持っている人が多い。家のなかでの家族を支える存在になっていくのがテレビになるだろう。私は20年前に、ディスプレイセントラル構想というのを打ち出したが、テレビが中心となって情報管理や、見守りといったことを行うような世界が実現されることになる」と述べた。

 一方、水嶋副社長は、自らが事業を推進する新規事業推進本部の進捗についても語った。

 同推進本部を設置してから、約半年間の成果については、「2015年に新規事業において、800億円の売上高を目指すという道筋には乗っている。短い期間に、かなりの製品が出揃ってきたことはひとつの実績を作れたといえる。ひとつの進捗を見ることができた」と自己評価しながら、「約30種類のモノが揃っており、みなさんに面白いと思ってもらえるもの、ユーザー目線で開発したものができたと考えている。営業現場からも面白いといってもらえるものが出てきている。今年度下期にはすでに一部製品において、売り上げがあがっているが、これを、ビジネスへとつなげていく作業が2014年の取り組みになる。2014年はもっと多くの製品が市場に出てくるだろう。シャープは、製品や技術を作るのは得意だが、お金に変えるのが不得意である。そこをなんとかしたい」とした。

 また、水嶋副社長は、「他社が出している製品と横並びのものを出していては、シャープの存在価値はない。思わぬ可能性を発見し、それをお客様に提案する会社でありたい。もともとシャープはそういった会社であり、シャープの姿を取り戻したいというのが大きな想いである。こういう手があった、こういうことができるという驚きを見ていただきたい。技術者がすごいという技術も大切だが、お客様がすごいと思ってもらえるものを出したい。その点では、この10年は反省する点もあった」としながらも、「新規事業への取り組みは、売上高よりも、成功事例を示すことで、その先の10年に向けて、シナリオが作ることが大切であり、いわば、中身の方が大切である。いままでのように、既存の延長線上のままで製品を開発して、固定的なサイクルで、固定的な販路で、固定的なバリューチェーンで、モノを出してきてことには限界がある。冷蔵庫はこれまでのようなに1年に1回開発すればいいというサイクルに固定する必要がないというのが新規事業の考え方。もっと短い開発期間で、機動性の高い製品展開をできる新たな仕組みを築くことが大切である。既存の事業本部にできないことを新規事業本部で行なうことになる」と述べた。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など