第361回:TASCAMのSDカード対応4トラックMTRを試す
~実売23,000円の「DP-004」~
SDカード録音の4トラックMTR「DP-004」 |
取り上げるのが遅くなってしまったが、今回は昨年11月20日にティアックのTASCAMブランドから発売されたSDカードにレコーディングできる小型のMTR、DP-004を使ってみた。
ローランドのBOSSブランド、MICRO BRに真っ向勝負という感じで登場してきたDP-004は、価格的にもMICRO BRより1,000~2,000円程度安い実売価格23,000円前後で販売されている。
■ SDカード記録の4トラックMTR
横に並べて比較したわけではないが、DP-004はMICRO BRよりやや大きい。と言っても、サイズ的には155×107×33.5mm(幅×奥行き×高さ)、電池を含まない重量は360gと、厚めの文庫本程度のコンパクトサイズだ。
TASCAMでいうところのDR-1や、先日発売されたDR-07など、いわゆるリニアPCMレコーダと呼ばれる2chのレコーダとは異なり、4トラックのマルチトラックレコーダとなっている。小さいだけに記録メディアはSDおよびSDHCに対応。製品には1GBのSDカードが付属しているが、マニュアルを見ると512MB~32GBをサポートしているようだ。
録音したいトラックのRECボタンを押して録音待機状態に |
使い方はとてもシンプルで分かりやすい。基本的には電源を入れ、TRACK1~TRACK4まであるうちの録音したいトラックのRECボタンを押して録音待機状態にした後、録音スタートさせればいいのだ。仕様上、同時2トラック録音、4トラック再生となっているため、RECボタンは2つまで点灯させることが可能となっている。
再生は、もちろん再生ボタンを押すだけ。これによって4トラック同時に再生されるわけだが、各トラックの音量レベルとパンをツマミで操作することで自由に変えることができる。このアナログ感覚の操作が使いやすさの決め手であるといっても過言ではなく、昔からあるTASCAMのカセットMTRと基本は変わらない。最近のデジタルレコーダは音量やパンなどを含め、各設定をメニューで選択して操作するため、直感的にわかりにくい面があるが、DP-004はツマミやボタンが多いだけにすぐに理解できる。
■ 入力端子は標準ジャックを2系統。ギター接続も可能
録音入力は本体のリアにINPUT A、INPUT Bという標準ジャックがあり、ここにラインやギター/ベース、またマイクを接続するのが基本。
INPUT Aのみがハイインピーダンス対応となっており、ギター/ベースを接続する場合は、INPUT Aに接続するとともに、サイドにあるスイッチをGUITARに切り替える必要がある。
入力端子は標準ジャックを2系統装備 | INPUT Aのみがハイインピーダンス対応。スイッチを切り替えて使用する |
フロントに左右2つのコンデンサマイクを内蔵 |
さらに、フロントには左右2つのコンデンサマイクも内蔵されている。これを使えば、わざわざマイクを用意することなく、即録音できるのも便利なところだ。
この内蔵マイクの性能もそこそこ良くて、DR-1などと同様にクリアな音で録ることができる。ただし、ステレオ感という面では、それほど期待しないほうがいいかもしれない。やはり狭いスペースに2つのマイクを正面に向けて並べているので、あまりハッキリとは分離されない。
これらのうち、どの入力を使うかはINPUT SETTINGボタンを押した後、液晶パネルで選択する。選択肢としては内蔵マイクの低感度、中感度、高感度、ギター/ラインの低感度、中感度、高感度、そして外付けマイクのそれぞれ。そして、INPUT A、INPUT Bそれぞれのツマミを用いてレベル調整を行なう。
入力はINPUT SETTINGボタンを押した後、液晶パネルで選択 |
一方、INPUT A、INPUT Bそれぞれの入力をどのトラックにアサインするかは、ASSIGNボタンを押した後、液晶パネル上で割り振りを決める。選択の操作は液晶の下にある4つのボタンとDATAホイールによって行なうので、とても使いやすい。
アサインも液晶から選択 | 操作は本体のDATAホイールなどを使って選択 |
こうした操作によって、1トラックまたはステレオによる2トラックずつ録音した後、別のトラックへオーバーダビングの形で追加録音していくことで曲を作っていくことができる。また必要があれば、メトロノーム機能も内蔵されているため、これを利用してもいいだろう。
メトロノーム機能も内蔵 |
またギターを使う場合は、チューニングメーターも搭載されているため、あらかじめこれでチューニングしておくと便利である。
ギターなどを使う場合に便利なチューニングメーターも搭載されている |
■ 様々な録音機能を搭載
ところで、最近のDAWに慣れている人などは、「トラックが足りない」などという状況に陥ったことはないと思うが、カセットMTR時代などは常にあった問題。これはDP-004のような小型レコーダにおいても同様で、最大4トラックまでという制限がある以上、すぐに限界が来てしまう。
それを回避するために行なうのがバウンス(いわゆるピンポン)という処理だ。これはTRACK 1~3に録音したものをミックスして、空いているTRACK 4にコピーすることで、TRACK 1~3を空トラックとして再利用できるというもの。
DP-004にもそのバウンス機能が用意されており、REC MODEをデフォルトのMULTI TRACKからBOUNCEに切り替えることで行なえる。またカセットテープ時代とは異なり、4トラックともすべて録音した後、それをまとめてTRACK 1にバウンスするとか、ステレオ処理してTRACK 1、2にバウンスするといったことも可能になっている。
実際にレコーディングしていくと起こるのが、演奏ミス。1カ所ミスしたために全部録音しなおすのはなかなか面倒。そこで使いたいのが一部だけ再録音して差し替えるいわゆるパンチイン/パンチアウトだ。
DP-004はそのパンチイン/アウトにも対応しており、修正したいトラックのRECボタンを押して録音待機状態にして、曲を再生させ、パンチインしたいところに来たら録音キーを押し、終了したら再生ボタンを押すことで、これを実行できる。ただ、フットスイッチなどに対応しているわけではないんで、ギターなど楽器を弾きながら一人でパンチイン、パンチアウトの操作をするのはなかなか難しい。
マスタリング機能を搭載 |
一方、このDP-004にはこれまでのポータブルレコーダでは見たことがあまりない、マスタリング機能というものを備えている。これはレコーディングしていく4トラックとは別にマスタリング用のステレオトラックがあり、ここにミックスダウンできる、というもの。
これは実時間をかけてバウンスしていくのだが、その際、各トラックのレベルやパンなどを調整することができ、その結果の音がマスタリング用トラックに録音されていくのだ。
しかも、このマスタリングするポイントを指定できるのも便利なところ。あらかじめ曲のスタート位置と最終位置をIN、OUTというポイントで指定しておき、マスタリングを実行することで、不要な部分をカットすることができるのだ。このINとOUT、時間で指定することもできるほか、再生しながら、「ここだ!」というところで、INボタン、OUTボタンを押すことで指定することもできるため、なかなか便利だ。
あらかじめ曲のスタート位置と最終位置をIN、OUTというポイントで指定 | 再生しながらIN/OUTボタンを押すことで指定することも可能 |
せっかくなら、この機能をパンチイン、パンチアウトにも適用して欲しかった。そうすれば、演奏中にボタン操作をするのではなく、あらかじめパンチ録音する場所を決めて、あとは自動操作となるので……。
このようにして作った曲データはSONGデータとして保存したり、読み込んだりすることができるようになっている。
■ 16bit/44.1kHz録音に対応。PCからの取り込みも可能
今回、実際にギターやキーボードを接続したり、内蔵マイクを用いて録音を試してみたが、ノイズもまったくなく、音質的には十分満足のいくものだった。スペック的には16bit/44.1kHzの非圧縮で録音・再生されている。ただ、この録音はDP-004独自のフォーマット、ファイル形式で行なわれているため、そのままPCから見えない。しかし、この点はよく工夫されており、面白い方式でPC対応している。
DP-004のUSB端子をPCに接続すると、液晶はUSB接続の表示となり、WindowsでもMacでもUSBマスストレージ接続されるため、PCからはSD/SDHCの中身が見える。
ところが、1GBあるはずのSDカードの容量がその約半分として認識される。というのはDP-004がSDカードを初期化する際、PCから扱えるFAT32のパーティションと、DP-004自身が扱う専用のMTRパーティションに分けてフォーマットしているからだ。
PCに接続すると液晶はUSB接続の表示に | SDカードを初期化する際、PCから扱えるFAT32のパーティションと、DP-004自身が扱う専用のMTRパーティションに分けてフォーマットしている |
FAT32パーティションには自動的にWAV、UTILITY、BACKUPという3つの空フォルダが作られる。試しにWindowsでディスク管理機能で見てみると、確かにパーティションが分かれており、DP-004独自のMTRパーティションはまったく認識できないようになっている。
自動的にWAV、UTILITY、BACKUPという3つの空フォルダができる | パーティションが分かれている |
1GBのSDカードの場合は、このように半々に分離されるが、8GB以上のSDHCカードの場合は、MTRパーティションのサイズを2GB、4GB、8GB、16GBなどと分けることも可能になっている。
DP-004だけで録音、再生している場合には、すべてMTRパーティション上でファイル処理されているのだが、PC側とやりとりするために、FAT32のパーティションにデータをコピーしたり、反対に取り込んだりすることができるようになっている。
バックアップ機能 |
まず単純なのがバックアップ機能。これはMTRパーティションに保存されている各SONGデータをFAT32パーティション側のBACKUPフォルダに1つのファイルとしてコピーするというもの。
このファイルはPC側にコピーすることができるため、HDDに保存したり、CD-RやDVD-Rなどに保存できるので、バックアップとして使えるというわけだ。とくに、バウンスを行なう際など、元のトラックが消えてしまうため、予めバックアップしておけば、後でオリジナルの録音トラックに戻せる。
反対に、このファイルを再度、BACKUPフォルダにコピーした後、リストア機能を用いることにより、MTRパーティションへ復元することもできる。ただし、このファイルはあくまでもDP-004用の専用ファイル形式であるため、PCで利用することはできない。
それに対し、PC側で積極的に利用するための機能が、WAVE機能だ。WAVE機能には、IMPORT TRACKとEXPORT TRACK、EXPORT MASTERという3つのメニューがある。
WAVE機能にはIMPORT TRACKとEXPORT TRACK、EXPORT MASTERという3つのメニューがある |
この名称のとおり、IMPORT TRACKはPC側からデータをインポートするためのもので、WAVEフォルダにコピーしておいた16bit/44.1kHzのWAVファイルをDP-004のトラックへ取り込むことができる。ただし、一般のステレオファイルには対応しておらず、予めモノラル化しておく必要がある。
一方、EXPORT TRACKはSONGデータの4つのトラックをそれぞれモノラルのファイルとしてWAVEフォルダにコピーするというもの。
試しに、これら4つのファイルをCubaseで各トラックに読み込んで再生したところ、完全に再現することができた。そしてもうひとつのEXPORT MASTERは前述のマスタリング結果をWAVファイルとして保存するというもの。こちらは、ステレオファイルとなっている。
「EXPORT TRACK」メニュー | Cubaseで各トラックに読み込んで再生したところ、完全に再現することができた |
DP-004本体にも簡易的なエディット機能は装備している。トラックのカット、コピー、またトラックの一部に空白を挿入するといったごく単純な機能であるため、PCと接続して使うのであれば、あまり使うこともなさそうだ。
本体にも編集機能は装備 | トラックのカットやコピーなどができる |
以上、TASCAM DP-004についてみてきたが、コンパクトであり、直感的操作ができ、音質的にも結構いいので、この価格としては、「買い」のグッズだと思う。バッテリは単3電池4本で動き、アルカリ電池で連続8時間録音と、そこそこ持つ。
また別売ではあるがACアダプタも用意されている。ただ1点使いづらいと感じたのがSD/SDHCカードの出し入れ。実はこれが、バッテリボックス内にあるため、カードを交換するためにはわざわざバッテリの蓋をあけ、電池をはずさないと出し入れできないのだ。
電源は単3電池4本で、連続約8時間の駆動が可能 | SDカードの交換は電池を外さないとできない |
電源が入っている状態でSD/SDHCカードの出し入れをすると、トラブルが生じるため、あえてここにカードスロットを持ってきたのでは……という開発者側の意図が感じられないでもないが、メディアの価格がこれだけ安くなってくると、いちいちパーティションを分けて管理するよりも、SD/SDHCカードを交換してしまいたいと考える人も多いと思う。そう考えると、やはりもう少し出し入れしやすい位置にスロットを設置して欲しかった。