第420回:ACIDやSound Forgeのエントリー版「新Studio」発表
~上位版との機能差がさらに小さく ~
ソニーの本社ビル内で発表会が開催された |
このStudioシリーズは、バージョンアップを重ねるごとに、上位版との差が小さくなっているようで、大半の人がStudioシリーズで十分なのではと思えるほどになっている。
■ ACIDやSound Forgeのエントリー版となる新Studioシリーズ
今回、新Studioシリーズとして発表されたのは、以下の5種類。
- Sound Forge Audio Studio 10(11,340円)
- ACID Music Studio 8(14,490円)
- Vegas Movie Studio HD Platinum 10(14,490円)
- Vegas Movie Studio HD Platinum 10 Suite(19,740円)
- Imagination Studio Suite 2(26,040円)
Sound Forge Audio Studio 10 | ACID Music Studio 8 |
ご存知のとおり、Sound Forgeはデファクトスタンダードともいえる波形編集ソフト、ACIDはループシーケンサの草分けであり定番ソフト、Vegasはビデオ編集ソフトで、これらはエントリー版として位置づけられた製品だ。残り2つはこれらを組み合わせたスイートで、Vegas Movie Studio HD Platinum 10 SuiteはVegasとSound Forgeを、Imagination Studio Suite 2は3つすべてをバンドルするとともに、ループ素材などを組み合わせたものだ。
今回は、DTM系アプリケーションである、Sound Forge Audio Studio 10と、ACID Music Studio 8を紹介する。
■ Sound Forge Audio Studioは192kHzにまで対応
Sound Forgeは、個人的にはWindows 3.1時代から使い続けてきたソフトで、テキストエディタの秀丸とともに、軽くてサクサク動くソフトとして手放せない存在となっている。ジャンルは違うが、飾り気のまったくないエディタソフトという面では、共通するところがある。正直なところ、自分が使う機能だけを見れば、Windows 3.1時代のSound Forge 3と大きな違いはないように思う。とはいえ、VSTプラグインが使えるようになったり、直接CDが焼けるようになるなど、地道な進化はしてきている。
Sound Forgeは音楽業界はもちろん、ゲーム業界でのSE音の編集など、プロの現場でも広く使われているが、ここ数年で一般ユーザーにも大きく広がっている。それはソニーがUSBレコードプレーヤー「PS-LX300USB」や、リニアPCMレコーダ「PCM-M10」に、エントリー版であるSound Forge Audio Studio 9 LEをバンドルしているからだ。
プラグインなどは付属しないものの、機能的には前バージョンのSound Forge Audio Studio 9とほぼ変わらないため、かなり価値のあるソフトなので、持っているけれど、使っていないという人は、ぜひ利用することをお勧めしたい。また、これらを持っている人であれば、今回のAudio Studio 10へは5,250円でアップグレードできるというのも大きなポイントだろう。
最高192kHzのサンプリングレートまで扱えるようになった |
今回の新機能の目玉は、24bitおよび32bitフロートに対応するとともに、最高192kHzのサンプリングレートまで扱えるようになったこと。前バージョンで24bit/96kHzまで扱えるようになったが、192kHz対応したことで、申し分ないところになった。
また一般ユーザーにとっては、「改良版レコード録音&復元ツール」が搭載されたのは大きいかもしれない。これはレコードやカセットから音源を録音する際、自動トラック判別、スタート/エンドタイムのカスタム設定、ファインチューニングの実施など調整を半自動的に行なうことができる。
そうした調整を行なったうえで、CDを焼いたりMP3にすることで、アナログ素材のデジタル化が簡単に、そしてキレイに行なえる。もちろん、こうした処理は昔から手動で行なうことはできたが、これなら波形編集ソフトを使ったことのない人、あまり慣れていない人でも、気軽に扱うことができるだろう。
さらに、Sound Forge Proには昔から搭載されていた「カスタム選択範囲のグリッド線」表示機能が搭載されたのはとても大きい。選択した範囲内に3本または4本のグリッド線が等間隔で表示されるだけのものだが、グリッド線と波形のピークを合わせることによって、1小節や2小節をピッタリに選択することができる。選択しながらループ再生させることで、より確実に指定し、その音を確認できる。これにより、気に入ったフレーズを抜き出して、WAVで保存すればアシッダイズファイルを生成できる。オリジナルループ素材を作るのなら、Sound Forgeはまさに必須のツールであり、それが安いAudio Studio 10でも可能になったのは、大きなトピックスといえるだろう。
すでに、前バージョンからオーディオCDを焼く際のPQ打ちができるようになっているのも、Sound Forge Audio Studioの大きな価値だろう。リニアPCMレコーダでライブなどを丸ごとレコーディングした際、これを利用すれば音を途切れさせることなく、しっかりトラック分割していくことが可能だ。使い方は簡単で、各曲の頭にマーカーを打っていき、ディスクアットワンスでオーディオCDを焼けばいいだけだ。
改良版レコード録音&復元ツール | 「カスタム選択範囲のグリッド線」表示機能も搭載 |
個人的には、もうSound Forge Pro 10でなくても十分だなと思っているが、もちろん機能的な違いはいろいろある。大量のデータを一括でバッチ処理したい人、5.1chや7.1chなどのサラウンド、マルチチャンネルが扱いたい人なら、Sound Forge Pro 10を選ぶ必要がある一方、より高音質化したいという点でもSound Forge Pro 10に優位性がある。とくに大きいのがiZotopeのビット深度変換(ディザー)や64bitサンプルレートコンバータがあることだが、Audio Studio 10でも、そこそこの性能のディザーやサンプルレートコンバートが可能なので、ここに不満があったらアップグレードするというのも手かもしれない。
■ ACID Music Studio 8にはミキシングコンソールを搭載
ACID Music Studio 8 |
次にループシーケンサの元祖であり代名詞ともいえるACIDを見ていこう。ACIDには上位版のACID Proと、エントリー版のACID Music Studioという2つのラインナップがあるが、ここしばらくは、ACID Music Studioのほうが先にバージョンアップしている。
実際、今回ACID Music Studio 8となったが、上位版はACID Pro 7という状況になっている。もちろん機能的には前のバージョンであってもACID Proのほうが上ではあるが、ユーザーインターフェイスなどでMusic Studioが先行する面がある。もっとも今回は、ユーザーインターフェイスなどで、大きな変化がないので、ACID Pro 7との機能差を縮めた印象になっている。
今回の大きな特徴となる新機能がミキシングコンソールの搭載。DAW全体の世界から見れば、無いほうが変ともいえるものだが、従来はトラックごとに用意された横向きのフェーダーやパンを使ってバランス調整をしていたのが、普通ミキサー風なものが扱えるようになった。ただ、いわゆるDAWのミキシングコンソールからすると、チープなデザイン。新機能と謳うのであれば、もう少しカッコイイものにしてもらいたかったところではある。
一方、編集作業の融通性も向上している。もともとACIDでは「1トラック1素材」が原則であったが、トラック間のイベントをドラッグ&ドロップで操作可能となったり、トラック内でのイベントの混在も可能となっている。また、トラック、クリップ、イベントのスイッチがあり、これを利用することでノーマライズや位相反転、ロックといった操作が可能になっている。
iZotopeのelastique audioによるタイムストレッチおよびピッチシフトがサポートされた |
さらに音質面で大きいのはiZotopeのelastique audioによるタイムストレッチおよびピッチシフトがサポートされたこと。ACIDのBeatmapperを用いてBMP解析されたトラックのテンポを変更する際に利用することができ、とくにテンポを遅くする際に威力を発揮してくれる。
またACID本体機能ではないが、プラグインとしてピアノ音源のTruePianos Amber Liteおよび、ギターアンプシミュレータのStudio Devil Brithsh Value Customがバンドルされている。それぞれVSTi、VSTのプラグインだが、さまざまな場面で利用できそうだ。
ピアノ音源の「TruePianos Amber Lite」 | ギターアンプシミュレータの「Studio Devil Brithsh Value Custom」 |
気になるのは、ACID Pro 7との機能・性能の差で、Sound Forgeと違い、結構大きい。まず根本的な違いは、オーディオフォーマットで、ACID Pro 7では24bit/192kHzまで扱えるのに対し、ACID Music Studio 8では16bit/48kHz止まりとなっている。サンプル素材のほとんどは、16bit/44.1kHzまたは16bit/48kHzではあるが、音量をいじったり、ちょっとした編集をする際、どうしても音に粗い面が出てきてしまう。レコーディング時でも同様だ。サンプリングレートはともかく、ビット深度だけでも24bitにしていてくれると、かなり違うのだが、安いエントリー版としては仕方ないところだろう。
もうひとつ大きいのがレコーディング時のモニターが非サポートであること。せっかくギターアンプシミュレータが搭載されたのに、モニターができないと、面白さも半減してしまう。
そのほかにもコントロールサーフェイスが使えなかったり、入力バスに対応していないなど、DAW的な観点からすると物足りなさはある。とはいえ、Windowsで誰もが気軽に音楽制作を楽しめるツール、DTMのまったくの初心者であっても、楽器が弾けないひとでも、すぐにオリジナル曲が作れるツールとしての意義は大きい。もちろん、Vocaloid2との組み合わせでも強力なツールとして活用できるので、バッキング演奏を簡単に作成する用途などでも便利に利用できる。