第441回:Inter BEEに出展された注目のオーディオ新製品

~Pro Tools 9が国内初お披露目。RMEやTASCAMなども ~


11月17日~19日の3日間、幕張メッセで開催された音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2010」

 11月17日~19日の3日間、幕張メッセで開催された音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2010」に、18日に行ってきた。

 映像・放送関連機材部門を中心に、プロライティング部門、そしてプロオーディオ部門の展示が行なわれたが、今年もプロオーディオ部門を中心に見てきたので、DTM的な観点からその内容をレポートしよう。



■ 今回の主役は、「Pro Tools 9」

プロオーディオ部門の展示エリア

 プロオーディオ部門の展示は一番奥のHall4で行なわれており81社、75ブースが出展した。人によって見方は異なるのだろうが、筆者の目には今回のInter BEE 2010はとにかくPro Toolsの新バージョン、Pro Tools 9が前面に出たイベントに感じられた。Pro Tools 9を発表したAvidはプロオーディオ部門ではなく、すぐ隣の映像・放送関連機材部門側での出展であるため、プロオーディオ部門は実質的には82社、76ブースといったほうがいいかもしれない。

 完全にDigidesignというブランドを消し去ったAvidブースにおいて、Pro Tools 9の展示やセミナーが開催されたのはもちろん、プロオーディオ部門出展の各社ブースでも18日に発売されたばかりのPro Tools 9がデモされていた。

 ちょうど2年ぶりとなるPro Toolsのメジャーバージョンアップであり、国内においてはこれが初お披露目。すでに数週間前に製品のアナウンスがされていたので、ミュージシャンやレコーディングエンジニアの間でもPro Tools 9は大きな話題となっていた。今回のバージョンアップの最大の目玉は「ハードウェアの制約を廃止した」ということ。


Avidブース
Pro Tools 9

 つまり、Avid(旧DigidesignやM-Audio)製品でなくても使うことができ、ASIOやCoreAudio対応のデバイスであれば、どれでもPro Toolsを使えるという点だ。まさにPro Toolsのオープン化であり、CubaseやSONAR、LogicなどのDAWと真っ向勝負する市場にやってきたわけだ。

 また、業務用システムであるPro Tools|HDにおいてもつい先日、Pro Tools|HD Nativeという製品をリリースしている。従来のようにDSPを使わなくてもMacやWindowsのCPUパワーだけで使えるシステムであり、こちらもまもなくバージョン9がリリースされる見込み。ラインナップとしては上から以下のようになる。Pro Tools LE 9や、Pro Tools M-Powered 9存在せず、この2つがPro Tools 9に統合されている。

  • Pro Tools|HD 9
  • Pro Tools|HD Native 9
  • Pro Tools 9
画面はPro Tools 8を踏襲

 画面はPro Tools 8を踏襲しており、エフェクトやソフトシンセなどもほとんど変わっていないようだ。しかし、これまで多くのユーザーからあがっていた要望である、自動遅延補正機能が搭載されたのは大きなポイントといえるだろう。

 Pro Tools|HD Native、Pro Tools 9と、これまでのPro Toolsのあり方を大きく覆す製品が矢継ぎ早に発表されているだけに、ユーザーの中にも混乱している人も多いはず。今回、このInter BEE 2010の会場で米Avidのオーディオプログラム担当副社長にインタビューすることができたので、その内容については次週、Pro Tools 9のソフトウェアレビューとともに掲載する予定だ。



■ RMEがFireWire接続のフラグシップモデル

 数多くあるブースの中で、新製品をズラリと揃えていたのが、エムアイセブンジャパン/シンタックスジャパンだ。まず注目したいのが、RMEが2011年1月に発売する予定のオーディオインターフェイス「Fireface UFX」。これまでFireWire接続のFireface 800およびUSB接続のFireface UCが最高峰という位置づけであったが、その上のフラグシップモデルとなるFireface UFXは、24bit/192kHz対応で、30IN/30OUTを実現した1Uラックマウントのモデル。

 アナログ×12ch、adat×2系統、AES/EBUで30chとなっており、FireWireおよびUSBのいずれかでの接続が可能となっている。もちろん、ドライバソフトウェアでPC側から細かくコントロールできるのは従来どおりだ。

Fireface UFX
PC側から細かくコントロールできる

 ユニークなのはフロントパネルにUSB端子が搭載されていること。ここにUSBメモリを接続して、直接レコーディングできる。WAVファイルで各チャンネルともパラで録音することが可能なので、PCと接続することなく、これ単体でライブレコーディングができる。さらに、PCと接続していてもUSBメモリへレコーディング可能なので、レコーディングのバックアップとしても活用できる。オープン価格だが、実勢価格は24万円前後になりそうだ。

Babyface
RCAプラグに対応したブレイクアウトケーブルも発売される予定

 一方、RMEのオーディオインターフェイスの中でローエンドに位置するのが、すでに海外では発表されていた「Babyface」。小さいボディーながら10IN/12OUTという仕様で、モバイルレコーディングに最適なほか、最近流行りのPCオーディオ用のDACとしても活用できる。海外では、ブルーのボディーだが、国内ではシルバーボディとなり、こちらの実勢価格は69,800円程度になる見込みだ。

 なお、このBabyfaceにはキャノンプラグに対応したブレイクアウトケーブルが付属するが、やはり国内のみオプションで、RCAプラグに対応したブレイクアウトケーブルが6,000円程度で発売される予定。これはPCオーディオユーザーを狙ったものであり、手軽にオーディオ機器との接続が可能となる。

 これらRMEブランド製品を扱うのはシンタックスジャパンだが、兄弟会社であるエムアイセブンジャパンからは米PreSonusの製品が続々と登場してくる。PreSounusはこれまで日本エレクトロ・ハーモニックスが輸入代理店業務を行なってきたが、10月1日にエムアイセブンジャパンに切り替わったのを機に、価格改定が行なわれたり、日本語化などが進んでいる。ここ最近の円高・ドル安が背景にあるのだが、従来USB DAWコントローラのFaderPortの実売価格は30,000円だったが、この価格改定で17,000円前後となるなど、ユーザーにとっては円高のメリットを享受できるのはうれしいところ。

 これまでなかった、まったく新しい製品としてお披露目されたのが、32chのFireWire接続のライブ&レコーディングミキサー「StudioLive 24.4.2」だ(年内発売予定で、実売予想価格は35万円前後)。24chのフェーダーを備えるこのミキサーの最大の特徴は使い勝手がシンプルであること。ほとんどのパラメータが表にでているため、分かりやすい。

 また、Captureというレコーディングソフトがバンドルされており、DAWを使わなくても簡単にマルチトラックレコーディングができるのも大きなポイントだ。さらにDAWとしては、以前も紹介したPreSonusオリジナルの「StudioOne」の下位バージョン、「StudioOne Artist」が付属する。Steinberg NUENDOの開発メンバーがスピンアウトして作ったDAWで、軽くてシンプルなのが特徴となっている。

 StudioOneもエムアイセブンジャパンによって日本語化がなされ、年内には日本語バージョンであるStudioOne 1.6.2がリリースされる。既存ユーザーは無償アップデートが可能ということなので安心だ。


StudioLive 24.4.2
付属のCaptureで、DAWを使わなくても簡単にマルチトラックレコーディングができる
StudioOne 1.6.2


■ 音響特機のブースには、MACKIEの新製品

 音響特機のブースではMACKIEの新製品が複数展示された。まずは16IN/16OUTのFireWireオーディオインターフェイス「ONYX BLACKBIRD」。8つのマイクプリアンプを装備し、24bit/96kHzまで扱うことができる。アナログが8IN/8OUTあるほかに、adatがあるので16IN/16OUTとなっている。ユニークなのは、1台のPCに最大4台のONYX BLACKBIRDを接続できること。これにより、かなり大規模なシステムを構築することができる。11月初旬に発売が開始されており、標準価格96,600円となっている。

 そのONYX BLACKBIRDのミニチュア版といえるのが、2IN/2OUTのUSBオーディオインターフェイス「ONYX BLACKJACK」。USBバスパワーで動作するコンパクトな機材で、標準価格は33,390円。これにも2ch分のマイクプリアンプが搭載されており、グレード的にはONYX BLACKBIRDと同等となっている。

ONYX BLACKBIRD
ONYX BLACKJACK

 さらにUSB接続が可能な大きなレコーディングSRミキサーも展示された。「2404-VLZ3」は24ch/4バスのミキサーで、標準価格201,600円。4IN/2OUTのオーディオインターフェイスとしても使えるようになっている。また、もっとコンパクトなミキサーとして登場したのが「ProFX12」(標準価格52,500円)、「ProFX8」(同39,800円)。それぞれ12ch、8chのミキサーであり、60mmフェーダーが搭載されている。基本的にはアナログミキサーであるが、16プリセットを持つデジタルエフェクトが搭載されているほか、USBを使った入出力も可能。機能的にはヤマハのUSBミキサー、MGシリーズとよく似た製品となっている。

2404-VLZ3
ProFX12
ProFX8


■ TASCAMブランドもオーディオインターフェイスとPCMレコーダ

US-800

 ティアックのTASCAMブランドからも多くの製品が発表されていた。まずは先日発売されたばかりのUSB 2.0オーディオ/MIDIインターフェイス「US-800」。

 24bit/96kHz対応で、オーディオ8IN/6OUTという仕様、6つのマイクプリアンプを搭載している。ACアダプタが必要ではあるが、コンパクトであるため手軽に持ち運んで使うことができるのが特徴だ。実売価格は現在25,000円程度と非常に安価になっている。

 また、まだ正式な製品発表はされていないものの、さりげなく会場に展示されていたのが、「US-800」の上位機種で従来の人気モデル「US-1641」の後継となる「US-1800」。16IN/4OUTで24bit/96kHzに対応する。8つのマイクプリアンプを内蔵しており、フロントパネルにはマイク入力が8つズラリと並ぶ。こちらは、1Uのラックマウントタイプであるため、基本的には据え置き型として利用する。年内には発売される模様で、オープン価格だが、実売価格は30,000円程度とこちらも安い。

US-1800

 さらにTASCAMからは業務用のフィールドレコーダも複数登場する。現在、「HS-8」という8chのレコーダが発売されているがこれをベースにバリエーション展開したものだ。1つは2chのレコーダ「HS-2」。コンパクトフラッシュに記録するタイプのレコーダで、24bit/96kHzに対応。BWFでの記録に対応するほか、AES31での入出力に対応したり、AES/EBU、RS-232Cのインターフェイスに対応しているあたりが業務仕様だ。2011年2月~3月ごろの発売が予定されており、実売価格は24万円弱となる。

 さらに上位機種の4chレコーダー、「HS-4000」、2chレコーダーの「HS-2000」も発表された。

HS-2
HS-4000
HS-2000

UltaraNOVA

 そのほか面白いところでは、ハイ・リゾリューションが展示したnovationのシンセサイザキーボード「UltaraNOVA」がある。最近はすっかりコントローラメーカーとなっているnovationだが、UltaraNOVAは伝統のバーチャルアナログシンセ「SuperNOVA」のエンジンにウェーブテーブルを加えた新型のシンセサイザ。36のウェーブテーブルと20のデジタル波形を元に音を合成していく。

 本体にはマイクも搭載されており、ボコーダーとしても使えるほか、USBでPCと接続すれば、コントローラとしても機能する。さらにユニークなのは、これが2IN/4OUTのUSBオーディオインターフェイスとしても使えるようになっていること。付属のソフトを使って音色作成もできるなど、とにかく多目的に利用できる機材となっている。11月末の発売予定で、オープン価格。実売想定価格は73,500円程度となる模様だ。



■ メディア・インテグレーションが自社ブランド「Sym・Proceed」を立ち上げ

SP-MP4
SP-MP4Dのパネルをあけたところ。オプションのデジタルボードが搭載されている

 もうひとつ驚いたのはIK MultimediaやSonnox Oxford、Wavesなどの数多くの海外製品の輸入代理店として展開するメディア・インテグレーションが自社ブランド「Sym・Proceed」を立ち上げ、その第一弾として高級マイクプリアンプ「SP-MP4」および、「SP-MP4D」を発表したこと。

 Inter BEEで初お披露目となったこのマイクプリアンプは4chを装備する1Uラックマウントタイプ。「透明な音と高いトランジェント特性」のためについに自社開発、国内生産という手段をとったという。今回はまだ参考出品という段階であり、実際の発売は2011年3月ごろを目指している。

 価格もハッキリとは決まっていないものの、「SP-MP4」が50万円程度になる見込みだ。また10万円高い「SP-MP4D」は「SP-MP4」にデジタルオプションを追加したもの。デジタルオプションにより、AES/EBU、S/PDIF、さらにはDSDでの出力を可能になるという。とくにDSD対応のマイクプリアンプとしては貴重な存在になりそうだ。

 以上、Inter BEE 2010で見つけた新製品について紹介したが、次週に予定しているPro Tools 9をはじめ、ここで見つけた製品を今後詳しく取り上げていくことを予定している。


(2010年 11月 22日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]