大河原克行のデジタル家電 -最前線-
デジアナ変換サービスがまもなく終了! 地デジ移行最終局面
業界が懸念する課題、そして期待とは?
(2015/1/27 10:00)
まもなくデジアナ変換サービスが終了を迎える。
デジアナ変換サービスとは、2011年7月のアナログ放送の停波時に、集中する地デジ移行への混乱を避けるため、総務省からの要請によって、ケーブルテレビ事業者が開始した経過措置ともいえる放送サービスだ。
ケーブルテレビによる視聴者を対象に、地デジ放送をアナログ方式に変換し、ブラウン管テレビなどの既存のアナログテレビのままでも地デジが見られるようにするサービスがデジアナ変換サービスであり、使用可能なアナログ受信機を地上アナログ放送停波後も継続して使用したいという視聴者からの要望への対応、2台目以降のアナログ受信機の買い換えなどに伴う視聴者負担の平準化、アナログ受信機の廃棄およびリサイクルの平準化などを目的に、地上デジタル放送への円滑な移行に寄与するサービスと位置づけられていた。
だが、アナログ停波から3年半を経て、いよいよ今年3月をめどに、このサービスが終了。これによって、地デジ移行は、まさに最終局面を迎えることになる。
デジアナ変換サービスとは
デジアナ変換サービスで視聴しているテレビでは、画面上に「3月までに放送終了」、「デジアナ変換」のほか、視聴するケーブルテレビ局などへの問い合わせ先などが表示されている。また、ブルーバックとなる時間帯もある。こうしたテレビは対策が必要だ。そのまま視聴していると、サービス終了後にはテレビ視聴ができなくなる。
現時点で、約9割のケーブルテレビ局でこうした告知表示を行なっているとみられるが、残り1割のケーブルテレビ局では表示していないようだ。これらのケーブルテレビ局では視聴者数が少ないことから、個別訪問などを通じてデジアナ変換サービス終了後の対策提案を行なっている模様であり、決して野放しにしているわけではない。すべてのケーブルテレビ局がサービス終了に向けての告知、認知活動、そして移行支援を行なっている。
業界の調べでは、昨年9月時点で、デジアナ変換サービス利用者のうち、9割以上がサービス終了に関して認知をしており、告知に対する成果はあがっているとみている。だが、一昨年12月の調査では4.3%だった視聴世帯数は、9カ月を経過しても4.2%と、0.1ポイントしか減少しておらず、移行が進んでいないことが明らかになっている。これから、サービス終了間際での駆け込み対策が集中する可能性が懸念されている。
シャープによると、「すでにデジアナ変換サービスが終了した地域では、サービスが終了する間際、あるいはサービスが終了してから慌ててテレビを購入するといった例が出ている」という。
また、「デジタルテレビを購入しているのに、アナログのボタンを押したままで視聴しており、デジアナ変換サービスとなっている世帯もある。あるケーブルテレビ局では、視聴者の5%がデジタルテレビで、デジアナ変換サービスを視聴していたという調査結果もあった」(関係者)という。7年以内にテレビを購入した場合などは、「デジアナ変換」の文字が表示されていても、リモコンの「テジタル」という表示を押してみてはどうだろうか。それだけで解決する場合もある。
最後のサービス終了は4月30日に
注意しなくてはならないのは、ケーブルテレビ局によって、サービス終了の時期が異なることだ。
福井ケーブルテレビのように、2013年7月時点でデジアナ変換サービスを終了している例もあるが、なかには2015年4月30日にサービス終了を予定しているケーブルテレビ局もある。
全国のケーブルテレビ局を調査したところ、1月29日には茨城県の土浦ケーブルテレビ、31日には北海道の帯広ケーブルテレビ、長崎県のおおむらケーブルテレビの3つのケービテルテレビ局がサービスを終了する予定だ。また、2月中にサービス終了を予定しているケーブルテレビ局は28設備、3月中にサービス終了を予定しているケーブルテレビ局は381設備に達する。同じケーブルテレビ局であっても、地域(設備)によって終了時期が異なるので注意が必要だ。また、3月中といっても、すべてのテーブルテレビ局が3月31日で終了するわけではない。3月31日に終了するのは180設備。むしろ、31日以外に終了するケーブルテレビ局のほうが201設備と多いことに注意したい。
さらに、4月になってからサービスを終了するケーブルテレビ局もある。4月にサービス終了を予定しているケーブルテレビ局があるのは、北海道、神奈川、福井、三重、奈良、徳島、福岡の7道県。42設備のケーブルテレビ局が4月のサービス終了を予定している。そのうち、12設備が4月30日でサービスを終了することになる。
これらの地域でサービスが4月にずれ込む理由は、4月に実施される統一地方選挙にある。公職選挙法では、選挙期間中は放送条件を変更してはいけないことが規定されており、デジアナ変換サービスの終了はこれに該当する。知事選が行なわれる10道県のうち、鳥取や島根、大分では、選挙開始前にデジアナ変換サービスを終了。一方で、7道県のケーブルテレビ局では、選挙終了後のサービス終了を選択した。なお、これらの7道県においても、選挙期間前にサービスを終了しているケーブルテレビ局があるので注意が必要だ。視聴するケーブルテレビ局に終了時期を確認することをお勧めしたい。
全国105万世帯でデジアナ変換サービスを利用
では、実際にどれぐらいのデジアナ変換サービスによるテレビ視聴者がいるのだろうか。
シャープの試算によると、ケーブルテレビの総接続世帯数2,693万世帯のうち、デジアナ変換視聴可能世帯数は2,532万世帯。そのうちデジアナ変換サービスのみを利用している世帯は4.2%、105万世帯に達するという。そのなかで、デジタルテレビに買い替える予定がある視聴者は50%と算定。そこから逆算すると、デジアナ変換サービス終了に伴い、52万5000台の買い換え需要が発生と想定している。
他のテレビメーカーでは、テレビの買い換え需要は視聴者の40%程度に留まると予測するなど、見方は微妙に異なるが、それでも50万台程度の買い換え需要があるというのは共通認識といえそうだ。
だが、その一方で、業界筋では、これだけのテレビ需要では収まらないとの見方が支配的だ。
というのも、この数字は1台目としてのテレビ視聴を対象としたものであり、2台目以降のテレビでもデジアナ変換サービスを視聴しているテレビを含んではいないからだ。シャープでもその点は認めている。
では、2台目以降のテレビでデジアナ変換サービスを利用している世帯数はどれほどあるのか。具体的な数字は明らかではないが、実はこちらの方が規模が大きいというのが業界内に共通した認識だ。一部には「300万世帯を超える家庭で、2台目以降のテレビでデジアナ変換サービスを利用しているのではないか」との観測もある。
だが、2台目以降のテレビでは、買い換え需要の比率は一気に下がるとみている。
シャープ デジタル情報家電事業本部国内営業統轄の居石勘資氏は、「シャープが2001年に発売したAQUOSの第1号液晶テレビは、アナログテレビ。私自身も、3台目のテレビとしていまも利用しているが、これを買い換えるという予定はない」と自らの体験談を含めながら、サービス終了に伴いテレビ視聴ができなくなったからといって、あえて新たなテレビに買い換えることはしないユーザーが多いであろうことを示唆する。1割強のユーザーがテレビの処分を予定しているとの試算もある。
とはいえ、テレビメーカーによっては、2台目以降のデジアナ変換サービスによる視聴者が、新たにテレビを購入する比率は3割程度と試算するところもある。買い換えの比率は1台目よりも低くなるが、それでも100万台の需要が存在するとの見方ができる。
地デジ移行時に集中したテレビ需要により、国内の年間テレビ出荷は、2010年度に2,571万台、2011年度も1,660万台になったことに比較すると、1台目と2台目需要をあわせて150万台という今回の需要規模は小さく見えるが、「いまや、テレビの年間出荷規模は600万台に留まる。1台目需要の50万台だけでも、1カ月分のテレビ需要に匹敵する」と、業界にとっては大きな弾みになるとの期待があるのも事実だ。
3つのサービス終了対策に潜む課題
デジアナ変換サービス終了に伴う対策は、大きく3つ考えられる。
ひとつめは、デジタルテレビへの買い換えだ。先にも触れたように、4~5割の視聴者がこの方法を選択するのではないかと予測している。
2つめは、ケーブルテレビ会社と契約するという方法だ。ケーブルテレビ会社が提供するセットトップボックスを既存のテレビに接続すれば見ることができる。業界関係者の声をまとめると、約15%がこの方法を選択するとみている。
3つめが地デジチューナーやレコーダーを購入して、既存のテレビに接続するという方法だ。約10%のユーザーがこの方法を選択する可能性があるようだ。
だが、これらの3つの方法のいずれにおいても、いくつかの課題が発生すると業界関係者は懸念している。
まずはテレビへの買い換えにおける課題だ。
3月にかけて買い換え需要が発生しても、テレビが極端な品薄になることはなさそうだ。
だが、買い換え時には、ユーザー自身がテレビの選択に注意が必要となる。
というのも、ブラウン管テレビやアナログ対応液晶テレビでは、4:3の画角となっており、デジタルテレビの16:9とは画角が異なる。そのため、同じサイズ感で視聴するには、ひとランク上のサイズを購入することが適している。また、ブラウン管のワイドテレビからの買い替えの場合でも、見た目の迫力感を維持するためは、やはりワンランク上のサイズが最適だと、メーカーや量販店では提案する。
「ブラウン管テレビからデジタルテレビへの買い替えにおいては、ワンランクアップの画面の高さで提案することで、満足度が高まる。29型の4:3のテレビや、32型ワイドテレビからの移行の場合は、同じインチサイズでは画面サイズや全体の大きさが小さくなる。40型の提案が、後悔しないテレビ選びにつながる」と、シャープでは説明する。失敗しないサイズ選びを行ないたい。
もうひとつは、それでもテレビの買い換えは最低限の投資で済ませたいというユーザーにとっての懸念だ。
一人暮らし世帯などでは、小さいテレビのままでいいという場合も多いだろう。大手テレビメーカーでは、シャープやパナソニックが20型前後の製品を投入しているが、これ以外にも海外メーカーがこのクラスにおいて、低価格モデルを投入している。
だが、これらのテレビは、ほとんどは海外で生産されているため、昨今の円安状況のなかで値上がり傾向にあるのが大きな懸念材料になっているのだ。
「昨年のいまごろであれば1万5,000円前後で販売していたテレビは2万円弱に、2万円以内で販売していたテレビは、2万円を超えている」(関係者)という状況だ。とにかくテレビを安く買い換えたいというユーザーにとっては、値上がりはマイナス要素に働く。この需要を狙っていた海外テレビメーカーにとっても、円安の動きは販売見込みに大きく影響しているようだ。
2つめのケーブルテレビ会社との契約においては、パススルー方式で視聴しているユーザーの問題が浮上する。
パススルー方式とは、受信した電波の変調を変えずに伝送する方式であり、ひとつの家庭内であれば、2台目以降のテレビでも専用チューナーがなくても放送を視聴できるというものだ。デジアナ変換サービスで2台目以降のテレビをパススルー方式で視聴していた場合、これらのテレビもサービス終了後は放送が視聴ができなくなる。その際には、ケーブルテレビ局とセットトップボックスを購入あるいは貸与するという契約が必要になる。2台目以降のテレビをパススルー方式で視聴しているユーザー数は試算できないようだが、2台目にアナログテレビを使用しているこれらのユーザーは、ケーブルテレビ局との新たな契約が発生する可能性があることを知っておくべきだ。
3つめの地デジチューナーやレコーダーの購入にも課題がある。
地デジチューナーは、アナログテレビに接続するだけでそのまま地デジ放送が視聴できることや、価格が安いという点で注目を集めているが、実は、ここに使用できるチューナーそのものが品薄となっており、需要に追いつかない可能性が指摘されている。
ある業界関係者によると、「地デジチューナーに置き換えたいという需要が15万件ほどあるが、キーになる部品が生産中止になっており、メーカーの全供給能力は、おそらく需要の3分の1程度だろう。需要に追いつかない状況にあるのは明らか」だという。
また、ケーブルテレビ局が使用済みのセットトップボックスを再利用するという動きもあるほか、NHK放送受信料全額免除世帯を対象にしたチューナーの無償給付制度、自治体を対象に無償でチューナーを給付する制度なども用意されている。だが、「回収したセットトップボックスを再利用するにも、B-CASカードの費用が新たに発生するために、ケーブルテレビ局が本腰を入れて展開できないという課題がある。また、制度を利用して自治体が無償でチューナーを調達しても、自治体がこれを個別設置するための費用負担や仕組みを構築する必要があり、結果として運用面での課題を抱えている」という指摘もある。
また、レコーダーを新たに購入して、それに付属しているチューナーを活用して、既存のアナログテレビでテレビを視聴しつづけるという際にも、アナログテレビに接続できる端子がレコーダー側に備えられているのかどうかを確認する必要がある。これも注意喚起が求められる部分だろう。
長年利用のテレビは経年劣化の危険も
一方で、業界筋ではこんな意見も出ている。
「デジアナ変換サービスを使用してアナログテレビを視聴している家庭のなかには15年以上使いつづけている場合もある。経年劣化による思わぬ故障が発生したり、場合によっては発火事故が起こる可能性もある。業界としては、このタイミングに新たなテレビに買い換えてもらうことがいいと考えている」
テレビは長年利用できる家電製品のひとつだが、画質の劣化や部品の劣化といった問題は避けては通れない。せっかくのデジタル放送の世界になったのだから、よりよい画質で放送を楽しんでもらうためには、これを機にテレビを買い換えるという手もあるだろう。
いずれにしろ、これから4月末にかけてのデジアナ変換サービスの終了に向けて、業界はひと盛り上がりするのは間違いない。
混乱を招かないような形で、デジアナ変換サービスの終了を迎えたい。