大河原克行のデジタル家電 -最前線-

3Dテレビ、ボリュームゾーンに挑む薄型TV事業の新たな方向性

-パナソニックの宮田賀生常務役員に聞く


 パナソニックは、2009年度の薄型テレビの全世界出荷計画として、前年比54%増の1,550万台という意欲的な数値を掲げている。「この計画に対して、上期は順調に推移している」と、パナソニック 常務役員 AVCネットワークス社 上席副社長 宮田賀生氏は語る。

CEATEC JAPAN 2009のパナソニックブース

 なかでも中小型液晶テレビの動きが顕著で、今年度はパナソニックとしては初めて、液晶テレビの年間出荷台数が、プラズマテレビの年間出荷台数を超えることになりそうだ。

 一方、CEATEC JAPAN 2009のパナソニックブースでも注目を集めた3Dテレビへの取り組みや、ボリュームゾーンの展開など、新たな市場創出に向けた動きにも余念がない。2009年度下期に向けた取り組みや、今後の薄型テレビの事業展開について、パナソニック・宮田常務役員に話を聞いた。



■ 上期の薄型テレビ出荷台数は順調に推移

パナソニック常務役員 AVCネットワークス社 上席副社長 宮田賀生氏

-2009年度上期の折り返しを迎えました。パナソニックでは、前年度実績の1,005万台から、今年度は1,550万台の出荷計画を掲げ、出荷台数の大幅な拡大を狙っています。現時点での進捗状況はどうですか。

宮田氏:決算発表前でもあり、あまり詳しいことはお話しできませんが、上期は順調に推移しており、計画を上回るペースで推移しています。すでに第3四半期までの受注状況も見えていますから、そのペースを維持すれば、年間1,550万台の出荷計画はいけるだろうと考えています。

-電機各社が厳しい状況にあるなか、パナソニックが好調な原因はなんですか。

宮田氏:世界規模で景気が低迷するなかでも、薄型テレビの需要には底固いものがあります。日本のエコポイント制度や、中国の家電下郷制度など、政府が景気刺激策として、薄型テレビの購入を促進している国がありますし、新興国における需要も旺盛です。先進国では2~3台目需要、新興国では1台目の需要として薄型テレビが売れており、こうした市場に対して、パナソニックが着実に手を打っている成果が表れている。とくに新興国は、パナソニックにとっては開拓市場ですから、その分が上乗せになっています。さらに、主戦場の米国でも、今年度はシェアを伸ばして、2位のポジションにまで上昇してきました。米国では、マーケティング戦略を変更するとともに、製販一体型の体制としたことで、市場の変化に対応した手が打てるようになったことが大きいですね。

-先進国の2台目需要、新興国の1台目需要となると、どちらかというと中小型テレビが売れていることになりますね。

宮田氏:確かに、上期の需要は、中小型テレビが引っ張っています。ざっくりといえば、プラズマテレビは前年比2倍で推移しているのに対して、中小型領域の主力となる液晶テレビは約3倍の伸びで推移しています。

-2008年度実績の1,005万台の内訳は、プラズマテレビの出荷台数が約557万台、液晶テレビが約447万台。これに対して、今年度1,550万台の出荷計画の内訳は、プラズマテレビが775万台、液晶テレビが775万台ですね。しかし、液晶テレビの好調ぶりを捉えると、パナソニックとしては、液晶テレビの出荷台数が、初めてプラズマテレビを上回ることになりますか。

宮田氏:上期の動きを見ると、そういうことになりそうですね。

今年度の薄型テレビの販売目標は1,550万台「新しい、エキサイティングなテレビ体験の創造」をミッションに掲げている

 


■ 「3Dを強力に推進」

-下期から来年度に向けて、パナソニックのテレビ事業における課題をあげるとすれば、どんな点になりますか。

宮田氏:ひとつは、中小型モデルにおける競争力の強化。とくに32型液晶テレビにおける競争力をあげていく必要があります。ここは各社が激しい争いを繰り広げている領域であり、市場規模も大きい。各社の本質的なコスト力が試される市場です。ここで、パナソニックは、しっかりとしたビジネスができるかどうか。その体制を構築しなくてはなりません。テレビ事業の赤字からの脱却も、ここにひとつのポイントがあります。

 また今後、ボリュームゾーン商品を展開する上で、新興国において、市場ニーズに合致した商品を提案できるかどうかも課題です。32型のゾーン、そして、40~42型のゾーンにおいて、値頃感を持ちながら、パナソニックならではの付加価値を提案できる商品を創出する。そのためには、それぞれの国で、テレビはどう使われているのかを徹底的に調べる必要がある。テレビが置かれる場所、テレビを視聴する距離のほか、音に対する重視度合い、ホコリなどへの耐久性はどの程度求められるのかといったことも、国ごとに違いがあります。それぞれの市場にあったものを、少ないプラットフォームの上で実現しなくてはならない。薄型テレビにおけるボリュームゾーン商品は、今年秋から徐々に出荷することになります。まだ、いまの段階では、その商品コンセプトが、それぞれの市場において、十分か、不十分なのかは意見が分かれるかもしれない。だが、これを改善しながら進化させていかなくてはなりません。

 もちろん、その一方で、大画面化、フルHD化に対する取り組みにも継続的に力を注ぎます。来年は、Neo PDP ecoパネルが登場しますから、これによってプラズマテレビが完全に生まれ変わります。これまでのプラズマテレビの唯一の課題と指摘されていた省エネ性といった点でも、液晶テレビと同等以上のレベルに達する。そして、Neo PDP ecoパネルの登場は、3D化の進展においても大きく寄与する。市場創造型の商品として、3Dを強力に推進していく考えです。

-3Dテレビが普及するためにはどんな要素が必要ですか。

「3Dを強力に推進していく」

宮田氏:家庭で3Dが一般的に視聴されるための必要十分条件として、まずソフトウェアの普及があります。ひとつめには、ゲームソフトの3D化です。これは、PC用ゲームでも広がりを見せつつありますが、今後はゲーム専用機でも3Dゲームが増えていくことになるでしょう。

 2つめにはハリウッドのコンテンツの3D化です。すでに北米には2,500スクリーンで3D映画が上映されています。3D映画は通常の映画に比べて料金が5割ほど高いのですが、それでも多くの人が来場し、興行収入は3D映画の方が大きいという結果が出ています。日本でも徐々に3D映画が上映されており、高い人気を誇っています。これがテレビで視聴できるパッケージコンテンツとして流通されることになります。

 そして、3つめには放送コンテンツの3D化です。これは最も大事な要素といえます。一部の放送局では、すでにコンサートやスポーツなどの映像を、3Dで撮影するという取り組みが始まっています。こうした3Dコンテンツがいまから蓄積されはじめているのです。一方、もうひとつの必要十分条件として、当然のことながら、3Dテレビの普及があげられます。

-パナソニックでは、フルHD・3D対応50型プラズマディスプレイおよび、3D映像の視聴に利用する高精度アクティブシャッターメガネを開発し、2010年度に商品化する計画を明らかにしましたね。

フルHD・3D対応50型プラズマディスプレイと3D視聴用アクティブシャッターメガネを開発

宮田氏:パナソニックでは、103型PDPと、ブルーレイディスクプレーヤーによる試作品を公開していましたが、今回はホームシアターのボリュームゾーンとして期待される50型で3D化を実現しました。これも、家庭への3D普及という観点から大きな進歩だといえます。パナソニックは、来年稼働予定の尼崎第5工場で生産するNeo PDP ecoパネルを使用することで、50型のクラスで3D映像を実現する上での様々な課題を解決することができました。高発光効率技術、高速表示性能といったプラズマパネルだからこその特性によって実現したものです。一方で、今年6月にはHDMIによる3D伝送規格が決定し、年内にはBDAにおいて、ブルーレイの3D規格が統一する予定です。パナソニックは、こうした規格化活動に積極的に関与していきます。

-3Dは、あまり日常的なテレビ視聴には向かないような気がしますが。

宮田氏:今はそう感じるかもしれません。ただ、私たちの生活のなかで3Dは着実に広がっていくことになると思います。例えば、携帯電話やデジタルカメラでも画面を3D化する動きがありますし、デジタルフォトフレームも3D化していくでしょう。3Dテレビもリビングで視聴するテレビだけでなく、書斎や寝室などに設置する画面サイズの小さいものにまで広がってくる。そうなると日常的に3Dを目にする機会が増えていきます。10年後には、パナソニックが出荷する薄型テレビのすべてに3D機能が搭載されていることになるのではないでしょうか。

-画面サイズが小さいものにまで3Dを展開するということは、パナソニックとしては、プラズマテレビに加えて、液晶テレビにも、3D機能を搭載していくことになると。

宮田氏:中小型テレビは液晶テレビの領域ですから、3Dを小さいサイズにまで広げていくとなると、当然、液晶テレビでも3Dの取り組みが不可欠となっていきます。パナソニックは、IPSα技術による、輝度特性が高く、高速応答性を持った液晶パネルを生産しています。これは3D化には優位に働く。将来的にはすべてのインチサイズで、3D機能を搭載することができると考えていますが、導入時点では、大画面で、フルHDを再現できるところから入っていきます。最初から無理をして小さいサイズに入っていくと、「3Dテレビとは、こんなものか」という落胆を与えかねない。まずは、そうしたことがないだけのクオリティを提供することが、将来の3D普及のためには大切だと考えています。


■ 新市場でも短期間にある程度の成果を

-話は変わりますが、AVCネットワークス社は、薄型テレビをはじめとするデジタル家電商品の開発、設計を担いますが、今年3月まで欧州でマーケティングを担当していた宮田常務役員が、AVCネットワークス社上席副社長に就いたことで、どんな変化が期待できますか。

「新たに創出する市場においても、短期間にある程度の成果をあげたい」としている

宮田氏:パナソニックのテレビ事業には、ボリュームゾーン商品の展開や3Dテレビの開発など、新たな市場を創出することが求められています。技術の観点だけで商品化を進めると、どうしても商品として、粗くなる部分が出てくることになる。技術指向になりがちな部門において、顧客の声を取り入れる、マーケットの状況をしっかり捉えるという要素が入ることは重要なことです。

 私は、新たに創出する市場においても、短期間にある程度の成果をあげたいと考えています。そのためには、製品企画部門、開発部門、製造部門、マーケティング部門、営業部門をそれぞれ強化するだけではなく、それぞれがつながる必要がある。薄型テレビの分野ひとつとっても、世界的に見れば、パナソニックは追う立場にある。この分野で生き残る会社が4番目までというのならば、パナソニックはいまは4位のメーカーです。ギリギリの立場にであり、追う立場ということをしっかりと理解すれば、手の打ち方は変わる。マーケティングの観点からもいろんなことができる。一例をあげれば、欧州においても、VIERAマーケティング戦略として、プル型マーケティングをさらに本格化していきます。こうしたことを視野に入れた商品開発も、これから増えていくことになるでしょう。どんな商品が出てくるかはぜひ期待ください。

(2009年 10月 16日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など