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第400回:KORGの音楽制作向けPCMレコーダ「SOUND on SOUND」

〜 無限トラック録音機能搭載。多彩なエフェクトも 〜


 2009年末にKORGから、非常にユニークなポータブルレコーダ「SOUND on SOUND」が発売された。

「SOUND on SOUND」

 リニアPCMでのレコーディングが可能な機材だが、本格的なレコーディング用というより、重ね録り機能で楽しく音楽制作をすることができる。標準価格も31,500円と手ごろで、楽器プレーヤーにとっては気軽に使えて非常に多機能な“サウンド・オモチャ”となっている。

 第400回となる2010年初のDigital Audio Laboratorでは、この新製品について紹介しよう。



■ 何度でも重ね録り可能なPCMレコーダ

 SOUND on SOUNDは、キャッチコピーに「UNLIMITED TRACK RECORDER」、つまり「トラック数無制限のレコーダ」とつけられていることからわかるとおり、多重録音を目的とした小型のレコーダとなっている。

 大きさ的にはiPod touchよりも一回り大きく、厚さは35mmとなっているが、電池を含まない重量は140gと軽い。電池は単3電池を2本用い、アルカリ電池で連続10時間、ニッケル水素電池で連続11時間の録音ができる。

大きさ的にはiPod touchよりも一回り大きい 厚さは35mm 電源は単3電池2本

microSD/microSDHCカードが利用可能

 記録メディアにはmicroSD/microSDHCカードを使用し、フォーマット的には16bit/44.1kHzのみに対応する。スペックだけ見て、興味を失う人もいるかもしれないが、これは昨今流行のリニアPCMレコーダとは、コンセプト、方向性のまったく異なるからで、このスペックで十分すぎるほどの性能を発揮できるように設計されている。

 というのは、自然の音や、演奏会の音をできるだけ高音質で録るという目的ではなく、あくまでも自分で演奏するギターやベース、キーボードを録音したり、ボーカルを録音することが目的となっているからだ。これらの音をどんどん重ね合わせていき、簡単に音楽として仕上げることができるのが、SOUND on SOUNDの特徴となっている。

 音を重ね合わせていく、ということから、SOUND on SOUNDを小型MTRの一種と思う方も多いだろう。確かにBOSSのBRシリーズやDP-004やDP-008と使用目的は非常に近く、実際エフェクト機能やチューナ機能といったものも装備されている。しかし、SOUND on SOUNDはMTRとは異なる独特な発想で企画されている。

 いわゆる小型MTRは、4トラックや8トラックという制限があるため、トラックがいっぱいになったらバウンス(ピンポン)を行なわなくてはならなかったり、一度バウンスを行なうと元の音を修正できなくなったり、ステレオ処理するためには、さらにトラック数の制限が出てくるなど、面倒でわかりにくいところも多い。とくに初心者にとっては難しく感じられるだろう。

 それに対して、SOUND on SOUNDはMTRではないため、トラック数の制限もなく、バウンスなどの面倒な操作も不要。ユーザーは自由に、どんどんと音を重ねていくことが可能なのだ。

 といっても、重ねた音が固定されてしまうわけでもない。何回でもアンドゥー、リドゥーが可能となっており、ドラム、ギター、ベース、キーボード……と重ねていった場合でも、それぞれの音は独立して記録されている。かなり不思議に感じるところだが、これがSOUND on SOUNDの非常にユニークな考え方であり、設計だ。


■ 単体での音と、重ね録りした音の2種類を保存

 その仕掛けを、具体例で紹介していこう。まず、1回目にドラムを叩いて録音したとしよう。この場合、録音したドラムの音は、普通にWAVファイルとして保存される。ただし、実はここにちょっとした仕掛けがある。microSDのソングフォルダ内には素材を置くMATERIALフォルダとミックスされた音が入る2MIXフォルダという2つがあり、MATERIALフォルダにWAVファイルとして保存されると同時に、2MIXフォルダにもWAVファイルが生成される。SOUND on SOUNDで再生する場合には、2MIXフォルダ内のWAVファイルが再生されるようになっている。

 次にこのドラムを再生しながら、ベースを重ねて録音する。すると、ベースの音のみは、MATERIALフォルダにWAVファイルとして保存されると同時に、ドラムとベースをミックスした音が2MIXフォルダに生成される。

 さらにギターを重ねるとMATERIALフォルダにはギターのみのWAVファイルが記録され、2MIXフォルダには3つの音をミックスしたファイルが作られる。この時点で、2つのフォルダにはそれぞれ3つのWAVファイルが入っており、MATERIALフォルダは、すべて別々の音が、2MIXフォルダには、「ドラムのみの音」、「ドラムとベースの音」、「ドラムとベースとギターの音」の3つが、すべて残されている。

 通常、再生する際は、最後のミックスが再生されるわけだが、アンドゥーを実行すると、ドラムとベース、ドラムだけの音を再生することも可能だ。もちろん、アンドゥーを実行しても、ギターやベースのデータが消えてしまうわけではないので、リドゥーも可能で、後でPCを使ってWAVファイルを転送して利用するといったことも可能になっている。

 文章だけで説明していると、長くなってしまうが、感覚的には非常に簡単でわかりやすい。副作用としてmicroSD/SDHC容量を余分に使ってしまうが、いくらでも自由に音を重ねられるのはストレスがなく、とても気持ちいい。


■ コンデンサマイクを内蔵。入力端子も装備

ステレオコンデンサマイクを内蔵

 さて、基本的な仕組みがわかったところで、入出力についてみていこう。

 SOUND on SOUNDはいわゆるリニアPCMレコーダと同様、これ単体で録音するための高性能なコンデンサマイクがステレオで内蔵されている。位置的には本体手前のメッシュになった部分の左右に設置されているため、机の上など正面にSOUND on SOUNDを置いてアコースティックギターなど生音が録れる。


soundonsound.wav(7MB)

楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、16bit/44.1kHzのWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 この機材の趣旨からは多少ズレるかもしれないが、実際どんな音質であるか、いつもリニアPCMレコーダで試しているのと同じテストを行なった。

 16bit/44.1kHzのレコーダーとしては十分な性能を発揮しているといっていいと思う。なお、このマイク入力の設定においては、ゲインをHIGH、MID、LOWの3つから選択できるとともに、入力レベルを0〜100の範囲で指定できる。また、ローカット機能のオン、オフの設定も可能となっている。


マイク入力設定。ゲインをHIGH、MID、LOWの3つから選択可能 入力レベルを0〜100の範囲で指定できる ローカット機能も搭載

 入力は内蔵マイクだけではない。右サイドを見てみると、3つの入力端子が用意されている。右から標準ジャックのギターイン、ヘッドフォンジャックを飛ばして、ステレオミニジャックのラインイン、ステレオミニジャックでプラグイン・パワーにも対応したマイクインの3つだ。

本体右側面に入力端子も装備 マイク入力はプラグイン・パワーに対応

 どの入力を選ぶかの設定はないので、何も接続していなければ、内蔵マイク入力、ジャックが差し込まれていれば、そちらが優先されるという仕組みとなっている。

 一方出力は、ステレオミニでのヘッドフォンのほか、本体内蔵のスピーカーも結構使える。出力は0.8Wだから、もちろん大した音量ではないのだが、やろうと思えば、ギター入力をモニターするギターアンプとしても使えてしまう。

 このスピーカーの位置は2つの内蔵マイクの間、つまり本体の手前の中央部分に設置されたモノラルのものだが、単に再生用としてだけでなく、ギターや外付けマイクのモニターに使えるというのは便利だ。


■ 多彩なエフェクトやチューナ機能なども搭載

 先ほども少し触れたが、SOUND on SOUNDにはエフェクト機能が搭載されており、ギターにディストーションやフランジャーといったエフェクトをかけた音がモニターできるので、これだけで十分に遊べてしまう。

FXボタンを押すと隣のLEDが赤く点灯してエフェクトがかかる

 FXボタンを押すと隣のLEDが赤く点灯してエフェクトがかかる。ギター用としてクリーントーンをはじめ、AC15、AC30といったアンプシミュレーター、クランチサウンド、コーラス、オクターバーなど36種類用意されているほか、ボーカルやアコースティックギターなどに使えるマイク用のエフェクトが25種類、録音した楽曲や内蔵リズムマシン、外部ライン入力用に適したMSTエフェクトが32種類、そしてタッチエフェクトが7種類の計100種類が内蔵されている。しかも、それぞれのパラメーターも調整できるので、かなりの音作りが可能だ。


AC15(アンプシミュレーター)など、ギター用エフェクト36種類用意 マイク用エフェクトは25種類 MSTエフェクトは32種類

タッチエフェクトも利用可能

 タッチエフェクトは、あまり聞かない名称だが、これはKORGお得意のKAOSS PADにも通じるタッチセンサーを利用したエフェクトだ。SOUND on SOUNDのLCDディスプレイは、タッチセンサー式になっており、これを指で触れることによりフィルターなどを連続的に可変させるエフェクトが可能になっているのだ。残念ながらKAOSS PADのようにX-Y軸式ではなく、X軸のみではあるが、いろいろと楽しむことができる。

 さらに、リズムマシン機能も搭載されており、いわゆるメトロノーム音から、8ビート、16ビート、ROCK、POP、JAZZ、LATINまで、50種類が用意されているほか、スウィング設定によって、リズムの雰囲気を大きく変えることも可能。

リズムマシン機能も搭載。8、16ビートなど50種類用意 スウィング設定も利用できる

 単にこのリズムマシン機能をメトロノーム的に使うことも可能だが、このリズムマシンの音そのものを録音してしまうこともでき、楽曲にも利用できるようになっている。さすがにリズム自体を自分で組むことまではできないが、曲のプロトタイプを作るためのツールとしては、そこそこ使うことができるだろう。

 もうひとつ用意されているのが、チューナ機能。クロマチックチューナのほかにギターチューナ、ベースチューナが用意されているので、必要に応じてチューニングに利用することができる。そのほかにも、ピッチを変えずに再生スピードを変化させる機能、A/B区間ループ機能など思いつく機能はすべて搭載されてた、まさに機能テンコ盛りとなっている。

クロマチックチューナなど、チューナ機能も搭載。 ギターチューナ ベースチューナ

■ DAWとの連携も

 機能がいっぱいあるだけに、メニュー項目もいっぱいある。入力に関する設定を行なう「INPUT」、録音に関する設定を行なう「REC」、テンポやビートなどを設定する「TIME」、リズムマシンの設定を行なう「RYTHM」、チューナの設定を行なう「TUNER」、ソングの削除やカードのフォーマットを行なう「DATA」、そしてその他各種設定を行なう「MISC」と計8カテゴリー、46種類もの設定項目があるが、メニューは階層構造ではなく、すべて順番に並べられている。

 そのため、最初は何がどうなっているのかよくわからなかったが、エフェクトやリズムマシンの設定にすぐに行けるショートカットなども用意されているため、慣れれば、簡単に使うことができた。また、パラメータの設定はタッチパネルで操作できるので、これもなかなか便利だった。

 このようにSOUND on SOUNDはさまざまな機能を持っており、本体のみで操作することができるが、パソコンと組み合わせることで、さらに威力を発揮する。本体にはUSB端子などはないが、microSD/microSDHCカードをパソコンに読み込ませることで、さまざまな操作が可能になる。

 このカード、ルートディレクトリには「EXTAUDIO」、「SOS_DATA」という2つのフォルダがあり、録音したデータはSOS_DATAフォルダにソングごとに分かれて収録されている。またEXTAUDIOフォルダに、パソコンを用いてWAVファイルやAIFFファイルを入れておくと、SOUND on SOUND側でこれをインポートして使うことができる。つまり、CDやMP3などのサウンドを元にして、音を自分で重ねて行くといった使い方もできる。

 SOS_DATAのMATERIALフォルダに保存されている各テイクは、16bit/44.1kHzのWAVファイルであるが、時間軸情報が追加されているBWFフォーマットとなっている。そのためSONARやCubaseなどBWFに対応したDAWで読み込めば、頭を揃えるといったことを気にすることなく、簡単に時間軸を揃えることが可能になっているのだ。たとえば、曲の途中から録音を開始したトラックも、問題なくDAW上で時間を合わせることができるわけだ。

EXTAUDIO、SOS_DATAという2つのフォルダ SONARやCubaseなどBWFに対応したDAWを利用すれば、時間軸を揃えることが可能

 SOUND on SOUND本体には、途中から録った音の前部分に無音データを追加するファイナライズ機能というものも用意されているが、BWFに対応したDAWであれば、ファイナライズすることなく、録音したデータが扱える。

 また、アンドゥーを行なったことにより、本体では再生しなくなった音も、素材としてはしっかり残っているので、これをDAW上で再現させることもでき、この機能をうまく利用すれば、複数テイクした中でベストテイクをDAW上で選ぶといった使い方も可能になる。

オーディオ編集ソフト「KORG AUDIO UTILITY」

 そのほか、KORGサイトからはKORG AUDIO UTILITYというソフトをダウンロードすることができる。これはゲインの調整やパンの調整、またフェードイン/アウトといった簡単なオーディオデータ編集ができるとともに、オーディオフォーマットの変換、さらにはオーディオCDのライティングを行なうためのツール。

 DAWを使った本格的な編集とまでいかなくても、PCとの組み合わせで、SOUND on SOUNDをより積極的に活用できる。なお、現在公開されているWindows用に加え、4月にはMac OS用もリリースされる。



(2010年 1月 5日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]

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