第440回:Cakewalkの「SONAR X1」発表イベントが開催

~シングルウィンドウに変更、使い勝手が大きく向上 ~


「SONAR PREMIUM DAY 2010」会場の様子

 CakewalkのDAW、SONARの新バージョンである「SONAR X1」が発表され、11月14日に東京・ベルサール秋葉原で国内初のお披露目イベント「SONAR PREMIUM DAY 2010」が開催された。

 従来のSONARからはユーザーインターフェイスを大きく変えた今回の新バージョン、会場に来ていた多くのユーザーにはなかなか好評だった。 この会場で、ほぼ製品版に近いバージョンというものを入手することができたので、これを持ち帰って試してみた。



■ UIが大きく変化。エントリー版も登場

PRODUCER、STUDIOに加え、エントリー版のESSENTIALが追加された

 Windows専用のDAWとして国内外で大きなシェアを握るCakewalkのSONAR。10年前に初期バージョンがリリースされた後、毎年年末にバージョンアップを重ねてきた。しかし、9年目となる昨年はSONAR 9は発表されず、マイナーアップのSONAR 8.5に留まった。今年はSONAR 9がリリースされるのかと思ったら、名称を少し変更してSONAR X1となって登場した。またラインナップも従来のPRODUCER、STUDIOに加え、エントリー版のESSENTIALが追加された3シリーズとなった。

 いずれもオープン価格だが、実売価格は従来よりちょっと下がって、約79,800円、約39,800円、約19,800円で、12月下旬に発売される予定だ。ESSENTIALとは、CubaseやProToolsっぽいネーミングではあるが、従来のSONAR Home Studioから、バージョンを揃える形で統合された格好だ。

 そのSONAR X1のお披露目となった「SONAR PREMIUM DAY 2010」は、この時期に秋葉原で開催される年に1度の恒例イベント。そのため各地からSONARユーザーが集結するとともに、秋葉原でたまたま見かけて立ち寄った人なども含め、会場には1,000人を超える人が集まり、大きな賑わいとなった。筆者もこのイベントを取材して回ったのだが、実は出演者側としても参加してきた。ナビゲーター役ということで、ドラマーの三原重夫さん、作曲家でありキーボーディストでもある渡部チェルさんのそれぞれと30分ずつのワークショップを行なってきた。

秋葉原の会場の様子。1,000人を超える人が集まったドラマーの三原重夫さん(左写真)、作曲家でありキーボーディストでもある渡部チェルさん(右写真)のそれぞれと30分ずつのワークショップを行なった

 300席ちょっとあった会場は満席で、立ち見も数多くいたので驚いた。Ustreamでも配信していたので、ご覧になった方もいたかもしれない。このワークショップでは、X1を使ったドラムのレコーディング方法や音作り、またソフトシンセやボーカルエディット機能であるV-Vocalの利用法などをデモしていったのだ。一方、アメリカから来日したCakewalkメンバーがイベントの冒頭で新機能の紹介を行なったり、SONAR X1を用いたサラウンドのセミナーやリミックス/リエディット講座が行なわれるなど、結構充実した内容となっていた。

 そんなこともあり、SONAR X1はベータ版の段階から見てはきていたのだが、とくにかく今回のバージョンアップでの最大の変化はユーザーインターフェイスだ。従来のSONARを知っている方なら、この画面の変わり様は衝撃的かもしれない。Ableton liveっぽいというか、シングルウィンドウによる画面構成になっているのだ。従来のSONARの場合、マルチスクリーンでの操作を推奨しており、片方の画面にミキサーコンソール、もう片方にトラックビューやエディット画面を表示させるのがいいとされていたが、SONAR X1では16:9のワイドスクリーン画面ですべてを見渡すというコンセプトに変わっている。この画面では中央上がトラックビュー、左がインスペクター、右がブラウザー、そして中央下がマルチドックといわれるものになっている。

 最初、このシングルウィンドウの画面を見たときには正直なところ「それぞれの表示部分が狭くて使いにくそう」という印象だったが、ちょっと使ってみると、もう前のバージョンには戻れないと感じるほど使い勝手がいい。その大きなキーになっているのが、マルチドックで、タブ切り替えで、コンソール、ピアノロール、ステップシーケンサ、譜面と切り替えることができ、とにかくアクセスが速いのだ。

イベントはUstreamで配信していたUIが改良された「SONAR X1」タブでコンソールやピアノロールなどを切り替えられる

 もちろん、ブラウザ部分の幅を広げたり、マルチドックを大きく表示させるといったことも自由自在で、不要な表示は消すことも可能。そして、使いやすい画面を作れたら、それをスクリーン・セットとして保存することもでき、番号ボタンをワンクリックするだけで呼び出すことができる。つまり、コンソールだけを大きく表示させた状態を保存したり、トラックビューとピアノロールだけを表示させた画面を保存し、状況によってそれらをすぐに呼び出すといった使い方もできるのはなかなか便利。

 なお、それでも従来の画面のほうが使いやすいという場合は、各位置に配置されたコンソールやピアノロール、またブラウザなどをフローティングウィンドウとしてウィンドウ表示させて使うことも可能。慣れるまでは、従来のような画面で使えるというのも安心材料のひとつだろう。

ブラウザ部分やマルチドックのサイズ変更や、不要な部分の非表示もカスタムした画面をスクリーン・セットとして保存し、番号ボタンをワンクリックで呼び出せる従来のように、各画面をフローティング表示することもできる


■ 他のソフトの良さも吸収

 もうひとつユーザーインターフェイス的に見て大きく変わったのが、画面上部に置かれているコントロールバー。デフォルトではトランスポート、マーカー、スクリーンセットと、さまざまな機能が表示されているが、それぞれの機能はモジュール化されているので表示位置を並び替えたり、不要なものを消すなど自由に配置できるようになっているのだ。また、コントロールーバーそのものを画面下部に配置したり、従来のSONARのようにフローティング表示させることも可能となっている。ちなみに、このコントロールバーには、マシン負荷を表示させるPerformanceメータが用意されている。ここはディスクメーター、メモリーメーター、CPUメーターの3つがあり、CPUは各コアにどの程度の負荷がかかっているかをそれぞれ表示されるようになっている。

画面上部のコントロールバーもカスタマイズ可能マシン負荷を表示させるPerformanceメータも

 筆者が使っているCore i7 870の場合、4コアでハイパースレッディングが使われているため、ソフト側から見れば8コアと見える。実際、ソフトシンセを多用したそこそこ重たいデータを鳴らしてみたが、メータの振れはわずかで、かなり余裕がありそうだった。ただし、動作条件ではインテルCoreプロセッサまたは互換プロセッサで2.6GHz以上とあり、Core i7推奨とある。確かにPentium4以前のCPUだと無理が出てきそうだが、Core 2 Duoあたりであれば問題なく動くようだ。

 また、このコントロールバーの中で、いかにもProToolsから持ってきました、という感じでよかったのが「スマートツール」だ。これを選択した状態で、トラック上にカーソルを持っていくとその位置によってカーソルマークが変化して、役割が自動的に切り替わるようになっているのだ。そのため、いちいちツールを持ち変える必要がなく、効率よく操作ができるようになっている。SONAR登場当初は、機能的にもUI的にもCakewalkの独自色にこだわっていたSONARだが、最近は一皮剥けたのか、貪欲にほかのソフトのいいところを取り込んでおり、使いやすくなっているのは間違いないだろう。

スマートツールスマートツールを選択した状態で、トラック上にカーソルを持っていくと、位置によってカーソルマークが変化して、役割が自動で切り替わる

 シングルウィンドウ表示の左側にあったインスペクターも従来とは少し変わっている。オーディオの場合、MIDIの場合で少し変わってくるが、ここにそのチャンネルおよびマスターのミキサーコンソール風画面が立ち上がってくる。また、PRODUCERのみではあるが、Pro Channelというチャンネルストリップが追加されているのが大きな特徴。見た感じでもわかるとおり、アナログな雰囲気いっぱいで、コンプレッサ、EQ、チューブ・サチュレーターが統合されたものとなっている。

左側のインスペクターは、オーディオ(左)とMIDI(右)で表示が異なる「PRODUCER」には、Pro Channelというチャンネルストリップが追加されている

 

「Urei/1176」と「SSL4000」のエミュレータをスイッチ(写真上部)で切り替える

 アナログメータの上の部分を見てみると、「76」、「4K」と書かれたスイッチがある。見た目で分かってしまう人も多いと思うが、76とは「Urei/1176」のエミュレータであり、4Kとは「SSL4000」のエミュレータ。スイッチを切り替えるとデザインもちょっと変わってくる。操作が難しそうにも思えるが触ってみると意外と使いやすく、適当に触っていても結構パンチの効いた音に仕上がる。最初、どう扱えば分からなければ、プリセットも数多く用意されているので、それらを活用するのも手だ。

 一方、このEQもアナログ風になっているが、周波数特性をグラフで確認できるほか、グラフ上でマウスをドラッグすることでもいじることが可能になっている。EQのパラメータ操作はコントロールサーフェイスを用いて行なうのはよさそうではある。このチャンネルストリップが、すべてのチャンネルで利用できるというのは非常に強力ではあるが、気になるのは過去のSONARとの互換性。

 従来はSonitusのチャンネルストリップが入っていたのが、Pro Channelへと置き換わったわけだが、旧バージョンのSONARで作ったデータを読み込むと、自動的に変換され、ほぼ同じ音が出るようになっているので、心配はいらない。どうしても気になるというのであれば、SonitusのEQやコンプがプラグインとしても残っているから、これを使うのも手ではある。



■ 使い勝手を改善し、作業効率が向上

 従来ループエクスプローラと呼んでいたループファイルを探し出す画面も大きく進化した。このファイルを探す機能はそのままに、シンセラック機能、エフェクトの呼び出し機能がブラウザ画面に統合されたのだ。シンセラックよりもよりシンプルになり、シンセの名称をトラックへドラッグ&ドロップするだけでOK。エフェクトに関しても同様だ。さらに、エフェクトにおいては、FX Chainという機能も新搭載された。これは、複数のプラグイン・エフェクトのルーティングを1つにまとめて保存するというもの。つまり、マルチエフェクトを1つのエフェクトのように管理し、利用できる。

 そのほかにもUIにおいてはトラックビューやピアノロールなどの画面の一番上に置かれたメニューも従来にはなかった違う大きなポイント。従来であれば、操作はSONAR全体のメニューバーから行なうか、右クリックして表示されるメニューから行なっていたが、トラックビューにもメニュー項目が用意されたのだ。これにより、メニュー階層が浅くなり、必要な操作項目へのアクセスがしやすくなっている。

シンセラック機能、エフェクトの呼び出し機能もブラウザ画面に統合FX Chainトラックビューにもメニュー項目が用意され、必要な操作項目へアクセスしやすくなった

 このようにユーザーインターフェイスを大きく変えたSONARだが、オーディオエンジンなど性能部分でいうと実はSONAR 8.5と変わっておらず、プラグインの追加なども基本的にはない。オーディオインターフェイスやMIDIインターフェイスの設定画面などは少しいじっているものの、各項目での違いはない。8.5というマイナーバージョンアップで土台が完成していたからこそ、今回はUI部分に専念できたということなのだろう。使い勝手は明らかによくなっているので、これまでバージョンアップをためらっていた人も、このタイミングでSONAR X1にしてみることは十分にお勧めできるし、ほかのDAWからのSONARへ乗り換えてみるのもよさそうだ。


(2010年 11月 15日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]