第384回:ZOOMの16トラック対応ポータブルMTR「R16」

~USBオーディオとしても使える小型/高機能モデル ~


R16

 先月、ZOOMから「R16」というポータブルタイプのMTR(マルチトラック・レコーダ)が発売された。標準価格は47,250円で、実売価格が38,000円前後という手ごろな機材だが、その機能は「これでもか」というほどのテンコ盛り。2年半前に同じくZOOMの「HD16CD」という機材を紹介したが、R16はその進化版ともいえるものだ。どんな機材なのかを紹介していこう。



■ 小型筐体で16トラック同時再生対応

 R16は8トラック同時録音、16トラック同時再生を実現するMTRで、記憶メディアはSD/SDHCカード。44.1kHzで16bitまたは24bitでのレコーディングが可能という機材だ。以前紹介したHD16CDも8トラック同時録音、16トラック同時再生と同じだったが、HD16CDでは44.1kHzの16bitのみであった。またより大きな違いが大きさ・重さだ。HD16CDは記録メディアがHDDでCDドライブも搭載していたこともあり、482×328×84mm(幅×奥行き×高さ)で6.0kgであったのに対し、R16では376×237.1×52.2mm(同)で1.3kgと圧倒的にコンパクトになっている。

 このサイズであれば手軽に持ち歩くことができ、R16は単3電池6本での駆動も可能になっている。スペック上ではアルカリ電池で4.5時間持つと書かれている。もちろんACアダプタでの駆動も可能であり、このACアダプタ自体も小型・軽量。これならセットで持ち歩いてもまったく苦はないだろう。

メディアはSD/SDHCカード付属ACアダプタも小型

 もっとも以前紹介したTASCAMのDP-004やBOSSのMicroBRと比較すれば、断然大きい。ただ、これらの機材が4トラックのMTRであるのに対し、R16は16トラックなので、まったく別モノと考えたほうがいいだろう。

 もちろん違いはトラック数だけではない。入力端子の豊富さという面でもR16は非常に優れている。リアを見るとわかるとおり、INPUT 1~8の8つの端子があり、いずれもXLRのキャノンとTRSフォンを兼ね備えるコンボジャックとなっている。またこれら8つにも、それぞれ微妙な違いがある。まずINPUT 1にはHi-ZのON/OFFスイッチがあり、これをONにすることでギターやベースなどと直結可能だ。またINPUT 5とINPUT 6は+48のファンタム電源のスイッチが用意されており、コンデンサマイクとの接続が可能になっているのだ。

DP-004(右)との比較入力端子はXLR/TRSコンボジャックが8系統
INPUT 1は、Hi-ZのスイッチをONにすることでギターやベースなどと直結可能INPUT 5/6は+48のファンタム電源のスイッチが用意
INPUT 7/8のMIC ON/OFFスイッチは本体マイクとの切り替えスイッチになっている

 一方、INPUT 7とINPUT 8に関しては、MICのON/OFFというスイッチが用意されている。これはR16本体に装備されているマイクとの切り替えスイッチになっており、OFFの場合、コンボジャックからの入力が、ONにすると内蔵マイクからの入力ということになるのだ。マイクは本体フロントの左右に用意されているが、音質的にはまずまずといったところ。とりあえず手軽に録音をするには便利だが、真剣に音質を考えたレコーディングをするなら、やはり別途マイクを接続したほうがいいだろう。

 入力に対し、出力のほうもTRSフォン×2のバランス型という仕様で、なかなか本格的。このメインアウトとは独立する形でヘッドフォン出力も1系統用意されている。

 マニュアルもほとんど読まず、さっそくマルチトラックのレコーディングを試してみたところ、操作はいたって簡単。マイクやギターを接続した後、PLAY/MUTE/RECの切り替えボタンを押して赤く点灯させる。ヘッドフォンで音をモニターしながら、入力音量をゲインで調整して、REC+PLAYボタンを押すことでレコーディングがスタート。演奏を終えてSTOPボタンを押せば録音終了。たったそれだけだ。レコーディングした音は再度PLAY/MUTE/RECボタンを押して緑のランプの点灯に切り替えて、再生させれば聴こえてくる。この際、別のチャンネルをREC状態にしておけば、簡単に音を重ねていくことができる。また、複数のチャンネルをREC状態すれば、それぞれ別のトラックに同時に録音できる。

 実際、重ね録りをしていく上で重要となるメトロノーム機能も用意されており、録音時のみに鳴るのか、再生時・録音時ともに鳴るのか、といった設定も可能。さらにこのメトロノームをヘッドフォンのみに出力するのか、メインアウトへも出力するのかといった設定も可能になっている。

PLAY/MUTE/RECの切り替えボタンメトロノームはヘッドフォン/メインアウトへ出力可能

 ここで、あれ? と思ったのが入力とトラックの関係。この単純な操作だとINPUT 1から入った音はトラック1へ、INPUT 5からはトラック5へとレコーディングされる。ちょっと触ってみたけれど、INPUT 1をトラック5にレコーディングするという方法がなさそうなのだ。マニュアルを読んでみても、そうした記述はない。前述のとおり、INPUT 1ならギターが直接接続できるが、ギターのアンサンブルを録音したいと思ったとき、この切り替えができないとうまくいかない。対処方法はいくつかあり、16トラックのレコーダであるため、1-8Tr/9-16Trというボタンがあり、デフォルトで1-8Trとなっているのを9-16Trに切り替えることで、INPUT 1の音をトラック9にレコーディングすることが可能になるのだ。

 もうひとつがSWAPという方法。これは任意のトラックの中身を交換してしまうという方法で、本体操作することで簡単に行なえる。つまりトラック1にレコーディングした後、それをトラック2と交換後、次のギターのレコーディングをトラック1にしていけばいいのだ。もちろんほかにも、複数のトラックをミックスして、別のトラックにまとめるBOUNCE機能を利用するという手もある。

 確かに使ってみると、下手に入力チャンネルとトラックを自在にアサインできてしまうより、このように固定されているほうが、わかりやすくトラブルもなさそうだ。

1-8Tr/9-16Trというボタンがある「SWAP」で、任意のトラックの中身を交換できる


■ エフェクトも豊富。1台で全てをカバーできる

 さてこのR16、やはりZOOMの製品だけに単なるMTRというだけでは終わらない。まずはエフェクターメーカーであるZOOMの得意技であるエフェクト機能の搭載だ。ここには135タイプ/390パッチのDSPエフェクトが搭載されており、ギター用、ベース用、ボーカル用などさまざまなパッチを即活用できるのだ。インサーションエフェクトとセンド/リターンエフェクトの2系統を独立して使うことができる。たとえばインサーションエフェクトのギターエフェクトを見てみると、コンプ/リミッター、ワウやトレモロ、アンプシミュレーター、3バンドEQ、コーラスやフランジャーを組み合わせたマルチのプリセットとなっており、一通り何でもできてしまう。もちろん、プリセットを選んだ後、より細かくパラメータを設定していくこともできる。またアンプシミュレータとしてはAMPEG SVTのモデリングやFender Bassman 100のモデリング、Marshall Super Bassのモデリングなどが用意されているほか、マイクシミュレータもあり、SM57、MD421、U87といったモデリングが可能。こうした各種エフェクトを使うだけでも結構楽しめてしまう。

135タイプ/390パッチのDSPエフェクトが搭載アンプシミュレータとしてはAMPEG SVTやFender Bassman 100、Marshall Super Bassのモデリングなどが用意

 このインサーションエフェクト、基本的には1チャンネルに対してのみ使うものだが、プリセットによってはステレオ、つまり2チャンネルに対して同時に効くもの、さらには8チャンネル同時に効くコンプレッサ/EQといったものも用意されている。

 ちなみに、インサーションエフェクトに関してはどこにインサーションするかによって曲作りが変わってくる。INPUT 1~8にインサーションすると、これは掛け録りとなり、エフェクトがかかった音がトラックへレコーディングされる。ただしREC SIGNALという設定をDryに設定することで、モニターにのみエフェクトがかかり、トラックへは素の音のみをレコーディングするという方法も用意されている。一方、インサーション位置をTRACK 1~16に設定すればトラックの再生に対してエフェクトを掛けることができるので、後から音をいじることが可能になる。

 このようにしてレコーディングした結果をフェーダー操作やエフェクトの設定によってまとめ上げたら、それを通常のトラックとは独立したマスタートラックへバウンスすることもできる。リアルタイム処理なので手動でフェーダー操作すれば、それも記録されていく。またこの際、マスタリングエフェクトを設定して音圧を上げたり、EQの調整を行なうことも可能なため、まさにR16一台ですべて仕上げることができるわけだ。



■ USBオーディオインターフェイスとしても利用可能

 ここまでR16のMTR機能について一通り見てきたが、R16の機能にはまだまだ先がある。右サイドを見ていると、ここにはUSBのポートとしてA、Bの2種類のタイプが搭載されている。まず簡単なAポートから紹介すると、USBメモリーを接続することができ、ここにSD/SDHCカードに保存されているデータをバックアップしたり、反対にUSBメモリーからSD/SDHCカードへリストアできる。

USB端子は2系統SDカードとUSBメモリの相互バックアップが可能

 もうひとつAポートのユニークな利用法は、R16を2台用意し、USBケーブルで片方のAポートと片方のBポートを接続すると同期するというもの。REC、PLAY、FF、REW、STOPの5つのトランスポートキーが送受信され、片方を操作すると両方が同時に動き出す。これによって最大16トラックの同時録音、32トラックの同時再生が可能になる。もっとも、これは単純な同期信号のやりとりにすぎないため、2台のR16間でのバウンスといったことはできない。

 では、R16のUSB Bポートのほうは、どう使うのだろうか? 当然これはPC(Windows/Mac)と接続して利用するのだが、大きく3通りの使い方がある。まず1つ目はPCカードリーダとして利用する方法だ。PCからSD/SDHCカードの読み書きが可能となり、R16のMTRとしてレコーディングしたデータをやりとりできる。R16にレコーディングされた各トラックのデータはすべてWAVファイルとして保存されているので、PC側に取り込んでDAWで編集するといったことが可能だ。実際、R16にはCubase LE 4がバンドルされているので、これを使うというのが手っ取り早いだろう。

SDカードリーダーとして利用可能SDカードからPCに取り込んで編集できるCubase LE 4がバンドル

 2つ目は、R16をオーディオインターフェイスとして利用する方法だ。前述のとおり、R16単体のMTRとして利用する場合のサンプリングレートは44.1kHzに限定されるが、PCと接続してオーディオインターフェイスとして使うと、44.1kHz、48kHz、96kHzの3つのモードで利用することが可能なのだ。入出力チャンネルはすべて利用することができるため、2IN/8OUTという仕様になる。カードリーダとして利用する場合もオーディオインターフェイスとして利用する場合も、USBからのパワー供給で動作するため、ACアダプタは不要。考えてみると24bit/96kHzに対応したマルチポートのUSBオーディオインターフェイスで、USBパワー駆動というものは珍しいかもしれない。当然、利用するにはドライバをインストールする必要があるが、Windowsであれば標準のMMEドライバとともにASIOドライバも利用可能となる。

USBオーディオインターフェイスとして利用できる44.1kHz、48kHz、96kHzの3つのモードを用意

 付属のCubase LE 4で試してみたところ、確かに44.1kHzでも96kHzでも問題なく動作する。Cubase LE 4のレイテンシーの値を確認したところ、デフォルトの設定では、44.1kHz動作時で、入力が10.680msec、出力が7.302msec、96kHz動作時では入力が4.583msec、出力が6.615msecとなった。ドライバ設定画面でバッファサイズをデフォルトの512サンプルから最小の64サンプルまで縮めた結果、音がブチブチと途切れてしまい、使えなかった。128サンプルに設定すると、96kHzでも問題なく動作するようになり、それぞれのレイテンシーは44.1kHzで3.537msec/8.844msec、96kHzでは2.583msec/6.615msecとある程度小さくなった。

デフォルトでのレイテンシー128サンプルに設定すると、96kHzでも問題なく動作。レイテンシーも抑えられた

 ただ、このR16は単なるUSBオーディオインターフェイスではない。前述のMTR動作時でのエフェクト機能がオーディオインターフェイスとして使っている場合もまったく同様に利用できるのだ。エフェクトを掛ける対象はすべてINPUTチャンネルのみになり、PCからの再生音に掛けることはできないため、インサーションエフェクトもセンドエフェクトもすべて掛け録りとなってしまうが、このエフェクト機能もACアダプタ不要で使えてしまうのは非常に便利だ。ちなみに、このエフェクトが使えるのは44.1kHzでの動作時のみ。48kHzや96kHzでは利用できないようだ。

 このオーディオインターフェイス機能に加えもうひとつ用意されているUSBのBポートを利用した機能が、コントロールサーフェイス(フィジカルコントローラ)としての機能だ。R16はコントロールサーフェイスの標準ともいえるMackie Control互換となっているため、Cubase LE 4を含め、ほとんどのDAWで簡単に利用することができる。ここで使えるのはトランスポートの5つのキーとその上に並ぶ5つのファンクションキー。また8つのフェーダーとPLAY/MUTE/RECボタン、それにマスターフェーダーとなる。Cubaseの場合、5つのファンクションキーに好きな機能を自由に割り振ることができるので、かなり応用は利きそうだ。

 できればカーソルキーやロータリーダイアルなども使えるとよかったが、それは贅沢というものだろう。なお、SONARで利用する場合には、ドライバのインストール時にSONAR用のプラグインをインストールしておくことで、簡単に使えるようになっている。実際Cubase LE 4でレコーディングをしてみたが、かなり快適に使うことができ、操作性的には、MTR単体で操作するのとソックリな感覚。非常に使いやすい機材であるという印象だ。

Mackie Controlに対応トランスポートの5つのキーと、F1~5キーでDAWを操作できるSONARで利用する場合には、SONAR用のプラグインもインストールしておくことで簡単に使える
 


■手軽に使える高機能MTR

RMAA Proでのテスト結果(MMEドライバ)

 最後にせっかくなので、オーディオインターフェイスとしての性能をいつものようにRMAA Proを使ってテストしてみようと思い、R16のASIOドライバを指定してみた。が、まだドライバがこなれていないのか、うまく認識させることができなかった。仕方がないので、参考値としてMMEドライバで動かしてみた。RMAA Pro側は16bit/44.1kHzという設定にしたところ、なぜかR16側は96kHzに切り替わったが、大きな問題はないので、それで試した結果が右のとおりだ。

 まあ、ASIOドライバではなくMMEドライバで行なったのも大きな要因だとは思うが、あまり芳しい結果にはならなかった。普通にギターやボーカルをレコーディングしているときは、とくに音質などで気になることはなかったが、オーディオ性能という面では劣る面もあるのかもしれない。ちょっと気になったので、Cubaseのデモ曲をR16と手元にあったMR816csxで鳴らし比べてみたところ、確かに明らかな違いは出た。RMAA Proの結果はやや極端だったかもしれないが、それに相当する違いがあることは事実のようだ。

 とはいえ、細かく聴き比べたりしなければ、そう気になるものではなく、内蔵のエフェクト機能で補完できる面も多々ある。とにかくこの価格、この大きさで、これだけの機能を満載しているのは驚き。手軽に使えるマルチ機材として購入を検討する価値は十分にある。

(2009年 8月 24日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]