第431回:ローランドが2010年秋の新製品を発表

~大きく進化した「OCTA-CAPTURE」、など ~


 

ローランド 秋の新製品発表会
 9月1日、ローランドが東京・神宮前の表参道ヒルズで、秋の新製品発表会を開催。オーディオインターフェイス、シンセサイザ、エフェクト、ギターアンプなどをリリースした。

 目玉となるのはUA-101の後継機として大きく進化した、USBオーディオインターフェイス「OCTA-CAPTURE」。USBオーディオインターフェイス分野では、これまで常に先手を打ってきたローランドがどのような技術を取り入れたのかなどを中心に紹介していこう。


■ 大きく進化した、USBオーディオインターフェイス「OCTA-CAPTURE」

 今回のローランドの発表会では、RolandおよびBOSSブランドにおいてさまざまな製品発表が行なわれた。冒頭で代表取締役である田中英一氏が、昨今のローランドの状況をプレゼンテーションしたが、この中でそのブランド戦略の変更についても触れた。「EDIROL」ブランドを廃止して「Roland」ブランドに統合するとともに、コンピュータミュージック関連でソフトとハードの両方で使っていた「Cakewalk」ブランドをソフトだけにするという。ある意味、当然の決定だと思うが、この十数年でDTMのブランドをRoland、RolandED、EDIROL、Cakeawlkところころ変化させたのは何だったのだろう……とも思う。これで本来の姿として整ったという感じだろうか。

田中英一 代表取締役
ブランドの統合と整理が行なわれた

 

OCTA-CAPUTRE
 その新生Rolandブランドとして、最初に取り上げるべき製品が「OCTA-CAPUTRE」だ。9月下旬発売で、オープン価格(実売価格60,000円前後)の予定だ。USB 2.0に対応した24bit/192kHz対応のオーディオインターフェイスで、10IN/10OUTの入出力を装備している。その点では現行のUA-101と同じだが、大きさ、デザイン、機能、性能ともに大きく進化している。横幅はUA-101の約1.5倍程度と広がり、付属の金具を利用することで、19インチのラックにマウントできるようになっている。

 このOCTA-CAPTUREの特徴を表すキーワードとなっているのが、「VS PREAMP」、「VS STREAMING」、「AUTO SENS」の3つ。VS PREAMPというのは以前にも紹介した、ProToolsシステム対抗ともいえるDAWシステム「V-STUDIO 700」で搭載された機能に相当する、ハイ・クオリティーなマイク・プリアンプを意味している。つまり内部のアナログ回路的にもかなり高品位に設計されているわけだが、このプリアンプが、8つあるアナログ入力すべてに搭載されていることから8を意味する「OCTA」というネーミングになっている。

 VS STREAMINGは、新開発のオーディオ・ストリーミング・テクノロジー、つまりドライバ部分に関する技術だ。これまで2003年に開発されたUA-1000における技術をベースにRolandのオーディオインターフェイスは構築されてきたが、今回それを大きく変えている。今回のVS STREAMINGによって、レイテンシーを超低レベルに抑えているというのだ。ワークステーション開発部長の渡瀬孝雄氏によると、96kHzでの動作時でラウンド、つまり入力した信号をPCを通して出力するまでのレイテンシーが7msecとほぼ理論値的な最低レベルを実現しているという。

 これはハードウェアに内蔵された高精度のオーディオ専用クロックを元に、ハードウェア、ドライバ、DAWがそれぞれ同期させることで実現しているのだそうだ。この辺については、ぜひ改めて製品を借りてチェックしてみたいところだ。

 そしてもうひとつの特徴がAUTO SENS。これは春に登場した同社のリニアPCMレコーダ「R-05」に搭載されたリハーサル機能をOCTO-CAPTUREに適用したもの。つまり入力レベルを自動的に調整・設定してくれる機能だ。リハーサルとして音を入力させると、それに最適なレベルに設定してくれるので、使い勝手が大きく向上しそうだ。

OCTA-CAPUTRE
8つのアナログ入力すべてにプリアンプが搭載されていることから「OCTA」というネーミングになっているリハーサル機能「AUTO SENS」

■ 「R-09HR」がファームアップデートでR-05の新機能を追加

まだEDIROLブランドだったR-09HRのファームウェアをVer3.0にアップデートした

 新製品ではないが、ぜひ紹介したいのがR-09HRのファームウェアアップデート。RolandのリニアPCMレコーダーとしては24bit/96kHz対応のR-09HRとR-05が現行機種となっており、R-09HRが機能・性能面で上位機種と位置づけられている。とはいえ、リハーサル機能が搭載されているのはR-05で、日本語対応もR-05だけという状況だったが、9月1日よりR-09HR用のVer3.0というファームウェアが無償公開され、これらの機能がR-09HRでも利用可能となった。

 日本語メニュー表示やリハーサル機能のほかにも、やはりR-05で実現していたWAVファイルをMP3に変換する機能も追加されている。さらに、トリム編集機能、エコ・モードも追加された。エコ・モードは録音フォーマット的に44.1kHzまたは48kHzで16bitのWAVに限定されるが、通常モードでの連続録音時間を4.5時間から7.5時間へと延長させることが可能になっている。またVer2.0へのアップグレードで追加されたメトロノーム機能やチューナー機能ももちろん利用可能だ。

 R-09HRは大ヒット製品であっただけに、持っているユーザーも多いと思うが、ファームウェアアップグレードで機能を大幅強化できるのは、うれしいところだ。

日本語メニュー表示
エコ・モード
メトロノーム機能

■ JUNOシリーズの新製品「JUNO-Gi」

 

JUNO-Gi
 次に紹介するのはRolandブランドのシンセサイザキーボード、JUNOシリーズの新製品「JUNO-Gi」。61鍵盤で最大同時発音数128音のJUNO-Giはライブなど外へ持ち運ぶことを想定したキーボードで、5.7kgと見た目にくらべてずいぶん軽量。また単3ニッケル水素電池×8で約3時間の駆動を実現している。1,300以上の音色をプリセットとして持っていることもあり、音色を作って楽しむシンセサイザというよりも、音色を選んで使うシンセサイザといえる。

 JUNO-Giの最大の特徴となっているのが、8トラックのMTR機能を搭載していること。シンセサイザ部分とは完全に独立した設計で、BOSSのMicroBRの8トラック版といえる。各トラックには8つのバーチャルトラックも利用可能なので、最大64トラックのレコーディングが可能という構成だ。JUNO-GiのリアにはSD/SDHCカードスロットを備えており、16bit/44.1kHzのレコーディングができる。MTRの操作用に6本のフェーダーが用意されているが、モードを切り替えることにより、USB経由で利用するMIDIコントロールサーフェイスとしての利用も可能だ。SONAR LE 8.5がバンドルされているので、連携して使うことができる。

 エフェクトもなかなか強力で、BOSSのGT-10相当の機能が使える。まさにオールマイティーなシンセサイザ・キーボードといえそうだ。発売は9月10日で、オープン価格(実売価格120,000円前後)となる。

音色を選んで使うシンセサイザ8トラックのMTR機能を搭載16bit/44.1kHzのレコーディングができる

 

GAIA SH-01
 アナログシンセ感覚で手軽に音色作りが楽しめるシンセサイザキーボードとしてこの春に発売されたRolandの「GAIA SH-01」は一般ユーザーの間ではもちろん、プロミュージシャンの間でも大きな話題となっている人気製品。そのGAIA用の音色コントロールソフト「GAIA SYNTHESIZER SOUND DESIGNER」が発表された。これはWindowsおよびMacで利用可能なソフトウェアで、パソコンの大きな画面で各パラメータを細かくエディットできる。その音作りのプロセスを記録できるとともに、その記録のとおりに再現することができるアクション・リストを搭載しているのも特徴。

 これによってシンセサイザのサウンドメイキングを学ぶためのツールとしても便利に使えそうだ。実際音作りの流れを紹介するためのアクション・リスト・データも収録されており、シンセサイザの典型的な音作りはどのように行なうのか理解することもできるようになっている。

 さらに面白いのは、シンセサイザの出力波形をリアルタイムで視覚的にとらえることができるウェーブ・ビューワーが搭載されていること。実際の出音を元にオシロスコープのように波形を表示できるため、波形による音の違いやエンベロープによる音の違いなどが見た目にもわかりやすくなっている。発売はしばらく先で11月。オープン価格(11,000円前後)となる模様だ。

GAIA SYNTHESIZER SOUND DESIGNERパソコン上で各パラメータを細かくエディットできるリアルタイムで視覚的にとらえることができるウェーブ・ビューワー

 

RD-700NX
 高性能デジタルピアノとして登場したのはRDシリーズの最新版、88鍵仕様の「RD-700NX」だ。ステージピアノとして幅広く使われているRDシリーズだが、このRD-700NXには、ローランド自慢のテクノロジー、SuperNATURAL Pianoが採用されている。繊細なタッチの違いにもスムーズに対応する無段階の音色変化や、あくまでもナチュラルな減衰音など、アコースティックピアノ本来が持つ表現豊かな音色と響きを実現している。

 SuperNATURAL Piano音源としてはオールマイティーな「Concert Grand」、スタジオなどでのレコーディングに向く「Studio Grand」、クラシック曲にマッチする「Brilliant Grand」の3タイプが用意されている。発売は10月でオープン価格(250,000円前後)となっている。

 そのほかの鍵盤楽器としては液晶画面を搭載し、譜面表示をしたり楽しみながらピアノ練習ができる「デジスコア」シリーズの新製品「HPi-7F」(オープン価格、実売価格340,000円前後)、「HPi-6F」(オープン価格、実売価格240,000円前後)、クラシックオルガン「C-380-DAS」(標準価格1,417,500円)などが発表された。


HPi-7F
HPi-6F
C-380-DAS

■ Vアコーディオンに、中型クラスの「FR-3X」を追加

FR-3X

 一方、世界的なブームを引き起こしているVアコーディオンの中型クラスの「FR-3X」が追加された。単3ニッケル水素電池×10本で動作し、内蔵スピーカーを鳴らした場合約5時間、スピーカーオフなら約9時間使えるFR-3Xは鍵盤タイプとボタンタイプの2種類があり、それぞれブラックとホワイトの2色が用意されている。

 いずれも9月末発売でオープン価格だが、実売価格はモデルによって異なる見込みで390,000円前後(鍵盤モデル)、420,000円前後(ボタンモデル黒)、450,000円前後(ボタンモデル白)などとなっている。

 

小型のギターアンプ、CUBEシリーズにも4製品が発表された
 小型のギターアンプとして人気のCUBEシリーズも一新され、4種類の製品が発表された。最上位が出力80Wの「CUBE-80XL」で、続いて40Wの「CUBE-40XL」、20Wの「CUBE-20XL」、15Wの「CUBE-15XL」。80XLと40XLには80秒のサンプリングができるLOOPER機能を搭載しているため、一人で音をどんどん重ねていく演奏が楽しめるのが特徴。

 またこの2機種と20XLには、COSMテクノロジーによるアンプ・モデリングとエフェクト機能が装備されている。これら3機種は10月の発売ですべてオープン価格。実売価格はCUBE-80XLが40,000円前後、CUBE-40XLが24,000円前後、CUBE-20XLが18,000円前後。また4種類の歪み回路を搭載したCUBE-15XLは9月17日発売でオープン価格(実売価格14,000円前後)である。

 

パワー・スタック「ST-2」とハーモニスト「PS-6」(
 最後にBOSSブランドで発表されたコンパクト・エフェクター2機種を紹介しよう。エフェクターはパワー・スタック「ST-2」とハーモニスト「PS-6」。ST-2は歪み系エフェクターで、SOUNDつまみの調整によりクランチサウンドからBOSSの典型的ドライブサウンド、さらには超ハイゲインの歪みサウンドまで変化させることができる。

 またPS-6は最大3声のハーモニーを実現できるピッチシフター。3声ハーモニーは原音に3度と5度など2声を加えるものだが、メジャーキー、マイナーキーの選択も可能となっているので、キーに応じた最適な和音での演奏が可能になっている。両エフェクターともに9月17日の発売でオープン価格。実売価格がST-2が11,000円前後、PS-6が16,000円前後になる見込みだ。

 以上がこの秋に発売されるローランドの新製品だ。気になる製品がいろいろあるが、OCTA-CAPUTREはぜひ近いうちに入手し、細かくチェックする予定だ。


(2010年 9月 6日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]